11話。あぁバラ色の人生
正確にはピンク色って意味らしいですね
ゼフィ視点
「ふふふ~ん、ふふふ~ん。ふふふ~ん、ふんふんふ~ん」
あの日、ベシータ様に助けて頂いてから3か月くらい経ったの。
あれから私たちはいろんなことをしたの。
オークを倒したり、訓練をしたり、畑を作ったり、水場を拡張したりしたの。
ベシータ様としては果物とか蜂蜜を定期的に採れるようにしたいらしいけど、それはもう少し後になりそうなの。
残念は残念だけど、残念じゃないの。
だって今は無理でも後になったらできるってことだから。
だから今できないことは残念じゃないの。
将来のために必要だからって言われて色々作らされているロヒゥムちゃんたちも頑張ってるの。
私もお手伝いしたいって思ったんだけど、私はハーフドワーフのみんなみたいに細かい作業ができないから、今はまだ手伝えないの。
設置とか実験って段階になったら手伝えるから、それまで待っててって言われたの。
だから待つの。でも、ただ待っているだけじゃ駄目だから訓練とかするの。
訓練の内容は、主にお嬢とメイドを全力で殴りつけることなの。
ベシータ様の指示でお嬢の配下になったのに大丈夫? って思ったけど、元々この訓練を決めたのはベシータ様なの。
私たちは人間のことが大嫌いだから全力を出した訓練ができるし、向こうは向こうで全力で襲い掛かってくる相手を捌く訓練になるらしいの。
それと……悔しいけどこうやって全力で挑ませることで、私たちに『お嬢には勝てない』ってわからせるのも目的らしいの。
実際最初は『どさくさに紛れて大けがをさせてやろう』なんて考えてた子が何人もいたけど、今はそんなこと考えてないの。
私は最初から考えてないの! だってお嬢の配下になれっていうのはベシータ様の命令なの!
ベシータ様に逆らうつもりなんてないの!
そんな感じで、ここ数か月は色々してたの。でもそれもそろそろ終わるみたいなの。
「ふふふん、ふ~んふふふ~ん」
ちなみに今日はお休みなの。だからお散歩がてらお友達をさがしてたの。
「……どうしたんだいゼフィ。随分機嫌がいいみたいだね?」
「あ、サリス! 見つけたの!」
「いや、見つけたのは私だと思うんだけどねぇ」
私が探してたお友達はサリスなの! サリスは私と同じ集落の出身で、一緒にお役目に行かされそうだったときにベシータ様に助けてもらったの!
あのときサリスがベシータ様に『助けてください』って頼まなかったら今の私たちはないの!
だから私たちはみんなサリスに感謝してるの!
……もちろんベシータ様の次に、だけど。それはそれでいいの!
「サリス! サリスは聞いたの?」
「なにをだい?」
「もう少しで王都で戦争があるらしいの!」
「……あぁ。もちろん知っているさ。連中が痛い目に遭うんだろう?」
「そうなの! フェメラに騙されたラーズとかアベルナが無意味な戦争をしかけて痛い目を見るの!」
ラーズは集落のためっていって私たちを売り飛ばしてたけど、実際は人間の血を引く自分たちの権益を守りたかっただけだったの!
あの二人以外もそう。連中は自分たちにすり寄った人しか助けるつもりはなかったの。
しかも今回戦場に出るのは、戦えない人たちじゃないの。
ラーズは功績と経験値と物資を独占するために自分たちと子飼いの連中しか出す気がないの。
つまり痛い目を見るのは連中だけなの! ざまぁなの!
「私としては、自分が生贄になるのが嫌だからって、自分の番が近くなったと思ったらいつの間にかアベルナに近づいて関係を結び生け贄になるのを回避した挙句に私たちを先にオークに売るよう進言したパプニナの奴にも痛い目に遭って欲しいんだけどねぇ」
「あ! そういえばそんなやつも居たの!」
パプニナは、あいつは最初エルフの血を引くお偉いさんとかに色目を使って美味しい思いをしてたの。そのくせ、集落がラーズの集落に取り込まれた途端にラーズとかアベルナの周りをウロチョロしだしたの!
それだけじゃないの! 私たちの集落の秘密を売り渡しただけじゃなく、あろうことか『私たちから逆恨みされるのが怖い』とか言って、優先的に私たちをオークに売り払うよう仕向けたやつなの!
端的に言って死ねばいいと思うの!
「ま、族長になるフェメラさんもアレのことは嫌っていたからねぇ。間違ってもこっちに連れてくることはないってのが救いだね」
「それはよかったの!」
あいつがここに来たらベシータ様に色目を使うのが目に見えてるの!
そんなの絶対に許さないの!
「ともかく、早ければ今日にでも戦争になるみたいだよ。結果についてはベシータ様が見にいっているから、帰ってきたら教えてくれるはずさ。早ければ今日中にもね」
「さすがはベシータ様なの!」
遠く離れた王都のことをその日のうちにわかるのは凄いことなの!
「そうだね。それについては本当にそれしか言えないよ」
私たちは未だに空を飛べないの。一応風と火の魔法を使うことで一瞬だけ飛ぶくらいのことはできるけど、あそこまで自由自在には飛べないの。
でもでも、私たちよりも強いお嬢もメイドも飛べないから、やっぱりベシータ様が特別なだけなの!
