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19話。修行の始まり

やりたい放題の図。

おう。俺様だ。ベシータ様だ。


話を聞いて令嬢とメイドのレベルアップをすることにしたんで、早速移動を開始するぜ。


移動方法は勿論例のアレだ。


「これから移動するから貴様らは馬車に乗れ」


「ば、馬車ですか?」

「(……私たちをここに運んだ魔法を使うおつもりでしょうか?)かしこまりました。行きますよお嬢様」

「サキ、物分かりが良すぎない!?」

「この場でリョウ様の指示に逆らっても何の得にもなりませんよ」

「それはそうだけど……」


うむ。メイドは話が早くて助かるな。それに比べて令嬢の喧しいことよ。


「まぁ(ツッコミ要員として重宝しそうだから、アレはこのままで)いい」


二人が馬車に入ったのを確認したのでさっさと行くぞ!


「ふっ!」


まずは馬車を持ち上げます。


「キャッ! なに? 動いた!?」

「お嬢様こちらに!」


なにやら馬車の中で騒いでいる二人を放置してスカウターを起動!


「方向は……北東に23キロか。往復で3分もいらんな」


向かう巣を選んだら……。


「え? え?」

「お嬢様、動かないでください!」


「そぉい!」


投げるっ!


「は?」

「え?」


シュゥゥゥゥゥッ! 超! エキサイティン!!

 

「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」

「ッッッッッ!!」


流石に投げ捨てたままだと中の二人が死ぬのでな。


「ぴょっ!」


空中で拾う為に舞空術を使って馬車を追いかけて。


「スクランダークロース!」


空中で追いついて肩に担げばあら不思議。

あとは目的地までゆっくり飛ぶだけです。


このために二人を馬車に入れる必要があったんですね。


「初めてやってみたが意外といけるな」


速度を抑えつつやまなりに降る感じだから力もいらんし、結構便利だな。

流石は世界最強の殺し屋が使った移動方法だぜ。


「「……」」


さわやかな風をプレゼントしてあげちゃったか? なんか中の二人も静かになったようだし、このまま豚野郎の巣へ行くぞ!



―――


令嬢視点。


「……酷い目にあったわ」

「お嬢様」

「愚痴くらい言わせてちょうだい」

「……あまり大きな声で仰らないでくださいね」

「えぇ。それくらいはわかっているわ」


今の私たちにリョウ様の指示に逆らうことはできない。それは分かっているけど、文句の一つくらい出るのは仕方がないと思うの。


だって、飛ばされたのよ? それも馬車ごと。しかもオークの巣に。

自分で言ってて意味が分からないわ。


いきなりぎゅーん! ってなったと思ったら急にふわっとなって、何があったんだろう? って思っていたら、どしんッ! て落とされて、外を見たら沢山のオークがいるってなに? 


説明を求めようとしたら「ちょっと待ってろ」なんて言われて置いていかれたから、最初はオークの巣に捨てられたかと思ったわよ。


でもそんな私の考えはあまりにも的を外したものだった。


「貴様らには足りないものが多すぎる! 情熱、思想、理念、頭脳、気品、優雅さ、勤勉さ! そして何よりも……強さが足りないッ!!」


リョウ様が私たちを放置したのは、一人でオークの巣を蹂躙するためだったのだから。


「死ねぇー!」


「ブモー!」


拳を振るうたびに吹きとぶオーク。


「逃げられると思うな!」


「ブモモー!」


背中を見せたオークが光弾のようなもので吹き飛ばされる。


(でも魔力はなかったはずじゃ?)


「どうした豚野郎ども! 逃げれば死ぬぞ! 死ねば肉だぞ!」


「「「「ブ、ブモモモモ~!」」」」


逃げまどうオークを嗤いながら蹂躙する様はまさしくお話の中に登場するオーガそのもの。


「気品? 優雅さ?」


気品と優雅さってなんだっけ?


