21話。強襲ザイヤ人
強大な力を持つオーク四天王と魔王がエントリーだッ!
おう。俺様だ。ベシータ様だ。
あれからおよそ2ヶ月が経過したんだが。この間はよく動き、よく学び、よく遊び、よく食べて、よく休むという某仙人の教えに則り余裕を以て優雅に修行しつつ、最終的に15以上の巣を強襲してレベリングした結果、二人のBPは劇的な向上を果たしたぜ。
具体的には、まず令嬢がこんな感じだ。
―――
名前 セレス・デル・ブルマリア(14)
レベル 157
BP 2310
―――
そしてメイドがこんな感じ。
―――
名前 サキ・ラングレイ(19)
レベル 164
BP 2280
―――
なんと両者ともに2000超えである。修業期間が僅か2か月と考えれば十分強くなっただろう?
ちなみに令嬢とメイドが戦った場合、初期状態から鍛えた令嬢のほうがBPが高いから有利……と見せかけて、風の魔法や身につけてきた技術の差でメイドが勝つって感じだな。
BP10単位が戦力の決定的な差になるのはBPが3桁のときまでってことだ。
ちなみのちなみに俺はというと。
「ステ、出ろ。あぁ、BP100以下は切り捨てでいいぞ」
細かいのを見てもしょうがないからな。
―――
名前 リョウ
レベル 31
BP 96000
―――
こんな感じだな。
予定よりも強くなり過ぎちまったが、しょうがないんだ。
だって集落の雑魚を令嬢やメイドに殺させても無駄でしかないからな。
襲撃の度に(俺なら1匹あたり10のBPが得られるのに)なんて思うとつい『勿体ない』の精神が働いてしまって、なんやかんやで率先して雑魚を倒し回ってしまったんだな。で、気付いたときにはこんな感じになっていやがったんだ。
「ふっ。BP10000の豚野郎に文句を言っていたのが遥か昔に思えてくるぜ」
尤も、強くなったことに問題はないんだが、な。実を言うと少しどうかと思うことはある。
それは二人の価値観が大きく変わったことだ。
「ベシータ様。次はどちらの巣へ向かうのでしょうか?」
「早くいきましょう。いいオークは死んだオークだけです」
おわかりいただけただろうか?
この殺伐とした言葉は数か月前まで侯爵家の令嬢として蝶よ華よと育てられてきた侯爵家の令嬢と、それに付けられたメイドの口から出た言葉である。
勿論俺からは最初の切っ掛け以外何も強制していない。
恐らくだが、令嬢としては『もう二度とサキ一人に戦わせるようなことなんてしない!』といった感じで強くなろうとしていて、メイドとしては『このままでは守るべきお嬢様に抜かれてしまう……鍛えねば!』といった感じで強くなろうとしているんだと思う。
ある意味ですれ違っているのだが、このすれ違いが原動力になっているのだから俺としては矯正するつもりはなかった。
強くなって困ることはないからな。
だがそろそろここでのレベルアップも終わりだ。
確かに二人は強くなった。素の状態であれば村長的な豚野郎とも戦えるのも事実ではある。
しかしながら豚野郎にはBPを倍加させるスキルがあるからな。真っ当に戦えば負けてしまうのだ。
さらに、今の二人の場合BP2000の野郎を倒せたとしても得られる経験値はごく僅かなものになってしまっている。
つまり、今の二人がこの森でこれ以上のレベルアップを望むのであれば、次はBP5000の豚野郎を狙わなくてはならないというわけだ。
BP2000の豚野郎にさえスキルを使われたら負けるというのに、BP5000の豚野郎と戦うなど自殺行為に他ならない。また、BP5000の豚野郎は数が少ないので、継続的なレベルアップ材料としては向いていないのだ。
よってこれ以上のレベルアップを望むのであれば、もう少し手ごろな敵、具体的にはBP3000とか4000くらいの敵がそれなりにいるダンジョンを探す必要があると思っている。
そんなわけでこの森でのレベリングはこのあたりで終了。
森にいるBP5000超えの連中は、俺がこの森を出る前に根絶しておく所存である。
2000超えの連中? 別にいいだろ?
