第十八界:「万能細胞はあります」
本当はこの話、第十四界ではもう出す予定だった……。エタる予感しかしない……。
うーん、どっから説明すりゃいいんだ。
見当もつかねーや。こういうこと説明したことないし、知識ゼロの人にイチを教えんの、お前が想像してるより多分ずっとむずいんよ。
そうだな……「説明」、って言ってもなあ……。
ああ、まず魔法って何か、ってことだよな。
あ、そうか、魔法の概念は知ってんのか。……それ結構不思議だよな。
もしかすると、昔にも僕みたいに異界流しになった人がいたのかもしんないな。それで、後世にも伝わっていったという。
異界流し、そう、異界流し。いい質問だ。
つまりだな……僕は、もともとこの界の人間じゃないんだよ。
界。
そう、こことはこの世界とは別の世界があるんだ。ここ含むと合わせて十個あって、魔力がないのはこの<一界>だけなんだわ。
まあ魔力がない、っていうか……。あったんだよね、実際のところは。
空気中になかっただけで、なぜか生物の体のなかにきちんと内包されてるっぽいんだ。
僕もびっくりだわ。
なんせここに来た直後は完全に絶望しかなかったしさ。「魔法なくて生きてけるわけあるかよー!!」って。
でも偶然、まじでたまたまゴキブリ食ったら、口から火吹いちゃって。
はは。
話を戻すと、僕は<二界>出身の元傭兵だ。結構活躍してたし、強かった。国の役にも立ってた。戦争では、バッタバッタと敵国の連中をやっちまったよ。
少し、いやかなり楽しかった。僕の人生のなかで、一番楽しかった時期だ。
……でも、信じてた人に裏切られちゃってさ。国のお偉いさんなんだけど。
ちょうど戦争がひと段落したころだったんだけど、多分国にとって僕は何らかの形で目障りだったんだよ。
みんなグルになって、いつのまにか「判決、異界流し。」とか言われて。
んでその場で執行された。即、異界流しだ。
気づいたらこの界にいて、そんでたった一日朝から晩でなんやかんやありまくって。
だから僕はこうして魔法が使えるんだ。しかも結構高水準のな。
「……信じられないけど、実際見てる以上どんなこと言えないな」
僕がそこまで説明すると、守屋はすっかり魂が抜けたような表情になり、一言あきらめるようにそう言った。
話してる間、最初の方は「ええ!?」って反応や相槌がしつこかったが、話を続けるにつれて徐々に今みたく大人しくなっていった。
「魔法なんて、当たり前だけど初めて見た。でもこれでようやく、正式に仲間になれた気がするわ。ええ、っと……」
守屋はなにやら困ったような表情で、言葉を詰まらせている。
あ、そうか。僕はその理由をすぐに理解した。
「考えてみりゃ自己紹介もまだだったんな。こほん、改めて初めまして守屋さん。■■と申します、以後お見知りおきをー」
ちょっと軽い口調で冗談らしく言ったつもりなのに、守屋と言ったら照れてるのか、かしこまってきをつけの姿勢になる。
「お、おう。確かに今初めて聞いたな……。こちらこそどうぞよろしく? 守屋です」
そういうと守屋は自分で「あっ」と口を手で押さえた。そして言う。
「あいや、『守屋』って本名じゃないんだが……。あの、うちでは本名を教えんのはタブーだったんだ……」
そう、非常に申し訳なさそうに……。
はあ!?
