8話。アールの進路?
(本編は)ないです
おう。俺だ。ベシータ様だ。
とりあえず孤島にいたBP10000前後の野郎を消滅させた後、海辺で仕事をしていた族長と03のレベルアップの為に海龍っぽい連中をタコ殴りにしてから水揚げして止めを刺させたり、族長と03が採取した海産物の中で食えるものと食えないものを振り分けたり、海の底に潜って貝ごっこをしていたりと海を満喫してから令嬢どもの報告を受けるために令嬢がいるところに来てみたんだが、なんとまぁ面倒なことになっていやがったぜ。
「学園なぁ」
令嬢に仕置きするつもりはないことは告げたものの、予定が狂ったことは確かだ。
いや、言っていることはわかる。つーか人の使い方や政治のイロハも知らんやつを領主にしたら駄目だってのは当たり前の話だからな。むしろそんな当たり前のことをきちんと法にしていることに驚きを感じたくらいだ。
付け加えるとすればこの法は、貴族同士の顔合わせだとか、子供を取り込むことで自身の派閥を強化するだとか、学園に入学した子供たちを王家に対する人質だとか、王都の威容を見せつけることで反抗心を折るだとか、他にもいろんな目的もあるんだろう。
それは別にいいんだ。この世界の貴族の問題であって俺には関係ないからな。
令嬢はなにやらすぐに市民権を与えられないことに恐縮しているようだが、そもそも市民権が簡単に得られないってことぐらい俺も理解している。
なにせ今の俺は住所不定無職の獣人だからな。そりゃ市民権の発行は難しいだろうさ。
まぁ当初の目論見通りさっさと騎士に任命させることができていたらその時点で目的は達成できていたわけだが、学園を卒業しないことには正式な任命ができんと言われれば納得するしかない。
世の中そんなにうまくいくことはないってことくらい織り込み済みだ。
むしろ令嬢という伝手を得られた分、話が早く進んでいると思っているくらいだしな。
だからこれは怒ることではない。
それに、令嬢が学園に通うのも異世界あるあるといえば異世界あるあるだし。
あるあるじゃない点を挙げるとすれば、俺が偶然助けた令嬢が今や菜っ葉(大根だと3大根)以上の戦闘力を持っている点くらいだが、令嬢が強くなったところで誰が困るわけでもなかろうよ。
叔父? 爺? 知るか。駆け引きで負けた方が悪い。
不安があるとすればこの令嬢だ。そう簡単に死なないって意味では安心できるが、この令嬢が普通の学園生活を送れるかどうかってのは多少不安が残るところではある。なんてったって、今の令嬢は周囲の連中とは文字通り次元が違うからな。
ツキノワグマの群れの中に体長70mのKUMAを混ぜるようなもんだ。危険極まりねぇ。
「うーむ」
なんやかんや言ったが今回の件で一番の問題はこいつらの身の安全ではない。こいつらが学園に通っている間、俺が暇だってことなんだ。
集落のインフラを整備するのと海で遊ぶのは確定として、他になにをするか考えなきゃならん。
まだ残っているBP10000の連中を狙うか?