集落全部を襲うのはめんどいからパス。
なんやかんや言ったが、要するに俺としてはこう言いたいのだ。
「いい加減この森を出るぞ」
飽きたんだよ。この森に。
「「えぇ!?」」
「えぇ!? じゃない。そもそも貴様らの目的は何だ?」
「目……的?」
「おい令嬢」
「私はリョウ様とお嬢様をお支えすることが職務ですので」
「さすがにメイド「サキです」……メイドはぶれんな。」
いや、令嬢の世話だけじゃなく俺の世話も目的になっているが……まぁ(令嬢が外に出ると言えば外に出るんだからこいつの目的に関しては別にこのままで)いい。
「俺は森を出たい。令嬢だって森を出て母親の実家にいくなり叔父の家に殴り込みにいくなりする用事があるんじゃなかったのか?」
「……あっ!」
あ、じゃねぇよ。
「忘れていやがったな? まったく。これだから脳筋は」
「……言葉の意味はわかりませんが、凄い罵倒をされた気がします」
「気のせいだな」
事実を事実のまま述べただけだから罵倒ではない。
それに今の問題はそこじゃねぇだろ。
「それで? どうするんだ?」
令嬢の行動次第では俺の動きもかわるからな。
「……今更叔父様に取って代わるつもりはありません。ですがこのまま泣き寝入りというのも違う気がしますし、なによりお母様の実家にいるお爺様が心配されていると思いますので、一度顔は見せた方がいいかなぁって感じでしょうか」
感じってなんだ、感じって。ただまぁ……。
「曖昧なところはあるがそれなりに方向性が定まっているじゃないか」
「えぇ。それなりに考える時間はありましたので」
さっきまで忘れていたけどな。
「お嬢様。ご立派です!」
「そうか?」
このメイドもな。隙あらば令嬢を褒めようとするのはどうかと思うが、それで令嬢に確固たる意志が宿るのであれば俺が止める必要もない。それに、この様子であればこのまま森を出たとしても叔父や祖父の操り人形にはなるまいよ。それがわかっただけでも十分だ。
「話は決まった。俺はこれからこの森に巣食うゴミ共を適度に掃除してくるから、貴様らは出立の準備をしておけ」
なんとも都合のいいことだが、なんと今このときにBP10000超えの豚野郎の周りにBP5000超えの豚野郎が4体もいやがるからな。
会議か何かしているんだろうが、実に好都合だぜ。
まぁそれを知ったからこそ今日この提案をしたわけだが。
一応言っておくが殺るのはBP5000以上の豚野郎どもだけで全滅はさせんぞ。あんな豚野郎どもでも生態系の一部だからな。俺は自然環境に優しいザイヤ人なんだ。
「「はい!」」
「いい返事だ。では早速出るぞ!」
どれだけ強くとも飛べない豚野郎はただの豚野郎だってことを教えてやるぜ!
「「リョウ様、ご武運を」」
「ベシータだ!」
油断しているとことにブチ込もうとするんじゃねぇ!
―――
???視点
「急な招集にも拘わらずよくぞ集まってくれた」
「なんのなんの」
「王のお呼びとあらば」
「我ら皆、即座に参りますとも」
「然り然り」
「うむ」
ベシータ曰く10000超えの豚野郎ことオークを統べる皇帝にして七大魔王の一角に数えられる程の強者であるオークエンペラーのメルカーリは、自分用に設えた特大の玉座に腰掛けつつ己の招集命令に応えて参上した四天王たちを見て満足そうに頷いた。
「して、王よ。今回我ら全員を招集した理由とは?」
挨拶もそこそこに早速本題を尋ねたのは、せっかちで知られるオークの中でもさらに血気盛んなことで知られるモバオークだ。
四天王の中で一番の年少であるが故に最弱と揶揄われることが多いモバオークだが、そのBPはおよそ5500もある立派なオークキングであり、若さゆえの勢いから来る烈火のような連撃は他の四天王にも一目置かれている存在である。
先輩にあたる面々を無視して発言した形にはなるものの、他の四天王たちもメルカーリがこうして自分を含む四天王全員を呼びだした理由について興味があったので、特に諫めるようなことはしなかった。
勿論彼らの気持ちを理解しているメルカーリもモバオークの発言を咎めるつもりはない。
むしろ『こいつがいると話が早く済むから助かる』とさえ思っていたりする。
そんなオークたちの心情はさておくとして。
「うむ。ここ最近、幾多の集落が正体不明の襲撃者によって壊滅していることは知っているな?」
「「「はっ!」」」
「結構。そして昨日。とうとう我らが支配する集落にも被害が出たそうだ。そうだな? ヤフオーク」
「……御意」
