14話。アールへの願い!!
なんやかんやあってタイトルとあらすじを修正。
Y興業様とご本人様に謝罪する日は近い……かも。
おう。俺だ。ベシータ様だ。
なんだかんだあったが令嬢もメイドも無事なうちに乱入できて一段落ってところだぜ。
(だが危ないところだったな。色んな意味で)
まずメイドのストリップ。もう少し進んでいたらR指定に触れるところだった。
いや、まぁ原作序盤ではヒロインが色々と晒していた気もするが、それはそれ。
俺としてもすぐに乱入したかったのは山々だったんだが、その為には令嬢の状態がネックになっていた。
もちろん俺の力をもってすれば、隙とかそういうのがあろうがなかろうがこいつら如きをけちょんけちょんにするのは造作もないことなんだが……あの騎士ども、メイドの反撃を封じるためか、自分たちが少しでも体勢を崩したら令嬢に剣が突き刺さるような体勢を維持していやがったからな。
そういう点では連中も無駄に鍛えていたわけじゃないってことだろうよ。
で、騎士を殺しました。でも令嬢も死んでしまいました。なんてなったら乱入する意味がねぇからな。そのせいでこの俺も迂闊に攻撃はできなかったってわけだ。
結局連中に決定的な隙ができたのは、メイドが下着姿になったことで暗器による奇襲の心配をしなくてもよくなってからだ。
その段になってようやくこの場にいた全員がメイドのストリップに意識を集中させてくれた。そこで俺は隙だらけの騎士どものうち、令嬢人質を取っていた三人組を真っ先に排除。
それから俺様が解放した令嬢の代わりに非武装状態になったメイドが人質に取られないよう、あえてド派手に登場して連中の注意を引いたってわけだ。
せいぜい目立つようにと思ってロモ兄さんの技を使わせてもらったが、さすがは兄さん。悪人に対しての特効があるんだろうな。文字通り『こうかはばつぐん』だったぜ。
これぞまさしくさすあにってやつだな。
そこまではまだ良かったんだが、本当にヤバかったのは令嬢の一言だ。まさかこのタイミングで伝説の『なんでもしますから』を聞けるとは思わなかったから、思わず場の空気を弁えずに『ん? 今、なんでもするっていったよね?』と反応するところだったぜ。
(危ねぇ危ねぇ)
振られたネタを放置するのはオタクとしても芸人としても失格の烙印を押されてしまう行為だが、向こうはネタを振ったつもりじゃねぇからな。
涙ながらに告げられた真摯な願いを笑いものにするのはオタクとか芸人以前に人間として駄目なやつだから。
もしネタに走ったらどんな空気になっていたのやら……。
(うっ)
くそったれ。想像しただけでケツの穴にツララを突っ込まれたような気分になっちまったぜ。もちろんこれまでそんな経験はしたことねぇし、これからもしたいとは思わんけどな!
それはそれとして、だ。
『なんでもするから助けて』って報酬を提示された願いを聞かされ、それに対して『大丈夫だ。問題ない』と応えた以上はさっさと願いを叶えてやらねばならんだろうよ。
尤も、こうして令嬢を確保した時点で令嬢の『私たちを助けてくれ』って願いは叶ったも同然なんだがな。
(さてこれからどう動いたもんかねぇ)
殺すだけなら簡単だ。だがあんまり簡単に殺しても勿体無いような気がする。折角の人間なんだし、色々と情報を集めたいところ……って。
「ん? 視線、ではないな」
なんだ? いきなり上から下まで舐め回すような視線を向けられた気がするんだが。
「……どうだ?」
「レベル18。スキル、魔力はありません」
「本当か?」
「間違いなく」
今まで感じたことがない『ナニカ』を不思議に思っていると向こうの騎士たちが剣を構えながらそう呟いているのが聞こえてきた。つまりはそういうことなのだろう。
「なるほどな。今のが鑑定ってやつか」
魔法なのかスキルなのかは知らんが、おそらく相手のレベルとスキルと魔力を調べられる能力なんだろう。
(鑑定の結果がそれなのであれば、ステータスの表示もそれほど不親切ってわけでもなさそうだな)
最初はレベルとBPしか表示しないステータスに文句を言ったがお門違いだったかもしれん。
「では奴は魔力による強化やスキルを使わずあの三人を?」
「おそらく素の身体能力が高いのでしょう。見て下さい、わかり辛いですけど尻尾があります」
「確かにな。となるとあれは獣人か? なぜ獣人が俺たちの邪魔をする?」
「そこまでは流石に……もしかしてここが奴の縄張りで、我々がここに侵入したことを怒っているのでは?」
「あぁ、なるほど。その可能性もあるか。では見張りは殺された、か?」
「おそらくは。森の中で獣人に奇襲を受けて無事で済むとは思えません」
「そうだな。合図がなかったのも、奇襲を受けて即死したのであれば納得できる」
俺が内心でステータスに謝罪をしている間も、連中は連中で色々と考察をしていやがるようだ。
俺に聞こえるような声で話しているのは俺の反応を確かめるためか?
