2話。終わりなき略奪
ギリギリアウトを狙う感じの二話。
ちなみに(公式に)怒られたらそこで試合終了です。
おう。俺様だ。ベシータ様だ。
戦利品の略奪と子豚野郎の肉を狙ってとりあえず近場にいたBP50くらいのやつのところに来てみたら、そこにいたのは豚野郎の子供ではなく、どことなく人間っぽい感じがする耳が尖った二人の女だった。
どうやらこいつらは水浴びをしていたようだな。素っ裸だったから外見的な特徴などが丸見えだぞ。
はっ下品な女どもだぜ。
思えば見張りっぽい豚野郎がいたが、あれはどうやらこいつらの水浴びを邪魔されないように控えていたやつだったみたいだな。
で、女どもの見た感じだが、身長は片方が俺よりも少し低く、もう片方が同じくらい。
肌の色は両方とも黒みがかった紫で、髪は銀。目の色は小さい方が緑で大きい方が金色だ。
胸部装甲は両方そこそこあるが、敢えて言えば小さい方が勝っている感じだな。
イメージとしてはR18なゲームとかに出てくるダークエルフってのが一番近いだろうか。
雰囲気からすると奴隷かそれに近い感じだと思ったが、そもそも俺は覗きをするためにここにきたわけではない。まして豚野郎の社会制度に口を出すつもりもなければ、女を土産に持っていくつもりもない。
なによりこの二人を食料として狩るつもりもなかったんでさっさとこの場から離れようとしたんだ。
だがそこで、二人の会話が耳に入ってきやがった。
そう、会話だ。
ブモブモ言わねぇ連中がこの森の中、それも豚野郎の居城のすぐそばにいたことに驚いて声をかけてみれば。向こうは俺が何かをいう前に「助けてください! 何でもしますから!」なんて声をかけてきやがった。
一瞬(令嬢といいコイツといい、助けてほしいときには何でもするって確約するのがこの世界のルールなのか?)と訝しんだが、よくよく考えてみれば令嬢もこいつも俺様に支払える対価ってのをもっていないんだよな。
「あ、あの」
だからこそ『何でもする』しかないのだろう。そうあたりをつけることにしたんだが、急に考え込んだ俺をどう思ったか、やや大きい方が躊躇いがちに声をかけてきやがった。
「……とりあえず話を聞かせろ」
「あ、はい!」
ノリやネタはさておくとしても、本気で助けを求められて放置するほど日本人を止めてねぇからな。
いや、明らかに面倒ごとだったり俺に利益がないようなら放置一択なんだが、提案の内容によっては価値があるかもしれねぇし。
令嬢の時もそうだったが、情報は力だ。こいつらから得られた情報分くらいは働いてやろうかね。
そんな気持ちで話を聞いたんだが……
―――
説明中
―――
話を聞いてみればなんとまぁ。
「ほーん。つまり貴様らはダークエルフじゃなくハーフオークってやつで、母親が豚野郎どもにやられた結果できた子どもってことか」
「は、はい! そうなんです!」
「なるほどなぁ」
豚野郎どもがいろんな種族の女に手を出すのはこの世界でも同じ。ただしそれは性欲を満たすためだけでなく、しっかりと子供を作る行為でもあるらしい。
遺伝子はどうなっていやがるのやら。
で、こいつらが言うには豚野郎の雄にやられた場合、ほとんどの場合は豚野郎として生まれてくるのだが、稀に母親の容姿が強く出る場合があるらしい。
それがこいつらってわけだ。
母親はエルフか、エルフの母親を持つハーフオークらしいが、詳しいことは不明。
ちなみに名前は小さいほうがゼフィで大きいほうがサリスだそうだ。
俺のなかでは01と02で決定だな。
こいつらの名前と呼び方はさておくとして。
生まれた子供については、オークの外見をしている場合であればオークの兵士や嫁にされるために回収されてそれなりな生活ができるが、そうでなかった場合は悲惨の一言。
具体的に言えば、まず最初に捨てられる。
この時点でいろいろとアウトのような気もするが、自然界に於いては『親と色が違う』って理由だけでも捨てられることはよくあることだ。
さらにこいつらの場合、色とかじゃなくて外見から何からすべてが違うからな。
育成のノウハウがない以上、そこに労力を使うよりも別のことに労力を使おうとすること自体は間違いとは言いきれん。
しかも豚野郎どもはただ捨てるだけではない。なんと豚野郎はこいつらと同じような連中を集めていくつかの集落を作らせていて、こいつらみたいなのが生まれた場合はその里の中に捨てるらしい。
その里で育てられた子供は、男は労働力兼非常食として、女は新たな子を産むための母体にされるんだとか。
ただし、豚野郎の美的感覚でいえば同族の雌こそ至上で、こいつらはあくまで同族の雌にありつけなかった豚野郎の性欲のはけ口として利用されるらしい。
尤も多くの場合(豚野郎だけにな)最初は王が相手らしい。死んだり王が飽きる前に子を孕んだらそのまま産ませるし、そうでない場合は部下に下賜されるって形になるんだとか。
で、こいつらは今日がその王の相手をする日だったらしい。王の相手をする前に体を清める意味で水浴びをしていたってわけだ。
何というか、タイミング的にはばっちりだな。
さて、ここまで話せばわかると思うが、こいつらが相手をしようとしていた王様ってのは俺様が吹っ飛ばしたアレである。
つまるところ、こいつらがいう『助けて』っていう要望はすでにかなえているわけなんだが、はてさて、こいつはどうしたもんか。
(ここで報酬を強請るのは違う気がするぜ)
恩に着せようと思えばできなくはないだろうが、そもそもが勝手にやったことだ。それで報酬を貰うのは違う気がするし、何より面倒ごとの気配がする。
そんなわけで俺は正直に全部話してやることにしたのであった。
―――
ゼフィ視点
サリスと一緒になってベシータ様の質問に答えていたら、ベシータ様からすごいことを聞かされたの!