名指しされたヤフオークはビクリと肩を震わせながらも、メルカーリの言葉に首肯する。
「ほほう。噂の襲撃ですか。して、話を聞く限り狙われたのはヤフオーク様が治める集落の一つ、と。それで、ヤフオーク様は襲撃者を仕留められたので?」
「……」
「おや? よもやあのヤフオーク様が襲撃者を仕留めていない、と!? そんなことがあるのですか! いやはやこれは珍しいこともあったものですなぁ!」
驚いたふりをしつつ、しっかりとヤフオークを煽るモバオーク。
モバオークからすれば四天王の三席に座るヤフオークは、先輩ではあるもののその実は蹴落とすべきライバルだ。よってこういう攻めれるときに容赦をするような真似はしないのである。
そして追撃はこれだけでは終わらない。
「ふむ。ヤフオーク程の者が襲撃者を仕留められなかったとは、少々意外ではあるな」
四天王筆頭のオークローンが訝し気に首を捻れば。
「然り。何か理由がおありで?」
と、四天王次席のオークファーンもヤフオークを庇うような口調で在りながら、その実攻め立てるような視線をヤフオークへと向けた。
「……」
三者から三様の煽りを受けたヤフオークは屈辱に身を震わせながら無言で頭をさげるのみ。
「これが我らと同じ四天王とは。まったく、情けないことですなぁ」
「否定はせん」
「これはさすがに庇えませぬな」
言い返すこともしないヤフオークを見て三人は失意の感情を隠しもしないままに吐き捨てた。
彼らがヤフオークを庇わないのは当たり前の話である。
なにせ彼らは『力こそ正義』を地で行くオークだ。自分が治める集落を襲われておきながら襲撃犯を仕留めていないとなれば、その統治能力に疑問を持つのは当然のこと。そしてオークは能力に疑問を持たれた者に敬意を向けるほど温い生き物ではない。
「そこまでにしておけ」
「しかし王よ……」
「モバオーク。我の言うことが聞けぬか?」
「め、滅相もございません!」
「うむ。それで良い」
メルカーリとてかれらの気持ちは重々理解してる。とはいえ、メルカーリが四天王を全員招集したのはヤフオークをやり玉に挙げてこき下ろすためではない。彼らにとある事実を伝達するためだ。
「良く聞け。先日、人間が勇者を召喚した」
「「「「なんと!」」」」
勇者。それは、メルカーリを含む7大魔王と対を為す存在であると同時に、神の力を使って異なる世界に住む人間を拉致することに成功したこの世界に生きる人間たちの手によって対魔物用の決戦兵器へと改造されてしまった哀れな人間のことだ。
「それは、由々しき事態ですな」
「然り。もしや最近の襲撃は……」
「勇者が関わっている、と?」
「うむ。我はその可能性が高いと思っておる」
「……勇者めッ!」
魔族に伝わる伝承によれば、勇者は魔王を討伐することを至上目的としつつ、魔族を駆逐するためであればどのような悪逆外道な真似でも厭わず行う虐殺者である。
それを思えば昨今の集落を襲撃し子供一人逃さずに殲滅していく様は、確かに勇者の手際とよく似ていると言えよう。
「先代の勇者を殺したのは怠惰の魔王だ。しかし仕留めるまでにでた損害は非常に大きなものだったと聞く」
おおよそ200年振りの召喚となるが、そもそもメルカーリは勇者と対をなす魔王であるが故に勇者が召喚されればすぐに気付く。
「「「「なるほど」」」」
そのためこの場にいる者たちは『近頃の襲撃は勇者関連の事案』という認識を共有することとなった。
そして、ことが勇者に関わることであれば話は早い。
「勇者とはいえ召喚された直後であれば極めて貧弱と聞きます。ならば皆々様がでるまでもありませぬ。不肖、このモバオークが仕留めて見せましょうぞ!」
勇者死すべし慈悲は無い。魔族に伝わる絶対の掟が発動した瞬間である。
ちなみに勇者の特性として『かなり強くなる素養はあるものの、序盤は極めて弱い』という特性があることは広く知られている。
よって現在、コソコソと集落を襲っては逃げるというスタイルを繰り返しているのは『今代の勇者は現状でもジェネラルよりは強いのだろうが、キングに勝てる程ではない。だからこそ正面から襲撃しないでこういった小賢しいやり方をしているのだ』という答えが導き出される。
そのため勇者の処理を格下のジェネラルに任せず、オークキングたるモバオークが自分で買って出るという判断は、その能力から言っても序列から言っても間違いではない。
「待たれよ」
ただそれでは立場がないのが、自分が治める集落を襲われたヤフオークである。