だがなぁ、別に連中に恨みがあるわけじゃねぇしなぁ。
マリンスポーツの邪魔をしたり俺が造らせている集落を狙うようなら容赦するつもりはないが、ただそこに生きているだけの連中を殺して回るのはなぁ。生態系に思わぬ悪影響を与えるかもしれんしなぁ。
この世界のことはこの世界の住人が決めることだし。
だからこそ、向こうが俺の邪魔をしないのであれば俺は関与しない方がいいと思うんだよなぁ。
まぁ俺の生活を護るため、部下たちに最低限のレベルリングを施すのは決定事項だけど。
それ以外はなぁ。
「ん? 待てよ?」
こういうときは逆に考えるんだ。そう。俺も学園に行くべきではないか? ってな。
さっき令嬢の話を聞いたときは「ご苦労さん」としか思わなかったが、そもそも令嬢にこの世界で生きるためには常識が必要だって話をしたのは俺だ。
で、貴族としての常識や騎士としての常識を学ぶなら、王国が運営している学園ほど適当なところはねぇ。なんなら王都には図書館とかもあるかもしれん。
「……ふむ」
令嬢やメイド以外の方法で異世界の情報を得る手段と考えれば悪くはない。
もちろん、俺には橙ハイスクールに通った御飯の野郎みたいに学者なんかになるつもりはねぇし正義の味方を演じるつもりもねぇから必要以上に深入りしようとは思わんが、それでも知識を得る場と機会を得たと考えれば……。
「悪くはねぇかもな」
年齢を考えればオッサンが子供に交じってなにしてんだって言われるかもしれんが、歳を経てから学校に通うことはなんら恥ずかしいことじゃない。なにせ向こうにだって歳をとってから大学や高校に通っていた人は当たり前にいたしな。
極力他の生徒に関わらんようにしないとな。体育の授業があったら休むぞ。
最終的な問題があるとすれば王都とやらで獣人がどんな感じで扱われているのかってことだが、これもそれなりの勝算はある。
なぜなら令嬢が俺を騎士にしようとしたり、令嬢を狙っていた騎士が俺に共闘を呼び掛けたからだ。それに鑑みれば、獣人は多少見下されている感はあるものの、それなりに数がいて、扱いもそれなりのものである可能性が高い。そうじゃなかったらそんな提案が出てくるはずがないからな。
それでも何か問題があったら令嬢の家の名前を出した上で雑魚どもを叩き潰すだけだ。
俺としても売られた喧嘩から逃げるつもりはねぇが、そもそもの話、喧嘩を売られねぇのが一番だからな。令嬢の家の名前を使うことでその辺もクリアできるなら特に問題はねぇ。
……ほぼ決まったが、一応決断は確認してからにしようか。
「令嬢にいくつか質問がある。知っているなら答えろ」
「はい!」
さぁて。王都ってのはどんなところなのかねぇ。
―――
セレス視点
「悪くはねぇかもな」
(お嬢様)
(……えぇ)
ベシータ様がなにやら悩んでいるわ。一体何をお考えなのかはわからないけど、もちろん私から話題を振るような真似はしないわよ。藪を突いて「うるせぇ!」とか言われて殺されるのはごめんだから。
だからサキ。肘で突かないで。
今です! じゃないから。絶対に今じゃないから。
そんなことをされても絶対に学園の話は切り出さないから。
そう思っていたんですけどねぇ。
「令嬢にいくつか質問がある。知っているなら答えろ」
「はい!」
なんなりとお答えします! サキは独身です! 彼氏もいません! 今ならねらい目です!
「貴様が通う学園ってところには俺も通えるのか?」
「え゛?」
なんて? 学園に通う? ベシータ様が? ナンデ?
「無理か?」
「お嬢様!」
「痛っ! いきなりなにすんのよ!」
結構本気で後頭部を叩かれたんだけど!
私、主なんですけど!
「何を呆けているんですか。リョウ様のご質問にお答えください。早く。今すぐ。さっさとしなさい」
「あ、はい」
そうよね。私よりもベシータ様よね。うん。知ってた。それにお話の内容が内容だものね。そりゃサキも必死になるわよね。でもその態度はどうなの?
「お嬢様?」
「わかったから」
追撃しようとするんじゃないわよ。
「えっと。学園ですよね? 結論から言えば可能です」
そう。ベシータ様のことを護衛の騎士として登録すれば一緒に学園に通うことは可能よ。学費だって私たちが出せばいいから特に問題はない。
問題はないんだけど……。
「可能なんですけど、ベシータ様はどうして学園に通いたいんです? 正直ベシータ様にとって面倒なだけだと思いますけど」
「お嬢様?」
余計なことを聞くな! って雰囲気を出されても駄目よ。
だって確認しないと何があるかわからないじゃない。
例えばベシータ様が王都や学園に何かを期待していたとして、よ?
