4話。豚野郎、あらわる!
俺、5000ポイント超えたらネタ元になっているご本人様に「小説の主人公にしていいですか?」って聞くんだ。
おう、俺だ。ベシータ様だ。
罠を仕掛けて豚野郎を仕留めることにした俺様だったが、その前にやるべきことがあったのを思い出してしまったんで、そちらを先にすることにしたぜ。
何を忘れていたかというと……気を確認していなかったのだ。
「せっかく気が使えるようになったんだから試さんとな」
この世界に気が実在するかどうかはわからんが、少なくともあの白い部屋の野郎が言うにはこの世界には魔法があるらしい。で、俺はあの部屋で『気を使う才能』を要求し、あの野郎はそれに是と応じたからな。
その前に依頼した若返りや戦闘の才能っぽいのがあることを考えれば、こちらもあると考えるのが妥当だろう。
「問題はどうやって気を確認するか、だ」
いや、なんとなくわかるぞ? あれだ。あの、昔の週刊誌の末尾にあった榎木さんやちきたろーさんが読者から送られてきたハガキをいじって色々やってた情報局的なコーナーでよくネタにされていたみたいに踏ん張ればいいんだろ?
それをやってケツ以外の場所から何かが溢れ出たら、それが気だ。それはわかる。
俺が懸念しているのは、下手に気を出した場合豚野郎に察知されるんじゃないかってことだ。
元々野生動物はそういうのに敏感だっていうしな。もちろんビビッているわけじゃないぞ! 変に警戒されてしまったせいで仕掛けた罠とかが回避されそうなのが嫌なんだ。
だが、試したい。気というロマンを試したい。白い部屋の野郎からもらったロマンチックを使って冒険したくてうずうずしている自分がいる。
この気持ちは……そう、勇気!
「そうだ。なぜ忘れていたんだ。思いを叫ばなきゃ願いは天に届かねぇんだ! 大人のふりしてあきらめてんじゃねぇ!」
ワイルドにたくましく、それでいてセクシーに美しく。きらきら光った夢をその手に掴むのがDB芸人ってもんだろうがっ! 諦めている連中に見せてやるぜ、本当の勇気ってやつをなぁ!!
「やってやるぞ! はぁぁぁぁぁぁっ!!!」
―――
「ブー。ブモ。ブモ」
オークの森と呼ばれる森に住むオー太郎は偉大な戦士を目指す極々一般的なオークである。
生まれてから早数年。体つきはそこそこ大きくなってはいるし、自分の中では十分な力があると思っているものの、中身はまだまだ子供なので戦士階級に上がれていないのが現状である。
そんなオー太郎は日々「村のみんなに一人前と認められるためにどうしたら良いか?」を考えていた。
そんなことを考えていたある日のこと、とうとうオー太郎は自分が認められる方法に気が付いてしまった。
「そうだ、一人で獲物を狩ればいいんだ!」と。
森の中で子供が単独行動をとる。アール曰く世界チャンピオン級のバカが取る行動であるが、子供であるオー太郎は自分の行動がどれだけ危険な行動なのか気が付かなかった。
お気に入りの棍棒を手に、家族に適当なことを言って集落を出て、家族や見回りの戦士に邪魔されないようそこそこ遠出をして獲物を探すオー太郎。
油断慢心と言えばその通りなのだが、いかんせんこの森はオークが支配する森である。熊や狼など猛獣とされる生き物もいるが、それらはオークにとって餌でしかない。
尤も、如何にオークといえど狼の集団を相手にすればケガをする可能性があるし、熊だって油断すればケガをすることがあるので、面白半分で接触することは戒められている。戒められているのだが、それでもオークが生態系の頂点に立っている事実は変わらないのである。
故に獣の方からオー太郎に接触するようなこともなく、結果としてオー太郎はすいすいと森の中を進んでいく。オー太郎の目的地は森の出口と呼ばれる場所だった。
母親から『森の出口の方はニンゲンという、私たちを殺して食べようとする危険な生物が出るから行っちゃだめよ』と言われているオー太郎は「そのニンゲンを狩れば周りが自分を大人だと認めてくれるはず」と思っているのだ。
オー太郎のこれはどう考えても勇気ではない。知らないが故の蛮勇である。当然無事に帰ったら、周りから褒められるどころか、家族総出で叱られるだろう。
こっぴどく叱られる。父親に拳骨を喰らう。ご飯を抜きにされる。様々な罰を受けることが予想されるが、それでもそれらは『無事に帰ることができた末に訪れる将来の話』でしかない。
「はぁぁぁぁぁ!」
「ブモ?」
みんなに褒められることを夢想しながら出口に向かっているオー太郎は、なにかが呻き声のような声を挙げているのを耳にした。
「ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ブモ……」
呻き声の正体が気になって声がする方に向かってみることにしたオー太郎。少ししてたどり着いた場所には体が白と青の鱗に覆われていて、頭に黒い毛が生えている、なんとも不思議なやつがいた。
少し観察してみれば不思議な奴は体調が悪いのか、なにやらうずくまっているようだ。
「ブモッ!ブモッ!」
見たことのないやつだったが、オークであるオー太郎にとって熊よりも小さく狼のように群れてもいないやつ。それも体調を崩しているようなやつを恐れる道理などない。
「ヨシ! なんかわかってきたぞ!」
さらに言えば、見たことがないということは珍しいということだ。何か言っているようだが、熊の鳴き声と一緒で何を言っているのかわからないのだから考える必要はない。
今必要なのは勇気だけだ!
「ブモ! ブモモッ!」
「さっきからブモブモうるせぇんだよ! このモブ野郎! もう少しで掴めそうなんだから邪魔すんなっ!」
「ブ、ブモ!?」
珍しい獲物を狩ってみんなに褒めてもらうんだ! そんなオー太郎の純粋な思いが込められた雄たけびは白いやつが発した無粋な叫び声によって邪魔されてしまった。
「だからブモ! じゃねぇ……ん? なんだぁてめぇ?」
「ブモ!」
「その姿、まさか豚野郎、か?」
「ブモモ!」
「一匹だと? 複数で動くんじゃなかったのか? まさか俺が呼び寄せたのか?」
「ブモモモッ!」
「BPは……90。最弱ではないが、少なくとも俺より下、か」
危うく変なやつが作った勢いに飲まれてしまうところだったが、間一髪、オー太郎は立て直しに成功する。冷静になって見れば、白いやつは自分が森の支配者であるオークであることを知って呆然としているではないか。
「ブモォォォォォ!」
熊だって狼だって思わぬところで敵に出会ってしまえば驚きで硬直してしまう。捕食者である自分たちは硬直して隙だらけになったところを狙えばいい。村の戦士から『それができるのが優秀な戦士だ』と教わっていたオー太郎は、呆然としている白いやつが『硬直している』と判断し攻撃をすることにした。
「よくわからねぇが、好都合だ! かかってきやがれ豚野郎!」
――オー太郎が集落を出たのがこの日でなければ助かったかもしれない。
――オー太郎一人で集落を出なければ助かったかもしれない。
――森の出口を目指さなければ助かったかもしれない。
――どこからともなく聞こえてくる声に気が付かなかったら助かったかもしれない。
――声がする方向に向かわなければ助かったかもしれない。
――声の主を見つけたと同時に逃げていたら助かったかもしれない。
数多の『かもしれない』があった。しかしオー太郎はその『かもしれない』を掴むことができなかった。
「ブ、ブモ、モ……」
「はっ。豚野郎にしては楽しめたぜ」
この日以降、オー太郎の姿を見た者は、いない。
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