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番組の企画だと思っていたらガチなやつでした ~異世界アール奮闘記~   作者: 仏ょも
森の中の戦争 ~オークダストメモリー~
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3話。出撃ブルマリア

(運営さんの)夏休みが終わったらしいですよ?



おう。俺様だ。ベシータ様だ。


なんやかんやあってハーフオークの女どもを100人ほど連れ出すことに成功したぞ。


食料や宝物を集めるのが面倒だと思っていたが、連中にやらせたらあっという間に終わったぜ。

数ってのは大事だと再確認した瞬間だったな。


あえて面倒だったことを挙げるとすれば、100人を乗せることができる壁を見つけることが手間だったくらいか。


尤も、向こうには100人乗せても大丈夫な車庫があったんだ。車庫よりも頑丈な造りである石壁なら問題ないだろうと思ってやってみたが、さすが石壁、なんともなかったぜ。


で、あとは石壁から落ちるやつが出ないよう、できるだけ水平にしてゆっくり運んだら、はい終了。


令嬢やメイドが待つ拠点に到着って寸法だ。


「あの、リョウ様?」


「ベシータだ」


「失礼いたしました。それでベシータ様?」


「なんだ」


「その、彼女たちはいったい?」


「あぁ、それな。拾ってきた」


「はい?」


到着したと思ったらメイドが声をかけてきやがったが、その表情は『どういうことなの』って感情を隠しもしていねぇ。


まぁわかるぞ。元々「掃除してくるから出発の準備をしておけ」って言ったのは俺様だからな。

令嬢やメイドからすれば、言われたとおりに出発の準備していたら、よくわからん荷物を抱えて戻ってきたって感じだろ? 


そりゃ意味わからんわな。


「とりあえず説明してやるから黙って聞け」


「「はい。よろしくお願いします」」


だから前説に定評のある俺様が教えてやることにしたんだ。


―――


状況説明中


―――


令嬢視点



予想よりも少し遅かったけど、ベシータ様が帰ってきた。

もちろんお怪我をするとかは考えていなかったけど、予想外のお土産を持ってきてくださったわ。

大きくて頑丈そうな壁みたいなのと、その上に乗せたたくさんの女の子を、ね。


「と、まぁこんな感じだ。つっても全部また聞きの話だから信憑性は皆無なんだがな」


「はぁ」


最初はいったい何をどうすればそんなお土産をもってくることになるのかな? って思ったけど話を聞いて納得したわ。


えぇ。オークに連れ去られた女性の末路は聞いたことがあったけど、まさかそれが全部本当、いえ、それよりもひどいことになっているとは思ってもいなかった。


子供を産んだら死ぬ。というかそれまでに心が死んでいるのよね。でも子供を産ませるためだけに無理やり生かされて、子を産んだら食料にされるために殺されるって、いったいどれほどの地獄なのか。


そんな地獄を味わった彼女らの子であるハーフオークの子たちは、確かに獣人っぽい感じの子もいれば、エルフっぽい感じの子もいる。だけど、誰もが全体的に、その、なんていうか、体格が良いのよね。


そこがオークの血ってことなんでしょうけど、なんかアレね。

起伏的なことを言えばサキも全然負けていないから、私だけが子供って感じがしてなんだか負けた気分になるわ。


いや、それはどうでもいいんだけど。私だってこれから成長するんだから、本当にどうでもいいことなんだけど。


問題は彼女たちの扱いよ。


この集落に連れてきたってことはここで生活させるつもりなんでしょう。でも私たちはこの森から出る予定だったのよね?


