6話。ハーフオークの戦士たち
彼らの事情。
ベシータ様登場せず。
「皆、よく集まってくれた」
とある日、ハーフオークの集落の中でも最大規模の集落には各地のハーフオークを束ねる族長たちが集まっていた。
議題はもちろんオークエンペラーの居城の崩壊と、オークエンペラーを含むオークキング四天王が行方不明になっていることに関するものである。
もしこのままエンペラーやキングたちが不在のままならばどうなるか。その中で自分たちはどう動くべきかを議論する場なのだが、この集まり自体を無駄と考えている者も少なからず存在していた。
「集まったところでアタシらに何ができるってわけでもないんだけどねぇ」
そう嘯くのは、この会合自体に意味を見出していない者の代表格にしてある種の凄味を感じさせる女性であった。
顔は整っているものの、目つきは鋭く、身長もオークの血が強く出ているのか190センチほどの高身長(尤もハーフオークは基本的に体格がいいので、彼女が特別高身長であるわけではない)。
肌は白いが、黒みがかった緑の髪と同じ色をした狐っぽい耳や尻尾があることから、獣人としての血が強く出ていることがわかる。
彼女の名はフェメラ。ベシータが04と呼んでいる少女、テトラが住んでいた里を治める族長だ。
「姐さん、あんまりそういうことは大きな声で言わない方が……」
「あぁん? 事実だろうが」
側近のゴスペルが諫めるも、どこ吹く風。フェメラは平然と『オークの王都が乱れようが自分たちにできることなどない。だからこの集まりも無駄だ』と吐き捨てる。
「ふむ。卿は少し結論を急ぎ過ぎではないかね?」
「おや。ならアンタは違うとでも?」
「……それをこれから話し合おうとしているのだが?」
「はっ! ここで話し合って何が変わるってんだ。それともなにか? あんたはアタシらが掴んでいない王都の情報でも掴んだっていうのかい?」
「……」
「ないだろう? そりゃそうだよねぇ。基本的にアンタのところから出された連中はアンタを恨んでいる。だから王都で何らかの変事があってもアンタに情報を流すようなことはしない、絶対にね」
「私は里の存続という大義のために決断を下している。故に恨まれることなど恐れてはいない」
「話をすり替えるんじゃないよ。アタシが言っているのは……」
「いい加減にしろ! これ以上閣下を侮辱すると言うならこの俺が相手になるぞ!」
「はぁ。話をすり替えるなって言ってる最中にこれだ。ラーズ。この場で発言権があるのは族長のみだろ? 部下の教育はどうなっているんだい?」
「貴様っ!」
「まて、アベルナ」
「しかしっ!」
「私は待てと言ったぞ」
「……くっ」
「フェメラ。今回ばかりは卿の言い分が正しい。アベルナに代わって謝罪しよう」
「私のために……閣下っ。 申し訳ございませんっ!」
「良いのだ。お前が私のために怒ってくれたこと、嬉しく思う」
「はっ!」
(なんだいこの三文芝居は。これだからこいつらは嫌いなんだよ)
フェメラはラーズたちの事が嫌いだ。大っ嫌いだ。本能的な部分でこの二人を嫌っていると言ってもいい。
なぜか? いくつか理由はあるが、最大の理由はこのラーズとアベルナが、ニンゲンの血を継いでいるからだ。
元々獣人にとってもエルフにとってもドワーフにとっても、そしてオークにとってもニンゲンとは忌避すべき存在である。
ハーフオークである自分たちをオークが力で押さえつけるのは、まだわかる。弱いのが悪い。言ってしまえばそれだけの話だからだ。
しかしニンゲンは違う。弱いくせに他の種族を虐げることで知られている存在だ。
ときに数で。ときに金で。ときに自分たちで作った法を押し付けて侵略してくる存在だ。
フェメラの親の世代もその被害者であった。彼女らはそうしたニンゲンたちに住処を追われ、この森に逃げこんだところでオークの王に捕まって地獄を見たという経緯がある。
王の相手をさせられ心を壊したフェメラの母を何とか救い出し、その後も介助してくれた母の友は、いつも涙ながらに『ニンゲンさえいなければ』と恨み言を呟いていたものだ。
