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判決、異界流し。  作者: ポク塚
二章 電撃入社事変
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第二十六界:幹部テスト

 初めての試みで、客観的な目線で戦闘を見せるためここだけ三人称で書きます。これからも、戦闘シーンなどでそうなることは多くなると思います。


 あと、2500PVありがとうございます! 嬉しいです!!


 「ルールは簡単。気絶、降参、または死亡した方が負けです。また、毎回説明していることですが、観戦者のケガ等についてはすべて自己責任とします」


 「説明はいいから、ちゃっちゃと始めろやー!」


 「……ふう。では、お二人とも、こちらを」


 汚いヤジにため息をついた審判の男は、獅子屋と虎のそれぞれに、一本ずつサバイバルナイフを手渡した。

 市販のものだが、簡単に人を殺すことができる代物である。


 「幹部テスト」では、このナイフを自由に使ってよいこととなっている。ただ、中にはそれを使わずにこのテストに合格するものもいて、使う使わないは結局のところ、本人の自由だ。


 「ふう……」


 このテストもとい殺し合いに緊張しているのは獅子屋だけではない。


 虎も、実はこのテストをするのは今回が初めてなのだ。


 彼は、テストによって幹部になったのではない。


 先代「虎」の人物が死亡し、幹部の席にひとつ空きができた時。彼は社長の熊谷潤に媚びを売ることで、実際の実力的にも繰り上がる形で幹部へと昇格したのである。


 そうして、十年以上の夢である幹部になることをやっとのことで達成した虎であったが、このテストで敗北すれば、これまでと同じ平社員に逆戻りとなる。


 さらにそうして堕ちたものは、二度と幹部テストを受けてはならないという暗黙の了解がここには存在する。


 つまり、このテストこそが、彼の運命の分かれ道ということだ。


 「では、始めます。両者、位置について」





 審判が始まりの笛を鳴らした時、一気に部屋の空気が変わった。


 最初に動いたのは、獅子屋だった。


 ナイフを両手で握り、まっしぐらに虎のもとへ駆ける。さながらイノシシの突進だ。


 「……へ、やっぱその程度かよ」


 虎は、その突進をひょいとかわし、カウンターで腹に鋭い蹴りを入れた。

 

 「ぅぐ」


 獅子屋は苦しそうな顔をし、その場に倒れこむ。が、しかしすぐに立ち上がって臨戦態勢を崩さない。


 「どうしたー? はは、やっぱりただの素人かー?」


 「あれー、幹部テストって、こんなに低レベルなんだっけー!? がはははは」


 「虎ー、手加減くらいしてやれよー!」


 汚いヤジは、二人とも気にしていない。


 しかし虎は、今の一瞬の攻防だけで獅子屋の戦闘力を把握した。

 こういった戦闘における素人が逆上した時、または窮地に立たされた時は動きが直線的になる。

 長年の経験からくるその知識で、獅子屋を雑魚の素人だと判断したのである。


 獅子屋は、再度攻撃を試みる。


 今度はナイフを右手のみに持ちかえ、じりじりと距離を詰めた後、一気にその右手を虎の首元に持っていく。

 瞬間的な力を出して攻撃することにより、反応を少し遅れさせようとしたのだ。


 しかしそんなことは、虎にとって策ではなくただの基本だ。


 すなわち、対処も容易。


 虎は即座に体をひねり、自分の右手で獅子屋の右手首を掴んだ。


 「いててててて!!」


 そして、その捻った体をもとに戻す力を利用し、逆に獅子屋の手首を捻る。護身術において、彼がもっとも多く使う技であり、最も使いやすいと考えている技である。


 「こんにゃろ……」


 「はは、どうした? 大丈夫かおい?」


 獅子屋は懸命にそれから逃れようとしているが、簡単には逃してくれないのが虎だ。虎の握力は70キロを超えており、成人男性の平均よりもはるかに強い。

 そんなものでほっそい手首をつかんでいるのだから、それだけで獅子屋に与えられたダメージは計り知れない。


 「いててててて!!!! やめ、放せっ!!」


 「誰が放すかよ、おら!!」


 虎は、その力をさらに強めた。

 獅子屋の顔が、苦痛に歪む。


 ナイフが地面に落ちて、カランという音が鳴った。


 獅子屋は虎のことを蹴って、手を離させようとしているが、そんなもの虎にとってはハエが止まったようなものだ。手を掴まれた状態で繰り出した蹴りの威力など、たかが知れている。