そんな特別なベシータ様とみんな早くお話がしたいって思ってるの!
そのためにはさっさと戦争が始まればいいの!
そしてさっさとラーズたちが痛い目を見て終わってしまえばいいの!
だから私はお願いするの!
「早く戦争にな~れ。なの!」
―――
フェメラ視点。
「……配置換え?」
「そうだ」
はぁ。王都に行く前日になっていきなり最終確認の為にって呼び出されたから何を言われるかと思えば、この期に及んでこれかい。
「これだけ見ればアタシたちがジェネラルに当たるような陣形だけど?」
ジェネラルを引き付けて死ねって? その間に物資を見つけて奪う算段かい? 露骨すぎるだろうが。
「そうだな。だが戦う必要はない」
「は?」
「卿ら獣人は速度に優れている。如何にジェネラルとて、森の中では卿らに追いつけまい」
「……そんなわけないだろうが」
もしベシータ様に修行をつけてもらっていなかったら殴りかかっていたかもしれないね。
「確かに(ベシータ様に強化される前のアタシらでも)敏捷性だけならラーズやアベルナにだって勝てるだろうよ。でもジェネラルは桁が違う」
「ほう。卿にも無理だ、と?」
挑発かい? 乗らないよ。乗るわけがない。
「そうさ。そもそもジェネラルとアタシらじゃ出せる速度が違う。石を投げられただけで死んじまうってのに、どうやって逃げろってんだい。そのうえ引き付けろ? 馬鹿じゃないか。それがアンタが考えた必勝の策だってんなら……今回の戦、アタシらは降りるよ」
「……ここで降りる、だと? 敵前逃亡は重罪だ。それも今後の将来を決める決戦の際に逃げ出したなら、卿らに味方するものはいなくなるぞ」
敵前逃亡? その敵ってのはラーズって名前だろうに。
「それはそうだろう。でもそれはアンタの考えた作戦に従っても同じじゃないか?」
「……たとえ卿らが死んでも、残された者には十分報いるつもりだ」
本音が出たね。
「はっ。それはそれは、御大層なことで」
戦えるものが全員死んだ集落に先はない。
貴様の狙いはそこだ。今回の戦いで、外にいるジェネラルから物資と女衆を奪うついでに、アタシを含めた戦闘員全員を失った集落を吸収したいだけだろうが。
で、現在王都で行われている権力争いの勝者に目途が立ったらそいつを支援して、知己と援助を得る。ここで奪い返した女衆とアタシの集落にすむ連中は、そのときにオークに渡す土産なんだろう?
舐めるな。
「……どうしても受け入れるつもりはないか?」
「当り前さ。誰が自殺も同然の策を受け入れるもんか」
「大義の為に死ぬ。そのつもりはないと?」
「ない。アンタの大義に殉じる必要性が見当たらないからね」
そもそも貴様に報いるつもりもなければ、報いるだけの物資もないじゃないか。まぁそれはアタシが嘘の情報を流したからなんだが……軽いんだよ、貴様の言葉は。
「後悔するぞ」
「アンタがね」
「……明日の軍議を楽しみにしておくのだな」
「知らんよ」
どうせアタシら以外の集落には根回しを終えているんだろう?
他の連中にしてみればアタシらに押し付けることができれば、一番厄介なジェネラルの相手を自分たちでしなくて済むんだからね。そりゃ満場一致で認めるだろうさ。
……本来であれば同調圧力ってやつに押されて無理やり配置換えを飲まされた挙句、なんとかして配下を生かすために必死で逃げていたんだろうよ。
そうしてアタシらがジェネラルを引き付けている間にラーズとアベルナが向こうの本陣を急襲。そこにいるであろうナイトやウォリアーを倒して武功を上げるってわけだ。
アタシらはジェネラルに殺されるか、生き残ったとしても『ただ逃げただけ』って烙印を押されて最終的に報酬もなしって感じか?
いや、物資がないことや女衆がいないことを考えれば、戦後処理の最中に『偽の情報を掴ませた』って言って弾劾するかもしれないねぇ。その場合「裏取りを怠ったアンタが悪い」と言えるような空気ではないだろう。
むしろ何も弁明させずに殺すか? より完璧にするため、撤退中にアベルナあたりを刺客として向かわせてくる可能性もある。
で、アタシを殺したあとで戦犯として槍玉にあげ、残された集落を吸収してアタシらが蓄えていた物資を周囲に分配し不満を抑える。そんなところかい?
「ははっ。どう転んでも終わりじゃないか」
なるほど。勝っても負けてもラーズには損はない。
あいつの頭の中では戦の後に待っているのはバラ色の人生ってか?
でもさ、頭の中でどれだけ理想的な策を考えようと、現実との折り合いをつけなきゃ意味がないんだよ。
結局のところ連中の敗因は一つ。
「ベシータ様を知らないこと。それが貴様らの敗因さ」
ある意味で王都なんかより何倍もでかい存在を知らないんだ。そりゃ勝てないよ。
どれだけ幸せなものであっても、所詮夢は夢さ。バラ色の夢から覚めたとき、貴様がどんな面をして吠えるのか……せいぜい楽しませてもらうとしようじゃないか。
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