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判決、異界流し。  作者: ポク塚
二章 電撃入社事変
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第二十八界:小さな部屋

久しぶりの本編だけど、やっぱこっちの方が筆進むわー。書いてて楽しいもん。


あと今更だけど、3500pvありがとうございます! もうちょいで100ポイントに到達するので、今ブクマしてくれてる方は星五をぜひともよろしく!!

 幹部テストで虎をボコした後、僕はひとまず休んでいいことになった。


 『なあ、握手してくれよ!』


 『お前、さっき何したんだよ!?』


 ……なーんて話しかけてくるミーハーな奴らもいたが、猫さんがキッと睨んだ途端にそそくさと去っていった。


 あの背中みてると、幹部っていう立場やっぱり強いんだなっていうね。


 それと見た感じ猫さん、多分けっこう強い。戦闘力的な意味で強い。

 さっき虎の首を掻っ切ったときにもそれは分かったけど、やっぱりなんていうかあれだわ。


 周りからの反応って言うのは、何よりその人の人柄や本質を捉えてるってこと。

 こんなこと言ってたら「見た目で判断するな」なんてまた親父から叱られそうだけど、でもあの強キャラ感は見ればわかるだろってもんよ。


 今ここに案内されるまでの道のりでまあまあの人数の社員と会ったけど、その誰もがこっちを認識した瞬間、すっごい勢いで会釈してんだもん。


 「こ、こんちわぁっす!!」みたく萎縮しまくりで、おもわずこっちも緊張しちゃったぜ。


 もちろんそういうの僕にじゃなく、ぜんぶ猫さんに向かってなんだけどさ。……そりゃ僕のことなんて知らないだろうから仕方ないけど。

 だって、ほんの数時間前に初めてここに来て、そのまま成り行きで幹部になっちゃってんだもん。


 それに、想像すらできないでしょ。


 こんな弱そうなやつに、実は自分は瞬殺され得るなんてさ。


 あ、そういえば。

 長々と語ってたけどここ、僕専用の部屋ね。


 そして僕は今、ふっかふかベッドに座って疲労回復中。


 親指で押したらするっと吸い込まれ、離すとゆっくり元の形に戻る低反発素材。

 ほのかに太陽の匂いがするシーツ。

 

 「そしてこの、至高のふわふわ羽毛布団!」


 僕は改めて、もう何度目かも分からない飛び込みを行う。


 っくはあ~。気持ちいよお。


 「何だ!? 起き上がれない……そうか!! このベッドは、魔力を持っていりゅ~」


 ふへえ。


 はいはいはい、天国なんですわぁ。


 よし話を戻すか。


 猫は、僕をここに案内した後は隣の部屋に入っていった。幹部の部屋は、ここらへんで固まってるってことで良さそうだ。


 しかしここ、意外と広いよな。

 まずこの部屋がそれなりに広いし、それに通路の長さよ。


 地下だよな? って疑うくらい複雑なつくりで、もうすでに今、自分がどこにいるのかが分かんない。


 さっき通ったとこではたくさん社員の人いたから、きっとあっちが幹部以外の人の寮なんだと思う。


 んで、僕は今、猛烈に会いたい人物がいる。


 恋愛感情をもっているみたいな言い方になっちゃったけどそんな意図は決してない。


 これまで、一緒に行動してきた人物。

 そして、僕の『獅子屋』について黙ってて、結果的に幹部テストをいきなり受けさせやがった人物。


 …………。

 いやあいつホントにふざけんなよ。


 守屋には話したい事だらけだ。

 これから僕はどうすればいいのかってのもそうだけど、とにかくまずは名前の件について問い詰めてやんねえと。


 「ふあぁあ……」


 おっとっと。

 さてここらで、寝るとすっかな。

 

