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判決、異界流し。  作者: ポク塚
序章 異界道中膝栗毛
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第二十一界:dead or `arrive‘

 まるで、映画のワンシーンを見ているようだった。

 その思い切りのよいハンドルさばきは、熟練のものと見える。

 うおーだの、ひょーいだのといった掛け声がなかったら、もっと格好良かったが。

 

 「飛ばすぞーっ、捕まってろ!!」


 「ちょ、ちょまっ」


 えぐいて。これ、えぐいて。なにが映画だ。映画は、見るものだ。僕たちなんかが、実際に演じるものじゃ……。


 うぎゃああああ!! 


 なあ、おいマジか!? カーブ曲がるだけなのに、車体ちょっと浮いたぞ!?


 「お前、運転大丈夫!? 取り締まるやつとか、ここにはいないの?」


 「ダイジョブダイジョブ。今走ってるとこ、高速道路って言って、スピードめっちゃ出しても怒られないとこだから」


 「そ、そうか。気を付けてくれよ? ただでさえ指名手配犯なんだし」


 「わーかってるって。捕まんないから、こんなにスピード出してんだよ。つか、俺免許ねえから見つかったらやばすぎるし」


 「そうか、そうだよな、はは」


 そう、守屋は笑いながら言って……ん? 


 「なんか今、最後」


 「さーて、もうちょいで高速抜けるし、あと少ししたらコンビニでも寄るかあ!」


 はぐらかし方が雑だなオイ。

 こいつ、運転荒いと思ってたらやっぱ免許持ってなかったのか。

 

 でも、免許持ってなくて、あれだけ躊躇なくスピード出せんのはすごくないか? 


 「……いや、ただバカなだけか」


 「ん? なんか言った?」


 ……地獄耳。


 あと、高速道路? で普通に後ろを振り向くのは危険じゃないか? 

 本当にだいじょうぶなのかな……。ああ、不安になってきた。


 とか言ってたら、先ほども通った料金所という所が見えてきた。守屋によると、どうやらその高速道路を走るには、金がいくらか必要らしい。


 と言っても、勿論そんな金など少しも持っていない。いや、正確には持っていなかった。

 そうそこで役に立つのが、この車の持ち主で今は僕たちの血肉となっている、例の運の悪い子悪党である。


 『うおお! おい見てみ! こいつ、現金で十万も財布に入れてるぞ!!』


 守屋は、今朝起きた途端に車の中を物色し始めた。小さなポケット、また椅子の下などもくまなく探していた。

 さながら車上荒らしである。


 そして、なにやら騒いぎ始めたのは、どうやらかなりの金が見つかったかららしいが、僕は額を言われてももちろんピンとこなかった。

 なんせこっちでの通貨の価値が、まだ分かってないからな。


 『ん? ああ、そうかそうか。うーんそうだな、一円で、大体米139粒くらいかな』


 『ちょっと分かりにくすぎない? 米一キロで、いくらくらいかで言えよ』


 なんて会話もあったりしたが、米一キロの平均は、大体360円くらいだそうだ。<一界>のうちの国で米は、五キロで2000ヒョウタンくらいで売られてたから、360×5で……、同じくらいなのかな? という結論に至ったわけなのだ。


 なんとも、至れり尽くせりだ。こっちとしては大助かりだ。


 でも、なんともできすぎた話じゃないか? もといたとこにも、国はいくつかあったし、それらの中で通貨の価値なんて大体、まるっきり違うことばっかりだ。


 これ、なんか理由でもあんじゃねえの……。


 「げえ!!? おい獅子屋あ! ちょっとだけまずい状況かもお!」


 ん? なんだ?

 守屋は、心なしか車のスピードを減速させて、進行方向を指さしている。

 

 「うっわあ、なんだよあれ……」


 そこで、僕もようやく気付いた。料金所には、見慣れた車が数台止まっていた。

 その中からは、よく知った人間たちが出てきていた。


 そう……、警官である。


 「もしかして……あそこ、関所か? 僕たち目当てじゃないだろうな」


 「ありうる……。で、でも大丈夫だ! 考えてもみろよ。今の俺らはこんなにおしゃれに決めてんだぜ?」

 

