10話 支援魔法
某お笑いコンビをテーマにした曲と、それのMADばっか見てる。
めちゃめちゃエモーショナル。
「よし。じゃあ早速、初級一次魔法の練習から始めるか」
ええ?
な、な、何て言った? 初級? 一次?
聞き慣れない単語の羅列が、おれの耳を襲った。
「ど、どういうことですか?」
おれが訊こうとしたことを、ユーリが先に質問した。
レオさんは、ちょっと困ったような顔になって、
「あー。もしかして、そういうのも全部知らない感じ?」
「わかんないです! そもそも、魔法自体こないだ初めて見て」
「な、なるほろなるほろ。じゃあ、一から説明するから。耳かっぽじれ」
レオさんは、また胡坐をかいて話し始めた。
「えーっと。まずこの世界には、『魔力』というものが空気中にあります。そんで、さっきお前たちがやったみたく、それらをカラダに取り入れて」
レオさんは、何でもなさげに魔力を掌に集め、そして前方に光を放出した。
「うわっ!」
その光はさきほどから少し弱くなってきていた篝火に飛び込み、見るまにその火は大きくなった。
「……こんなふうに圧縮し、放出するのが魔法。ちなみにいましたのは、初級火魔法[種火]だね」
「あ、あのー。その、初級とか、さっき言ってた一次とかは?」
「ああ。それは、簡単に言うとその魔法の強さ的なものかな。例えば火系統の魔法だと、『一次』が火魔法、『二次』が業火魔法で、一番強い『三次』が絶火魔法っていう感じ。んで、それぞれに初級と中級と上級のレベルがあるっていう」
ふーん?
わかったような、分からないような……。
と、とにかく、魔法には九段階の強さがあるってことでよさそうだ。
「その、『絶火魔法』ってのが一番強い魔法ってことでいいんですか?」
ユーリは興味津々だ。
前のめりになって質問している。
「いや、そういう訳でも……まあ、そんなことはまだ知らなくてもいい。とにかく、初級魔法だ。さあやるぞー!」
「え、えー……」
うまい具合に話をそらされたユーリは不満そうに首を上に向けたが、すぐに立ち直って「で、どうすればいいんですか!?」と質問している。
激しいな、感情の上がり下がりが。
……おれには、ちょっとだけ無理してるように見えなくもないけど。
「って言っても、二人とも魔法の種類は全然違うんよね。まずユーリの支援魔法だけど、これは攻撃魔法と違って、ちょい特殊でさ。魔法の種類が五種類しかないんだ」
「いきなり、例外出てきた……」
「は、ハズレってこと……?」
レオさんは、大きく首を横に振った。
手も激しく振って、「ないない」と笑っている。
「そもそも、支援魔法の適性があるやつ自体珍しいからな。ハズレなんかじゃない、むしろラッキーだ」
「そ、そうなの! ところでそれって、どのくらいレアなの……?」
「ん-、二十人に一人くらい?」
結構レアなんだな。すごいじゃんユーリ。
じゃあ、おれのはどうなんだろ。
えーっと、火魔法。
うん、「火魔法」ってかっこいいし強そうだし、さぞレアに違いないな!!
「あ、ちなみに火魔法はスタンダードだよ。五人に一人くらいいる」
「ふ、ふーん? まあ、そんくらいかなとは思ってた」
おれは必死で誤魔化した。
「さて、まず支援魔法からね」
レオさんは、五つの支援魔法を順に紹介し始めた。
まず、[帯魔]。これはもうすでに知ってた。レオさんが、おれたちのことをハゲの水魔法から守ってくれた魔法だ。
レオさんはおれの背中に手をかざして[帯魔]をかけ、その後すぐに殴った。
「あいってえ!? いきなり何を……ん? 痛くねえ」
「はは、びっくりしたか?」
レオさんが笑ってるから、おれもつられて笑っちゃったけど。
突然殴っておいてそりゃないよ。
気分的には痛いので、おれは思わず自分の背中を押さえてさすった。
レオさんは、「そういうのいーから」とクスクス笑った。
ひでえよぉー。
次に、[体力増進]。
これは初めて聞く魔法だった。
レオさんはまたしてもおれに手をかざし、何かをした。
というのも、された時にはまだ何をされたのかが分かんねえんだ。
「ちょっと、走ってみてよ」
そう言われたので、理由は特に考えずにドアまで走る。
十秒くらいかかってたどり着き、振り返る。
「こうですか?」
「あー、いや違くて。もっと本気でよ」
そう言われたので、次はレオさんの元まで本気で走ってみる。
「よっ……え? え?」
スタートダッシュは意外とうまくいった、なんて思った次の瞬間。
すっごい、風を、切った。
おれの足は、意識よりもずっと加速した。
まるで後ろから誰かに押されているみたいだ。顔の川がびろびろ伸びきり、呼吸困難に陥る。
