6話 邂逅
我ながらこの物語、面白すぎるウ
「ナットさん!! どうしたんですか、何があったんですか!!」
兄ちゃんがナットさんに駆け寄る。
血だらけだ。
血が出てる。だくだく、だくだく。
真っ赤な、血が。
「……あ、あ……」
こわい。こわいこわいこわい。
「……無駄だ。……死んでる」
こわい。
こわい。
「……うう」
こわい。こわい、けど。
「に、兄ちゃん! ユーリが、中にいるんだ!!」
ユーリになんかある方が、こわい。
おれは、大声で兄ちゃんにそう呼びかけた。
「……カナデ、お前は隠れてろ。……お前と一緒に戦おうとするなんて、オレ、どうかしてた。お前はまだ八歳だ。オレだけ行く」
「い、いまさらなんだよ!! それに、兄ちゃんと一緒にいた方が安全だよ!!」
「だめだ。カナデはここで待ってろ。心配するな、すぐ戻ってくる」
嘘だ。
そのくらい、八歳のおれにでもわかる。
兄ちゃんは、多分自分がこれから死ぬと思ってる。
でも、おれだけは守ろうとしてくれてるんだ。
兄ちゃんは、こっちに背中を向けて。
壊されてるドアに向かって歩き出した。
行かないで。
待って。
「待ってよお……!! おれは、おれは兄ちゃんを守るんだ!! 一緒に行く!!!!」
「か、カナデ……」
兄ちゃんが振り返る。
その瞬間、壊れたドアから現れた人影。
その禿頭には、血がついていた。
「誰だお前」
「あ」
兄ちゃんは、サーベルで脇腹を切られた。
また、血が出た。
やめて。
やめてくれ。
もう、やめてくれないか。
「ぅぐうう、あああああ」
「この家の子供か?」
禿頭の兵士は、兄ちゃんの腹を踏みつけた。そして、ねじった。ねじって、ぐりぐり押し付けた。兄ちゃんはさらに苦しんだ。
「あがあああ、やめ、ろおお」
兄ちゃんは、禿頭の足に噛みついた。
「あぐ、あぐ!」
「あん? 何だてめえ、ふざけてんのか?」
また、足蹴にされる。
何度も、蹴られる。
ふと、気づいた。
兄ちゃんがいじめられるのを、ただ見ている自分に。
「や、やめ……」
大きな声は出なかったけど、その声は兵士に届いたようだ。
禿頭はこっちに目を向けた。
「あー、お前、こいつの弟かなにかか? 安心しろ、こいつはすぐには殺さない。かみつかれてちょっと痛かったから、そのバツとして苦しんで死なせてやることに決定した」
ふざけんな、よ。
「……ということだから、逃げることを許可してやる。お前ひとりのようなガキ一人くらい、逃がしたってどうでもいいのだ」
そう言って禿頭は、おれのことなんてなかったかのようにいじめを再開した。
おれにはそれが我慢ならなかった。
「や、やめろおおおお」
勇気を振り絞って、突っ込んだ。
「ぐえ」
うう。
苦しい。
くそったれ。
一発、蹴られただけでこのざまだ。うずくまって、立ち上がることができない。
「くどいぞ。お前は一体何なんだ? とっとと逃げればいいではないか。……まあ、逃げたところで、といったところだがな」
「う、ぐ。や、くそく、したんだ」
「え? 何て?」
「か、母ちゃんは、お前たちに殺された。だから、天国にいる母ちゃんに約束したんだ。この村は、おれたち兄弟が守るって」
禿頭は笑った。
大声で、心底面白いかのように。
「何が、おかしい」
「ハハハ、ハハハハハ! 面白い偶然だな!! いやあ、実におかしい。お前の母親に手を下したのは、紛れもないこの俺だなんてな!!!!」
は?