「……素敵」

「えぇぇぇぇ」


(サキはやっぱり疲れているみたいね。一度しっかり休ませないと)


「ブモォォォォォ!」


なんとなく演劇を見ているような感じでリョウ様を見ていたら、巣の奥の方から他のオークよりも二回り以上大きなオークが現れた。


「あ、あれはまさか!」

「知っているの、サキ?」


まるで『これ以上はやらせん!』と叫びながら現れた大きなオークを見て、さっきまで余裕綽々でリョウ様の戦闘を観戦していたサキが驚きの声を上げた。


「お嬢様、おそらくですが、あれはオークジェネラルです!」


「オーク、ジェネラル?」


「はい! かつて近衛騎士団が総出で戦うも勝てず、最終的に都市の近くまでおびき寄せてから攻城兵器を使用することでなんとか撃退することに成功したと言われる災害級の化け物です!」


「そんな!」


撃退ってことは攻城兵器でも倒せなかったってこと? そんなの正真正銘の化物じゃない!?


思っていた以上の化物が現れたことに慌てた私は、咄嗟に「リョウ様、逃げて!」って叫ぼうとしたんだけど……。


「ふん。BP2300、か。少し遊んでやりたいところではあるが、今は忙しい。さっさと消えろ!」

「ブ、ブモォ~」

「はっ。健康のための軽い運動にもなりゃしねぇぜ」


「あ、あれぇ?」


素人目にも強そうな雰囲気を感じさせてきたジェネラルオークだったが、リョウ様は他のオーク同様、あっさりと殴り倒してしまったわ。


災害級の化物、なのよね?


「……あっさりやられちゃったわよ?」

「……そうですね?」


珍しくお間抜けな声を上げたサキに対して、私はどんな顔をすればよいのだろう?


(笑うしかないわね)


「ふははははははははは!」


満面の笑みを浮かべながら一方的にオークを嬲るリョウ様を見て、なんとも現実離れをした感想しか抱けなかった私だけど……このときの私は完全に失念していた。


リョウ様はご自身の手でオークを蹂躙するためにここに来たわけではない。ということを。


―――


おう。またまたベシータ様だ。


取り敢えず目についた豚野郎どもは叩き潰してやった。村長的な野郎も出てきたが、今回はアレを使う予定がなかったからな。強化をする前にあっさり殺してやったぜ。


(強化をする前でも殺せば死ぬってわかったのは大きいな)


殺せば死ぬってのはある意味では当たり前の話なのだが、なにせここは魔法やスキルがある世界だ。もしかしたら『ボスキャラはどんな攻撃を受けても【食いしばり】でHPを1残して耐える。その後にはかならず強化スキルを使って反撃してくる』なんてパターンもありえたからな。


それがないとわかったのは収穫だったぜ。


(さて、と)


いつであればこのまま連中を滅ぼしてドロップアイテムの回収をするところなんだが、今日の目的はソレじゃねぇ。


「ほれ。まずはコイツを片付けてみろ」


今日の食材は足と手を潰されて身動きが取れなくなった豚野郎です。


「え? え?」

「ブ、ブモォ……」


「どうした?」


それなりに苦労してなんとか瀕死に抑えることに成功した豚野郎をくれてやったというのに、令嬢はなにやら頬を引きつらせて固まっていやがる。


「片付けろなんて言い方が悪かったか? なら言い方かえてやろう。殺れ。殺せ」


「え、えぇぇぇぇ!」


「何を驚いていやがる。俺は『貴様らのレベルアップをする』といっただろうが」


言ったよなぁ?


「た、確かにそう伺いましたけれど!」


「けれど、何だ」


腹でも痛くなったか?


