10話。強殺大策戦
あれ? いつの間にかこんな時間?
何があった? 先輩が用意してくれたアイスティーを飲んだところまでは覚えているんだが……
おう。俺だ。あれからさらに100匹以上の豚野郎どもを狩ったおかげで、めでたくBPが3000を超えたベシータ様だ。
このままあと100匹討伐すればBPが4000を超える。つまり菜っ葉超えが見えてきたってわけだな。菜っ葉の野郎も作品によっては4000~6000と幅があるから一概には超えたと言えんが、それでも一応の目安にはなる。
で、元々の計画ではBPがそのくらいになったらBP2000前後の野郎が治めている集落を襲おうと思っていたんだが、ここで一つ閃いちまったことがある。
「別にこのまま集落を襲撃してもいいんじゃねぇか?」
普通に考えれば現段階でも3000を超えるBPを持つこの俺様が2000前後の豚野郎に負けることはねぇ。一応警戒するなら豚野郎がBPを向上させるスキルを持っていた場合だな。今まではその可能性を考慮しているからこそもう少し高くした方が良いかもしれねぇと考えていたんだが、これが間違いだった。
「本命と戦う前に雑魚どもを皆殺しにしたら5000くらい増えるだろ?」
そうだ。俺様は別に戦闘後に入る謎のポイントを使ってレベルアップをしているわけでもなければ、戦闘が終わってから纏めてBPが入るわけでもないからな。相手が死んだとき自動でBPが加算されるんだ。
つまり、戦っていれば自動的にBPが向上する仕様ともいえる。
そんなわけだから、BP100前後の雑魚どもを一気にまとめて始末できるのであれば、今みたいに警戒もしねぇで集落の外に出てきた馬鹿な豚野郎どもをちまちま狩る必要もなくなるってわけだ。
「ここで求められるのは広範囲攻撃。菜っ葉の野郎みてぇにクンッってやつが出来ればいいんだが、あれはいまいち原理がわからんからなぁ」
気の応用という点では爆裂魔波も使えるが、あれは笛野郎の技だから個人的に使いたくねぇ。芸人の縄張りってのがあるからな。
菜っ葉? あいつは別にいいんだよ。ザイヤ人だし、家汚ねぇし。他に技ねぇし。
あぁいや、今はあいつのことなんざどうでもいい。
「ためはめ波は単体用っぽいイメージがあるし、ギャロップ砲も本人が「俺の技と似ている」って言ってたから駄目だな。某仙人最強の技である萬国吃驚掌はもろ単体用。ビックベンアタックも単体攻撃だしファイナルソードフラッシュは直線的すぎる」
これもバトルものの宿命っちゃ宿命だからしかたねぇ話ではあるんだが、羅列していくと単体攻撃ばっかりじゃねぇか。なんとも不自由なことだぜ。
残るは連続技のコズミックデスジャワーかグミ打ちくらいか?
いやでもなぁ。600発も打つのか?
「できるかできないかで言えばできるだろうが、面倒だな」
それに尽きる。ちまちまどころの話じゃねぇ。それをやるくらいなら適当な技を使って爆風で殺した方がマシって……。
「あ、いや、まて。違う」
爆風で思い出したぞ。そうだ。
「ビックベンアタックは他と違って周囲にまで爆発が及んでいる描写があったじゃねぇか」
狙いは人造人間だったが、しっかりと周囲も破壊されていたはずだ。
ただ、スーパーベシータが放った新技にしてはクレーターが小さかった気もするし、一部では『BP18000のときのギャロップ砲でさえ地球が駄目になると言われていたのにスーパーになった後のベシータが放つビックベンアタックを喰らった地球さんが大丈夫なのはおかしい』なんて言われたこともあったが、あれは人造人間に当たったことで威力が減退したのと、自分の上でたびたび色々やられていた地球さんが強くなっていたから耐えられただけの話であって、周囲に甚大な被害を与えていたことは明白な大技だ。
「……いけるぞ」
さすがにBP2000の奴を倒すならピンポイントで当てる必要があるだろうが、BP100前後の野郎なら余波でもやれるはずだ。無理だったら無理だったで方針を変えればいいだけの話だしな。
もとより試すなら無料だし、なにより豚野郎どもが俺様の存在に気付いていない今なら好きなタイミングで、好きな集落に仕掛けることができる。
ならば乗るしかねぇだろう。この大波に。
奇襲と言えば夜討ちか朝駆け。しかし朝は早くから動いている連中がいるから、狙うとしたら夜。
それも日が落ちてすぐではなく、ある程度時間が経ってからだな。理想を言えば夜明け直前だが、夜明けが近いと時間がかかったときに他の集落からの援軍が来るかもしれねぇ。
ならば実行は真夜中、深夜1時か2時だな。細かい時間はスカウターで集落の様子を見つつ決めるが、大体はこんなところでいいだろう。
一撃かました後は高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対応すれば勝てる!