嘘だろ。
母ちゃんを殺した張本人。それが、このクソはげ野郎だなんて。
「あ、が……カナデ、それは本当、だ。母さんは、こいつの魔法で死んだぐえっ」
「まだ話せる体力があったのか。お前はゴキブリか? ハハハ」
「に、兄ちゃん……」
兄ちゃんは、喋らなくなった。さすがにまだ死んでないと思う。きっと気を失ってるだけだとは思うけど、それでもなんだか、悲しい。
それに、悔しい。
母ちゃんの仇が今目の前にいるのに、おれの力じゃなんにもすることができないだなんて。
「この野郎……この野郎」
兄ちゃんが噛みついていた足に、おれはもう一度かみついた。
こんなことしても、大した意味はない。そんなこと、解ってるのに。
「お前……そろそろ、調子に乗るのをやめろよ」
禿頭のおでこに、青筋が入った。
こわい。
兄ちゃんを蹴って遠くに飛ばした禿頭は、今度は標的をこっちに変えた。
「まず、お前を始末してからあいつを嬲るのを再開するとしよう」
まずい。
「ちぇあっ!!」
おれは、しゃがんだ姿勢からなんとか緊急回避し、振り下ろされたサーベルをよけた。
「はあ、はあ、はあっ」
そしてその勢いのまま、逃げる。
逃げる、逃げる。
走るというより、転がるといった方が正しいと思えるような進み方で、おれは家の裏に向かって逃げった。
後ろは振り返らない。
雑草ボーボーだけど、何度も通ってきた道。
ユーリの家の裏から、集会所にすぐいけるってことを、あいつは知らないはずだ。
「そんなことで、逃げれると思ってんのか?」
家の裏に出る。
「はああ、はああっ……えっ!?」
意外な光景。
そこでは、ユーリが体育座りで座っていた。
「ひぐ、ひぐっ。うう、うう~……か、カナデえ!?」
「な、なにしてんの!? ハゲがくるから、早く逃げないと!!」
「え、え!? 何!? 何いい!?」
まずい。
ユーリ、パニックになってる。
「こんなとこに逃げて、助かるとでも……ん? 誰だ、そのガキは」
「ひいっ! 誰だよお前エえええ!!」
「うるさいな……まあいい。とりあえず、順番に殺すか」
サーベルが、近づいてくる。
避けれない。
し、ぬ。
「う、うわああああ!!!!」
「ゆ、ユーリ!? おい、何してんだよ!!」
ハゲの剣は、おれに当たることはなかった。ユーリがおれをかばったのだ。
ユーリの顔から、血が出ている。
血。
こわい。
こわい。
「あ……目が、目が……目が……」
「いやだ、いやだあああ!! ユーリ、ユーリい!!」
「ち、とんだ邪魔が入ったな。お、抱き合ってくれれば都合がいい。手っ取り早く終わる」
イヤだ。
死ぬ。殺される。
殺されるのは、いたいだろう。血が、たっぷり出るだろう。
死にたくない。
死にたくないよ。
「誰か、たすけて……」
「じゃあなあッ!! ハーッハッハア!!」
走馬灯は、映らなかった。
剣は、振り下ろされた。
剣は、すごいスピードでおれの肩に届いて、そのまま……。
「[帯魔]」
おれとユーリの四肢を切り裂くことは、なかった。
「……え?」
『ガキイイン!!!!』
弾いた。
おれの肩が、剣を弾いた。
誰がこの結果を想像しただろうか。いや誰も、想像なんてしてなかったと思う。
甲高い金属音が鳴った。
鉄と鉄がぶつかったときの音だ。
痛く、ない。
死んでない。
血も……でて、ない。
無事だなんて信じられない。
「バカな……? 一体、何が……!?」
「バーカ、バーカ。バーカ、なのはお前だよドリー兵士長」
ハゲの、困惑した声に重なるように。どこかから、女の人の声が聞こえた。
「ルノー王国……だと……!?」
隣に、いつの間にか立っていたその人は。
軍服に似合わない、おかっぱのサラサラの髪で。
兄ちゃんと同じくらいの年に見えて。
そして、とてもきれいだった。
かっこよかった。
「お姉ちゃん、誰……」
「え? んなの、今どーでもよくね? ……まあとりあえず、『レオさん』とでも呼んでくれ」
レオさんの背中には、ルノー王国の王章が縫ってあるマントがなびいていた。
今までルノー王国を嫌っていたけど、好きになった。
「バカな……お前らは、ここに攻めてくる意味なんてないはずだ」
「まあね! でもさあ……他国のとはいえ弱者である農民に、『うちの村を助けてください、どうか……』なんて泣きながら頼まれたら、断るわけにはいかなくね!!?」
……違う。
「バカな……。何を言っているんだ」
……おれが好きになったのは、ルノー王国じゃなくて。
「だから、バカは、そっちなんだって!! バーカ、バーカ!! へい、バーカバカバカバーーーーーーカ」
……おれが好きに、なっちゃったのは……。
「バーーーーーーーーーーーーーーカ!!!!」




