12話。エルフとの接触
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おう、俺様だ。ベシータ様だ。
とりあえず族長がエルフのガキから聞いた話ってやつを聞かされたんだが……。
「なるほどな」
わかったのは迷子のエルフを保護したってことくらいだな。
あとは族長の所感、というか、04が言っていた懸念について繰り返されただけだった。
つまり? なにもわかってねぇってことだ。
憶測はできるが、事実ではない。
ならここで考察を続けるよりも、もっと手っ取り早い解決方法がある。
「俺が直接聞くことにする」
「そうですか。なら向こうに居ますんで……」
「いや、違う。そうじゃない」
話を聞くと言ったが、いくら俺でも迷子になったガキにまともな受け答えができるとは考えちゃいねぇぞ。
無駄を楽しむのと不毛な行為に従事するのは近いようで違うからな。
「え? じゃあどうするんです?」
「決まっている。話が分かる奴に聞けばいい」
「ん? あー。もしかしてあの子供がいた集落に直接行くってことですか?」
「そうだ」
族長も随分と察しが良くなったもんだ。
「つーか、結局のところそのガキは集落からはぐれた迷子なんだろう?」
意図的なのかそうでないのかは別として、な。
「本人はそう言ってますね」
「なら話は簡単だ。ガキが移動できる範囲内にそいつらの集落があるってことだ。なら近場で、かつ俺が知らないところで纏まっている連中を探せばいい」
このスカウターでな。
「なるほど……」
そんな感じで、前回調査した際に存在していなかった集団がいたら、それがお目当てのエルフどもって寸法だ。一度で見つけられなくても何度か探せば当たりに辿り着くだろうよ。
摩訶不思議な玉が出しているという不可思議な電波を受信できる専用のレーダーを片手に、小さな玉を探すよりもずっと簡単な話じゃねぇか。
少なくとも海の底にできた割れ目の中に行く必要もないわけだしな。
「はぁ」
なんか納得したようなしていないような反応だが、まぁいい。
そもそもこいつらに意見を聞いているわけじゃねぇし。
「ぽちっとな」
はてさて。一体どこのどいつが、何のために俺の縄張りに侵入してきたのやら。
「……ほほう」
なるほど。確かに前までいなかった連中がいやがる。
数は全部で500人ほど。平均BPは50~60。
その中にBP800前後の奴が一人と、500前後が数人ってところか。
森で生きるにはやや弱いが、相手はエルフだ。
特殊な魔法が使えると考えれば単純な数字だけで判断するのは危険かもしれん。
なにせ、鼻のない地球人でさえ圧倒的な差があったはずの第二形態のフルーザの尻尾を切り落としたんだからな。
そんなわけで油断はしない。
だが部下どもの手前、余裕も見せる必要がある。
はっ。両方選ばなきゃならないのが王子のツラいところだぜ。
―――
「長老。タカッツの子が行方不明に……」
「……そうか。あの子もか」
「……捜索はどうしましょう?」
「聞かずともわかっているだろう? 今の我らに救助や捜索のために人員を割く余裕はない」
「……はい」
森妖精と呼ばれているエルフと言えど、慣れない森では簡単に死ぬ。
森を舐めてはいけない。エルフなら誰もが知る常識だ。
もちろんタカッツの子が森を舐めたわけではないことは知っている。
あの子は必要にかられて食糧を得るために森に入り、そして迷ったのだろう。
元居た森であれば迷わなかっただろう。
元居た森であれば捜索隊を出すこともできただろう。
だが今の我らに。元居た森を追われ、多数の同胞を失った我らにその余裕はない。
あぁ。本来であれば何としても護らねばならぬ子を見捨てなければならないとは。
「くそっ!」
わが身の無力さが疎ましい。
何よりあの裏切り者が勝手な真似をしなければ……。
「長老……」
「長老、か」
今の儂なんぞ、自分で戦うこともできぬし、同胞を導くこともできぬ。
ただの年寄りでしかない。
そんな儂を生かすために、タカッツを始めとしたたくさんの若者が死んでしまった。
