2話。詳細がない!!
調子に乗って続きました。
おう、俺だ。ベシータ様だ。
いきなり森に叩き込まれたショックで多少呆然自失としてしまったが、ここは森。大自然の中で油断なんかしたら死ぬ。実際に死んだことはないが間違いない。俺は詳しいんだ。
ただ、仕事の都合上(無論趣味でもある)様々なジャンルを網羅している俺は、正真正銘のエリート転移者でもある。故に油断はしないが慌てもしない。何が起きても気分を屁の屁の河童な状態にしておけばへっちゃらなのだ。
……屁の屁の河童がどんな気分なのかはしらねぇがな。
それに、心の中のどこかに『こうして転移したのが俺でよかった』と思う自分がいるのも確かだ。
実際、もしこの場にいるのが俺ではなく、いい歳こいて中学生のコスプレをしている小娘(なお人妻子持ち)だったら目も当てられんことになっていただろうことは想像に難くないからな。
尤もアイツの場合は赤い汎用人型決戦兵器を持ち出せば全部解決するかもしれんが……いや、運用コストがかかりすぎるから無理だな。動力だけでなくメンテだの修理だのを考えればあの国連直属の組織ごと転移する必要があるだろうし、もし組織ごと転移してきたらそれこそジャンルが普通の異世界ものからオー〇ーロードの亜種になってしまう。
わざわざ異世界に来てまで三番目の衝撃を警戒するような生活はしたくないぞ。知らん内に水に溶けて死にたくないしな。
とりあえずあの小娘についてはいい。俺は俺がするべきことをするだけだ。
「本当にここが異世界だと仮定した場合、俺が最初にするべきことはなんだ? 考えるまでもない」
自問してみるが答えは決まっている。現状の把握だ。
「……肩が、いや、体が軽い」
この星の重力が地球よりも軽いのか?
「いや、重力で肩こりや四十肩が治るとは思えん」
つまりは若返った上にザイヤ人の体になったことで身体能力が根元から向上したんだろう。
「ふっ!」
軽くシャドーボクシングっぽいことをしてみたが、体のキレが全然違う。これはあの白い部屋で言った戦闘の才能や体術の才能のお陰だろう。いやはや、才能に回すように言って正解だったな。
「偉いぞ、あの時の俺」
自画自賛しつつ検証を続ける。
「着ているのは青いシャツとバトルジャケット。うむ、王子だな」
さすがは銀河に名高いフルーザ軍の装備だ。あまりにも自然すぎて着ていることにすら気付かなかったぜ。肩の邪魔にもならんし、シャツとタイツに分かれているからトイレの時も全部脱ぐ必要はないようだ。
「あとは……尻尾か」
ザイヤ人の特徴にして弱点だな。叩いたり足払いしたりモノを取ったりできるくせに、握られるとへなへなになっちまう不思議な器官だ。尤もこれに関しては鍛えれば握られても大丈夫になるらしいがな。
それも後で検証する必要があるが、今はなにが起こるかわからない森の中だからな。弱体化するおそれがあるような真似は慎むべきだろうよ。
残りは何かあったか? ……そうだ。これがあった。というか、なんでこいつを忘れていたのか。
「ステータス・オープンだ」
異世界と言えばこれだよな。
彼を知り、己を知らば百戦危うからず。本崎だろうが堂後だろうが苦手なところを突けば勝てるのだ。それは俺が着ていた金ビブスが証明している。
黒いビブス? 鬼? そんな笑いながら飯を食ってそうな二人組の片割れっぽい奴は知らん。
何故か脳裏に丸い顔した上に汚ねぇ髭を貯えたロン毛のオッサンの顔が浮かんできたが、気のせいだろう。
事実、俺の目の前には見知らぬオッサンの汚ねぇ面じゃなく、俺のステータスっぽいものが書かれている半透明の板が出てきているからな。
「やはりこれが正解か。はっ。異世界語仕様じゃなくてよかったぜ」
単語もならってねぇのに『現地の言葉で呼び出さなければ自分のステータスを見られない』とか言われても困るからな。ポロンガみたいに。
いや、そもそも、日本人が異世界に転生だの転移をしたときに使われる言語は現地語か日本語が標準仕様なはずなのに、なぜ『ステータスオープン』でステータスウィンドウが開くんだろうな?