 ばれるはずもないだろ、とタカをくくっていられるのも今のうちかもしれないぞ。まあでも、そーゆー楽観的な思考は実に素晴らしい。

 ただネガティブにとらえても、ポジティブにとらえてもどうせ結果は変わんねえんだ。


 だから、僕は守屋のその、自分に言い聞かせているような言葉に対して、強くうなずいた。


 「同感。それに、警官が探しているのはあくまで僕一人だ。冷静に考えてもあの家にお前がいたってことは誰も知らないし、つまりお前は全くの白なんだ。堂々としててくれ」


 すると、守屋は運転する手を止めた。

 関所に着いたのだ。おそらく前を走っていたであろう車が何台か並んでいて、すこーしずつ、ちまちまと進んでいる。

 

 順番待ちの時間である。……僕が、もっとも嫌いだった時間だ。


 自分で言うのもおかしいかもしれないけど、やはり二人とも緊張はしているみたいだ。

 着いてからは、全くと言っていいほど口を開いていない。


 その空気が気まずくて、僕はちらと窓の外を見た。


 一番前の車を見ていたら、意外と早く済んだみたいだ。幸い、警官も朝からの作業だからかやや眠そうで、ちょっとチャンスだ。

 きっと、まさか自分たちの関所に来るとは、それもまさかこんなに堂々と車で来るとは思ってもいないことだろう。


 前に見えるのはあと数台といったとこだから、もうじき、僕たちの番だ。


 「な、なあ。俺だけ応対するから、お前隠れとけ」


 と、不意に沈黙を破ったのは守屋だった。


 「え、これまたどうして」


 「……今、前の検問の様子見てたんだけど、なんか、警官が顔チェックして一発で終わってんだよね」


 「それってつまり……」


 「ああ、多分あの場にいた警官が、顔で検問してんだ。だったら、お前が見られたら一発アウトだろ?」


 そうか、その警官は僕の顔を覚えているのか。

 確かに、それなら服装なんて関係なさそうだな。


 僕は、無言でうなずき、そして椅子の下に隠れた。次は、僕たちの番だ。


 車が止まると、守屋が座ってるとこの窓から、コンコンとノックの音が聞こえた。

 守屋は「はい」とはっきりとした声で答え、そしてなにやら話していた。


 そして、ちょっとして車は発進した。

 

 「どうだっ……」


 「バカ、まだ隠れてろ」


 小声で注意されたが、その声はどこか弾んでいた。

 ……どうやら、成功したようだ。わかりやすい。


 「…………ふう。いやー、疲れたあ………くく」


 もう起きていいぞ、と言われたので顔を上げた。首がいてえ。


 「くくく……なあ、聞いてくれよ。あの警官、ザルだわ。なんか、人数聞かれたから一人です、って答えたのね。そしたら疑いもしないで、『はあ、そうですよね……。どうぞお通りください』とか言ってやんの!! 目え押さえてあたかも、ぼく疲れてるんだよ、みたくさ!!」


 「はは、そいつはラッキーだな。肝が冷えたぜ」


 「くくくく……はーっはっはあ!!!! いやあ、一難ってまた一難たあよく言ったもんだが、俺らはどんな『難』でも大したことねえんだわ!!」


 めちゃめちゃ笑って、楽しそうだ。

 なんだ、警官も大したことないんだな。


 もう、今ならどんなことでもできるような気がするわ。


 …………その後、大したトラブルはなく僕たちは進むことができた。というのも、守屋はそれから、かなーり慎重目に、曰く遠回りをしながら走っていたからである。

 検問をこえたら、意外と警備の網は張っていなかったのだ。


 「ようやく着いたぜ。ここが、この地下が俺たちの事務所だ」


 そういわれて辺りを見回すと、さっきと比べてかなり田舎? というべきところだった。

 しかし、その中でもひときわ目立っているのが、守屋が指さしたその、アジトの入り口らしきところだ。


 胸が、高鳴る。

 ワクワクとはちょっと違うが、似ているのかもしれない。


 結構、長い距離移動したように思う。

 実際、守屋もとても疲れたような顔になっていた。


 「疲れたよなあ……。でも、多分また疲れることになるぞ」


 「え? なんでだ? もう、着いたんじゃないか」


 「着いたから、だよ。ここが、入口だぜ? お前は、俺たちは、こっから事務所に入んなきゃいけねえんだよ」


 なにが疲れることになるというのか。

 その入り口に近づいて、中を見てみたら、その理由が分かった。


 ドっからどう見ても、100%。


 肥溜めだった。


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