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判決、異界流し。  作者: ポク塚
序章 異界道中膝栗毛
14/45

第十三界:初日の出と、守屋。(最悪かよ!)

 ……ん、眩し。


 いったあ、背中いてえ……。あーこれ、地面で寝てたからなんだろうなー。

 せめて寝袋が欲しかったなあ……。


 ……さて、起きるかあ。よーし起きるぞ。……起きるぞ! よし、動け、身体よ。

 

 微動だにも、しない。


 ……よおし、いち、に、さんで起きるぞ。よおし。いち、に……。


 「……羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹、羊が……」


 ……ふわあーあ。


 ……だんだん意識が覚醒してきたけど、昨日の体の疲れは取れてないみたいで体がゆうことを聞いてくれねえ。プラス筋肉痛できつい。

 

 んん? なんだこれ。口ん中になんかたくさん入ってるぞ。


 ああ、目え開けたくねえ……。けど頑張る、無理やり開ける。

 というかこの口内の異物は一体何なんだ?


 けだるく、むくりと起き上がってみると隣、というか目の前には守屋がいた。

 寝起き守屋……。かなりショッキングな映像だ。


 「むにゃむにゃ」

 

 そんなことを思われてるとはつゆ知らず守屋さんは、気持ちよさそうに、見張りの仕事も行うのを忘れてどっぷり眠りに漬かってるご様子だ。

 見ると、口元からは滝のように流れたと推測されるほどのえげつないヨダレ跡がうかがえた。

 うん、不快。


 「まったく……、使えねえな」


 まあいいや。


 半分夢心地で口をふがあっと開けて指を突っ込み、それを取り出す。

 なんだこれ?ちりぢりな……、多分、糸?いやいや布団も敷いてないのに、糸なんて普通起きた時口にあるか?

 

 うーん、あ、いや髪かこれ。うん髪っぽいな、これ。

 でも僕の髪ってこんなに天然パーマかかってるか?それになんか甘い味がするし。


 「ハッ!!」


 うそでしょ。まさかそんなことって……。

 僕はその髪らしきものの束を握りしめ、そしてこの守屋の頭の近くへもっていく。

 そして反対の手で守屋の髪を一本抜き、二つを比べてみる。


 「あてっ! ……ん、なんだあ?」


 守屋が何やら痛そうにしてるが、そんなの気にしない。

 すぐさま右手の束と、左手の今抜いた一本を、見比べてみる。

 それは見た感じ、色、形、そしてツヤ。すべてが一致していた。

 つまり僕は寝てる間、こいつの髪を無意識にはむはむしていたってことだ。


 …………。


 「……気持ちわりーわ!! まじできしょいわてめえごら!!」


 「い、いたい!? なんだよお、ずいぶん乱暴なぐはあ! お、おいもういいだろやめろ! 俺はもう起きたぞいたい!! やめて、やめてください!! 寝起きで平手打ちはきつい!!」


 別に起こすために叩いたわけじゃないんだけどなあ。まあ、バカが勝手に勘違いしてるし、そういうことでいいや。堂々としてればいいだろ。


 「よーしようやく目が覚めたみたいだなねぼすけ。今日も最低にいい朝だな、うん!!」


 僕もいま八つ当たりしたことですっきり目が覚めたよ。ああ、口の中が気持ちわりい。目が覚めたのはいいけど、一日の始まりがこんなこととはな……。先が思いやられる。


 「ふええ!? 頭がなんかびしょびしょのベタベタなんだが!?」


 守屋がまだなにやら騒いでるが、無視無視。

 

 それにしても、どんな界でも朝日はきれいなものだな。

 今僕たちは建物の隙間でわちゃわちゃとしているわけだが、そこにガッツリ差し込む光が僕たちの顔を照らしていてすごい神秘的だ。不本意にも、神秘的だ。


 「なあ、このベタベタがなにか知らないか? こんな地面で寝ちゃったし、なんかの虫かなんかにでもなんかされたのかもしれない……!」


 守屋は必死に僕に早口でなにかをまくしたててくる。かと思えば「背中いたあ……」と言い、いまのまくしたてでぴーんと伸びた背中を押さえて苦しみ、そして眩しそうにした。


 起きてからの順序逆じゃね? なんてツッコむのもめんどいな、うんやっぱいいや。

 

 「それにしても、これからどうするんだ?やっぱり、さっき言ってたみたいに四時間走り続けるしかないのか?なんか、汽車とかないのか」


 建物に付属している、煙突のようなものがついた四角い何かによりかかりながら、守屋はため息をついた。なにか、言いづらそうにしているのが分かった。


 「それなんだけど……、実は昨日の夜スマホで確認したところ、どうやらニュース速報でお前の背格好や顔の特徴が全国で報道されたらしいんんだ」


 なにい!?じゃあ、やっぱり本格的に指名手配じゃんか僕!!

 かつて国の英雄とも呼ばれたり呼ばれなかったりした僕が、まさか公的機関を二度も敵にまわすことになるなんて……、なんて不条理な世界なんだ!