わからんでもない。なにせ連中にしてみたら、魔物が蔓延る森に現れた正体不明の獣人で登場の口上がアレだったからな。令嬢を助けにきたとは思わんだろうし、少しでも情報を探りたいだろうよ。
「問題は奴が一匹なのか集団なのかというところだが……どう思う?」
「集団の可能性が高いのでは? あれが如何に高い身体能力を持っていたとしても1匹で5人もの騎士を、それに我々に完全に気取られずに殺せるとは思えません」
「それもそうだな。では……」
だがこれ以上は許さん。
俺が上で、連中が下。情報を得るのは俺で、情報を抜かれるのが連中だ。そもそも雑魚の分際でこの俺様を1匹扱いってのがムカつくしな。
「ぶっ殺す……」
まずは隊長以外の雑魚どもだ。
そう思って雑魚の4人にエネルギー弾を放とうとしたんだが、その前に動いた奴がいた。
「フッ……!!」
「「ぎゃぁ!」」
「なんだと!?」
「ほう?」
最初に動いたのは俺でも騎士でもない。動いたのは連中の警戒から外れた形となっていたメイドだった。
「くっ! ラングレイめ!」
部下をやられた隊長が呻いているが、俺からは「そりゃそうなる」としか言えん。
なにせメイドにしてみたらこれは千載一遇の好機。俺の正体を探るよりも明確な敵である騎士どもを潰す方を優先するのは当然。
よって彼女は足元に転がっている自分の服よりも武器を拾うことを優先し、俺に警戒を向けていたが故に彼女に背を向ける形となっていた騎士どもへ攻撃を仕掛けた。それだけの話だ。
とはいっても、服より敵を倒すことを優先できる精神性の高さは中々真似できるものではない。それが年頃の女性となれば尚更だろう。
「はっ。随分と覚悟がキマッたメイドだぜ」
伊達に鶴さんみてぇな声はしていない。
「このまま黙っていても終わりそうだが。ボケっと眺めているのも芸がねぇな」
元々今のメイドは最後の力を振り絞っている状態。言うなれば消える間際のろうそくの火。少しでも気が緩めば消えるし、もしかしたら少しでもダメージを受けただけでも消えるかもしれない。そんな状態だ。
その上、今のメイドでは隊長には勝てないのは明白。
「元気なときならどうかはわからんが……こいつは無意味な仮定だな」
戦場で大事なのはIFではない。今このとき勝てるかどうか、だ。おそらくメイドもその程度のことは理解しているのだろう。その証拠に彼女は武器を構えたまま動こうとしない。
で、あれば俺がすることは一つ。
「おいおい。よそ見していていいのか?」
「「グハッ!!」」
メイドに警戒するか俺に警戒するかはっきりしていなかった連中の隙を突いて腹を貫き、首を刎ねる。
「残りは貴様だけだな」
「……馬鹿な」
俺がいつ動き、どうやって殺したのかが見えていなかったのだろう。
突如として仲間を殺された挙げ句、手を伸ばせば手が届く位置に立たれた隊長は、ワナワナと震えているではないか。
「さっきまでの余裕はどうした? 笑えよ騎士様」
笑顔を見せた瞬間に殺してやるがな。
王子失格と言われるかもしれないが、残念ながらこの俺は目の前で震える敵を見逃す精神なんてしていないのだ。
「な、なぁ」
「あ?」
どうやって殺してやろうか? なんて殺害方法を考えていると。隊長は震えながら言葉を続けてきた。
「お、俺と取引をしないか?」
「はぁ?」
この期に及んで取引? 命乞いにしても予想外な提案に意表を突かれた俺は、この隊長が何を宣うかが気になってしまい、それまで向けていた殺意を収めてしまうのであった。
―――
令嬢視点
「お、俺と取引しないか」
