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6.辛みから芽生える目標

 街の北東にある森へとやってきた。

 ここら辺ではダンジョンが多いことで有名らしいけれど、今回はそこまで入るつもりはない。

 森に入って間もない所にある樹の一つ相手に魔法の練習に興じる。中に入りすぎると魔物と遭遇する心配があるからここら辺が今の俺の妥当なレベルだろう。

 まだ趣味の範疇はんちゅうだ。自分の魔法能力がどれほどのものか確認できていない為にやりすぎはできない。


 とりあえず、昨日勉強した魔法の理解を確認しよう。

 まず、魔力は内にある。

 これはテレパスの時に証明されている。今なら感じることも難しくはないだろう。

 目を閉じ、右目の視界を変えればいい。

 たぶん、この右目は特別なものだ。俺かこの体のどちらかの異世界人としての力の一つだろう。無機物を透かして見たり、魔力を視覚化することができる。

 俺が中二病だったなら、この邪気眼が……とかやってみるんだろうけど、まぁそこまで大袈裟なものじゃないだろうな。

 でも、カラコンを必要としないのは便利かもなコスプレイヤー的には。鏡で見たらオッドアイみたくなってるはずだし……てか、今の俺はオッドアイなのか! そう考えると、かっこいいな俺!

 あ、でも……この格好は情けないな……。ただのボロ布のローブだし、この国を出る頃には新調したい。

 っと――自分に酔いしれたり、あれこれ先の事を考えるのは今じゃなくていいな。今は実験の時間だ、魔法のね。

 さて、次は第二段階。魔法には基本的に属性が存在する。

 火、水、風、雷、土、氷、闇、光、自然、無属性。他にもまだあるらしいが、基本的なのはこれらだ。

 テレパスはこれらの属性ではなく、しろ属性というのに属するらしい。

 とはいえ、人には得意属性があり、逆に不得意な属性もある。人によっては使えない属性もあるらしい。

 まだ俺が何の属性が使えるのかは判らないからそこからだな。

 調べる方法は載っていなかったから今は試しに撃ってみるしかない。

 初心者が通る道として初級魔法があった。比較的簡単らしく、威力も弱いものらしい。

 ここは森だ、火属性や雷属性はやめておいた方がいいだろう。じゃあ順番的に水属性だな。


 1、魔力を自身の中から手へと持ってくる。

 テレパスもできた、この辺は楽だな。簡単だ。

 2、属性の付与。

 さーて、ここが問題だ。今回は水属性だから、綺麗な水を思い浮かべてこの掌の魔力に刷り込んでいく。

 まっ、要はイメージしろってことだろ? こんなんで魔法ができるようになるなら、こっちの世界の住人は楽でいいな。

 うーん…………水か。それなら、噴水とかはどうだ?

 こう一気にぶしゃあっと……。

 噴水を連想した瞬間、魔力を込めた右手に異変が起こったのに気が付いた。小刻みに震えて何かヤバそうなものが出そうな気がした。

 なんかヤバい予感……!


 俺は咄嗟に掌を前へと向けた。止められる気がしなかった。

 俺の予感は当たる。


 聞こえた音は濁流のようなうるさい轟音ごうおん

 俺の視界で見たのは、螺旋らせんするようにうねりながら大量の水が勢いよく掌から吐き出ていく様。

 水がそこら中に巻き散ると、俺の視界の先が円を描いて穿たれたように木々を粉砕していた――。


 3.詠唱と魔法の指定

 まさかの第三段階目をやる前に魔法が発動してしまうなんて、思わないだろ……。

 ここまで来ると呆れてしまう。制御が効かない魔法は身を亡ぼすだけ……と、まだ初心者の俺が断言できることじゃないが、きっとそんなかんじだろう。

 こりゃ、もっと練習が必要だな……。

 俺は、魔法の難しさを身をもって体験し同じく反省する。



◇◇◇



 ごつん……!

 頭が何かにぶつかって目を覚ます。


 あれ……?


