4話。森林の攻防戦
居城を破壊され、王を殺され、物資と宝物と女を強奪された。
尊厳から何から全部を失い、このままでは生きていけない豚野郎たち。
彼らはすべてを取り戻すため、物資を奪った不届き者に対して苛烈な追撃戦を開始するのであった。
おう。俺様だ。ベシータ様だ。
いきなり100人近い小娘どもを連れてきたことで最初はどうなることかと思ったが、俺が想定した以上に令嬢とメイドがやる気に満ち満ちた感じになったんで結果オーライってことにしようと思う。
そもそもの話だが、小娘どものBPは平均50しかねぇからな。たとえ100人いようとも、現時点でBPが2000を超えている令嬢とメイドに逆らえるはずがねぇんだわ。
ただ反抗ってのは直接的な暴力だけじゃなく、サボりなども含まれるからな。納得した上で従うか嫌々従うかで生産効率とかは全然違うから、その辺を考慮した結果、令嬢とメイドに戦わせて力を見せることにしたってわけだ。
そんな中で俺がやることと言えば、せいぜいがサポート役に徹して連中に豚野郎どもの行動を教えてやるくらいだな。
具体的に言えば空から索敵を行って、豚野郎どもがどの方向から、どれだけの数を連れていて、どのくらいの速度でくるかってのを教えてやる感じだ。
初戦は一方向から数百程度、それも村長っぽいのは無しだったから、結果は言わずもがな。
「うらぁぁぁぁぁ!」
「疾ッ!」
「「「ブモ――――――!」」」
真正面から豚野郎の群れとぶつかり、危なげなく殲滅させることに成功した。文字通り一撃だったな。
「なんともあっけねぇ。鎧袖一触ってのはあのことだぜ」
尤も、俺様からすればあの程度の雑魚に苦戦されても困るんだがな。
だが観戦していた連中は違う感想を抱いたようだ。
「す、すごいの!」
「う、うん。まさかあんなに強いなんて……」
「ニンゲンなのにあんなに強い? 妙ね」
「さすがはベシータ様! 部下もあんなに強いんだね!」
上から01、02、03、04の感想だな。
01と02は豚野郎の居城で水浴びしていた二人で、03はドワーフの血を継いでいるらしく、やや小柄な感じで茶髪の小娘。04は獣人の血を継いでいるらしく、赤髪でケモミミとモフモフの尻尾がある感じの小娘だ。ウ●娘か。
身長は02>04>01>03の順だ。
とりあえずこいつらを班長に任命した上で傍に置いて観戦させたんだが、一目見て力の差を思い知ったのか戦闘前の生意気な態度は消え去り、今は尊敬の眼差しを向けていやがるじゃないか。
「そうだ。それでいいんだ」
作戦名『力こそ正義』のこうかはばつぐんだぜ。
まぁなぜか04だけは令嬢やメイドではなく俺様を持ち上げているが、確かにあの二人の強さは俺様がパワーレベリングした結果でもあるからな。その辺を考慮したうえでの賛辞ならば受けねばなるまいよ。
04からの熱い視線はさておくとして。
「さて、と。そろそろ次の準備だな」
「ベシータ様? 次の準備ってなんですか?」
令嬢やメイドではなく、あくまで俺様に注目していた04が俺の呟きを耳にして訝し気に首を傾げながら聞いてきやがったが……危機感がたりねぇぞ。
「次は次だ。それ以上でもそれ以下でもねぇ」
つーかこの状態で『次』と言えば何を指すかなんざ聞くまでもねぇことだろうが。
「令嬢! 次の群れが来るぞ! 逃げた豚野郎はこっちで処理するから、貴様らは東を警戒しろ!」
「はいっ!」
「メイド! 「サキとお呼び下さい」……東からくる群れには村長っぽいのがいる。雑魚は令嬢に回して貴様が村長を抑えろ」
「かしこまりました」
はっ。さっそく村長っぽいのがきてくれたか。予定が前倒しできて良い感じだぜ。
「村長?」
「てめぇらがジェネラルとか将軍とか呼んでる豚野郎のことだ」
「「「「ジェ、ジェネラルッ!?」」」」
「何を驚いていやがる。前にちゃんと説明しただろうが」
メイドがな。
「い、いや、でも!」
「……本当にくるとは」
「か、勝てる、の?」
「勝てるから命令しているんだ。連中の戦いをよぉく見ておけよ」
令嬢はまだ危ねぇところがあるが、メイドは基本がしっかりできているからな。村長にBPが倍になるスキルを使われてもしっかり時間を稼げるくらいには戦える。それに、いざとなったら令嬢が横殴りで殺すからなんの問題もねぇって寸法だ。