「うおーっ!! っとっと」
結局、レオさんの目の前でギリギリブレーキをかけるまでにかかった時間は、体感で五秒を切ってる。
なにこれすごい。
めちゃめちゃめちゃ速くなってる。
「す、すごいよカナデ! そんなに速く走れただなんて知らなかった!!」
キラキラした目でユーリがこっちを見てるけど、多分違う。
というか絶対違う。
魔法の力に決まってる。
「……どう? 速かったでしょ」
「……は、はや……はあ、はあ……ひいー、ふう……」
返答しようとして、ようやく自分の今の状態が分かった。
話せない。声が出せない。灰が圧迫されていて、死ぬほど苦しい。
おれは、えぐいくらい息切れしている。
はあ、はあ。
今までに感じたことないくらいの疲労。
思わず、膝を着き。
そのままうつぶせで倒れこんでしまった。
「ひいー……ふひー……」
やべえ。これやばい。
汗が全身から吹き出てきた。体中、特に太ももがはちきれそうだ。
あ、暑い……。
くらくらする……。
「だ、大丈夫……? ねえねえ、カナデかなりやばそうなんだけど……レオさん……」
動けねえ……。
はあ、はあ……。
「[体力回復]」
その時、レオさんはまた何かした。
おれに向けて光を放ってる。
「レオさん、何を……って、あれえ?」
あんなにひどかった息切れがすっかり止まっている。
それで、簡単に声を出すことができた。
「はは、びっくりした? これは三つ目の支援魔法[体力回復]。今みたいに息切れした人を、元の状態に戻すことができるんだ」
「す、すげえ」
「へえ」
「でも、気を付けないとなのは、これは回復魔法の[再生]とは全く別物だってこと」
なんて?
回復魔法? [再生]? 出てきた情報が多すぎて、頭がパンクしそうだ。
「詳しく言うと、[体力回復]はスタミナ回復だから一時的なもので、[再生]はちぎれた腕をくっつけたりとかの医療系だってこと。だからズタズタになった兵士にこれをかけても、息切れとか筋肉痛が収まるだけで、本質的にはなんにも変わってないから」
いや[体力回復]、よわくね?
「あいや……これだけ言うと[体力回復]が[再生]の下位互換みたいだけど。そうじゃなくて、むしろ逆。[体力回復]のほうが、戦場では重宝されるんだ。なんたって、満身創痍の兵士を何度もリサイクルできるんだからね」
何を言ってるんだ?
満身創痍の兵士を、って。
「リサイクル」。
そう言ったレオさんの顔は、とても冗談を言っているようには見えなかった。
ううん! ダメだダメだ!
こういう考え方も、生き抜くためにはきっと必要なんだ。
レオさんを疑うなんて、絶対にダメだ!
だって、レオさんは、おれたちを救ってくれた恩人なんだから。
「うん? カナデ、どうかした?」
「い、いや! 何も」
「そうか。じゃあ、次は[溶地]な。んじゃあぁ……ユーリ! 次は、お前が走ってみてくれ」
「オ、オレえ!? わ、わかりました……」
言われた通り、素直に走りだすユーリ。
そんなユーリを、レオさんはにやにやと、何かを企んでいるようなわっるい目で見ている。
「……くくく……ほいっ」
レオさんはユーリの足元に向かって、手を下から振った。
まるで、泥を軽くかけるかのようにさりげなく。
「ひゃあ!」
その途端、ユーリは不自然に立ち止まった。
そしてそれまでの勢いを急停止によって抑えきれず、ステンと転んだ。
「ど、どうしたユーリ!?」
「はははは、どう? [溶地]のお味は……。動きにくいだろ?」
「な、なにこれええ……! ドロドロで、起き上がれない……」
ユーリの足元は、石でできているはずなのにドロドロに溶けていた。
ユーリは必死でそこから逃れようとしているが、うまく力を入れられていないようで、苦戦している。
「うーん……! はあ、はあ。やっと抜け出せ……」
「はい王手」
目にもとまらぬ速さで、レオさんはユーリに追いついた。
やっとのことでドロドロから抜け出し自由を得たユーリだが、目の前でレオさんに手をかざされ、固まっている。
「……ふっふっふー! 本来ならちょっと機動力を悪くするくらいの影響しかない[溶地]だけど、ボクにかかればこんなもんよー!!」
なるほど、こうやって使うのか。
支援魔法と聞いて、ちょっと弱そうだななんて思ったけど。
意外と、強そうだ。
「こ、こわいよお……」
ユーリは、レオさんに心から恐怖していた。
「あー、そんなに怖かった?」
「うう……うううー」
レオさんは少し悩んだ後、ユーリを思い切り抱きしめた。
「や、やめてよ」
「よし、これで安心したでしょ!! こわくない、こわくない!! はいおしまい、次いこう!!」
う、うらやましい。