 涎を垂らしながら眠ってしまったようだ。誰かが目の前で心配そうな顔を向けてきている。


「大丈夫?」


 この顔は――サクラか。

 そしてここは……図書館だな。


 もう夕立のようで外がオレンジ色になっている。いつの間にかかなりの時間寝てしまったようだ。


 そうか、今は午後の魔法の勉強中か。


(ごめん……実は昼間ずっと魔法の練習をしてて……結構疲れたみたいだ)

「そうだったんだ、それでずっと疲れた顔をしていたんだね……」


 サクラはほっと安堵したようだった。それを疑問に思って首を傾げると、察したように説明してくれた。


「街の暮らしが辛くてやつれちゃったんじゃないかと危惧したんだけど、そうじゃなくてよかった」

(心配させちゃったかな? ごめんね。

 でも、魔法に関してはこの身をもって研究を進められたと言っていいはずだから、少し教えられることが増えたと思う)

「それは嬉しいけど、今日はもう大丈夫だよ。

 あまり無理をして欲しくないし」


 気を遣わせてしまったな。

 だけど、今はありがたい。正直、これ以上目を開いているのは辛かった。

 こんなことなら魔法の練習、少しは自重すればよかった……。


 俺はサクラの懇意に甘えるように再び睡魔に負けて頭を机の上へと置く。



◇◇◇



 異世界へ来てから一週間と二日が経った。

 魔法を会得してからは魔物を狩るべく森に中に深く入るようになった。おかげでギルドを通じてお金も稼ぐことができており、今はもうそこら辺で寝るホームレスはやめて宿を取っている。

 まだ炎属性と雷属性は使ったこともないが、他は攻撃魔法に限らず生活魔法という日常的に便利な魔法まで使えるようになった。主に光の球を発現させる【ライト】は、夜でも明るく作業を続けられるから重宝している。

 サクラとの勉強会も次の段階に移り、ほとんど俺が教師になって教えてあげる形になっている。あっちも戦闘訓練が始まったらしく、サクラも徐々に魔法を発動するということに慣れてきている感じだ。

 しかし、俺との時間が作りにくくなっているのが難点である。結構仲良くなっている気がするだけに歯痒い。


 そして今日は、この晴れ晴れとした太陽の下で運動しようかと、魔法の練度を上げる為と金稼ぎの為に一人で森に足を踏み入れた。

 俺がこれまで一番関心したのは魔法だったが、森の中に入り始めてもっとすごいことに気が付いた。

 ――俺の身体能力ステータスの高さだ。

 ギルドでからまれた時にも思ったが、マミが言ったようにステータスが異世界人分の二倍。今の俺は常人じゃないらしい。

 まるで羽が生えたかのように森を疾走し、跳びまわり、最近じゃ街で森の中で妖精を見たという噂まで出回っている。俺も早々と伝説上の人物になろうとしているわけだ。


 ふっ、悪い気分じゃない……! 俺は褒めて伸びるタイプだ、もっと褒めてもらいたい!

 元々運動部でハンドボールをやっていたくらい運動するのも好きだけど、ここまで超人的になるとこのまま元の世界に戻って自慢してやりたいという邪念が生まれてしまう……! まぁ、その時は氷真としての話題になるんだろうけど……。

 元の世界……か。

 もう一週間以上も経っちまったけど、母さんとか父さんとか姉さんとか心配してくれてんのかね。

 一人暮らしはしてたけど、頻繁に連絡する仲だったし、長期休暇があれば温泉とか行ったからな。俺が居なくなったって気付くのはそう時間はかからないんだろうな。

 あれ? ちょっと待てよ!? 俺って、体はどうなったんだ?

 体もこの体の中の一部に換算されてんのか? いやでも、マミのやろうが魂を入れたみたいなことを言ってたから、体は元の世界にあるんじゃあ……。

 じゃあ……俺、もしかして自然状態ってやつで病院にでもいるんかな?

 まっ、この世界にいるうちは前の世界のことを考えてもただ寂しいだけだよな。でも、俺よかサクラたちの方がよっぽど……あのギャルの子とイケメン君は知り合いというか恋人みたいだったからまだマシだと思うけど……あと、俺を押し倒したいけ好かない暴力野郎も除外だな。だが、サクラとあと同じ馬車に乗った気弱そうな天パ君は心配かな……。

 まだサクラは、俺という精神的支柱がいるから大丈夫か……って、何を恥ずかしいことを……!! 雑念退散!