「貴様らがいう王様ってやつはもう死んでいるぞ。ついでにその周りにいた連中も全部な。俺が纏めて片付けたから間違いない」
「えぇぇ! ほ、本当なの!?」
「簡単にバレる嘘を吐いてどうする」
「た、確かにそうなの」
「や、やっぱり!」
サリスは最初からそう思っていた(思いたがっていた)からベシータ様のお言葉を疑っていなかったみたいだけど、私はそうじゃなかったの。
だから思い切って本当かどうかを聞いてみたんだけど、当たり前のことを当たり前に言われてしまい、普通に反論する余地がなかったの。
「で、貴様らを苦しめていた豚野郎どもの王とやらはいなくなったわけだが、これ以上なにかする必要があるのか?」
「……っ!」
そこでようやく『本当に助かったんだ』って思って、うれしさのあまりベシータ様に抱き着こうとしたんだけど、その前にベシータ様に言われて気付かされたの。
『まだ何も終わっていない』ってことに。
私たちみたいに王城に捕まっている子はまだまだいるし、王様と四天王がいなくなったところで近衛兵や将軍クラスのオークたちはまだまだいるの。
王様たちがいなくなって混乱している今なら逃げだすこともできるかもしれないけど、逃げたところで私たちにはいくところがないの。
もともといた集落に帰ったところで迎え入れてもらえるとは思えないし、他の集落にいったところで追手とか食料の問題を考えれば迎え入れられるかどうかは怪しい。
もし迎え入れてもらえたとしても、扱いは奴隷と同じになると思うの。
かと言ってこのままここに残っても、王様がいなくなった以上、ここはここで残ったオークたちによる略奪とかが始まると思うの。
今までは王様に捧げる供物って扱いだったからそれなりの待遇をしてもらえていたけれど、これからはそうはいかないと思うの。
(んー。んー。どうしたらいいの?)
これからどうようって考えていたら、サリスが意を決した表情をしてベシータ様にお願いをしたの。
「お願いします! どうか私を、私たちをここから連れだしてくださいませんか?」
「なにぃ?」
「サリス?」
私がなんて声かけるか悩んでいる中、サリスは必至でお願いしたの。
「お願いします! 私たちはここにいても、ここから出ても生きていくことはできません。だからベシータ様に庇護していただきたいんです! 代わりに何でもします! 本当になんでもしますから!」
「あっ」
必死な様子のサリスを見て、私も黙っている場合じゃないって気が付いたの!
「わ、私からもお願いします! 私も何でもしますから!」
どうせ王様のお相手をしたら死ぬか、死ぬまで苦しい目にあわされていたの! 王様がいなくなっても同じなの! 私だって死にたくないの! だからベシータ様が望むならなんだってするの!