「そんなわけでやってまいりました深夜1時。皆さん寝静まっております(小声) ここから一気に行こうと思います。さて、豚野郎の皆さんはどんなリアクションをしてくれるのか楽しみですね(笑)」
右手を前に突き出して。呼吸はいつも通り3秒吸って7秒吐く。力をつま先から膝、膝から腰、腰から背中、そして首を回って右手に集める!
「卑怯とは言うまいな。常在戦場である自然界で油断している自分たちの愚かさを呪いやがれ!」
み な ぎ っ て き た ぁ!
「喰らえ豚野郎ども! これが俺様のビッグベンアタックだぁ!」
―――
オークたちにとってこの日はいつもと変わらぬ日常の中にあった。
朝狩りに出て、日が沈む前に帰ってくる。狩りで得た獲物を家族で喰らい、そして寝る。特に珍しくもないそんな日々。
一応上層部の中では最近いろんな集落で行方不明者が増えているらしいという情報が回ってきていたためそれに備えようとする動きもあったが、時期によっては大物の熊が出たり、群れを率いる狼の中に特殊な個体が生まれたりすることもあるので、今回の事も特に珍しいこととは思われていなかった。
それも当然だろう。どれだけ強い熊でも、狼がどれだけ大きな群れを率いたとしても戦士階級のオークが本気になれば負けることはないのだから。
生物としての格の違いを自覚しているが故に、オークたちはある意味で傲慢であった。いや、絶対の事実に基づいた自負を傲慢と断定するのは酷というものかもしれないが、少なくとも油断ではあった。
強い熊がいると思われていたのであれば、それを倒すべく強者が率いる部隊を出すべきだった。
大きな群れが出来ている可能性があったのであれば、それがどれくらいの群れなのか調査をするべきであった。
それもこれも今となってはIFの話である。
しかしながら、もし彼らがそういった行動をとっていたら、森に生まれた『例外』の存在に気付けたかもしれない。『例外』が強くなる前に何かできたかもしれない。
少なくとも周囲に注意喚起はできただろう。
だがそうはならなかった。
「喰らえ豚野郎ども! これが俺様のビッグベンアタックだぁ!」
寝ているところに強い衝撃を受けたジェネラルオークはとてつもない痛みと共に目を覚ました。
「ブ、ブモ……?」
痛みに耐えて周囲を見渡せば、そこにあるのは瓦礫の山。それが何かは自分の周囲の状況が教えてくれた。
「ブモ、ブモモぉ!」
一般のオークや普通の戦士階級のオークとは一回りも二回りも違う大きさを誇るジェネラルオーク。当然のことながらその住まいは他のオークの住まいとは一線を画す頑丈さを秘めていた。
それが木っ端微塵である。ジェネラルオークが受けた衝撃はいかほどのものか。
被害はそれだけではない。
「ブモ? ブモモ? ブモ、ブモモモ?」
そう。館に住んでいたのはジェネラルオークだけではない。彼の家族や部下たちも住んでいたのだ。
これだけの異常だ。妻は子供はまだしも兵士たちはすぐに駆け付けるはず。しかし彼らが自分のところに来る気配はない。それどころか痛みに呻いている声すら聞こえない。
そしてそれは自分の館だけではない。
「ブモ……!」
ジェネラルオークの館は統治の関係上他より少し高いところに建てられていた。そのおかげで集落全体を見渡すことができたのだが、そこにあったのはつい先ほどまであった街並み……ではなかった。
集落の中心部には大きなクレーターが出来ていて、その周囲は瓦礫どころかなにも残っていない。中心部から少し離れた自分の館のすぐ近くはどうなっているかと言えば、そこに建てられていたはずの商店は瓦礫と化しており、その瓦礫を滴るナニカが赤く染めている。
死ねばすぐに魔石と肉になるはずのオークがそうなっていない。それは何故か。単純な話だ『血を流している者がまだ死んでいない』それだけの話である。
では「死んでいないのであれば助けられるのではないか?」と言えば、決してそうではない。
何が起こったかはまだ理解していないが、すくなくともこれは攻撃だ。それも圧倒的な力を持つジェネラルオークである自分に大ダメージを与えることができた攻撃である。通常のオークが原型をとどめているだけで奇跡だろう。
そしてこの集落だけの話ではないのだが、基本的にオークに回復魔法を使える者はいない。傷を負ったときどうするのかと言えば、薬になる草を使ったり自然治癒に身を任せるしかないのがオークという生き物であった。
今まではそれでもよかった。即死するようなケガの場合はあきらめがついたし、小さい怪我であれば黙っていれば治っていたからだ。
だが今はどうだ? 瓦礫の中で血を流しているオークを救ったとして、彼らはどれほどの傷を負っている? 後遺症は? このあと生きていけるのか?
