第十六界:サングラス
「ありがとうございましたー」
背中で見送りの声を聞きながら、僕たちは店を発つ。
「あー、ねむ」
今起きたばっかだから、まだ意識が朦朧としている。
あそこのソファがふかふかすぎるのが、昨日地べたで寝た身には沁みたのだ。
聞くと一時間ほどぐっすりだったらしく、その間守屋たちはずっと服を選んでいたらしい。
……あまり理解できないな、そんなことにそんなに時間をかけることが。
まあいいでしょ。価値観は人それぞれなのだ。
二人で並んで、のんびりアーケードの下を歩く。
やっぱ人、いないなー。
これじゃ店員さんがきついのも納得だわ。
しかしさっき、強盗してんのが見られたり店員さんの悲鳴でも聞かれたりしたらまずかったんじゃないのか。
だって店に入った時点で行き止まりの袋小路と一緒だし。
それに万が一だがあの中に警備員でもいたりしたら、即戦闘というとってもめんどいことになるとこだった。
つまり、意識せずに綱渡り状態だったのだ。
これからはもう少し、気を付けて行動しないとな、と心に刻む。
「いやーしかし、いい店だったな」
僕がそんな風に真面目に反省してたのに守屋といったら、のんきにそんなことを言ってやがる。
ちょっと気が緩んでるんじゃないか?
お前、一応暴力団だろ。うすいピンクのシャツって、どうみても堅気にしか思えないぞ。
「……というか、なんなんだよそれは」
へらへらしてる守屋にツッコミを入れてやる。
ボケなのだとしたら言わされたみたいでちょい悔しいが。
さっきからずっと気になってはいた。
じっと見てみても、マジでなんなのかがわからんかったのだ。
「ああ、これ? っへへ、いいだろ。お前がイカしたデニムのジャケット着てるから、結局俺も合わせて、いい感じのダメージジーンズを選んでもらったのだ!」
そう言って守屋は自分の足を上げ下げして、ダンスをしているような動きになりながら、よほど気に入ったらしいそのズボンを見せつけてくる。
非常に腹立たしい。
……しかも。
「それじゃねーし! その、なんこもつけてる奇妙なカラフルな物体は、いったい何なんだよ!!」
思わず強い指摘になった僕の剣幕に押されることもなくニコニコしている守屋は、得意げな表情になって、「ああ、これか?」と今度は腕をびらびら振ってきた。
「これはだな……、『腕に巻ける系サングラス』SUNSUN!FOLDだ。スペイン発祥のおしゃれグッズで、今はやってんだぜ」
「おしゃれグッズ……」
とか言ってるけどそれ、すげーダサいんだよなあ。右腕にだけひたすらサングラスを巻き付けてて……サングラスを巻き付ける、っていうパワーワードよ。
うーん、これなんて説明すりゃいいんだろ?
こう、サングラスであってサングラスの形をしていないというか。腕時計の時計の部分の代わりに、二つの黒いグラスが折りたたまれて装着されてる感じ?
見た目的には、車のサイドミラーがペタペタ張り付いて取れないような。
素車にサイドミラーがついてるかは知らんが。
しかもそのサングラス、ヒョウ柄だったりしましま模様だったりと非常に統一性がない。さらに柄がないものですら色がバラバラだから、見てて目がちかちかする。
そんな、どこから見てもちょっと間抜けなビジュアルをしてる「おしゃれグッズ」を、いまだ守屋は自慢げに見せびらかしている。
しつこい。反応しないで放置しておくか。
「……なんだ、気に入らなかったかこれ? じゃあいいや」
そういって守屋は手を振るのをやめて、すっと腕を下した。
少し安心したのもつかの間で、今度は腕のサングラス、しかもヒョウ柄を腕からとってぬっと広げた。
きっちり装着してたイメージだったから意外と簡単に取れてて驚きだ。
そしておもむろにそれを顔に近づけ、そして装着する。
顔に着けたら先ほどの腕のダサさは完全に払拭されて、ヒョウ柄ながらも爽やかチックである。
「どうだ? 似合うだろ」
「はあー。バカじゃねえの。そんなもんつけて、今から目立ってどうする」
「ああっ、そうだあ……。俺たち、逃走中なんだ……」
やっと思い出したかのように、サングラスをとって頭を抱え始めた守屋。そして、サングラスを持つ左手をどうしたらいいのかわからなくなったらしく、再度腕に着用した。
…………。
「……改めて気い引き締めるぞ、守屋」
こうして僕たち二人は、おしゃれな格好となって商店街を発ったのである。
かなり短い