2対1? そもそも豚野郎の方が数は多いだろうが。
「さすがはベシータ様です!」
あいかわらず04だけはあれだが、他はいい感じに怯えてくれているからまぁいいだろう。
村長っぽいのは、今の俺様からすれば雑魚でしかないものの、元は集落のボスにして遠征を仕掛けてくる奴の中では最上位の存在だからな。
令嬢とメイドがあれを殺るところを見せれば、今は疑心暗鬼の只中にいる小娘どもも『あんなに強いんであれば、令嬢の配下になれば安全だ』って理解できて、金輪際令嬢たちを見下すような真似はしなくなるだろうよ。
で、小娘どもの意識改革が終わったら、次は楽しい楽しいレベリングだ。
さすがにこれだけの数だ。令嬢とメイドだけを連れて豚野郎の巣を襲撃したときと比較すれば効率は落ちるが、せっかく向こうから来てくれているんだ。まずは全員を200程度まで上げて、最低限普通の豚野郎程度には楽に勝てる程度にはなってもらうぞ。
それから先は……どうしたもんかね。
「理想としては班長に任命した小娘どもを今の令嬢くらいにした上で、それを束ねる族長って感じのが欲しいんだがな」
基本的にここにいる連中は若い。野生動物としての本能なのか豚野郎の血を継いでいるからかはしらんが、肉体的な成長は早いものの、実年齢は10~15歳くらいらしい。
そりゃあ外敵が居ない町で暮らす人間と違って、外敵だらけの森で暮らすんだもんな。悠長に幼少期なんて過ごしていられないのはわかる。わかるんだが、あまりにも若すぎて集団を任せるには心許ないところがあるんだよなぁ。
「べ、ベシータ様!」
「ん? どうした04」
「ベシータ様は族長が欲しいの!?」
「むっ」
どうやら声に出してしまっていたらしい。04がめちゃくちゃ尻尾を振りながら訪ねてきやがった。
まぁ別に隠すことでもねぇから聞かれても構わねぇんだが。
「そうだ。心当たりでもあるのか?」
「うん! じゃなくて、はい! うちの族長ならきっとベシータ様のお役に立てます!」
「ほほう?」
族長、ねぇ。確かにこいつらはこいつらでいくつかの集落があるんだったか? もしもそいつが本当にそこで族長としてやっているのであれば……稀少だな。
なにより経験があるってのがいい。今の令嬢には人の上に立った経験ってのがねぇからな。族長を傍に置くことでいい経験になるかもしれねぇ。
「詳しい話を聞こうじゃねぇか」
「はい!」
本来であれば令嬢やメイドに決めさせるべきなんだろうが、今のあいつらは忙しいからな。
最終的な判断は令嬢にさせるとして、話くらいは聞いてやるとしようじゃねぇか。
必要ならスカウトすればいいし、もしそいつが裏切るようならさくっと殺せばいいだけの話だしな。
―――
サリス視点
「これで終わりです」
「ブモォォォ……」
「か、勝った? 本当に?」
メイドって呼ばれたニンゲンがあっさりとジェネラルを討伐した。
もしもこれが誰も見ていないところで起こったことだったら、きっと私たちは『ベシータ様がやったんでしょ』って言っていたと思うけど、あのメイドが私たちに見せつけるように討伐してみせた以上、そんなことは言えない。
「……あのニンゲンたち、本当に強いの」
「そう、だね」
ゼフィが思わずって感じで呟いたけど、私もそうとしか言えない。
「ジェネラルを倒した。それも一人で。……ニンゲンにできることじゃない。どういうこと?」
ベシータ様から03って呼ばれているロヒゥムも、呆然とした顔でメイドと呼ばれたニンゲンを見つめていた。
気持ちはわかるわ。私だってベシータ様ができるっていうから不可能ではないのだろうとは思っていたけれど、予想以上にあっさりと倒したことに正直驚きを隠せていないんだから。
「さっすがベシータ様!」
でも04と呼ばれているテトラは違った。
ベシータ様の命令だとこれから私たちはあの二人の配下になることになっている。だから私はあの二人の強さを確かめることを優先していたんだけど、彼女が見ているのはあくまでベシータ様。
でもそれもしょうがないかもしれない。だってエルフやドワーフの血が流れている私たちと違って、テトラはベシータ様と同じ獣人の血が流れているんだもの。
純血種に対する憧れのようなものは私にもあるから、テトラの気持ちもよくわかる。
だけど、あんまりベシータ様に近いのはどうかと思うよ?