やはり重要なのは単語ではなくニュアンスなのか? メタい話をすれば作者と読者がわかりやすいようにした結果なのだろうが……。おっと。この際、転生あるあるはどうでもいい。
今やるべきはステータスの確認だ。
どれ、この俺様の力を見せてもらうとしようじゃないか。
―――
名前 リョウ
レベル 1
BP 100
―――
「……おい」
思わずステータスが書かれている板に声を掛けてしまったぜ。
しかし、こいつはちょっとひどいんじゃないか? 力とか賢さとか素早さが数値化できないのはわからないでもないが、もう少し、こう、あるだろ?
強襲ザイヤ人のステータスでさえ最大体力とか現在の体力とか最大BEとか現在のBEとか次のレベルまで必要なBPが載っていたのに、それすらねぇじゃねぇか。
つーかBPってなんだよ。戦闘能力でいいのか? 修行で上がるのか? 雑魚を倒しても上がるのか? 100って高いのか? 基準はなんだ? これで足下がお留守な荒野を根城にしているハイエナに勝てるのか?
「ステータスを見ても何一つわからんぞ。くそったれめ!」
不親切すぎる。ゲームならこの時点でKOTYにノミネートされてもおかしくないぞ。
「……いや、まてよ」
もしかしたらこれが本場の異世界基準なのかもしれん。 そうだ。RPGならともかく、アクションゲームの場合事細やかに数値化されている方が稀……いや、そうでもない。ACとかめっちゃ細かかったわ。あとステータス欄に『啓蒙』とかないだけマシだったわ。
「よし。切り替えよう」
下には下がある。それを考えれば今の俺がいるところは最底辺ではない。それだけ分かれば十分だ。
「では次にいくとしようか」
自分のステータスの次は敵のステータスの確認だ。
敵がいないじゃないかって? ふっ。バカめ。
忘れたか。俺には白い部屋で貰ったスカウターがあるのだ!
とはいえ、今の俺はスカウターをつけていない。そうなるとどこにあるのかって話なんだが……あぁ、そういえばアイテムボックスがあったな。
アイテムボックスくらいステータス欄に記載してくれてもよさそうなもんだが……まぁいい。えーっと。どうやるんだ? 言えばいいのか?
「アイテムボックス……おぉ」
目の前に黒い渦のようなものが出てきやがったぜ。これがアイテムボックスか。違ったら恥ずかしかったんで小さい声で言ってみたんだが、問題なかったな。
「さてと、中身はどうなっていやがる?」
手を突っ込んでみると、なんとなく中に何があるかわかるようになっていた。
「スカウターのほかに、金貨と銀貨と銅貨。それと水筒に乾パンっぽいのも入っているようだな」
なるほどな、そこそこ考えてはいるようだ。普通に考えて、無一文で非常食もない状態で異世界に送り込まれたら死ぬからな。
まぁ町にたどり着く前に食料を食い尽くしたり、ハイエナ野郎に金を奪われて死ぬ可能性もあるだろうが、白い部屋の野郎もそこまで面倒はみていられんってことだろう。
そんな惰弱な奴らはどうでもいいとして。
「さっそくスカウターを試させてもらうとしようか」
いやぁ。正直憧れていたんだよな。スカウター。わかるだろう? 「戦闘力……たったの5か……ゴミめ!」って言ってみたかったんだよ!
周囲には何もいないが、原作通りの性能があれば初期のやつでも地球全土を覆うくらいのことはできるはずだからな。まさかこの森が地球より広いということはあるまい。
万が一、近くにスカウターで量れないくらいの実力者が居た場合は……最初の一発で破壊されてしまうことになるが、そんなことを気にしていてはスカウターは使えんし、そんなやつが近くにいるとわかるだけでも儲けものだ。
「いくぞ! ぽちっとな! ……って、なんだこれは!」
一抹の不安を抱えつつ内心うきうきでスカウターを起動させた俺の目に映ったのは、ウキウキ気分を粉々に吹き飛ばすには十分すぎるほど衝撃的なものだった。
「BP80~120が数十万。200前後が数万。500前後が約1万。1000前後が数千。2000前後が数百。5000前後が12。極めつけは10000が1。だとぉ? レベル1とはいえ戦闘民族並みの連中が数十万って、一体どうなっていやがる!」
白い部屋の野郎は称号がなければ初期ステが低いとか言っていたが、それも関係しているのか? にしたってこれはないだろう。そもそも10000ってなんだよ! 桁が違いすぎるわ! この状況でレベル1でBP100の俺にどうやって生き抜けというんだ!
「もうだめだぁ……おしまいだぁ……」
異世界転移初日。俺はなまじスカウターという広範囲にわたって索敵できる高性能な機械を使ってしまったが故に深い絶望を味わうこととなったのであった。
立ったと思ったらすぐに絶望したアールの図。