そんな恨み言を聞いて育ってきたフェメラが、ニンゲンの血を継いでいるラーズやアベルナに好意的な感情を抱けるはずもない。
ただ、それだけならまだなんとかなった可能性はあったのだ。
(ラーズやアベルナはあくまでニンゲンの血を継いでいるだけであって、別にあの時点でこいつらがアタシたちに何かをしたわけではないからね)
フェメラは嫌いなものは嫌いだが、理由さえあれば自分の好き嫌いを我慢できる程度の辛抱強さを備えた女である。だから彼女がここまでラーズたちを嫌い、それを隠そうとしないのには明確な理由が存在する。
その理由とは何か。それは彼らが己の出自を盾にして不正を働いていることだ。
(忌々しい)
ラーズとアベルナは人間とオークの間に生まれたハーフオークの女から生まれた子である。ラーズの祖母が貴族でアベルナの祖母がその騎士だった。らしい。
本当のところはどうかは不明だが、少なくともアベルナは生まれたころからラーズを守るように言われて今まで一緒にやってきたそうな。
ラーズはラーズで自分が貴族の血を継いでいることを誇りとし、いずれオークたちから独立することを夢見ている。
(それは別にいいんだよ)
フェメラだって独立をできるものならしたいと思っているので、そこを否定するつもりはないし、ラーズの夢に賛同する者は多いことも理解している。特にニンゲンの血を継いでいる者は実力よりも貴族の血を継いでいるということを重視する者が多く、ラーズは彼らにとって替えの聞かない主君となっているのが現状だ。
それだけならまだいい。フェメラは誰が族長になるかを決めるのはその集落に生きる者であるべきだと考えているからだ。
しかし、そのことで何を勘違いしたのか、ラーズは『他の集落の者たちも私に従うべきだろう』と言い出すようになった。
ラーズの言い分はこうだ。
1・小さな勢力が乱立しても各個撃破されるだけだから一つに纏まるべきだ。
2・自分たちが一番大きな勢力を持っている。
3・だから自分たちと合流してほしい。
これだけ聞けば「確かに」と頷ける部分はある。
問題はこの次だ。
4・集落を維持するため、必要なときに必要な犠牲を払うことを承諾してもらう。
これがフェメラたちの逆鱗に触れた。
(冗談じゃないよ!)
ラーズの集落に於いてこの『必要な犠牲』を決めるのはラーズである。当然ラーズにとって価値のあるものはその『犠牲』に含まれることはなく、逆にラーズにとって不要なものが『犠牲』として処理されてしまう。
そしてラーズにとって『価値のあるもの』とは、大きく分けて『ニンゲンの血を継いでいるもの』と『己の価値観を共有できるもの』の二つしかないのである。
大きな集落に入ればその分だけ外敵に襲われる危険は減る。それは間違いない。事実ラーズの集落では、熊や狼などの野生動物に対する脅威度は極めて低い。
だが最大の外敵であるオークからは警戒されることになる。
そこでラーズが考えたのが、率先してオークに人員を差し出すことであった。
オークからしてみれば、捨てた者が勝手に育ち、さらには向こうから『自分を使ってくれ』と売り込みにくるのだ。ハーフオークの男は、純血のオークよりは弱いものの雑用をさせるにはちょうどいい塩梅の強さしかなく、女はエルフやニンゲンの純血種よりも頑丈で壊れにくいときた。
加えて最低限の食事さえ与えていれば生きていられるという生命力もいい。
なにより、もし彼らが死んだとしてもオークエンペラーが決めた法に逆らうことにはならないので、そのまま食糧にしても問題にならないというのが最高だ。
こういった思惑があってラーズの集落はオークたちから、文字通り死んでも役に立つ労働力の産出場所として認識されるようになり、王の命令で面白半分に乱獲されることはなくなったし、なにより王都とその近郊の集落で『ハーフオークが生まれたらまずはラーズの集落に捨てる』という不文律が生まれてしまった。
フェメラが気付いたときにはオークの集落でハーフオークが生まれるたびにラーズの集落の人口が増えるようになってしまっていた。
(それだけじゃない)