集落が空くから使わせるって考えればそれほど悪い考えだとは思わないけど、でもそれはせっかく助かった彼女たちを放置するってことに他ならないわ。


「それで、彼女たちをどうするおつもりですか?」


「もちろんここで面倒を見るつもりだ。こいつら全員貴様の配下として鍛えてやれ」


「はい?」


ベシータ様が一度助けた彼女たちを放置するだなんて思っていなかったんだけど、一応確認してみたら、半分は予想通りで、半分は予想外の提案をされたわ。


「私の配下、ですか? ベシータ様の、ではなく?」


「そうだ」


確認してみたけど私の聞き間違いではないみたい。


もちろん同じ女性として彼女らを保護することに否はないわ。

だけど私には私でやるべきことがあるのよね。

それが終わらないことにはなんとも言えないかなぁ。なんて考えていたんだけど。サキの考えは違ったみたい。


「なるほど。さすがはリョウ様です」


「ベシータ……いや、もういいのか」


「はい。報告が終わったので大丈夫かと」


「……まぁいい」


「(いいんだ)で、サキ? なにかわかったの?」


サキとベシータ様の漫才はさておくとして。大事なのはベシータ様のお考えよね。

この数か月で多少は気安い関係になれたと思うけど、そもそもの話ベシータ様は絶対的強者なのよ。

それこそご機嫌を損ねたら一瞬で爆発四散させられる程度には力の差がある相手なのよ。


隔絶した力の差があるからこそベシータ様のお考えに背くわけにはいかないんだけど、そのお考えが読めないと意味がないのよね。


もちろんベシータ様は優しい方だから『意図を説明して欲しい』って頼めばしっかり説明してくださるけど、なんでもかんでも説明を求めるようじゃ駄目だと思うの。


だからサキが何に気づいたか知りたくて声をかけたんだけどさぁ。


「ねえサキ?」


声を掛けただけで「リョウ様との逢瀬を邪魔しないでください!」って感じの目を向けてくるのは止めてくれないかしら?


いや、悪いとは思うけど、お仕事しましょうよ。ね?


「……ふぅ。仕方がありませんね」


「もったいぶらずに教えなさいよ」


本当に仕方がないって感じでため息吐くのはどうかと思うけど、この際大目に見てあげるわ。


「まず、今のお嬢様、というか私たちには力が不足しています」


「え? そうなの?」


今や近衛騎士団が全滅を覚悟する必要があるっていうジェネラルにさえ状況次第で勝てるようになった私たちに力がないっておかしくない?


「暴りょ……武力の話ではなく、政治的な力のお話です」


いま暴力って言おうとしたわよね。


「確かに武力はすべての基本です。いかに経済力があろうとも武力がなければ奪われますし、どれだけ権力があろうとジェネラルオークの前には通用しません」


「うん。その通りよね」


オークからすれば『ブルマリア侯爵家? なにそれ、おいしいの?』だものねぇ。


「民に法を守らせるのも武力なら、外敵から国体を守るのも武力。何をするにも武力が必要なのは事実です。ですが人間社会で生きる以上、武力だけですべてを押し通すことはできません」


「できそうな気もするんだけどなぁ」


ベシータ様とかあたり前にできるわよね。


「……私たちが元気に生きているうちはいいでしょう。ですが、死んでしまったり病に倒れた場合に報復を受けますよ?」


「あ! そうか!」


それは確かにそうよね。次代に引き継ぐことはともかくとして、体調を崩したときとかにいちいち反抗されるのは面倒だものね。そういうことを考えれば周囲の貴族との折衝は必要だわ。


「安定した統治をおこなうためには武力と違った力が必要になります。それが権力であり、財力であり、技術力であり、もちろん武力もその中に入ります。ですがそれらの力は私たちだけで得られるものではありません」


「なるほどなー」


ようやくわかってきたわ。


「それで配下、なのね?」


数は力っていうもんね。


「そうです。おそらくベシータ様はここに彼女らの集落を作らせた上で、ここをお嬢様にとっての拠点となさるおつもりかと思われますが、いかがでしょうか?」


「……そうだ(言えん。考えるのが面倒になったから貴族の令嬢に全部丸投げしようとしていたなんて言えん)」


なるほど、なるほど。


一瞬の間が気になったけど、たしかにそれなら話が通るわね。


たしかにそういう意味では私には力がない。元々は叔父様や御爺様を脅してどこかの町か村でも貰おうと思っていたけど、それだけじゃ足りないってことよね。


ベシータ様もそうお考えになったからこそ、彼女たちを連れてきたってわけか。

まぁ出会い自体は偶然だったらしいけど、きっかけなんてどうでもいい。

大事なのは何を為すか、なんだから。


だから問題があるとすれば一つだけ。


「あのぅ、ベシータ様?」


「なんだ?」


「私に配下が必要なのはわかりました。ですが、彼女たちはそれを認めているのでしょうか?」


これよね。だって彼女たち、ここに着いてからじっとベシータ様を見ているけど、私を見ていないもの。


いや、わかるわよ? どうせ配下になるのなら私みたいな正体不明な小娘じゃなくて、圧倒的な力を持つベシータ様のほうがいいわよね? 


誰だってそう思うわ。私だってそう思うもの。


だからここで『話が違う!』とか言われても困るなぁなんて思っているんですけど、その辺どうなんでしょうかねぇ?


「大丈夫だ。問題ない」


「へ?」


いや、問題しかありませんよね?


「早ければ今日中に、遅くとも数日以内に豚野郎どもがここを襲いにくるはずだ。それを迎撃して貴様の力を連中に見せつけてやればいい」


「はい?」


待って。なにか変なことを言われた気がするんですけど。


「なるほど。確かにその可能性は極めて高いですね」


「サキ?」


なに? なんで普通に理解しているの? 理解していない私がおかしいの?