答えは否。自然は非情なのだ。この先大きな傷を負ったオークが生きていけるほど甘くはない。
「ブモォ、ブモ、ブモモ……」
そのことを知りながらも、ジェネラルオークは動き出す。
助からないからと言って助けないのは違うし、何より一人になるのが怖かったからだ。
「今ので倒したのは、100前後が510匹と200前後が50匹。それから500前後が10匹と1000前後が2匹、か。……合計で約6800。大量だな」
息のある同族を一人でも救えたら……そんな気持ちを抱いて歩きだそうとしたジェネラルオークの耳に、聞きなれない音が聞こえてきた。
「ブモッ!?」
思わずそちらを振り向けば、そこにいたのは白と青の鱗に覆われた小さな体を持った生き物だった。
「で、2000前後の一匹は生き残った、と。あぁ今瀕死のやつらも現在進行形で死んでいっているようだな。即死しなかったのはやはり範囲攻撃だと威力が分散するからか? まぁ予定通りといえば予定通りの結果だから特に問題はねぇ」
「ブモ、ブモモッ!」
「何を言っていやがるかは知らんが、なんとなくわかるぞ。まぁだからなんだって話だがなぁ」
まるでこれから食べる餌に向けるような眼を向けてくる小さいやつ。いや、経験豊富なジェネラルオークはこの小さいやつを知っている!
「ブモッ!」
そう。これは人間。森の外に住み、たまに森に入ってきては何もしていないオークを殺しまわり、さらにはその死体を奪っていく邪悪な存在だ!
「さて、残った貴様はこの俺様が直接相手をしてやろう。せいぜい抵抗してくれよ?」
「……ブ、ブモ?」
オークジェネラルが知る限り人間とは数と卑劣な罠でオークを狩る存在だ。一部で真っ向から自分たちと張り合える例外は存在するものの、それでも絶対に一人では向かってこないはず。
さらに言えば、人間がこの人間一人だけだとするならば、村をこんな目に遭わせたのはこの人間だということになる。
如何にオークジェネラルでも、一撃で村全体をこんな風にできはしない。オークジェネラルどころか、自分が仕えている王にだって不可能だ。
「ブモ?」
であるならばこの人間は強大な魔法を使う魔法使いなはず。それがなぜ自分の前に立つ?
「構えんのか? ならこっちから行くぞ!」
「ブモッ!」
いきなり痛みを覚えて目を覚ませば集落が失われていた。そうかと思えば襲撃者が現れ、それが非力なはずの人間で、その中でも非力なはずの魔法使いで、その魔法使いが肉弾戦を挑んでくる?
「ブモモモ。ブモッ!」
泣きたくなるような月明かりの下、想定外が重なりすぎて思考回路がショート寸前になっていたオークジェネラルだったが、思考を戦闘に切り替えれば話は別だ。
「ブルァァァァッ!」
目の前にいるのが何なのかはわからない。だが間違いなく強い。全力でも勝てるかどうかわからないほどに!
