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判決、異界流し。  作者: ポク塚
二章 電撃入社事変
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第二十四界:熊谷潤

 シャワーが終わった後、僕は全力で自分の体の匂いを嗅いだ。


 もう十分ごしごし洗ったし、さすがに大丈夫だろと思っていたのだが。

 守屋があんまりに言うから、仕方なく確認したのだが。


 うん、普通にくさい。

 自分でもわかるってことは、他からしたらもっとまずいことになっていたのだろう。このまま社長室に入っていたら危ないところだった。ふう。


 結局、守屋の承認をもらうまで何度も入りなおした。


 服についている汚物を取ろうとこすっているとき、「僕は一体何をしているのだろう」という疑問が何度も湧き上がってきたのは、まあどうでもいい話だろう。


 「さて、いくぞ」


 「……いきますか」


 目の前にあるのは、灰色の冷たそうなドア。

 社長室と言えばもっとなんかこう、重厚感というか高級感があるものだと思い込んでたんだけど、庶民派な社長なのかな。

 

 ……それ、逆に緊張するけど。


 「もう一回いうけど、社長室の中にいるのは大体十人。まずもちろん社長の熊谷さんと、副社長のイグマさん。あとは……」


 「わかった、わかった。もう覚えたよ。中に入ったら余計なことを言わないで、成り行きにまかせりゃいいんだろ?」


 守屋は黙ってうなずいた。

 その表情からは緊張がうかがえる。


 そんな顔してるから、僕までちょっと緊張してきたんだけど。


 守屋がドアに、二度ノックしてしばらくすると。


 「…………入れ」


 図太い、男の声が聞こえてきた。


 「これ、社長か?」


 「そうだ。ちょっと、ここで待っててくれ」


 言われた通り、大人しく座って待ってることにする。


 「三班の、守屋です!! 遠征より、ただいま戻ってまいりました!」


 「ああ。わかった、ご苦労」


 ……ふっつうに、全部聞こえる。

 がんばって壁に耳を当てて聞こうとしてたけど、実際これだったら少し離れててもガッツリ聞こえるだろう。どんだけ薄いんだ、このドアは。


 「……ン? 社長、失礼。……ネエ、守屋。太田と細谷はどうしたネ? 一緒に行ったんじゃなかったのネ?」


 社長でも、守屋でもない声。きっとこれが、副社長のイグマとかいうやつなのだろう。鼻にかかるしゃべり方をしてるからか、声だけで僕は苦手意識を覚えた。


 というか、いきなり核心をついてきた。

 まあ、普通そうだよな。まずそこだよな。


 さて、そろそろ僕も心の準備をしておこう。


 「……はい、そのことなんですが。先輩方はともに、作戦中に死にました。殺されたんです」


 「なっ、なんだってえ!? まさか警官に……」


 「いえ、警官ではありません。先輩たちを殺したのは、俺たちと同じやつです。同業者です」


 「なんだと……。太田と細谷は拳銃(チャカ)を持ってたはずなのにネ……。それで、相手は何人だ? 何人殺せたネエ?」


 「俺たちは、一人も殺していません。というより、相手は一人です」


 「はぇ? ど、どういう」


 「その一人に、先輩方は圧倒されました。銃なんてあっても意味なんてありません。あいつの前では」


 うーん。


 そんなにでかく言うなよ。

 

 出ていきにくいだろ。


 「なにを、バカなことを! そんな戯言を!! 私がそんなもの、信じるとでも」


 「イグマ」


 空気が重くなり、イグマが口をつぐんだのがドア越しにもわかった。

 社長とやらの一言は、これほどにも重いのか。


 「少し、黙ってろ。きっと守屋の言っていることは本当だ」


 「す、すいません……」


 「太田や細谷のことなんて、実際どうでもいい。どうせ俺たちが口をきいてやらなきゃ死刑になってた命だ。そんなことより、守屋。俺にはさっきから、気になっていることがあるんだ」