向こうにそれが無かったときに「期待外れだ」って言われて怒られたら困るでしょ。
王都に行きたいだけなら観光って形にすればいいだけだし。
わざわざ学園に通う理由が思い浮かばないのよねぇ。
「前に話したと思うが、情報を得るためだな」
「情報、ですか?」
「そうだ。メイ……「サキです」……メイドから教わったものは十分役に立った。だが当然ながらメイドから教わったことが世の中の全てではあるまい?」
「それは、そうですね」
サキがなんか悲しそうな顔をしているけど、事実は事実として認めないとね。
「それに新たな情報を得る場合もな。森の中にある集落や侯爵領の中でも辺境に当たる場所にある村や街よりも王都ってところの方が最新の情報を得られるんじゃないか?」
「……それも、その通りです」
どうしよう。まとも過ぎて反論できない。
私なんて「王都なんて面倒くさいなぁ」とかしか考えていなかったのに、この差は一体……。
「お嬢様とリョウ様の器の違いですね」
「うっさい!」
言われなくても分かってるわよ!
「あ~。貴様らの漫才はあとにしろ」
「「はい!」」
(お嬢様のせいで叱られたお嬢様のせいで叱られたお嬢様のせいで叱られたお嬢様のせいで叱られたお嬢様のせいで……)
いや、サキ。なに人のせいにしてんのよ。
アンタも同罪でしょうが。
「まぁいい。俺も学園に通えることはわかった。では次だ」
「はい!」
サキは後回しでいいわ! っていうか後で覚えてなさいよ!
「聞きたいのは王都における獣人の扱いについてだ。族長とか04が言うには『ニンゲンはクソだからどんな扱いをしてきても最後には必ず裏切る。だから絶対に信用するな』って話だったが、実際どんな感じなんだ?」
フェメラにテトラ! あいつら、なんてことを……気持ちはわかるけどあいつらも後で覚えてなさいよ!
「えっと。確かに奴隷になっている獣人の方はいます。国によっては獣人の方を蔑む方針の国もあります。ですが、ウチの国は比較的そういうのは軽いと思います」
実際獣人やエルフやドワーフの奴隷もいるけど、人間の奴隷だっているからね。というか数で言えば間違いなく人間の奴隷が一番多いわ。
「比較的ってことは少なからず差別意識はある、と?」
「……はい」
それはそれとして。差別意識がない。とは言い切れないのよねぇ。
「ふむ。やはりそうか」
嘘を吐いても意味がないから正直に話したけど、これをベシータ様がどう受け止められるのかがわからないわ。
「「……」」
あ、もし王都を破壊するなら私がいないときにしてくださいね。
今とかなら全然大丈夫ですよ?
「まぁ(それくらいなら許容範囲だ。今回はそれでも)いい」
ベシータ様の中でなにかしらの結論が出たみたいね。
どんな結論なのか不安ではあるけど、少なくとも不機嫌そうじゃないから良かったわ。
でも一応確認しないとね。
「えっと、それではベシータ様も私たちと一緒に王都に行くって受け止めてもよろしいですか?」
「そうだ。諸々の準備は任せてもいいな?」
「かしこまりました。全てこの私、サキ・ラングレイにお任せください」
「あんたが答えるんかい」
いや、実際に手続するのはサキだからサキが返事をするのは間違ってはいないんだけど。なんか、そう、もにょるわ。
(何か問題でも?)
(……別にないわよ。うん。もう好きにやりなさいな)
(かしこまりました)
うん。まぁ、これでサキも満足だろうし、私だって心強い護衛がついてきてくださるって考えればかなり気は楽になった。そういう意味ではもうなんの気兼ねもなく王都に行けるわね。
……侯爵家の令嬢ではなく子爵として行くことになるから周囲の目は随分変わると思うし、王家やリーフブライト侯爵家の人たちが何かしらの干渉をしてくるかもしれないけど、ベシータ様がいればなんとかなるでしょ!
最悪王都が亡ぶことになるけど、その時はその時。
現実を見ずに馬鹿をやった連中が悪い。
願わくばそんな馬鹿がいないことを祈るわ。
いや、割と本気でね。
構想を練ると言ったな。あれは本当だ。
だが今回はまだその時を指定していない。
つまり作者がその気になればそれが……む?
誰かきたようだ。こんな時間に一体誰が……
閲覧ありがとうございました。