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判決、異界流し。  作者: ポク塚
序章 異界道中膝栗毛
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第二十二界:赤面

活動報告みてください。

 辺りに人の姿は全くと言っていいほど見えない。車でそれなりに移動したが、さっきまでいたところとは大違いである。


 また、今までいたところの空気の汚さというものを再認識させられた。

 なんと空気がうまいのだろう。車から這い出て最初に思ったことは、それだった。


 しかし今。現在進行形である問題が、それもかなり重大な問題が生じている。


 「えーっと、うん。まず、状況を整理してもいいかな?」


 「ご自由にどうぞ」


 「ありがとう。えーと、とりあえず僕たちは、長い旅を終えてようやく事務所とやらに到着したわけだ」


 「うんうん」


 「それはそれは大変な旅路だったけど、最終的には車も手に入れて、まあなんだ? 言ってしまえば、いい旅だったわけだ」


 「それはよかったなあ」


 守屋はうんうんと頷いて感慨深げに空を見上げた。その自然な仕草につい僕もつられて、同じように空を見上げてしまう。


 空はため息が出るほどに真っ赤に染まり、その中でかあかあと鳴く黒い鳥がゆっくりと飛びかい、空に模様を作り出していた。


 「あれ、何?」と尋ねたら、「カラス」という答えのみ返ってきた。

 もしかしたら、<二界>にも似たような生物がいたかもしれないと思ったが、はっきりとは思い出せなかった。

 

 僕はそんなこと、全く気にしないで生きていたんだな。


 「カラス」たちが空を覆う面積は、いまだに減らない。

 何気なしにじっと見ていたら、カラスにも一匹一匹個性があるのではないかと思えてきて。

 

 きっと彼らは出稼ぎにでもでていたオスで、エサを取り終えてそれぞれの巣へと帰っている途中なのだろう。そんで、巣に戻ったら家族が出迎えてくれて、一緒に丸くなって眠ったりしたりして。

 意味もなくふと、そんなことを考えた。


 僕は、その綺麗な光景を見上げたまま言う。


 「…………んで、僕たちの前にあるのはなんだ」


 「うーん、『肥溜め』と言って、肥料にするためのいわゆる糞尿を貯めておく……」


 「だーーーーっ! 分かってる! それは分かってんだけどさぁ!! ……真面目に聞いてるぞ。なあ、おい冗談だろ、冗談だよな?」


 守屋は、何が? とでも言いたげな表情で首を傾げた。

 いやいやいや。何が? はこっちのセリフなのですが。そして、僕はもうこの場から飛行でも何でもして逃げ出したいのですが。


 すると、守屋はポンと手を叩いた。どうやら、納得してくれたようだ。


 「ああ、そうか。流石にお前が先ってのは酷だよな。……うし、じゃあここは裏国営ヤクザの先輩としてリードしてやるかぁ」


 「本気か? それ、まさかお前……」


 「……ここで、こいつとはしばしのお別れだな。少しだけバイバイ、『SUNSUN!FOLD』」


 そう言って腕に巻いていたサングラスを全て外した守屋は、迷うことなくそれらを肥溜めに投げ込んだ。

 そう言えばあったなそんなの。見慣れすぎて気にしてなかったが、やっぱり守屋のファッションセンスはよく理解できない。


 肥溜めの中に、ゆっくりと、一つ一つの個性を持ったサングラスは吸い込まれていった。


 …………はあ!!? な、な、な、何してんの!?


 守屋、それ大事にしてたんじゃ……?


 「お前、何して……」


 「混乱してるよな……? まあ、そりゃそうでしょ。いやはや俺も、初めてここに連れてこられた時はそれは驚いたもんだよ。驚いたし、抵抗もしたかった。でも拒否するって選択肢は、俺にはなかったかなあ。だってそれまでまあまあ優しかった先輩が、俺がちょっと困惑してたら『ここに入れないことには、組にももちろん入ることはできないぞ』とか怖い顔で凄んでくんだもんよ」


 守屋は、そんなことを話しながらするすると服を脱ぎ続けた。そしてそれらはみな、サングラスと同じように投げ込まれていった。


 僕には、その意図が全く解らなかった。


 思わず、直視できずに地面へと目をやる。


 「おい、ボケっとすんなよ。早く獅子屋も、同じように」


 噓でしょ。


 「マジで言ってる?」


 「…………」


 目が、マジである。無言の圧力。


 もしかして、これは<一界>ではごく当たり前のことなのか? そういう、文化があんのか?

 運が付く、的な?


 「はよ」


 見ると守屋は、既に丸裸になっていた。

 ……何を考えているんだ。少しはこっちのことも考えろよ。なぜ、そこを隠そうともしないんだ。


 目のやり場に困り、即座に再度地面へと目を移した。


 催促してきたが、そう簡単に踏み切れるはずもない。だって無理だろ。


 「はよ」なんて言ってイライラしてるみたいだけど、僕に非、一個もなくない?


 そうだ僕は悪くない。悪いのはこいつ。

 むしろ、こいつはデリカシーの欠片もないクズなのだ。


 「……服をそこに投げ込むことでどんなメリットがあるのか、説明しろ」


 「ん-……。そんなに嫌なら、別にここで投げ込むこともないんだけどな。だって結局は自分ごとここに潜るんだからよ」


 ?


 もぐる?

 モグル?


 潜る?

 潜る?

 潜る?


 潜り?

 モグリ?


 「なるほど、モグリ営業か。さすが、ヤクザがやりそうなことだ」


 「ん? なんて? まあとにかく、脱ぎたくないなら脱がなくてもいいがな。でも、茶色いものだらけの服に身を包まれて階段を上り下りすることになるぞ」


 「……はあ。もう最悪」


 ずっとごまかしてきたけど、もう限界のようだ。僕と守屋は、これから確実に、ここへ身を投げることになるんだ。

 

一応、第一章完です。

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