バックスがこう口にしたとき、私が思ったのは「何を都合の良いことを!」というものだった。
だってそうだろう? 元々彼は私を殺しに来たのだ。サキや私を嬲ろうとしていたこともある。なのに自分がピンチに陥った途端に命乞いなんて、騎士として許せることではない。
だから、もし私がその提案を受けたのであれば答えは否一択であった。
でもバックスが提案した相手は私ではない。突如として現れて私たちを助けてくれたものの、その実態は名前すら知らない相手である。
確かに彼は私のお願いを聞くために動いてくれた。彼のおかげでサキも私も助かったと言えるだろう。
(でもそれだけなのよね)
もっと言えば、彼が嘘を吐くとは思っていないが、私に嘘を吐かない形でならバックスとの取引に応じる可能性がないとは言えないのである。
というのも、もしバックスの提案が『俺を見逃してくれ』というものだった場合、それを叶えたところで私の願いである『サキを助ける』という私の望みとバックスの提案が背反することにはならないからだ。
もちろん取引の結果バックスがこの場から逃げることに成功した場合、間違いなく叔父様に私たちと彼の情報が渡ることになる。その場合バックスとてある程度の罰をうけることになるだろうが、それ以上に私たちにも更なる刺客が差し向けられることになる。
当然ブルマリア侯爵家もミッタークエセン伯爵家に圧力を掛けるだろう。その結果両家から刺客を差し向けられる可能性だってある。
そういう意味ではここでバックスを見逃すことは『サキを助けて欲しい』という願いに反することになるかもしれないけど、流石にあのお願いでそこまで面倒を見て欲しいなんていうのは反則だろう。
(だけど私たちとしてはここでバックスに死んでもらって、私たちの生死をあやふやな状態にする必要があるのよね)
私が考えていることくらいサキにだってわかっているはず。だけど彼女も動けないみたいで彼とバックスの様子を伺っている。
当然だ。そもそもサキは彼がどんな存在なのか。彼がなぜバックスたちと敵対しているのかを理解していないのだから。
私だって彼がどんな存在かはしらないのだ。でも少なくとも彼が私の願いを叶える為にバックスたちと敵対してくれたことは知っている。だからこそ彼にはバックスとの取引に応じないでほしいのだけど、それを決めるのは私ではない。
だって私には明確な後ろ盾を持つバックスと違い、彼に提示できるモノがなにもないのだから。
私が絶望している中、彼の動きが止まったことで手ごたえを感じたのか、バックスはやや早口になりながらも『取引』の内容を彼に伝えていく。
「お、俺はブルマリア侯爵家に仕える騎士だ! だからあんたが望むなら普通に侯爵家に斡旋することもできるし、何より俺は侯爵家の後ろ暗いことを沢山知っている!」
「ほほう?」
それはそうだろう。事実バックスはこうして先代の子、叔父様にとっての姪である私を殺しに来ているのだから。
「そ、そこにあんた程の力がある奴が味方になってくれれば、俺が、ああいや、俺たちが侯爵家の裏に君臨することだって不可能じゃない! そうなれば金も女も思いのままだぞ! 勿論そこにいる二人もあんたのモノだ! 好きにしてくれていい!」
「なんてことを……」
叔父様に従って私と敵対するのは赦そう。敵対した以上私たちを売って助かろうとするのも、まだ赦そう。だけど後ろ暗いこと、つまり弱みを握って裏から侯爵家を支配するだなんて許せるはずがない。
サキも同じ気持ちのようで、かなり鋭い目つきでバックスを睨みつけている。
でも私やサキの思いは彼には関係ないようで……。
