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2.ここでも社畜かよ

 俺たちに選択権はないように前の人から魔法適正というのを視る為に案内される。

 少しすると、俺たちを観察すべく外から好奇心のある騎士たちも五人ほど二手に別れて入ってきた。

 そんな彼等の嫌な話が耳に入ってくる。


「あいつ等か? ベリアルテスタを誘導して呼び寄せた異世界人ってのは……」

「おい、聞こえるぞ!」


 そうだよ、聞こえてるよぉ~……そういう事だったんだぁ……。


 なんとなく気付いていた手前、悪い顔になって後ろの話に聞き入った。


「大丈夫だって。あいつ等、俺たちの言葉が判らないらしいぜ。

 だからああやって通訳付けてんだ。それに、そもそも話が聞こえてたって行き場の無いあいつ等がどうこうできやしないさ」

「……そうなのか」

「しかし、あいつ等が本当にこれから俺等に混ざって訓練して国の戦力になれんのかね?」

「だが異世界人は皆、こちらの世界では多大な戦力になるという話だろう?」

「しかし、その噂もかなり昔のものだぞ? すたれたその話にどれだけの信憑性があるというんだ!?」

「それは――いまから判るだろ」



 前へと意識を戻すと、早速イケメン君が大きい水晶の前に立って水晶に手で触れる。


「さぁ行くよぉ~!」


 幼い号令と共に右腕をあげるルーナ。

 すると、緑色の水晶は光り輝いて部屋中を緑色に染めた。イケメン君の手を中心に水晶の中で波紋が広がり、イケメン君を光が包み込んでいった。

 占いの演出にしては凝っており、魔法適正という言葉がやっと現実味を帯びてきた。

 異世界に来たというのは自覚できたけれど、まだ魔法というには実感がなかった。少しはこちらの世界のことを真面目にならきゃ死に目に遭うかもしれない。


「おぉ! キミ、すごいね! 英雄の才能を持ってるよ!

 魔法だけじゃなくて主に近接戦の戦闘能力がずば抜けてる! 勇者にでもなれるんじゃないかなぁ?」

「ほ、本当ですか……?」


 イケメン君は半信半疑なようで眉を顰める。彼の後ろのギャルの子も同じだった。

 しかし、俺はほとんど信じており、脱帽していた。


 ほぉ~……そういう感じ!

 こりゃあ俺のも楽しみだな! あいつが勇者なら、俺は賢者か何かかね?



 次々とルーナに視られていき、すごいすごいと褒めはやされていく。サクラも他の皆と同じく良かったようだった。

 そして、やっと最後の俺の番となる。

 わくわく半分、他の皆より低いのではないかという怖さ半分な心境でゆっくりと同じく水晶へと触れる。


 さてさてさて……どんな感じなんだい? 言ってみ?


 しかし、ルーナの反応は皆とは全然違った。


「え……嘘……」


 後退りながら表情が苦くなる。

 顔を台の下にいたリベアへと向けて小声でたずねに行く。


「こ、この人も本当に異世界人!? ルーナを試そうとしてんの!?」

「いいや? そんなはずはないが……?」


 リベアの微妙な反応で俺の不安がどんどん増していく。

 どうしたのか、と訊きたいが声が出ないから見守るしかない。冷や汗が体中に流れて息を呑む中、引きつった顔のルーナがこちらに近づいてくる。

 そして、申し訳なさそうに口を開いた。


「えっとぉ~……あはは…………キミ、普通の人と変わらないよ? 村人と同じ……くらい?」



 ……………………は?



 思わず思考が停止するが、声が出てもそこまで言うことはないだろう。疑問符以外何も浮かばない。


 俺、こっちでも変わらず社畜ってか!?

 姿は変われど、転職はできないってか――!!?