そうしなければ負けると判断したオークジェネラルは、本来であれば最後の最後で見せるはずの切り札を初手で切った。その切り札の名は、スキル『暴走』
「ほう? 雰囲気が変化しやがったな」
筋肉が膨れ上がり、目から理性は消え、口元からは涎が垂れる。短時間しか持たないし理性もなくなるが、それでもこのスキルの力は絶大である。
なんと今のオークジェネラルの力は通常時の倍! 通常時の王にも匹敵する力だ。
「BPが倍近くになりやがった。予想はしていたがやはりバーサクモードのようなものがあったか。元々なにかしらのスキルでBPを上げてくるだろうとは思っていたが、一気に倍近くまで上昇するのは予想外だったぜ」
「ブルァァッ!」
「少しは早い。だがそんな虚実のない攻撃が当たるかよ」
事実暴走中は常に全力で攻撃を仕掛けるため、加減というものができない。しかしそんな小手先の技を吹き飛ばすのが暴走の怖さである。
「ブルァ! ブルァ! ブルァァァァ!」
殴る。殴る。殴る。何度回避されても殴る。彼我の大きさからして当たれば終わるのだ。
理性ではなく本能でそう判断したジェネラルオークは果敢に殴り続けるも……。
「ふむ。他にはないようだな。もういいぞ」
「ブルァ!?」
ガシィッという音がしたかと思うと。全力で振り回していた腕が動かなくなった。
「この威力、襲撃する前の俺様だったら死んでいたかもしれん。だが少し遅かったようだな!」
「オォォォォォ!」
「無駄だ」
真正面から止められたことに気が付いたジェネラルオークは何とかして腕を外そうとするが、まるで何かで固定されているかのように動かない。それどころか掴まれた腕がミシミシと音を立てているではないか。
なんという剛力! これが人間に出せる力だというのか!
「ブ、ブモォ……」
痛みのあまり暴走状態が解除されてしまったオークジェネラル。その眼にはもはや戦意は残っていなった。
「この程度の力に負けて動けねぇ豚野郎など必要ない!」
「ブ、ブモ!?」
圧倒的力を見せつけたニンゲンは抵抗する力を失ったジェネラルオークを空高く投げ捨て、そして……。
「死ねぇぇぇぇぇ!」
「ブ、ブモォォォォォォ!」
自分に向かって魔法のようなものが放たれた。これが村を破壊した攻撃の正体か。
このことを何とかして他の集落の者につたえなければ……オークジェネラルが知覚できたのはそこまでであった。
―――
「連中の奥の手が見れたのは収穫だったな。だがしくじったこともある」
最初の一手で集落ごと吹き飛ばす作戦は上々の結果に終わった。2000前後の豚野郎が生き残ったのも問題ない。それどころかバーサクモードまで見れたのだから計画以上の収穫があったと言えなくもない。不満があるとすれば一点。
「ちっ。ドロップアイテムを集めるのが面倒だ」
建物の中とか探すのもめんどくせぇし、瓦礫に塗れた肉を見つけてもなぁ。
「アイテムボックスに入れたら綺麗になるかもしれんが、どうにも食欲が湧かん」
この期に及んで贅沢だとはわかっているが、それでも3秒以上地面に着いたのを食べるのは気が進まねぇぜ。
次はもう少しうまくやれる方法を考えよう。そう思いつつ口元がにやけるのを我慢できない自分がいる。
「とりあえずオープンだ」
―――
名前 リョウ
レベル 11
BP 10365
―――
レベルが3つ上がってプラス300……これはもう誤差だな。
「元々3018だったところに300足して3318。それから一気に吹き飛ばした分の6826を足して、10144。さらに最後の221を足して10365か。一つの集落で6000強のプラスだとすれば、あと二回やれば二万を超える計算だな」
さっき見た豚野郎の切り札がBPを二倍にするものだけならこれで一番強い奴と互角に戦えるんだろうが、二倍なのはあくまでさっきの豚野郎の話だからな。
こいつより強いBP5000前後の野郎が3倍の力を出せたり、10000の野郎が限界を超えて「4倍だー!」なんてやってくる可能性を考えれば40000。いや、ナメ○ク星で最強と言われていた爪野郎のBPが43000だったはずだから、最強のザイヤ人としては45000くらいはあったほうがいいな。
その場合、1つの集落で最低プラス6000と考えて、落とすべき集落はあと6つか。
「はっ。今回のと合わせれば奇しくも7つの集落を襲うことになるのか。実にDBらしいな」
ずいぶんと殺すことになるが関係ねぇ。それがわがままってもんだろ?
この俺一人、イケるところまでイッてやろうじゃねぇか。自己愛のままにわがままに。どれだけ他人の血が流れても俺は俺の想いを振りかざすだけだぜ。
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