「べ、ベシータ様、それはどういうことですか!?」


あぁいや、向こうの子もなんか慌てているから私がおかしいわけじゃないわね。おかしいのはサキよ。


「……なんですかその目は」


「別にぃ」


私の視線が気になるってことは自覚があるってことじゃないの? なんて思っていたんだけどねぇ。


「はぁ。いいですかお嬢様。リョウ様はどうやって彼女らを連れてここまでこられました?」


「え? そりゃ壁みたいなのを担ぎながらゆっくり飛んでって……そうか!」


普段は一人で、それもかなりの速度で飛んでいるからアレだけど、100人近い女の子を載せてゆっくり飛んでたら他のオークに見つかるわよね。


で、オークからすれば餌が飛んでいったようにしか見えないから、当然追ってくるわ。


「なんなら俺様に食糧庫と宝物庫を根こそぎ荒らされた連中もくるだろうな」


「そういうことです」


「ふわぁ」


オークにとって宝物庫の中身に価値があるかどうかはわからないけど、食料と女の子を持ってきたら、そりゃ追うわよね。なんならキングの仇でもあるし、確かに追わない理由がないわね。


「あいつらの頼みは『なんでもするから助けてくれ』だ。あの場所から連れ出したのは俺だから俺の指示には従うだろう。だがそれでは意味がない。だから貴様がやれ」


「あぁ。はい。了解しました」


ベシータ様の望みは適当にぶらぶらして暮らすことであって、支配者として君臨したいわけじゃないものね。


いや、もし私たちの王になってくださるならそれが一番だと思うけど、無理に王様になってもらったとしても、数日で『めんどくせぇ』って言ってどこかに飛んでいくのが目に見えているわ。


結局のところ、私がさっさと貴族となってベシータ様に市民権を上げるのが一番の恩返しなのよね。


そのためには地盤があった方がいい。それがオークの森を知るハーフオークであれば、この森の森林資源を背景に産業を興すこととかもできるようになるかもしれないって感じかな。


で、彼女らの忠誠を得るためには、私に彼女らを庇護できる実力があるってことを証明しなくてはならないわけだ。


「もともと遠征に出てくるのはナイトまで。今回の場合ですと、もしかしたらジェネラルが出てくるかもしれませんが、それでも私とお嬢様の二人であれば勝てない相手ではございません」


「そうね」


ジェネラルが使うスキルの効果時間はおよそ3~5分。それを過ぎれば一気に弱体化するから、距離さえ開けて戦うように心がけていればそれほど恐ろしい相手でもないのよね。


問題はジェネラルが一体の場合に限るって話だけど、その辺は臨機応変にいくしかないわね。


方針が定まったところで準備に移りましょうか。とりあえずは彼女らを安心させてあげましょう。


「貴女たち、もう心配しなくてもいいわよ」


「……っ! ニンゲンの貴女に! ベシータ様に護ってもらっているだけの貴女にオークの怖さのなにがわかるっていうんですかっ!」


「あら?」


んー。これはもしかしたら私たちのことをベシータ様におんぶにだっこで寄生しているだけの存在だと思われているのかしら? 


まぁ見た感じだとそうよね。実際にそういう面もあるから文句は言えないんだけれども。


だけどね? 貴族ってのは面子が大事なの。

ベシータ様ならまだしも、同い年くらいの女の子に舐められたままじゃいられないわよねぇ?


「怖さ、ね。オークナイト程度であれば片手で内臓を抜ける程度には強いわよ。私たち。あ、何なら貴女たちの体で試してみる?」


「……え?」


決めたわ。この子たちには悪いけど、これは練習。


この子たちには私がこれから町を得たときの統治や、兵を率いた際における統率の取り方の練習材料になってもらいましょう。


そう決めた以上は最初が肝心よね。


「サキ、本気で殺るわよ」

「かしこまりました」


お馬鹿な新入りさんたちに見せつけてさしあげますわ。このセレス・デル・ブルマリアとサキ・ラングレイの実力ってやつをね!

閲覧ありがとうございます。


読まれているって実感が作者の意欲に直結しますので、ブックマークやポイント評価。感想などをいただければ嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 〉元々は叔父様や御爺様を脅してどこかの町か村でも貰おう 最早すっかり暴力の虜……立派になって(´;ω;`) 令嬢というか、貴族の適応力パないなぁ。 そして脅し取る作戦は継続する模様www
[一言] ここをキャンプ地にするはずが本拠点になってしまった… ブタ娘100人もナイト級ぐらいには育つんで、ベシータ達が居なくなったら大人しく拠点防衛せずに侵略したり仲間増やしたりしますよね、きっと …
[一言] 投稿お疲れ様です。 いゃ〜、話しが進むほど楽しくなってきましたね、偽典が深く静かにジワるのに対して、(良い意味で)頭空っぽにして楽しめます。
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