「紛れ者か」


 リベアの視線が怖くなって足が震え出す。

 何故か逃げなきゃいけないんじゃないかって衝動が頭に浮かんだ。

 後退りしながら逃げる策を考え始めると、背中が誰かに当たった。

 後ろを振り返ると、ケイサーが俺を見下ろしていた。

 反論することもできず、胸倉を掴まれる。


「キサマァ……さてはベリアルテスタの一員だな?

 異世界人に紛れれば逃れられると思ったのだろうが、残念だったな。能力がクズ同然では見切られて当然だ!」



 待て……! 誤解だ!



 叫んでも、届かない。



 俺は、れっきとした――


「リベア中将、これは貴女のミスですよ? ちゃんと連れて来る前に紛い物であると見切らないと」

「それはそれは……失敬」


 真顔で謝るリベアを見て、もう終わりだということを悟る。


 俺の声は、誰にも届かないんだ……。


「待ってください!」


 諦めかけた頃、サクラさんが勇気を振り絞るように叫んでいた。


 ああ……サクラさん、君はなんていい子なんだ……。


 少しの希望を抱きながら泣きながら喜んでいると――


「その人は――」

「どけ!」


 サクラさんの言葉を遮るように同じ異世界人の一人の大柄の男に倒される。


「っ――!」


 サクラさん、と叫ぼうとしたがやはり声は出ない。

 彼女を気にするあまり視線が向かなかったが、サクラさんを倒したゴツイ男が胸倉を掴まれている俺を押し倒してくる。


「ふっ、あと少しで俺たちを思い通りにできたんだろうが、そうはいかねぇ!

 俺様を騙そうとしたって無意味なんだよっ!! 精々死ぬときは、俺たちに巻き込もうとしたのを悔いるんだな!!」


 今まで静かだった彼がこの時初めて本性をあらわしたような気がした。

 人をおとしめるような顔つきで吐き捨てる言葉は俺の頭に頭痛を引き起こさせる。元の世界で体験した過去の出来事を呼び起こしたのだ。

 同僚なのに昇進するためなら俺を売り、自分のことなのに他人のせいにする下劣な人たち。あの罪を犯した瞬間の昂ったような表情は忘れられない。

 反抗しようとして威嚇しながら立ち上がろうとすれば、顔面を蹴られた。


「何しようとしてんだ!? テメェは雑魚ザコなんだよ、俺よか弱いテメェは――何をしようと無駄だァ!!」


 突っ伏した俺は、この少年にゲラゲラと気色の悪い笑みを浮かべながら足蹴にされていた。

 嫌な予感、不安な気持ち、色々なマイナスな考えが一気に俺へと押し寄せて来る。



 違うんだよ……。

 俺は、俺は違う……!

 ふざけんな……俺を犯人にするんじゃねえ……!!

 俺は、何もしちゃいない!!

 俺は、無罪だ――――――――ッッッ!!!



 俺の視界に最後に映ったのは、水晶の光を帯びながら遠くに呆然と座り込むサクラと俺を蹴ることを楽しむ同郷の少年、そして悦に入って見下ろすケイサーの顔だった。

 外界から目を閉ざすように俺は思考を停止させていった。



◇◇◇



 いつの間にか俺はどこか薄暗い牢の中で頭を抱えていた。

 どうやら現実逃避をしていたらしく、どうやってここまで来たのか記憶がない。

 ここは冷たい石の床と壁でできており、窓はガラスの代わりに柵で塞がれていて先に外が見えて風が吹き込んでいる。もう夜のようで月明かりがこの檻の中も照らしてくれていた。

 立ち上がって窓の外を眺めると、水平線が見えた。海が月光を反射している。


 ここから見ただけなら悪くない景色だ。

 けれど、恐らく今の俺は罪人扱い…………あの野郎、次会ったらぶん殴ってやる……!!

 つっても、俺はもう外には出られないじゃないか……?

 こんな景色でも名残惜しいと思うのはなぜだろうか……。

 俺、死ぬのかな?


