第二十五界:虎
シャトルラン102回だった。
ポク塚です。
カナデ編 7話投稿しました! 第十七界の前にあるので、まだ読んでない方はぜひ読んでください!
なにやら場所を変えるらしく、僕は黒スーツたちに誘導されて部屋から出された。
守屋に事情を聞きたかったのだが、黒スーツにずっと囲まれていたせいで守屋と話すことはできなそうだ。
そこで、
「あのー、黒スーツさん? 今から何が、始まるんですか?」
と尋ねてみると、黒スーツの一人が反応した。
「何が、だって? お前何を言ってるんだ。お前自身が、守屋とこのことを考えたんだろうが」
「ど、どういう意味です?」
「はあ? だってさっき、お前自己紹介で自分のコードネームなんて言ったよ?」
「『獅子屋』、ですけど……」
それになにか問題でもあるのか?
ほらそうだろ、と言われてもなんのことか分からない。
「獅子屋」になにかマズい意味でも含まれてるってんのか? というかだったら守屋は、なんで教えてくれなかったんだ?
「『獅子』が入ってんじゃねえか。知ってるだろうけど、ここでは動物の名前を名乗っていいのは幹部の九人だけだぞ」
「はあ……って、つまり……?」
先頭の黒スーツが動きを止めた。そしてこちらを振り返る。
気づいたら、僕を囲む五人全員がこちらを凝視していた。
「……もしやお前、ホントに知らないであんなこと言っちゃったのか? ……こりゃ守屋の野郎にしてやられたな」
「ここでは、社長に動物のコードネームを宣言することは、現幹部に挑戦することを意味しているんだよ」
……え。
先頭の人と、後ろの人から説明を受けたけど。全く整理できない。
つまり……?
「今からお前が受けるのは、『幹部テスト』。訓練場で戦って、現幹部から幹部の席を奪いに行くんだ。ちなみに、挑戦者が負けたら、大体クビだ」
なるほどなるほど。
「こいつが言ったことを正確に言うと、首になると決まってるわけではないんだ。しかし、大体の挑戦者は、責任を取って辞表を出す」
うんうん。
なーるほどね。
聞いてねーよーーーーー!!!!
*
訓練場に着いて驚いたことがある。
観客の多さだ。ほぼ正方形の会場の壁に隙間なく立っていて、そのどれもがいかつい顔つきをしているのである。
「カモメ組」というのは、こんなに多いのか。
部屋の広さは……ざっと、<一界>の訓練場の一部屋と同じくらい。……なんて言っても、分かりにくいか。
とりあえず部屋の広さ的に人数は大体二百人くらいかな。
僕のような全国指名手配犯を保護してるグループと聞いたけど、正直もっと少数精鋭のイメージがあった。
「んおい、何をボケっとしてるう。んお前は一応、今回の主役だ。シャキッと立て」
「は、はい」
注意されちった。
あれ、誰だろ。黒いマントを羽織って、肩までの髪を手で溶かして歩いている。
そしてローズの残り香。
……男だよな?
なんか見た目は馬鹿みたいだけど。
ただ、黒スーツとはちょっと違う感じがする。
威厳があるというか、グレードが違うというか。
もしかして、あいつが幹部とかいうやつなのか?
あんまり強そうな感じはしないけど。まあ、一口に犯罪と言ってもいろんな種類があるし、あの人にはあの人の、特異な分野があるんだろう。
知らんけど。
「挑戦者。こっちに来い」
社長に呼ばれたので、小走りで訓練場の真ん中に向かう。
そこにいたのは十一人。
その誰もが個性的な服を着ている。
社長と、イグマと……、
「こいつらは、わが組の幹部九人だ。それぞれの自己紹介は省く。で、お前の対戦相手は……」
あと、ローズマントもいた。
やっぱり、幹部だったのか。
「おいおい、まさか幹部テスト挑戦者って、そいつじゃねえよな!?」
「嘘だろ、こんなヒョロヒョロ野郎が!!?」
「誰だよそいつー! ひっこめ-!!」
ぎゃーぎゃー。ぎゃーぎゃー。
前に出ると、観客たちから多種多様なヤジが飛んできた。
実にうるせえ。
耳せんがここにあったら迷わずつけるね。
……つーかまあ、そりゃそうだよな。確かに体格はお前ら黒スーツの方がいいもんな。
それに、僕のことなんて知らないだろ。
知らん奴が、それも自分より弱そうなやつがイキッてたら、イラつくのも当然だよな。
うん。
「黙ってみてろ、バーカ!!」
でも、腹が立つことは腹が立つ。
知らん奴が、それも僕より明らかに弱いやつに煽られてるんだからな。
「……は?」
「……何言ってんだてめえ!!」
「バカはてめえの方だカス!!」
「死ね」
「死ね」
「死ねーー!!」
「マジ死ね」
一瞬ヤジが止まったが、逆にそれが燃料となり、さらにうるさくなった。
……はあ。
これは、圧倒的に幹部をぶちのめして黙らせるしかないみたいだな。
「……くはは。対戦が始まる前から、ずいぶんと人気だな?」
「いえ、それほどでも」
「それで、お前の相手はこいつだ。おい」
社長が指さしたのは、バラバラに立っている幹部たちの端っこにいる、角刈りのおっさんだった。
耳がでかくて、髭が青い。
そして唇と鼻の間にあるほくろが、存在感を放っている。
言葉にすれば分かりやすい。
おっさんオブ、おっさんである。
その表情に生気は見られない。戦う気があるのだろうか。
…………ん?
あ!
こいつ、地味に中指たててる!
気を付けして礼儀正しいなと思いきや、ファッキューでした!
手には血管が浮き出ていて、めっちゃ中指に力入れてる。
なので僕も、挨拶のお返しとして、同じようにして床に指を向けて中指を立てた。
にやあ、という優しいほほ笑みも添えて。
おー、気づいた気づいた。
はは、今度は両手か。
工夫してきたな、この野郎。
前言撤回。
こいつ、敵意むき出しだ。
「……幹部の、『虎』だ。ここではもう十年以上になる。全力で行くから、そちらも全力でかかってこい。今日は、よろしく頼む」
「虎は、先月に幹部になったばっかなんだ。獅子屋、お前の実力見せてもらうぞ」
虎が握手を求めてきたが、無視した。
『……あんまり、調子に乗るなよ。こっちはやっとのことで手に入れた席なんだ。ぽっと出のよくわからん奴になんか、負けるかよ』
そんなことを言われたけど、それも無視した。




