第二十九界:筋トレ
久しぶりですいません。
「さあ、朝だ朝だー! みんな、さっさと起きろー!!」
ガンガンガン、という鍋をおたまで叩く音といつも通りのうるさいその声が耳に入り、意識が覚醒し始める。
激しい眠気に抗い、必死で布団を蹴り飛ばす。
「起きた! 起きたから静かにしてーー!」
「おう、今日は早いな獅子屋! ここでの生活にも、ようやく適応してきたかーい?」
「そりゃ、毎日こんなことされたら嫌でも慣れるわ!!」
蛇を黙らせ、完全に目が覚める。
口元に着いたヨダレを拭い、トイレに向かう。
ジョッと一気に放出した後、洗面所で三回うがいをする。朝、口の中がざらざらするこの感覚。それを取り除くためのうがいをしたらコップに口を付けた部分がべトっとするのが最近の悩みだ。
顔を洗って、鏡で見た自分の顔は疲れ切っていた。
寝巻から、運動用のジャージに着替える。
スリッパからシューズに履き替える。
ドアを開けて、いざ食堂へ。
「よ! なんだ辛気臭い面して」
「別に辛気臭くはないですよ……。ただ、身体的疲労がきちゃって」
「昨日のメニューがこたえたか~?」
肩を組んできたので、猫さんにに少し体重を預けた。入社してから一か月。寮で僕は、この先輩幹部と一緒にいることが多い。
「さあ、今日のおかずは何かなー?」
「鮭があればいいですね。前食べた、味付けのりも久しぶりに食べたいです」
何気ない会話をしながら、食堂にたどり着いた。今日はちょっと早く着いたようで、300人が入れるその部屋の中には、まだ10人もいなかった。もうちょう遅い時間になると満席になるほど混んでくるので、今日はラッキーだ。
まあ、僕たちの立場的に平社員の席は実質僕たちの席みたいなとこあるけど。少し見るだけで、音速で譲ってくれるんだ。
「いこーぜ」
お盆を取り、配膳台の上をスライドさせながらおばちゃんに盛ってもらう。
「おっ! 今日納豆あるんすか! いえい」
「獅子屋ちゃん、最近トレーニング頑張ってるって聞いたよ。精進してねってことではい、ごはん大盛サービス」
「ありがとうございまーーす!」
心からのお礼を言って、入口からできるだけ遠い席に着く。
おばちゃんとも、少しずつ話せるようになってきた。こういうサービスされるのは初めてだから、結構嬉しい。
入口から遠い席に座り、一息つく。
「獅子屋も、馴染めてきたな」
納豆をかき混ぜながら、猫は言った。
確かに、自分でもそれは実感している。そりゃ一か月同じ生活を続ければみんな同じようになるかもしれないが、何というか、ここは居心地がいい。
「おうお前ら、ここいいか?」
ここで、突然のゲストだ。「ここいいか?」の答えを聞く前に既に、猫さんの隣である僕の右前に腰を下ろしていた。
「八雲さん。もちろんです、どうぞ」
「よっこいせ」
短めのくせ毛がかっこいい、幹部の八雲先輩。この人も、入社したての僕に親切にしてくれた人の一人だ。ちなみに、納豆とご飯を混ぜてから食べるタイプ。そこだけはちょっと理解できないが、それ以外は頼れる兄さんって感じだ。
「そういやお前ら、聞いたか? あの話」
「何のこと、八雲」
「猫でも知らねえか。こりゃあ、結構機密情報だったんじゃねえのか? ……蛇がよ、昨日副社長と象牙が話してるのを聞いたらしいんだ。んでその内容ってのが、次のデカい仕事についてでよ」
「おっ、ようやくか。かなり久々だから、腕がなまってねえといいけどな。つか、獅子屋は初めての仕事になるんだよな」
「はい、一応そうなりますね」
――カモメ組の社員は、基本的に仕事は自分で見つけることになっている。そりゃ犯罪者ばっかが集まってできた会社なんだ、やっていることは大体犯罪。犯罪っつっても、窃盗、空き巣、詐欺などなど、かつてみんながしてきた罪にくらべりゃ小物臭が漂うようなものばっかりだけどね。
なら、別にカモメ組じゃなくてもいいじゃないかなんて思うだろうけど。
ここの社員は、捕まっても絶対に裁判までいかない。
一応国の組織だからな。そういうとこに根回しはいってるっぽい。
ただ、一回捕まった社員にはペナルティが課せられる。
三年以内にまた捕まったら、クビ確定というものだ。その場合、助けてはもらえるものの、もうそれ以上カモメ組は干渉しないらしい。
だから、社員たちは常に緊張感をもちながら仕事を行っている。
いつ捕まるか、クビになるか分からない綱渡りを強いられるんだ。
おー、こわいこわい。
僕だったらそんなのやだね。
でも、ここで朗報。
幹部は、そんな小っちゃい仕事しなくても給料がもらえるんだなこれが。
だから幹部は普段、筋トレしかしてない。