「きゅ、急にこんなことを言われましても、心の準備と言いますか……」


「なにぃ? 心の準備、だと?」


「は、はい! できましたらもう少し……」 


「そんなものは必要ない」


今の貴様に必要なのは、チャンスを手に入れるためのトライ(戦い)トライ(殺し)トライ(喰らう)。それだけだ。


「そ、そんな!」


ただ殺ればいいだけだろうが。それになぁ。


「貴様、これから何かあるたびに『心の準備ができていない』と言って逃げるつもりか?」


「そ、それは……」


『……』が多いんだよ。これまでは貴族の令嬢として生きてきたから荒事に耐性がねぇのは理解できるが、周囲がそれを見過ごしてくれると勘違いしてるんじゃねぇだろうな。


「そもそも物事ってのはいきなり発生するもんだ。実際騎士どもが貴様を裏切ったとき連中は貴様の準備が整うのを待ってくれたか? 叔父が貴様を殺そうとしたときはどうだった?」


「……ッ!」


「現実を見ろ、現状叔父に命を狙われている貴様は強くならなければならない。違うか?」


「それは、そうです」


「基本的に強くなるのに近道なんかねぇ。だが手っ取り早く強くなれる手段はある。それが戦って勝つことだ」


例の人も『勝利は猫を獅子に変える』って言ってたしな。


「少なくとも貴様はメイドの代わりに見張りができる程度の力が必要だろう? それとも……今後もあいつを休憩なしで働かせるつもりか?」


「……ッ! そんなことはさせません!」


「なら強くなれ。そして今の貴様には力を得るための手段を選べるような余裕なんてないってことを自覚しろ」


「……はい!」


「良い返事だ。わかったら殺れ」


本来であれば戦って勝つためにトレーニングが必要なんだが、今回はそういうのをすっ飛ばさせてもらうぜ。


「わかりました!」


覚悟がキマッたみたいだな。


(さぁて。レベルアップをしたらどんな変化が起こるのか、しっかり確認させてもらうぞ)


これから令嬢が豚野郎を殺してレベルアップをしたらたくさんの情報が手に入る。


そう考えていた時期が俺にもありました。


「……」


覚悟をキメたはずの令嬢だが、オークを見据えたまま一向に動く気配がない。


「ブ……モォ」


最初は魔法を詠唱する為の溜めかと思っていたんだが、そんな様子もない。


「どうした? 何をやっていやがる」


このままだと、ただでさえ瀕死の豚野郎が勝手に死んじまうぞ。そう思った俺は思わず声を掛けたんだが……。


「あ、あのぉ」


「なんだ?」


「……殺すって、どうやったらいいんでしょう?」


ややイライラしながら応えた俺に対する令嬢からの返答は、俺が予想もしなかったものであると同時に、ある意味で順当なものであった。


「そうだったな。貴族の令嬢だもんな」


「……はい」


貴族の令嬢に、瀕死とはいえ生きている豚野郎を殺す手段などあるはずがない。

そんなの常識だ。それこそエジソンが偉いのと同じくらいの常識である。


「うむ。一応手段は考えていたんだが、説教に集中しすぎて忘れていたぜ」

「……リョウ様」


なにやらメイドから憐れむような目を向けられている気がするが、気のせいだろう。


「いいだろう。これからこの俺様が直々に教えてやるぜ。豚野郎の殺し方ってやつをな!」


「「……」」


「なんだその目は?」


「「いえ……」」


なんとなくだが、メイドだけでなく令嬢からも今までになかった類いの感情が混じっているような視線を向けられているような気がするが……とりあえず今は無視だ、無視。


何だかんだ言って面倒見のいいことに定評がある俺は、視線から感じるナニカにムカつく気持ちを抱えつつ、いま優先すべき事項である『箱入りの貴族令嬢でも豚野郎を殺すことができる手段』ってやつを用意することにしたのであった。



閲覧ありがとうございました

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― 新着の感想 ―
[一言] 令嬢とメイドを、豚野郎のゴールに、シューッ! 今回も超エキサイティンなバトルドームでしたw さて、令嬢は無事に豚野郎キラーになれるのでしょうかw
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