ラーズは卑屈なだけでなく悪辣な男でもあった。彼は自分たちから積極的にオークに人質を差し出すことでオークの警戒心を緩めつつ、定期的に森に入ったオークを闇討ちして自分たちのレベルを上げており、今やアベルナとラーズはハーフオークの中で最強レベルの強者になることに成功していたのだ。
ハーフオークの中に強者が生まれるのは歓迎すべきことだ。なにせ交渉とは一定以上の武力を持たないと成立しないものだから。
ただし、定期的に仲間を殺されているオークたちが、定期的に犯人を探そうとして、定期的にラーズの集落以外の集落を襲うこととなったので、各集落では定期的にかなりの被害を出すこととなっていることも忘れてはならない。
(やってくれたもんだ)
当然フェメラの集落も何度かその被害を受けており、集落を転々と移動させることを余儀なくされている。その苦労を知れば知るほど、年に何人かの決まった生贄をさし出す以外の損害がないラーズの集落に行きたいと願うものが多くなるのは当然のことと言えよう。
それらを繰り返していたら、いつの間にかラーズの集落と他の集落の間に隔絶した差が生まれてしまっていたというわけだ。
そうして隔絶した差が生まれたことを盾に、ラーズはフェメラの集落などに物資などの援助をする見返りとして様々な汚れ仕事や危険な仕事を割り振るようになったのである。
(困窮しているのは全部アンタらのせいなんだけどねぇ!)
獣人の血を引くフェメラや彼女の部下たちからすれば、森で生きることはそんなに辛いことではない。
だが定期的にオークに襲われてはどうしようもない。
反抗したくても、その力がない。オークたちに勝てないのはもちろんのこと、アベルナやラーズは『今の我々はナイトクラスとも戦える』と嘯くことができるほどの実力者となってしまっているからだ。
(全くの嘘では……ないだろうねぇ)
自分の実力を大きく見せることは基本中の基本だが、あまりにも現実と差がありすぎれば違和感を生んでしまう。支配者が吐く嘘はバレないからこそ意味があるのであって、嘘を吐いていたとバレてしまえばそれだけで影響力が損なわれることになる。
(故に連中がオークナイトと戦えるというのは嘘ではない。……勝てるかどうかは知らないけどね)
フェメラにとって最大の問題は、勝てるかどうか以前の問題で、少なくともアベルナとラーズの二人がオークナイトと戦えるという時点で、自分たちとは隔絶した差があるということをまざまざと理解させられていることだ。
(アタシらじゃどんなに頑張ってもウォリアーが限界。いや、戦い方によってはソルジャーもいけるかもしれないが、その場合ソルジャーを討伐できたとしても、こっちにだって尋常じゃない被害が出てしまう)
ソルジャーにすら勝てると明言できないフェメラと比べ、ナイトと戦えると嘯くラーズたちのなんと強きことか。その強さが『貴様なんざいつでも潰せるんだぞ』という余裕に繋がり、三文芝居に興じることができるし、彼我の力の差を理解しているからこそフェメラは彼らのおざなりな謝罪を受け入れなければならないのである。
(まぁ、いいさね。こいつらが何を考えていようと、そう簡単にアタシの上前をはねるような真似ができるとは思わないことだね)
突如として始まったラーズとアベルナの掛け合いを見せられてうんざりしていたフェメラであったが、当然本題を忘れたわけではない。
フェメラにとって重要なことは唯一つ。如何にして彼らを出し抜くか、なのだから。
「……それで、結局ラーズはこれからどう動くつもりなんだい?」
(こいつらがアタシを利用するんじゃない。アタシがこいつらを利用してのし上がってやるのさ)
出し抜くためには情報が必要。そう理解しているからこそフェメラはラーズたちの動向を探ろうとしたのだが、それはラーズたちにとっても同じことである。
「あぁ。そうだった。その話がしたかったのだ」
「あぁん?」
そうこうして己の気持ちに区切りをつけたフェメラが気を取りなおして問いかければ、三文芝居に興じていた二人は目を合わせて頷きあい、フェメラに向き直って口を開く。
「実は卿に頼みたいことがあるのだよ」
「頼み、だって?」
(なんだ? 何を企んでいる?)