「いやいやタブー、って。どゆこと?」
「だから、構成員同士で互いの名前を知っちゃいけない、っていう規則があんだよ……」
「聞いてねーよ! じゃあ今の忘れろ!! なし!! なしだ!!」
「わりいまじで言うのわすってた……。じゃ! じゃあコードネームを決めてくれよ、これからそれで呼ぶから!」
露骨に話を変えるこの男、コードネーム守屋。はあ……。コードネームってどうしたらいいんだよ。
「なあ、どんなのがいいんだ? とかあるか? コードネーム」
守屋は首をかしげてみせる。
「そうだなあ……。基本的には自由だけど、それなりに使えるやつは動物の名前とかが多いかな。まあ、俺は本名にちなんだコードネームなんだけど」
本名にちなんだ……か。
「じゃあ、■■だし『獅子屋』ってのはどうだ?」
「お、いいなそれ。俺の守屋の屋を使ってくれたのかかっこいいぞ獅子屋」
別にそういうわけではなく、ただ語呂がよかったからたまたまそうなっただけなんだよなあ……。言わなくていいことは言わない。それが僕のモットー(いま考えた)だ。
とか考えてると、不意に守屋がピタッと立ち止った。
「ん? 今度はなんだ? なにかあったか」
「うし、やっと着いたぞ!! ここが例の道路、『砂台町十五号バイパス』だ」
なんと、話してたら、いつのまにか着いていた。どのくらい歩いたのかふとあたりを見ると、もう薄暗くなっていた。
しかしホントに、人減ったな。さっきまであんなににぎやかしだったのに、今じゃ寂しく車の走行音しか聞こえない。たしかにこれは、犯罪者にとってヒッチハイクがしやすい道路だな。
そんなシチュエーションそうそうあるか、って話だが。
「なあ、もう暗いし腹減ったし、野宿の準備でもしないか?」
「いやいやいや! せっかくここまで来たんだから、もう始めちゃおうぜ!!」
実際今日一日、朝から強盗したりで飯を食べていない。それに、守屋こそ朝ごはんを食べたいと嘆いていたはずだ。なぜこの男はこんなにもやる気なのか、甚だ疑問である。
「腹減ったー」
「分かった、じゃあヒッチハイク先の車の食料でも奪えばいいじゃんか! 一石二鳥だ!」
「分かったよ……、じゃあさっさとはじめるぞ」
僕はまず、ヒッチハイクと言えばのあれを用意する。
そう、あれ。ふっとい文字で目的地とかが書いてるボード。
ちょうどよく、路傍に茶色くて分厚い紙のようなものが落ちてんのでそれを使う。
「段ボールがあっても、書く物はどうするんだ……?」
書くものだって? そんなの魔法がありゃどうにかなる。
えーっと、ゴキブリゴキブリ……。
いたいた。道のすみっこにかさかさはびこってやがる。気分が悪いけど、仕方ない。Gチャージ、と。
「またかよ……ゴキブリじゃないと駄目な理由あんのか?」
もちろんある。なけりゃあ誰が好き好んでこんな虫を何回も食すんだ。それに、口に入れるたびにそのなかで動くから、口内が結構傷つくんだ、実は。それもあって、素材の肉々しさも、僕にとっちゃあ憎々しさにしかならない。
……うまいこと言ったと思う、自分では。
「簡単に言うと、ゴキブリの魔力は人間の魔力よりずっといいんだな、コスパが。人間の場合頭の先から足の指の先まで丸々食べてようやく得られる魔力より、Gチャージ一発で得られる魔力の方が格段に多いんだ」
「へえー、ってお前は何してんだ? 段ボール燃やしてどうすんだ?」
はあー。わかってないな守屋は。
「分かんないか? ほら、見てみろこれを。すごいだろ」
「ええ? ただ焦げてるだけじゃ……ないな、うん。すごいな、器用だななんていうか」
僕は、中級火魔法[身体発火]で自らの人差し指を火の指にして、それでその紙をなぞることによって文字を書き起こした。
書いた文字は「stop」。簡単に書くことで分かりやすくする。このボードによって、きっと僕たちのヒッチハイクの滑り出しは順調なものになるはずだ。
「よし! さあ、行くぞ守屋!! 僕はこのボードを持ってるから、お前はそこで踊りでも踊って車の気を引いてろ!!」
「踊……ええ!? そんな、俺そんなんできないよ」
「つべこべ言うな。こっちはこんなにいいボードを作ってんだ、お前も少しは役に立て」
「ちぇっ、わかったよ偉そうに……」
すぐに守屋はしゃがんで、両方の足を交互に前にリズミカルに突き出すという謎の踊りを披露し始めた。なんだよノリノリじゃないか。
思惑通り、運転手はみな一度はちらっとこちらを見ている。
うん、いい感じだ。さて、僕もやるとするか。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
彼らは知らなかった。この都会でヒッチハイクなどというオワコンに挑戦する成功難易度の高さを。
また、彼らは知らなかった。獅子屋がボードに書いた「stop」は字の汚さが原因で、そこを通る車の運転手たちからは「stap」としか見えないようになっていたことを。
「stap」。その言葉を使用することは、某有名動画投稿サイトでは流行していたこともある。みんな、ネタとして使う分には大好きな言葉だ。
しかしその、真実かどうかの判別がつかない単語は、ヒッチハイクという信用を持たせることが重要なものにおいて、足手まといになる単語だった。
「stap」のせいで胡散臭い集団という先入観を余儀なく持たれてしまった彼らがその事実に気づくのは、もう少し先の話である。