 やがて獅子屋はそれが無意味だということに気が付き、蹴るのをやめた。


 「……これで、どうだ!!」


 蹴りを止めて、一旦無抵抗に見せかけた獅子屋は、虎を少し油断させることに成功していた。


 その一瞬のスキを突き、獅子屋は虎の腕に噛みつく。


 「ぐわああああ!! うぎゃあああ!!!!」


 「……おー? なんだ、挑戦者も本気出してきたかー!?」


 ギャラリーがざわつく。


 虎にとってまったく意識の外であったその攻撃は、獅子屋にしてはがむしゃらなものだったとはいえ、大きなダメージを与えることに成功していた。


 「くそ、放せ!!」


 形勢がまるで逆転し、今度はやっとのことで獅子屋を振り払うことに成功した虎だが、その腕からは多量の血が出ていた。


 振り払われた獅子屋の口元は、真っ赤になっていた。


 「はあ、はあ……」


 「てめえ……てめえええ!!!!」


 虎は激昂した。


 自分より下だと思っていた奴に、痛手を背負わされたことに腹が立って仕方なかったのだ。


 「うがあああ!!」


 しかしそれでは獅子屋の思うツボ。


 直線的な動きをなんとかさばききった獅子屋に、顔面を強く殴られる。


 「あ、が」


 先ほど獅子屋にしたことをそのままやり返された虎の目には、もう理性の光は残っていなかった。


 また、顔面への一撃によって軽い脳震盪が起こっていたことも、正常な判断をできなくなってしまった理由の一つだろう。


 「……てめえは、許さねえ。もうどうなってもいい」


 虎は、スーツの胸ポケットから黒いものを取り出した。

 獅子屋がそれが何かを理解するまでには、数秒の時間を要した。


 「おい、卑怯だぞー!!」


 「てめえ何してんだ、虎!!」


 虎には、もう周りの声など聞こえていない。

 虎には、もう先のことなど考える頭は残っていない。


 「死ね」


 その場にいたものにとっては、聞きなじみのある爆音が響く。

 耳を塞ぐなどしてで元々対策していた者は無事だったが、意識の外だった者にはかなりの衝撃となった。


 弾丸が発射された。

 

 硝煙のにおいが、あたりに漂った。


 その瞬間、銃口の先の獅子屋は膝からがくんと倒れこんだ。

 首に当たった。誰の目からも、そう見えた。


 手はつかないで着地したため、それだけでも大きなダメージになることは間違いないだろう。


 ……獅子屋は、動かない。


 しばらくして、虎は勝ちを確信した。


 「はあ、はあ…………」


 虎の顔が喜びに歪む。

 それは、ギャラリーにとって気持ちのいいことではなかった。


 「……なに、笑ってんだカス」


 「卑怯な手で、勝ったくせによ」


 「……おい! 審判! 反則だろ!! こいつ、幹部失格だろ!!」


 最後の一言に、審判は反応する。


 「……いえ、失格ではありません。私は、ルール説明のときから、『銃を持ち込んでは悪い』などと一言でもいいましたか?」


 一瞬の静寂ののち、また観客が湧いた。

 そんなの屁理屈だ、ずるいことには変わりない、と。


 「……うっせえな」


 熊谷が言う。


 「……卑怯? 反則? 非道? …………いいじゃねえか。虎は、『カモメ組』社員の理想の形だと思うがな」


 「す、すいません……」


 まさに鶴の一声で、空気が変わった。虎は、やれやれという顔をしている。


 「……というか、俺の腕の傷は誰も手当てしてくれないのか……?」


 悲しいことに気が付いたが、それが現実である。

 戦いを終えた虎に駆け寄る者は、一人もいなかった。


 「さあさあ、おしまいなのネ! 帰った帰った! あ、ボランティアでこいつ、清掃してくれると助かるのネ」


 虎は獅子屋を一瞥した後、振り返ってネクタイを直し始めた。


 「ん? こいつ、なんかさっきと姿勢変わってないかネ……」


 「うがああ!!?」


 虎に、意識の外から力が加わった。


 なすすべもなく、思わず膝を着く。


 「なんだ? 何だ?」


 「え? え? え? 何なのネ、ネ??」


 イグマは、反射的にその場から離れてしまった。当たり前だが、混乱している。


 しかし一番混乱しているのは、その力を唯一受けている、虎だろう。


 帰る準備をしていた者たちも、皆が一様にその動きを止めた。


 何が起こっているか分かっているものは、その場にただ一人しかいなかった。

 いや、正確には一人ではない。


 もう一人、観客のうちの一人は、最初からこうなることが分かっていた。

 

 「……ないすう」


 彼の呟きは、誰にも届かない。

 誰もが虎と、突如蘇った一人に注目していたからだ。


 


 「…………[重力操作](グラ・コントロール)


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