「相手が勇者であり、儂の治める集落が襲われたのだ。ならば勇者と先に戦うは儂であるべきではないか?」
「むむむっ」
これもオークの理論としてはなんら間違っていない。むしろ自分が治める集落が襲われたのだから、ヤフオークこそ名乗りをあげるべき事柄であろう。
元々モバオークが名乗りを上げたのは、勇者がどうこうではなくヤフオークの面目を潰したいという思いが強かったからだ。
なので、ヤフオークが本気で『自分が出る』と主張するのであれば、それを阻むことは、それこそ王の中の王であるメルカーリにしかできないことである。
「その意気や良し」
そしてメルカーリにヤフオークを止めるつもりは毛頭ない。むしろ率先して『自分たちの領域に手を出した愚かな勇者を細切れにしてしまえ』と背を押すつもりであった。
だがメルカーリは魔王として己の対となる存在である勇者を侮るつもりはない。それに勇者が次もヤフオークが治める集落を襲うという確証はないのだ。
次はモバオークのところかもしれないし、オークローンやオークファーンのところに来るかもしれない。
そう考えたが故にメルカーリは四天王全員に勇者の情報を共有するとともに、自分たちと同格の存在である勇者についても『勇者を無礼るな』と訓告を与えるつもりで彼らをこの場に呼び寄せたのだ。
「皆の者、血気に逸るのは良いが勇者を……『おあつらえ向きに一箇所に集まりやがって』……なに?」
しかし彼の注意喚起は遅かった。否、遅すぎた。
『喰らえ豚野郎ども、ファイナル・ソード・フラーーーッシュ!!』
「まさか、いきなり狙ってきただと!?」
「「「「は?」」」」
感じたことも無い力の波動を感じたメルカーリが叫び声をあげると同時に襲い来る光の奔流。
「「「「ボベッ!」」」」
四天王は抵抗も出来ずに光に呑まれ、塵も残さずに消滅してしまった。
「グオォォォォ!」
メルカーリは魔王としての力を最大限に使い一人必死で抵抗する。
その力はBPにして50000!
当初ベシータが予想し、警戒した『四倍だー!』を超えた、5倍の強化だ!
本来であればBP50000という数値は一国どころか大陸一つを灰燼と化すことができるほどの力である。
しかし悲しいかな、今のベシータのBPは96000。
「なんだこの力はッ! こんな力は知らんぞ……ッ!」
それはメルカーリが力の限りを振り絞って出したBPのおよそ倍。
さらに今回、襲撃者であるベシータが使った技は集落全体を狙った広域破壊用のビックベンアタックではなく、メルカーリらを直接狙ったファイナル・ソード・フラッシュ。つまり単体攻撃用の技による狙撃に近い攻撃だ。
「こ、こんなもの……ッ!!!!」
ただでさえ倍近いBPを持つベシータによる単体攻撃である上、そもそもなんの備えもしていなかったメルカーリが耐えられるはずもなく……。
「ブ、ブギャァァァァァ!」
『ふん。これで終わりか。『今のは痛かった』的な復活もなし、と。最後に少し粘ったようだが、話にならん。多少他よりは強かったようだが、所詮豚野郎は豚野郎だったな』
――こうしてこの日、それを成した当人にさえ知られることなく7大魔王の一角『暴食のメルカーリ』は魔王が座するにふさわしい威容を誇った居城と共にその命を散らすこととなった。
その直後、魔王としての特性により同格の魔王が散ったことを察した他の魔王たちが『馬鹿な! 早過ぎる!』と声を上げると同時に『えぇい、今代の勇者は化物かッ!』と召喚されたばかりの勇者に対して最大級の警戒体制を敷くことになるのだが……。
―――
『此度、召喚されてすぐに魔王を葬ることが可能な勇者が召喚された。各自最大限の警戒をせよ』
『『『御意ッ!』』』
―――
「……ここは、どこだ?」
「え? なに?」
「まさか、異世界!?」
「ようこそおいで下さいました、勇者様方」
「「「勇者!?」」」
規格外の勇者に対する警戒を最大限に高めた魔王たちの動きは、召喚されたばかりの勇者はもとより、勇者を召喚したばかりの者たちにさえ知る由もないことであった。
いやぁ四天王と魔王は強敵でしたね。
―――
やや消化不良な点があるかもしれませんが、これで1章にあたる部分は終了となります。
もうちっと続く……かどうかはご本人様からの許可次第ですかね。(許可を貰いに行くとは言っていない)
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何はともあれ、ニッチにニッチを重ねた拙作を閲覧してくださり、誠にありがとうございました。