 デブとガリは、死刑になるほどの罪人だったのか。

 というか、太田と細谷。そういう名前だったのか。


 すごくどうでもいいけど。


 死刑ってことは、きっとあいつらも誰かを殺したんだよな。

 あんなに弱っちいやつらも、人を殺すことができるんだ。僕には、そっちの方が驚きである。


 ん、というか、気になっていること、って


 「お前のことだよ」


 「うわあ!??」


 こ、腰を抜かしてしまった。


 ドンという音とともにいきなりドアが開いて、熊のような顔の男が顔を出した。


 体型も威圧感があり、いかにも悪の親玉と言った感じだ。


 ……こいつが、社長か。


 「あっ、やっぱりばれてました……?」


 「当たり前だ、守屋。ドアが薄いから、人ひとりの気配なんてすぐにわかる」


 気配は最大限消してたつもりなんだけどな。

 それをなんでもないことみたいに言うのは、うん強キャラだな。


 部屋の中ではみんな驚いて僕に注目してるから、やはり気づいていたのはこの男のみだったようだ。


 社長たる、所以(ゆえん)ということか。


 「入れ」


 「は、はい」


 抵抗なんてせずに、中にゆっくりと入る。


 中にいたのはイグマらしき若い男と、筋骨隆々の黒スーツたち。


 イグマの背は小さく、副社長というからにはもっと社長みたいに強そうなのかと思っていたのだが、ちょっと拍子抜けである。

 あ、そいつがイグマだと分かったのは、スーツの色が他と違って真っ白だったからだ。赤い蝶ネクタイが、白の中でひときわ映えている。


 ちなみに社長は黒いぶかぶかなスーツを着ている。それだけみると普通だが、ネクタイは金色だ。また首からなにか、十字のようなものをぶら下げている。これは、この界の首飾りなのかなと推測した。


 「ふう。まず、守屋。こいつがここにいるってことは、お前が連れてきたってことだよな」


 「そ、そうです」


 「んで、その意味は解ってんだよな、お前」


 沈黙が流れる。


 ん? なにどうして答えないの守屋?


 ん、こっちみて首をくいくい、って……。


 「……あ! ぼ、僕ですか」


 「そうだ」


 「い、一人称僕ネエ……」


 「はい、解ってます。守屋からも教えてもらいました、僕にはこの道しか残されてないって……」




 「ン? この道しか残されていない? ……守屋、どういう意味ネエ?」


 「ああ、それはですね。こいつ、俺たちと会う前に警官を二人ほど殺しちゃったんですよ。だから、一応全国指名手配されちゃってるんです」


 部屋中がざわついた。

 黒スーツたちも、それぞれ隣の黒スーツと話してる。


 イグマは、ちょっと混乱している様子で「ネ、ネエ?」とつぶやいている。


 「静まれ」


 また、鶴の一声だ。

 社長の威圧感には、僕でさえ思わず少しひるんでしまう。


 「わかった。それで、ここを頼るしかなかったというわけだな。だったら、守屋たちと出会えたのは運がよかったな。ここには、組員の紹介がないと入れないし場所も分からないんだ」


 周囲が、少し緩んだ。


 心なしか黒スーツたちの表情も、これから迎える新しい仲間を見るような表情になったように感じた。


 「面接は、省いていいだろう。だな、守屋?」


 「は、はい。こいつは大丈夫です。犯罪者としての素質も十分にありますし、暴走をするようなやつじゃないです」


 「そうか。まあ、いいだろ。いざとなれば、俺が殺せばいい話だ」


 「お前なんて、社長の剣にかかればイチコロなのネ!! だからくれぐれも、変な考えを起こさないようにするように」


 「イグマ、だから少し黙ってろ。……気を取り直して。わが『カモメ組』にようこそ。私たちは国直属のいわゆる〈裏国営ヤクザ〉で、主に殺人関係の仕事を承っている」


 お、驚いた。

 裏国営ヤクザというものは、こんなに簡単に入ることができるものなのか。


 もっとなんか、テストみたいながあると思っていたんだけど。


 「よ、よろしくお願いします」


 「そんなに堅くなることはない。適度な敬語で十分だ。……そういえば、自己紹介がまだだったな」


 自己紹介。その言葉が社長から出た時、守屋はなにかに気づいたような表情になった。


 かなり、焦っている。


 な、何なんだ?


 「俺は、『カモメ組』代表の熊谷(くまがい)(じゅん)だ。お前は……おっと。本名は言うなよ。コードネームみたいなんがあれば、教えろ」


 「守屋から聞いてコードネームは、来るときに考えてきました」


 「守屋、準備いいのネ……」


 「僕は、『獅子屋』です。ライオンの『獅子』に、守屋の『屋』です」


 途端、空気がひりついた。

 皆が僕を、「まじかこいつ」という目で見てくる。

 イグマは、驚きで開いた口が開いたままだ。


 守屋は、何故かちょっと笑っている。


 ……なんか、僕、変なこと言ったか?


 「がっはっはっは! 面白いじゃないか。なるほど、守屋。お前も面白いことをするな」


 「……いえ、それほどでも」


 なんだ?


 一体、何だっていうんだ?


 「『獅子屋』よ。お前も、度胸があるというか、肝っ玉が強いというか……」


 「し、信じられないのネ……」


 「おい、お前たち! 寮にいるすべての幹部をたたき起こせ!!」


 黒スーツたちが、せわしなく動き始める。

 何かの準備をしている。


 つーか、「幹部」? 何のことだ?


 「それから、見物も武道場に集めてていいぞ! お前たちの大好きな、『幹部テスト』だと言えば、全員飛び起きるだろう!!」


 かなりよくないことが、起ころうとしてるのは間違いなさそうだ。

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