「そうだ。なに、簡単なことだよ。卿にとってはな」
「……内容を聞いてからじゃないとなんとも言えないねぇ」
ラーズの狙いが読めず不安に思うフェメラに対し、ラーズは笑みを浮かべながら『頼み』の内容を告げた。
「うむ。実は、卿らに王都に行って情報の収集をしてもらいたい。そう思っているのだ」
「はぁ!?」
(こいつ、狂ったか?)
フェメラが知る今の王都は、端的に言って混沌の坩堝だ。
なにせ王や四天王が行方不明となっており、残されたジェネラルやナイトらが各々の勢力を主張して争っているのである。さらには蓄えていたはずの食糧がかなり減っているという報告も受けている。
(さらにはテトラたち女衆とも連絡が取れないときたもんだ。おそらく食糧と一緒に将軍の誰かが独占しているんだろうが、それが誰かさえわかっていない)
統治する者がいない。食糧がない。女も奪われた。
こんな状況であれば、もう誰かが一言『あいつが独占しているぞ!』と喚くだけで内乱が勃発するだろう。否、事実内乱が勃発している。
(一部の連中は『女どもが飛んで逃げていくのを見た』と言ってそれを追ったらしいが……あほくさい。どうやったらハーフオークの女衆が空を飛んで逃げることができるってんだい)
普通に考えれば、内乱を忌避した連中が外に責任を押し付けようとしたのだろうことは明白だ。その企みは無駄に終わったようだが、それでも一部のオークどもが内乱真っ只中の王都から距離を取ることに成功したのは事実である。
(王都の中は覇権を巡って内乱中。外には内乱に参加している連中が傷付くのを虎視眈々と狙っている連中がいる。そんなところに行け、だと? アタシらを殺す気か?)
ラーズの頼みとやらは、フェメラからすれば処刑宣告に他ならない。当然受け入れられるはずがない。だからこそフェメラは思わず内心で狂ったか?と叫んだのだが、ラーズにはラーズの理屈がある。
「そんなに驚くことかね? 我々は常に集落の者たちの命を背負っている。故に我々の決定如何では大勢の命が失われることになってしまう。だからこそ大きな決断をする前にできるだけ正確な情報を集めたい。ここまででなにか問題はあるか?」
「……いや。それはその通りさ。だけどねぇ」
「だけど、なにかな?」
正しい情報がなければなにもできないのは事実だ。だからこそ行動を起こす前に情報を得ようとするのは間違ってはいない。
問題なのは、なぜフェメラたちがそれをしなければならないのか、だ。
「アタシらのところはつい先日オークたちに襲われたからばかりだからね。正直よそに人員を回す余裕がない。情報の収集がしたいってんならアンタらのところから出したらどうだい?」
「「「……」」」
人がいないのは事実だが、それ以上にフェメラとしては『ラーズのために働きたくない』という気持ちが強い。
フェメラとて本来であれば今は皆が一致団結すべきときであることは理解している。他の参加者たちも同じだ。だが、ラーズの日々の行いを知る者たちはフェメラの気持ちも良く理解できていた。
そのためフェメラの意見に対して反対をする者はいなかった。
……当のラーズを除いては。
「ふむ。確かに先日、卿の集落が襲撃を受けたという情報はこちらにも入っている」
「……そうだろう?」
(白々しい。アタシらが襲撃される原因を作ったのは貴様らだろうが!)
「なるほど。本来であれば損害を受けた卿ではなく、人員に余裕のある我らの集落から出すべきなのだろう。だがな」
「だが、なんだい?」
フェメラの視線の隅でアベルナがにやりと笑ったのが見えた。
「先ほど卿から指摘があっただろう? 私は恨まれている、と」
「……っ!」
(そうくるか!)