 そうしてこっぱずかしい事を考えながら散歩がてら獣道を歩いていると、どこからか泣き声が聞こえてきた。

 気になってそれが聞こえる方へと近づいて行くと、子供のむせび泣く声であることが判る。

 迷子になったのかなと思惟しいを巡らせていると、木陰に隠れるようにしてその子は座り込んでいるようだった。目線の先にある木の影に少女の背中が少しだけはみでて見える。

 しかし、その後ろ姿から窺える服装に覚えがあり、歩む足が止まった。

 それは明らかにこちらの世界のものではなく、元の世界の学生制服だ。一瞬サクラかと思ったが、スカートの色がグレー一色でブレザーがなく、上は紺色の長袖カーディガンを着ているだけだった。それに髪色が染めたようなクリーム色、サクラじゃない。


 おそらく彼女だ。同じ異世界人にしてサクラ以外でもう一人の女子高生。

 名前は知らないが、同郷だ。このまま放っておくと大人としての責任放棄になってしまうだろうか。

 あ゛ー…………面倒な事をだらだらと考えて放置するつもりかよ、俺は。

 仕方ない、今なら便利な魔法ものがある。嘘は苦手だし嫌いだけど、今回ばかりは許してくれよ。


(大丈夫か?)


 俺は、彼女がもたれる木の裏に腰を下ろし、彼女にテレパスを使った。


「えぐ……うぐ……だ、だれ……?」


 少女は、泣き収まりながら俺の声に反応する。


 誰? えっと……ヒョウマ、フミヤでさえ危ない気がする。まず俺が捨てられた男であるのを気付かれたくない。

 いや……いい言い訳があったじゃないか!


(おr……僕は、妖精――どうしたの?)


 我ながら恥ずかしい子供じみた口調だ。

 しかし、この子を安心させるにはこの方がいいだろう。まずはこの子の悩みを訊くことが先決だ。


「よう……せい……?」


 土地狂ったような言葉で結構冷静にさせられるもんだな。こいつ自身、妖精というのに興味があるのかもしれない。

 まだ息は荒いが、泣き止んできている。


(こ、こんな所で泣きじゃくってどう……したんだい?)

「須藤のやつ、訓練中にあたしにセクハラしてきて…………それで騒いだら、気のせいだの集中しろだの偉そうな教官は全然相手にしてくれないし……っ!! アニキも自分の事で手が一杯みたいな感じだし! ――こんなの…………こんなの付き合ってられないわよっ!!」


 妖精だって言ってるのに、知らないはずの事をつらつらと……。

 そうか、あのイケメン君はお兄さんだったのか。

 って――それより、あのくそマッチョ野郎……セクハラまでする非道な奴だったのかよ!! マジで許せない……!!


「もう……こんなの嫌! 耐えられない!

 元に戻してよ! 誰かなんとかしてよ……!!」


 彼女の泣きながらの本音が何故か心に刺さる。


 俺は大人なのに、彼女たちを放っておいてまだ動きだせずにいる。早く元の世界に戻さないといけないのに、俺はなにをぐずぐずしているんだ……!!

 俺は……一刻も早く先を見据えなければいけなかったんだ!!


(――きっと僕が何とかしてみせる)

「――へ?」

(だけどごめん、直ぐにはできない。

 けれど、きっと君たちを僕が救ってみせるから。きっと元の世界に戻してあげるから。それまで待ってて)


 不甲斐なさに力の無い言葉がうちから出てきた。


 これは、俺自身への戒めだ。

 俺が皆を元の世界に戻してみせる、それから目を背けることがないように!

 できないことはないはずだ、この世界には魔法だってあるんだから!!


「あなた、誰? 本当に妖精なの?」

(君が自分でセクハラから守れるように魔法を教えてあげるよ)

「え?」

(まずは……そうだな、こんなのはどうだい?)


 俺は、ひとまずできることから始めようと彼女に今の環境でも過ごせるように魔法を教えることにした。

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