 自然と涙が目から零れてくる。もはや拭うという仕草さえ意味のないものと思えた。


「あらあらあら……泣き虫だね」


 突如歔欷(きょき)する俺の息遣いの間に母性溢れる声が聞こえてくる。

 咄嗟に振り向くと、牢の中にもう一人誰かがいた。赤い髪をした純白の外套がいとうを羽織るいとけない少女が壁に寄りかかって上目遣いでこちらを覗き込むように見ていた。


 誰だ……?


「わたしは――うーん…………マミでいいよ」


 何か考え込むようにしてから名前を言う。疑心暗鬼に陥ったのだろうか、どうしても偽名に思えてしまう。

 しかし、俺も元会社員。とりあえず生徒手帳を見せようとした。


「あ、いいよ。名前なら知ってるし」


 え……? あ! サクラさんに訊いたのか。


「いいえ、わたしは初めからあなたを知っているのよ高野史哉たかのふみやさん」


 はえ!? 俺の元の世界の名前だ!

 ていうか、こいつ……俺の考えていることが――


「ええ、判るわ」


 一気に背筋が凍えるような気持ちになり、後退る。

 こんなことができるのは、神か仏しかないと思った。


「まずは謝罪するわね。

 あなた、高野史哉は本来こちらの世界に連れてこられるべき人間じゃなかったのよ。ただの魂だけとしてもね」


 魂だけ……そうか! やっぱりこの体には別の……この子の魂がいたのか!

 うん? 待てよ……てことは、俺が無理矢理この体に入ったってこと!?


「いいえ、このわたしがその体にあなたの魂を入れたのよ!」


 …………お、おぅ……? つまり……俺は死んだけど、本来天国へ行くところをこの体に入れられたと?


「正確には、この体の魂がこちらの世界に来る過程で異世界転移に耐えられなくて死んでしまうから、丁度よく近くで気絶してくれたあなたの魂を代わりに入れたの」


 お茶目な笑みを見せながら説かれるも、よく判らなかった。


 つまり、俺は巻き込まれたってこと――だよな?


「はい……」


 マミは、気まずくなってそっぽを向く。罪悪感から目も合わせられないようだ。


 おい……!


「すみません……」


 口を歪ませ適当に言い放たれるも、まだ許せる気はしない。


 お前、この世界から俺を出せるよな……?


「それはできないんですね~できないよね~」


 おいお前、許して欲しいと思ってんのか?


 少女の容姿にかこつけて許してもらおうとしているんだろうが、まったくそんなの気にしない。

 苛立ちが顔に表れ、笑っているのにもはや笑みに見えないだろう。


「まぁまぁ……そんなことより、わたしが現れたことでやっとあなたにも能力が目覚めたと思うよ?」


 ……本当か?


 脅すようににじり寄れば、マミは背中から手鏡を出して見せてきた。

 丁度良く月明かりも射していて俺自身の異変に気が付く。


 あ……髪が……。


 髪の色が旋毛つむじ当たりから黒から鮮やかな碧へと色を変えていった。


 す、すごい…………けど、だからなんなんだよ……?


 呆けた顔で訊ねると、マミは「よくぞ聞いてくれました!」とでも言わんばかりに得意気に立ち上がって胸を張る。


「今、あなたには二人分の異世界人としての力が宿っているんだよっ!

 ステータスももちろん二人ぶん! つまり、今のあなたは一緒に来たどの異世界人よりも強いと断言できるっ!!」


 いや、そういうのはいいんで。とりあえず、ここから出して話せるようにしてください。


「えー…………もうちょっとさーぁ……喜ぶとかわくわくとか、色々あるじゃん!」


 何故か壁に向かっていじけ始める。

 流石に気が利かなかったかと思い、俺はやり直そうと努力を試みる。


 あ……す、すごい! オイラワクワクすっぞ……! あはははは……。


「これだから三十路一直線の年代は……」


 おい、聞こえてるからな……?


 どうにも反省の色が見られない。それどころか小声で嫌味を言う始末。

 何か偉い風に物事を語っているけれど、こいつさては全然偉くないな?