そして今、彼らが命を懸けても護りたかったはずの子供がまた一人失われてしまった。
あぁ。なんたることよ。真っ先に死ぬべきは無能な儂ではないか。
だが死ねぬ。
託された者を一人でも多く生かすために長く生きただけの儂の知識が必要だと言うのであれば、儂は同胞たちのために生きねばならぬのだから。
だが、だが、考えてしまう。
儂の為に用意された食事をタカッツの子に与えることができていれば、少なくとも今回このようなことにはならなかったのではないか、と。
だがタカッツの子だけを優遇することはできぬ。皆、苦しいのだ。
魔物に元居た森を追われ早数か月。
ようやくそこそこ安定したところに辿り着いたものの魔物がいないわけではないし、何より未だ植生すら把握できていないのだ。
今は一日でも早くこの森を理解することが肝要よ。
それに儂らは本来一刻も早く確認しなくてはならないことを確認できておらん。
「まだ、見つからぬか?」
「はい」
今の儂らには行方不明となった子供の捜索を差し置いてでも探さねばならぬモノがある。
それはこの森の主。
ここに辿りついて数日しか経っておらんが、それでもこの森周辺に強力な魔物がいないことはわかっている。
だからと言って『この森が安全である』とは言い切れぬ。
何故なら、ここに強力な魔物がいないということは、ここがそれ以上の存在の縄張りである可能性があるからだ。
もしもこの考えが儂の取り越し苦労であるのならばそれでいい。
だがしかし、通常それなりに実りのある森に主がいないなどという事はあり得ない。
今は我々が知覚できる範囲にいないだけで、必ずこのあたりの魔物に睨みを利かせている主がいるはずだ。そうでなければ、この森の規模でこれだけ静かなのはおかしい。
広大な縄張りの存在は、その主がどれだけの力を持っているかを明確に示唆する目安となる。
それに鑑みれば、この森を治める主の力は強大そのもの。
魔王……には及ばぬやもしれぬが、間違いなくキングクラスの力があるはず。
今の儂らは――知らぬこととはいえ――その主の縄張りを侵していることになる。
純粋な力もそうだが、そもそも儂らは森の秩序を重んずるエルフだ。
故に新参者である儂らはその主に対して礼を失してはならぬ。
まして、ここを追われてしまえば、儂はもとより今もなんとか生き延びている同胞たちに先はないのだ。故になんとしても主との話し合いは成功させねばならぬ。
必要とあらば儂の首くらいくれてやる。それが儂に残された最後の役目なのだから。
そう思っていたのだがなぁ……。
「貴様らか。この俺様の縄張りに侵入してきたエルフってのは」
「……は?」
そう言いながら、集落の真ん中に造られた儂のテントの上にいきなり現れたのは、青い肌着の上に純白の鎧を着こみ、左目に何らかの魔道具らしきものを付けている黒髪黒目のニンゲン、いや、よく見れば尻尾があるから獣人であった。
ただし、魔法適性が低いはずの獣人が高等魔法である【飛行】を使いこなしているという時点でおかしい。
この一点だけでも、目の前に佇むこの獣人がただの獣人ではないと確信させられる。
それに、儂の耳がおかしくなっていなければ、先ほどこの獣人はこう言ったはず。
『俺様の縄張り』と。
つまり彼こそが儂らが捜していた”この森の主”ということだ。
(嘘、ではなかろうな)
獣人という種族でありながら【飛行】を使いこなしているだけではない。
その佇まいから垣間見える絶対の自信は虚飾ではありえぬ。
(獣人であったのは予想外であったが、少なくとも言葉を交わせる相手なら最悪のケースではない)
「これはこれは。ご挨拶が遅れて申し訳ございませぬ」
できればエルフと友好的な種族の方がよかったが、一方的に襲い掛かってくる魔物よりはマシだ。
そう考えた儂は、初対面の獣人に対して礼を示すために深々と頭を下げたのであった。
なんか話が進む度に登場人物(作者)の頭が悪くなっていくような……いや、この作品のコンセプトは『頭を空っぽにして読める作品』なので、別に悪いことではないんですけどね。
閲覧ありがとうございました。