「王都に差し出された者たちが私を恨む気持ちはわかる。故に彼らの気持ちを否定しようとは思わない。すべてを受け止めよう。だが、そのせいで王都に派遣した者たちが私に対して虚偽の情報を渡してくるとなれば話は別だ」
(その可能性は、あるねぇ)
これからの情報を得るのであれば、これから優秀な工作員を王都に派遣すればいい。
だが過去、それもここ一か月程度の情報を得るためには、少なくとも一か月以上前から王都に派遣している者と接触し、情報を得なければならない。
その際、ラーズの集落から派遣された者たちが正しい情報を教えてくれるかと言えば……。
(ない、だろうさ)
フェメラが指摘し、ラーズが自覚しているように、彼らはラーズを恨んでいる。憎んでいると言ってもいいかもしれない。
それはそうだろう。大義の名のもとに自分たち以外の者たちを犠牲にしている連中を好きになれるはずがない。例外はラーズの集落の中で安穏と暮らしている連中だが、それだって一度集落から放逐されてしまえば、ラーズのいう大義とやらがどれだけ歪なもので、どれだけおぞましいものなのかに気が付くのだ。
事実、ベシータに保護された中でも温厚な性格をしているはずの01ことゼフィでさえ、ラーズたちのことは嫌いと公言しているくらいだ。
(もしかしたら王都が内乱状態にあるってことも知らない可能性さえある、か)
そう言った事情を鑑みれば、確かにラーズの関係者に情報を収集させるのが如何に無謀な試みなのかがわかる。わかってしまう。
(それに、だ。もしこいつらが人材を派遣して成果を上げたとしよう。で、こいつらはその情報をアタシたちに渡すか?)
その問いに対する答えは、否。
ただし今回に限っては『すべてのハーフオークのために』とか言って情報を開示する可能性がないわけではない。だが、間違いなく自分たちに有利になる情報、すなわち食糧や行方不明になっている女衆の在処などの情報は独占するはずだ。
(こいつらを憎んでいる連中に嘘を教えられても困る。かといって正しい情報を掴んでも秘匿される)
もちろんラーズには違う集落の長であるフェメラに命令する権利はない。故にフェメラはこの要請を断ることもできる。
だがこの森では各々が命がけで働いて情報やら物資を得るからこそ協力関係が成り立っているのだ。故に今回、このラーズからの要請を断った先に待っているのは完全な孤立である。
(くそっ……やってくれるっ!)
情報もない。物資もない。他の連中からの支援もない。
そんな状況で生きられるほどこの森は甘い場所ではない。
「無論、この件が成功した暁には、卿が得た情報に対して十分な報酬を支払うと約束しよう」
「……そうかい」
(これは、断れないねぇ)
フェメラとてラーズの狙いが『ことあるごとに自分たちに反対意見を述べてくるフェメラ陣営の弱体化にある』ということくらいは理解している。それでもこうして名分を用意されてしまっては逃げることもできない。
さらに嫌らしいのは、先行して王都の情報を探るという仕事は現状考えうる限り最も危険な役割であることを認識しており『それを成し遂げた際にはしっかりと報酬を払う』と確約してくるところだ。
ただし、フェメラが得た情報の重要性を精査するのはラーズたちであることを忘れてはいけない。
(だがまぁ、こいつらの性格上、皆の前で約束したことは反故にできないからね。それに、こいつらに先んじて食糧や女衆を確保している将軍を見つけることができれば……)
物資があればそれだけで集落の生活が楽になる。
女衆を確保できれば他の集落に対して恩を売ることができる。
それらは危険を犯した先に辿り着いた者だけが得ることができる賞品に他ならない。ハイリスク・ハイリターンの賭け。本来であれば乗るべきではない。しかしこの賭けに乗らなければフェメラの集落に未来は、ない。
「……了解した。アンタの頼みを引き受けよう」
(どうせ断れないんだ。腹を括るしかないね!)
「おぉ! そうか! さすがはフェメラ殿! 我ら皆、卿の示した勇気に敬意を表させていただこう!」
「然り。貴殿には是非とも今回の任を成功させて欲しいものだな」
「……あぁ。任せておきな」
(必ず、必ず生き延びて貴様らに吠え面をかかせてやるよ!)
上機嫌でフェメラを称えるラーズと、上から目線で激励の言葉を掛けてくるアベルナに対し、両者の思惑を理解してはいるものの、結局依頼という名の命令を受ける以外の選択肢がなかったフェメラ。
彼らはオークの混乱に乗じて自分たちが最大の利益を掴むため、表面上は一致団結しつつ三者三様の思惑を掲げて動き出すのであった。
一話に纏めようとしたら過去最長の長さに……
―――
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