9話。ある日森の中
久々更新。
短いです。
サリス視点
「その木は向こう。岩は手前ね。壁の土台にするからもう少し高い方がいいかしら。一ノ組はもう一回採取してきてくれる?」
「「「はい!」」」
「二ノ組は森で食糧になるものを採取してきて」
「「「はい!」」」
「あ、三ノ組そこの竜みたいな魔物は燻製にするから吊るしておいて」
「「「はい!」」」
「さて、あとは……」
いきなりだが最近オークの森で一定の安寧を得た私たちは、ベシータ様のご命令を受けて最近になって私たちの縄張りとした海辺を開拓していた。
元いた縄張りの主? ロヒゥムが言うにはベシータ様に消されたらしいわ。
なんでも「空から降ってきた光に焼かれた」とか。
カミナリかと思ったけど、どうやら全く違うナニカらしくロヒゥムにも分からないんだとか。
まぁ、ベシータ様のお力が常軌を逸していることなんて今更語ることでもないから別にどうでもいいんだけど。
いや、正直に言えば最初に連れてきてもらったおかげで遠目であってもベシータ様の雄姿を見ることができたフェメラとロヒゥムが羨ましいとは思うけど、今更言っても、ね。
少なくとも今はこうしてお役目を与えてもらっているんだから、私はまずそれを遂行することに集中しなくてはならない。
重要なのは食糧兼研究材料となる海産物の確保。
次いで拠点の設営。
最後が近隣の地形やら近場に住む生物の調査。
そう指示を受けているわ。
……普通は逆だと思うけど、私たちもベシータ様ほどではないけれど戦えるからね。さらにベシータ様が確認したところ、この辺で私たちに勝てそうなのは海にしかいないらしいからそっちに気を付けていれば特に問題はない。
実際、少し前に偉そうに絡んできた竜っぽいのがいたけどね。実力的にはナイト以上ジェネラル以下程度の力しかなかったから班員だけであっさりと倒せたし。
……なにが『ここに住むなら貢物を差し出せ』よ。自分だって他から流れてきただけのくせに。寝言は寝て言いなさい。
そんなわけで優先すべきはまず食糧。海では魔物や魚、海藻に貝などが取れるし、少し離れれば森が、さらに少し離れたところには山もあるので食糧を探すのに苦労はしていない。
あえて苦労していることを挙げるとすれば、見たことがない植物が多いので食べられるかどうかを調べる必要があるってことくらいかしら?
尤も、それとてロヒゥムたちが作ってくれた毒判定装置で調べれば解決する話だから然したる問題でもない。
結局順調なのは良いことなんだけど、簡単なことしかしていないからベシータ様に褒めてもらえないというなんとも言えない状況なのよね。
それでも順調なのは良いことだと思っていたんだけどさぁ……。
「で、ソレが森に?」
「そうなの! コイツが私たちの縄張りに入ってきたの!」
哨戒に出ていたゼフィがナニカを抱えて帰ってきたから一体何事かと思えば、縄張りに侵入してきたエルフの子供を捕まえてきたとのこと。
捕獲された子供はぐったりしているけど、死んではいないみたい。おそらくゼフィに捕まったときに衝撃を受けたか、抱えられて移動してきた際に生じた衝撃で気を失ったのでしょう。
子供の生死はいいとして。問題は何故私たちが縄張りとした森にこの子供がいたのか、よ。
「……近くにエルフの集落はなかったはずよね?」
「うん! ベシータ様が確認したから間違いないの!」
「そうよねぇ」
もしかしたら『私たちの方が向こうの縄張りに侵入したんじゃないか?』って思ったんだけど、やっぱりそれはないわね。だってベシータ様が確認したんだし。
「となると問題はコイツが何処から来たのかって話になるんだけど」
「処すの? 証拠としてベシータ様に献上するの?」
「まあ待ちなさい。殺したら情報が取れないでしょ」
「あ! そうなの!」
人間でもエルフでも子供を斥候に使うのはある意味で常套手段だからこのまま生かして帰すという選択肢はないわ。もし生かして帰すとすればこの子供を餌にして群れの本隊を探るくらいかしら? まぁそれもこれもこの子供が持つ情報次第。
「とりあえず起きるのを待ちましょうか。食事も……簡単なのを与えてあげた方が口は軽くなるでしょうから用意して」
「ご飯も用意するの?」
ゼフィは不満そうね、まぁわかるわ。今でこそ多少の余裕はあるものの、少し前までの私たちには他人に食糧を分ける余裕なんてなかったから。
だからこそゼフィは『突然縄張りに侵入してきた子供なんて怪しい存在に食糧を渡すなんてありえない』と思っているのでしょう。でもね。ここは逆に考えるのよ。あげちゃってもいいさってね。
もちろんタダじゃないけど。
「食糧を用意するだけ用意した後で『喋ったら食糧をやる』みたいな感じで情報を引き出すこともできるでしょ?」
子供だからこそ効くと思うのよね。
「それはキツイの! さすがサリスなの! 私には思いもつかないことを平然とやってのけるの! そんな腹黒いところに痺れるし憧れるの!」
腹黒いって……それ、絶対に褒めてないわよね?
まぁいいわ。
「そういうわけで、食べ物は情報と引き換え。素直に喋ればそれでよし。嘘を吐いている感じがあれば少し痛い目に遭ってもらいましょう」
特に重要なのはこの子供が何処から来たのか、よ。
近くに群れがあるのかないのか。
群れがあるのであれば何故ここに来たのか。
群れがないのであればどうやってここに来たのか。
どのような情報であれ最近時間を持て余しているベシータ様はお喜びになると思うの。
それを考えればこの子供はいい時期に来てくれたと言えなくもないわ。
「指は全部で20本あるの! 骨より先に爪から行くの! そうすれば一本で二度おいしいの!」
「まぁ、それが妥当かしら」
子供相手に残酷かもしれないけど、こっちも遊びじゃないから容赦はしないわ。でも……。
「できたら素直に話して欲しいモノね。ベシータ様にボロボロの子供をお見せするのは心が痛むから」
エルフを ころして へいきなの?
▶ はい
YES
閲覧ありがとうございました。