「……ちっ」
二人で頭を下げてたら、ベシータ様が舌打ちをしたの。駄目か……そう思ったけど、違ったの。
「ここに貴様らの仲間はどれくらいいるんだ?」
「「え?」」
「聞こえなかったか?」
「い、いえ! 聞こえていました!」
「大体100人くらいなの! みんな女の子なの!」
本当は男の子も助けてもらいたかったけど、彼らは私たちとは違って必ず死ぬわけでもないし、仕事の頑張り具合によっては出世もできるから、私たちみたいに『絶対にここから逃げないといけない』なんて考えてないの。
なんならオークのおこぼれをもらって私たちを嬲ろうとしているくらいなの。
そんな彼らと一緒に逃げたら、いつ裏切られるか分かったものじゃないの。だからまずは女の子だけでも助けてほしいってお願いしたの。
でも普通に考えたら100人の女の子を助けるのは不可能なの。
それはベシータ様のお力がどうとかじゃなくて、もっと単純なこと。それこそ水とかご飯とかが用意できないからなの。
持ち出せるだけ持ち出すって考えもあるけど、それをしたら足が遅くなるの。足が遅くなったら追手に追いつかれるの。
いくらベシータ様が強くても数百匹のオークに追われたらどうしようもないの。
いや、ベシータ様は大丈夫だろうけど、私たちがもたないの。
だから助ける人数を絞るしかない。なんて考えたんだけど、ベシータ様は格が違ったの。
「100人か。まぁいいだろう」
「「えぇ!?」」
凄くあっさりとそう言ったの!
「もちろんただでは助けん。しっかり働いてもらうぞ。具体的には食料や水を集めてもらう。あと、あるなら宝物庫の場所も教えろ」
「は、はい!」
「もちろんなの!」
宝物庫と食料庫は地下にあるからきっと無事なの!
あとは他の女の子の説得だけど、それについてはあんまり心配していないの。
だってみんな私やサリスと同じだもの。
毎日みんな一緒になって「いやだ」とか「死にたくない」って言ってるもの。
だから『ベシータ様と一緒なら助かる』ってわかったら一も二もなく飛びつくと思うの。
問題は食料や宝物を持ってどうやってここから逃げ出すかってことだったんだけれど、やっぱりベシータ様は格が違ったの!
「と、飛んでるよ!」
「どうなってるの!?」
「お、落ちない? 大丈夫!?」
「やかましい! 黙って乗ってろ!」
「「「はいっ!」」」
なんと、ベシータ様はアイテムボックスを持っていたの! 魔法をうまく使えない獣人なはずなのに凄いの!
そしてベシータ様が凄いのはそれだけじゃなかったの!
私たちが持ってきた食料を全部アイテムボックスに入れたかと思ったら、大きな壁を取り出して横に倒し「全員それに乗れ」って言ってきたの。
何をするんだろうって思っていたら、なんとベシータ様はその壁を担いで空を飛んだの!
羽がある鳥さんの獣人ならまだしも、ベシータ様は尻尾はあるけど羽はないの! どうやって飛んでいるのか気になったけど、それは今はいいの。だって……。
「本当に助かった……助かったんだ!」
「よかった……」
「グスッ!」
「怖かったよぉ」
お城が遠くなるのを見てみんな泣いていたの。
あそこから逃げることができたって泣いていたの。
もう王様とかほかのオークに襲われることを気にしなくていいんだって思ったら私も、サリスも泣いていたの。
みんなで泣いているのが聞こえたのか、壁の下から「ふん。めんどくせぇ連中だ」なんて呆れたような声が聞こえてきたけど、結局ベシータ様は最後までゆっくり、そして優しく私たちを運んでくれたの。
そうこうしてたどり着いたのは、誰もいなくなった集落だったの。
これから私たちの新しい生活が始まるんだ!
さしあたってはベシータ様にお返ししなきゃ!
なんて思ってたの。
……だけどここには先客がいたの。
「おかえりなさいベシータ様」
「お疲れ様でした。……ところで後ろの方々は?」
そう言ってベシータ様を出迎えたのは、よりにもよって人間の雌だったの!
人間なんて屑の集まりなの。だからベシータ様に『あいつらを信用しては駄目なの!』って言おうとしたんたけど、その前にベシータ様はとんでもないことを口にしたの!
「こいつら全員貴様の配下として鍛えてやれ」
はいぃ?
ベシータ様の配下になら喜んでなるけど、人間の小娘の配下になるなんて嫌なの!
でもベシータ様の決定に逆らうことはできないの。
……たけど人間の配下になるのは絶対に嫌なの。
でもでもベシータ様の命令なら従わないわけにはいかないの。
それにもしかしたら『あの人間に従えないなら出ていけ』って言われるかもしれないの。
そうなったら私たちは生きていけないの。
森で熊とかに襲われて死ぬのも嫌だし、オークに捕まって死ぬまで苦しめられるのも嫌なの。だけど狡いだけで偉そうにしてる人間に従うのも嫌なの。
(……本当はあれも嫌、これも嫌なんて言うつもりはないのに、どうして絶対に嫌な選択肢しかないの?)
周りを見れば他のみんなも悩んでいるのがわかるの。
あぁ。ベシータ様が庇護してくださればこれからも安心だって思っていたのになぁ。
それがよりにもよって人間かぁ。
……これから私たちは一体どうなっちゃうの~?
閲覧ありがとうございました。
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