で唯一の仕事が、時々ある国からの依頼。
いらない情報を掴んだブンヤの暗殺などの比較的簡単なものと違い、組織単位の規模が大きい作戦には、幹部たちが参加することになる。
実力が伴わない幹部などいない。
大体の場合は、五人くらいの幹部が参加するという。
「初仕事かあ~。俺も初めての幹部としての仕事のときは緊張したけど……お前、大規模作戦に参加することさえ初めてなんだろ? こりゃ、緊張も緊張だな、ははは」
八雲先輩は、納豆ご飯をかきこみながら呑気にそんなことを言う。
笑いごとじゃないっての。
◇◇◇
朝飯を食い終わり、休憩室でニュースをみながら一息ついた後は。
「くっ……うおおおお」
「がんばれ獅子屋! お前ならできる! 絞り出すんだあー!」
「む、無理だああ」
「どうしてそこで諦めるんだ! 気合だ!! できるできる絶対できる!!」
「獅子屋、頑張れ頑張れ」
「八雲先輩、猫さん……! うおお、うおおおおおっ」
皆大好き筋トレタイムだ。
僕は、ベンチプレスなる奇妙な器械に横たわり、バーベルと呼ばれる石を、腕で持ち上げようと奮闘している。
「くううがあああっ」
ご存じの通り、僕の筋力はからっきしだ。そんな僕にとってこの筋トレという作業はかなり苦痛である。その中でも、僕はこのメニューが苦手だ。大胸筋とかいうところを鍛えられるそうだが、やってると息苦しくなってくる。
「ううう……おらああっっ!!」
「おーー! よくやったぞ獅子屋!!」
「すごいすごい。未経験者のベンチプレスの重量の平均が45キロくらいなのに対して獅子屋が今必死で持ち上げてたのは25キロぴったりの子供用みたいなのだけど、それでもすごいよ」
「猫さん。せっかくやっと成功して喜んでたのに、テンション下がること言わないでくださいよ……」
とにかく、僕は成し遂げた。
入社から一か月。毎日ベンチプレスをやり続けて、最初のバーベルが微動だにしない状態から、かなり成長した。それだけで満足だ。
「うし。十分休憩したら、ランニングマシン行くぞ」
「おっけー」
「え~。もう疲れましたよぉ」
僕たちは三人横並びでランニングマシンに乗り、走り始める。
少しずつスピードを上げていき、早くなってきたら固定して、その状態で三十分。息が切れてきて、苦しい。ベンチプレスも苦手だけど、これはもっと苦手。いや、大嫌いである。
はあ、はあ。横っ腹が痛い。畜生疲れた。もう休みたい水飲みたい。
……ああ、魔法使いてえ~。支援魔法さえ使えれば、自分に永遠に[体力回復]かけながら悠々自適に走れるのに。それどころか、走ってるふりしながら[重力操作]してずるできるのに。
でもなああ、調理済みの肉じゃ魔力得られないんだよ。生肉じゃないといけないっていうこのめんどくさいシステム、何とかなんねえのかよ?
まあそれに、あんま目立ったことすると魔法のことがばれるかもだしな。
しゃあないか。
僕には、大人しくこうやって横っ腹を押さえながら心の中で悶絶するしか道がないんだ。
「はあ、はあ。ところで八雲、さっき言ってた仕事って、内容とか分かるのか?」
「あぁ。蛇によると、なんか今度はインドを敵に回すことになるらしいぜ」
「ぶっ」
猫さんが、走りながら吹き出した。そしてそのままランニングマシンを降り、絶句して座り込む。そして一言、ぽつりと漏らした。
いや、サボんないでくださいよ。
「それ…………本当か?」
「さあな。蛇が言ったことだし、正直半々ってとこだ。あいつは、どこか抜けてるとこがあるからな」
八雲さんはそこで言葉を切り、顔にびっしょりかいた汗をTしゃつでぬぐった。見ると、機械の「速さ」のゲージがマックスだ。
タイマーが鳴って、三台のランニングマシンが停止する。マシンを降りた後、脚が勝手に前に進んでいく感じがして立ってられない。僕は倒れこみ、必死で酸素を取り込む。息が上がって、何もしゃべれない。
あー、きっつ。
あー、しんど。
「ただ、これだけは言えるだろうよ。日本って国は、大バカだ」
26000字の短編を投稿しました!
普段の「判決、異界流し」が大体4000字くらいなので、六話分くらいですかね。実は、二週間くらいずっとこれを書いてたので投稿ができませんでした。
結構よくかけたかなと思います。
「[モアイ]に進化できずに村から追放された転生石ころ、実は硬度カンスト・無限種族適性の[朧石]でした~クソ族長め、今更媚びを売ってきてももう遅い。俺はこの森の王となり、お前らモアイ族を虐げる~」です。
このあとがきの下の「作者マイページ」から入ってみてください。
ブクマ、星五よろしくお願いします!