 あくびがでるってことはすなわち眠いってこと。

 行雲流水。

 自然のままにアーメン。


 おやすみおやすみ~。


 *


 暗い部屋。


 の、中に置かれている一つの机の上には、乱雑に書類等が積み上げられている。

 持ち主の性格が表れていると言ってもいいだろう。


 しかしその書類の中身から考えると、そのように乱雑に扱っていいものなど一つもない。

 ほぼ、国家機密レベルで、言ってしまえば政府の不祥事だ。


 政府がお抱え暴力団に殺しやテロの依頼を行っているなどという事実が外に漏れでもすれば、ただちにこの国はおしまいなのである。


 そんな書類が適当においてあるあたり、ここが普通の部屋ではないことは明白だろう。


 その瞬間ぱっと明かりがつき、部屋の隅にいた大男の姿が照らし出される。


 「社長」


 ノックもせずに社長室に入ってきたんのは副社長のイグマだ。

 隅でうずくまって寝ていた熊谷は彼をぎろりと睨む。しかしイグマはそのことを悪びれもせずに言う。


 「あいつ、何なんだネエ?」


 「はあ……」


 熊谷は頭を抱える。


 彼もそのことは、新たな、そして大きな悩みとして捉えており頭を痛くしている。イグマにわざわざ言われなくても、ずっと気にしているのである。


 「あえて口にしますけどネエ、奴は何かがおかしいネ。特に、最後の逆転劇」


 「どこがおかしいと感じた」


 「とぼけないでくださいネエ! 銃で首を撃たれて死なないやつを、社長は見たことあるのかネエ!?」


 「あれは、寸前で避けて……」


 「だからそれが間違ってるのネエ! 確かに守屋はあの後そう説明してたけど、あいつは新入りだ! 信用なんてできやしない」


 「そんなこと分かってる。――俺がそんなのに騙されているはずないだろう、イグマ」


 熊谷はイグマに拳銃を向ける。


 しかしそのイグマは微動だにせず、まっすぐに熊谷の目を見つめている。熊谷が普段持ち歩いている銃には、弾が入っていないことを知っているのだ。


 「もし俺が奴にこうしても、お前と同じような反応しかしないんだろうな」


 「分かってるんなら! 早く奴を何とかしないとネエ!!」


 「では聞くが、どうやって?」


 「どう、って。そりゃあ、後ろから」


 「れると思うか?」


 イグマは口をつぐむ。自分がいかに安易な発言をしたかに気かついたのだ。そして頭を抱える。今まで出会ったこともない厄介な存在の顔を思い浮かべて。


 「だから、貴様はいつまでたってもダメなんだ。ろくに詳しいことも考えずに、思い付きでものを言う。それにあれを覚えているか? 最後に元木が、やられていたやつだ」


 「虎が、最後に這いつくばっていたやつだネエ。守屋は、獅子屋は催眠術が使えるんだよなんてほざいていたけど……催眠術で、元木、いや虎があんなにやられるのかネエ?」


 「……二代目虎になりたてとはいえ、あいつはここにきて10年を超えるベテランだった。大体の犯罪者は、ここにきて五年くらいで死ぬか出ていく。しかしあいつはそんなふうになりそうなこと、一度もなかったし俺に従順だった。だから、虎の埋め合わせに指名してやったというのに……」


 「とどめを刺したのは、猫だネエ」


 そこで熊谷は、かすかに笑った。

 

 「猫も、憐れなやつだ。考えてみればあいつは、むしろ獅子屋以上に元木のことを殺したかったかもしれないな」


 「隙を狙ってたってことかネエ? おぉ、こわい! かたき討ちなんかに、そんなに燃えちゃって」


 「どうやら猫の奴、自ら獅子屋の指導係を申し出たらしいな」


 「そのようだネエ。厄介な奴と、さらに厄介なやつがくっつくことになるとはこれまた厄介」


 「猫も、あの件以降俺たちをよく思っていないからな。ここらへんが、潮時か?」


 「虎も始末したことだし、それもいいかもだネエ。今回は何人、リセットするのかネエ?」


 「そうだな。とりあえず今回も、発足時からいるあいつらは除外。まあ、詳しい調整はおいおい考えていけばいいだろう。次の任務で、猫と獅子屋を殺すぞ」


 「社長。守屋はどうするネエ? あいつ、獅子屋と仲良さそうだから、俺たちが殺したと知ったら……」


 「確かに守屋は危険だ。……しかしあいつが、そんなまともな情を持ってると思うか?」


 「守屋がここに来た理由を聞いたとき、私はすぐにでもその場を逃げ出したかったネエ。あんな異常者と一緒にいれば、自分に何をされるか分からないから」


 「ならいいじゃないか。守屋には、人を想う感情なんてあるはずがない。しかしだからこそ、使える」


 熊谷は、山のように積み重なった書類から一つの束を抜き取り、それをみて笑みを浮かべる。一枚目の題に『ヘリウム3摘出に関する研究データの奪取計画の依頼書』と書かれたその書類は、すでに何人もの手汗でくしゃくしゃになっていた。


 イグマはそれを初めて見るようで、題を確認した瞬間に目を見開き、絶句した。


 「日本ってのは、どれだけ危ない橋を渡る気だネエ……」


 「政府にこれごと突き返すつもりだったがな、気が変わった。獅子屋という未知数の存在がいれば、成功の可能性はある。こいつに三人を参加させ、任務も、始末もここで済ます」


 「守屋に仕事させる、ってことかネエ?」


 「あぁ。守屋ならまさか死ぬこともないだろう。それに、インド側の警備がどれだけのものかは分からないが、確実に猫も獅子屋もダメージを負う。そんな中獅子屋は、特に信頼してる仲間の裏切りなんて警戒できると思うか……?」


 「社長、悪いネエ」


 「そんなの、わかりきったことだろう」


 二人の、静かで邪悪な笑い声が部屋に響く。


 熊谷は、机の隣の棚から社員名簿を取り出し、そして『猫|逢坂裕二』のページに赤ペンで大きくバツを付けた。

 そして思い出したかのように前のページをめくると、これまた大きなバツが書かれた『虎|逢坂宗司』の名前を見つけ、また笑い始める。


 そしてそのまま、そのページを破り捨てた。

 イグマはそんな熊谷を見て、さらに大きく笑った。


 「ヘリウム3摘出に関する研究データの奪取計画」。

 この小さな部屋でこの数分間で、何人もの社員の、またこの国の運命が確定した。


 そのことを知っているのはイグマ、熊谷、


 「……社長。いや、熊谷、イグマ。貴様らの思い通りになんかなると思ったら大間違いだぜ」


 そして、部屋の外の暗い廊下で座り込み、聞き耳を立てていた一人の男のみである。


 男はすっと立ち上がり、もと来た方向に駆ける。

 オレンジ色の短髪が、闇の中で光った。


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