一人だけ族長を紹介しようとしたりしてさ。ずるいと思うんだ。
まぁそれもこれも、ベシータ様が族長になれる人材をお望みって話だから仕方ないっちゃ仕方ないとはわかっているんだよ?
少なくとも私もゼフィも私たちのところの族長を紹介しようとは思わないもの。
だからと言って、あんまりベシータ様に近いのはどうかと思うけど。だって、もともとベシータ様に助けてってお願いしたのは私だし。私がお願いしたからベシータ様は私たちを助けてくれたんだし。
別にそれを恩に着せて私を特別扱いしろ! なんて言わないけどさ。でも、少しくらいはその辺を考慮してくれても良いと思うんだ。
「02。貴様が最初だ」
「へ?」
そんな感じでやきもきしていたら、急にベシータ様からお声が掛かった。
ドサッ。
「ブ、ブモォォォ……」
最初ってなに? って思っていたら、いつの間にか目の前に瀕死のオークウォリアーが置かれてた。
「さぁ、殺せ」
「はい!」
殺します!
「ブモッ!」
「ほう。なかなかいい蹴りだ」
ベシータ様が褒めてくださっているけど、まずは目の前のオークを殺さなきゃ!
「何がブモッだ、死ね! さっさと死んじゃえ!」
「ブモモッ」
普通なら「いきなり殺せって言われましても……」と躊躇するかもしれないけど、オークを前にした私たちにそんなものはない。こいつらのせいでみんながどれだけ怖い思いをしたか。こいつらのせいで私がどんな思いをしたか!
「これは私の前にお役目に行って帰ってこれなかったお姉さんたちの分!」
殴る!
「ブッ!」
「これはお役目に行って帰ってきた後で貴様らに面白半分に嬲られて死んだお姉さんたちの分!」
蹴る!
「モッ!」
「そしてこれが、貴様らのせいで全てを失いかけた、私のぉ!」
お役目に呼ばれたときの絶望。死にたくないと泣きながら水を浴びていたときの恐怖。そして私たちをオークの連中に売って安全を買った集落の連中への恨み!
全部っ! 纏めてぇ! おもいしれぇ!!!
「私の怒りだぁぁぁぁぁぁ!」
全体重を乗せた踵で叩き潰す!
「ブ、ブモォォォォォ!」
「……ふぅ」
気付けばオークウォリアーは情けない断末魔を上げて死んでいた。
「もう少し苦しめてからにするべきだったかも」
私なんかじゃ逆立ちしても勝てないオークウォリアーを倒せたことを驚くべきだったかもしれないけど、それ以上に『勿体ないことをしたな』って思ったのは、相手が最初から瀕死だったことと自分でも思っていた以上に恨みが溜まっていたからだろう。
「やはり憎しみ。憎しみは全てを解決する」
恨みをぶつけてちょっとスッキリした私を見て、ベシータ様は満足そうに頷いていますけれど……正直憎しみって感情ではすべてを解決できないと思いますよ? 憎しみがあっても食べ物とかはどうしようもないですし。
いえ、わざわざ言いませんけど。
それに……。
「では次だ。どんどんいくぞ」
「はい!」
それに、ベシータ様は食べ物とかそういうのを全部解決してくれた上で、たくさんのオークを殺させてくれるんですもの。文句を言うなんてとんでもないわ!
そして最初に私を選んでくれたことにも、感謝しかない!
「あははははは! 心が、洗われる!」
これほど躍る心でオークを見たことがあっただろうか。いや、ない。
あぁ、ベシータ様。私は今、やっとわかりました。
豚を潰して屑に変える。それが私の生きる意味なのだと!
悲しいけどこれ、戦争なのよね。
攻(攻撃をおこなう)
防(防衛するために攻撃をおこなう)
戦(戦う。攻撃をおこなう)
つまり? ずっと俺のターン。
―――
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