「失敬な! わたしはこれでも――」


 大人の威厳を保つため、行動に移す。

 俺は、マミの両頬を引っ張った。


「にゃ、にゃにしゅりゅのよぉ~! わはひわふぇっひほひは……ふぉうひゃめへほほをひっはらはいで!

 (何するのよー! わたしはれっきとした……やめて頬を引っ張らないで!)」


 面白いくらいに顔が変化するのが面白く、またその柔らかさからいつまでもこうやっていられる気がした。

 流石にやりすぎたかというところでやめてあげると、マミの頬は赤くなっていた。


「ひ……ひはいははい……!

 (い……いたいじゃない……!)」


 涙目で睨めつけてくるのを愛想笑いしてグッドのポーズと取る。正直何を言っているかは判らなかった。



 暫くしてマミがちゃんと喋れるようになると、今度は遊びなしに正座して向かい合いながら説明を続けてくれた。


「まずは、話せるようにはならないと思う」


 は!? これ、デフォルトなの!?


「いいえ、その体の少年はちゃんと話ができていたから。あなたが口がきけないのは、こちらに来るにあたって色々弄ってしまったからだと思う! うん!」


 マミが誇らしげであるのが意味不明で一度頭部にチョップを下ろす。


「痛い!」


 結局お前のせいじゃないか!

 そう言うと、マミは涙目を戻し腕を組んで構える。


「安心して、完全に話せないというわけじゃないと思うから!」


 思うってことは確実じゃないんだろ……?


「勿論!」


 再び胸を張るのを見て、今度はマミの左頬を抓る。


「だからひたいって!」


 ギャグか!? ギャグがしたいのか!? いちいち無い胸張るな!


「胸くらいあるわよ! こうドーン…………うぅ……」


 マミの声が小さくなり、目が潤んでくる。

 流石に可愛そうになって俺も両手を合わせて「すまん」のポーズ。


「あるもん……あるもん……!」


 それはいいから、どうやったら話せるようになるんだ?


「あるもん……」


 どうやらかなり引きづっているらしい。禁句レベルで話を聞いてくれなくなってしまった。

 仕方がない慰めてあげよう。


 ほら、お前まだおこちゃまだし、そのうちお前の言うようにどーんと……。


 我ながら何をこっぱずかしいことを言っているのだろうか。羞恥心で俺まで顔が赤くなってしまう。


「そう……そうよ! いずれドーンよ!」


 あ、はい……。だから、どうやったら俺は話せるようになるんですかね?


「ズバリ、魔力が高まればね! 基本、異世界転移も魔力関係だから魔力が高まれば話せるようになるはず! たぶん!」


 あ……そですか。


 魔力と言われても、まだなんのこっちゃ判らんので一旦置いておくことにする。

 会社員としてのスイッチの速さがここで効いてきた。


「まぁ、あなたはテレパスが使えるから喋れなくても魔力を使えば普通に話せるよ! テレパスなら任意の人たち以外に聞かれることはないから安心だしね!」


 なんとなくムカつくが、とりあえず今のは罰は無しでいいだろう。


 それで、ここからはどうやって出ればいいんだ?


「もうすぐあなたを出す為に人が来るからその人を待てばいいよ!」


 は? お前が出してくれるんじゃないの!?


「わたしはあまり手を貸せないんだ、勘弁してくれい!」


 またおふざけなようで時代劇風に話すのを頬を抓りたくなるもなんとか堪えた。


 じゃあせめて魔法を教えてくれよ。


「それは――………それも、これから来る助けの人に聞いてくれい!」


 あ!? これもかよ!?


「悪いな、少年。あとは好きに生きてこちらの世界を謳歌おうかしてくれい!」


 そう言うと、マミは立ち上がって 牢屋の柵を透き通って出ていってしまった。


 おい、ちょ……待てよ! おいマミ!


 呼び止めようと心の中で叫ぶも牢の中は、俺が握る柵の鉄音しかしなかった。

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