「なるほどな。中々面白そうな話ではある」
バックスの話を聞いた彼は、バックスの不誠実に怒るどころか理解を示していた。
彼からしたら誰がブルマリア侯爵家の家督を継いでもどうでもいいことだろうし、なんの具体性も無い報酬を提示した私よりも、明確な利益を提示したバックスの方が取引相手として相応しいと思ってしまったのかもしれない。
「……ッ!」
反論したいところだが、さっき考えたように私のお願いとバックスの取引は背反しないのだから私から彼へ言えることは、ない。
「へへ? そうだろ? アンタとは仲良くやれそうだぜ!」
「ふっ」
だから私は、彼がバックスから差し出された手を掴んだとき「仕方ないか。彼は悪くない。悪いのは力のない私」なんて諦めに似た感情を抱いてしまった。
でもそれは間違いだった。
「フンッ!」
「なっ!」
彼は手を握ったと思ったら、バックスを上空に放り投げたのだ!
(どんな力があったらあんなことが可能なの!?)
現実離れした光景に呆然としている私をよそに、彼とバックスの会話は続く。
「お、お前! なんのつもりだっ!」
「貴様と組めば侯爵家を裏から操れる、だと? くだらねぇ」
「なに!」
「貴様ごときと組んだくらいで大貴族を手玉にとれるものかよ。手玉にとれたとしても、それは俺の力で叶えたことであって貴様の存在など関係ない。何より貴様が信用できん!」
「くっ!」
彼の言い分は尤もだとおもう。バックスがどれだけうまく立ち回ろうと所詮は1騎士。侯爵家の権力があれば暗殺だって簡単だろう。
もしかしたら彼程の力があれば暗殺を跳ね除けることもできるかもしれないが、その際バックスが邪魔になる。なによりバックスは私を裏切っている。勿論彼はそのことを知っているわけではないけれど、私とは違って人を見る目があれば、きっとバックスが信用に足る人物かどうかを見極めることは簡単なのだろう。
結局のところ、彼がバックスのことを『信用できない人間』と判断したが故に、彼とバックスの取引は破綻したのであった。
「ち、ちくしょぉぉぉ!」
バックスが飛ばされた先はかなり高い。叫び声が届くのが不思議なくらいの高さだ。たとえ魔力で強化していても限度というものがある。このまま落下するだけでバックスは重傷を負うだろう。この森で重傷を負ったらもう助からない。
というか、私とサキにバックスを生かしておくつもりがない。
諸々の事情を理解しているのだろう。バックスは絶望に染まった表情をしたまま落ちてくる。
(終わったわね)
即死か重傷か。どちらかは知らないがバックスはここで終わり。そう思っていたけど、それは私の早とちりだった。
「死ねッ」
彼は止めを怠るような性格ではなかったらしい。
彼は落ちてくるバックスに向かって徐に手を向け、光弾のようなものを放ったのだ。
「な、何故だ。お前に魔力は……ハベッ!」
なんだか彼が止めを刺しにいったことよりも、彼が光弾を使ったことに驚いたようだったが……とにもかくにも、彼の光弾を受けたバックスはまるで爆発したかのように弾け、飛び散ってしまった。
「うわぁ」
予想以上にグロい死に方をしたバックスを見て、私は思わず声を上げてしまった。
(あっ!)
もし今の声が彼に不満を抱かせてしまったらどうしよう。そう思って恐る恐る彼の方に視線を向けてみれば、彼は私の声なんて聞こえていなかったようで。
「へっ。きたねぇ花火だ」
と、バックスが消えたあたりを見て上機嫌にそうに呟いていたのであった。
色々混ざっていますがシカタナイネ。の精神で閲覧オナシャス!
―――
閲覧ありがとうございます。