 ……考えてみれば一回目は理不尽に裏切られたってことで確実に僕に非はないけど、今回は完全にやりすぎた僕に原因があるんだよなあ。戦争中ならなにをしても犯罪にならんかったし、感覚が麻痺してたわ。


 話は戻るけど指名手配ってやばくないか、それ。今後もし金を手に入れたとして、変装しようにも服も買いに行けないし、それどころか食材すら購入することがかなり困難になる。

 全国に指名手配ってことはどこにも逃げられないし、これから組の方に行くだけでもかなり困難になってくるな。


 ……きついわー。


 つーかそのすまほってなんだ。


 「なあ、スマホってなんだ?ニュースってことはもしかして新聞のことか?」


 僕がただ純粋に気になったことの質問をすると、守屋は怪訝そうな目を……。


 ああっ!! それ、その顔!! だから、その顔をやめろって!! 

 ……太陽を背にしながら体育座りしながらその表情だとどことなくラスボス感がでてるなー、などとどうでもいいことを思いつつ。


 「はあ?スマホはスマホだろ……もしかしてお前、本当に知らんのか?」


 守屋の表情が、バカをみる顔から、何やら疑っているような考えているような顔に変化した。

 その質問を受けて、僕は無言でうなずく。


 「そうなのか……。前からなんか色々おかしいとこあったもんな。帰国子女なん?」


 そういう発想になんの?なに、『スマホ』ってこの国の常識って感じだった? だとしたら帰国子女もその常識くらい知ってないとおかしいとは思うが。


 うーん。これ、なんて言おう。考えてみりゃ僕、帰国子女と言えば帰国子女なのか? 「異界からきた」なんて言っても、そもそも別の界である二界の存在を信用しないだろうな……。


 僕がなんと答えようか迷ってうんうんとうなっていると、守屋は大きなあくびをひとつ。それを見た僕もつられて、ふああと小さいあくびをした。

 ……なんか緊張感ねえな、一応僕たち逃亡犯だぞ?


 まあ、でも。


 「……そこ、説明しにくいとこだからさ。ちょっと歩きながら話そうぜ。警官どももこんな朝っぱらからパトロールなんてしてねえよ」


 「わかった。……なあ、歩くのはいいけど朝ご飯は食わんのか? 腹が減っては戦はできぬ、だぞ」


 腹が……なんだって? 守屋がしゃべることで、ところどころに意味不明の単語があるからもどかしい。文化の違いはもうしょうがねえし、さらっと流すことにする。


 「だなー。じゃあお前のことでも食うか?」


 これは案外いいアイデアだ。こいつをがんばってまるごと、最悪心臓だけでも食えればまあまあな魔力を得れるし、加速しながら進める。

 あ、でも組の場所がわからんか。いや、それはそこらへんの人間を脅せばなんとか聞き出せるだろう。ふむ、これがくわばらくわばらというやつか。いや違うか。


 「はは、冗談はやめろよ。冗談は……なあ、そのガチっぽい目をやめてくれないか? なに真面目にその案を検討してるんだ? 潜在的な恐怖を感じるやめろ」


 「あながち冗談でもないんだが……朝ご飯なんて別にあとでよくね?警官の包囲網が広がる前にちゃっちゃと逃げた方がいいって」


 守屋は「そうか……?いやでも……」と、手をあごの下において探偵のようなポーズで悩んでいる。認めたくないが少々スタイリッシュだ。


 ……。


 「お前、そんなに朝飯が欲しいのか?」


 「だっておなかすいた」


 ガキかよ。かわいいかよ。あっ、いい大人がもじもじするな! 本当の意味で目に毒だ。


 はあー。


 「じゃあそこらへんで小動物とか探すか?見つけさえすればもう捕まえんのなんて、僕にとっちゃ朝飯前だぜ」


 朝飯前、だけにな。


 「げえっ、小動物う!? お前いつもそんなん食ってんのか!?気持ち悪い、却下だ!! さあ、出発するぞレッツゴー!!」


 「ええ……」


 守屋はそういうと、エイエイオー! と言いながら謎の動作を繰り返し朝食のくだりをごまかそうとし始めた。


 掌の返し方がすさまじいな。そんなにやなのかよ、小動物ごはん。確かにどぶに居たりした奴とかを食うのに嫌悪感がないと言えば噓になるが、さっきまであんなに駄々をこねていたじゃないか。

 ああ、呆れる。


 「そうゆーとこも子供だな、守屋は」


 「さて、どうやって向かうかについて俺にいい案があるんだが!」


 守屋は、僕の発言を遮るようにして「オー」の体制のまま、自信ありげにつばを飛ばしてそう言ってきた。こいつのいいアイデアはあんまりいいアイデアのイメージがないが……。


 「なんだと思うーー? シンキングタイムスタートお!」


 なにこいつ。


 テンションどうした?朝だからかなんかきもいぞ、昨日の感じとだいぶ変わってるんだけど。


 「いいから早く言え。調子に乗んな」


 自分でも驚くほどドスのきいた声が出た。

 すると守屋はゆっくりと「オー」から「エイ」になり、そしてだらーんとしてシュンとした雰囲気をかもしだした。

 ちょっと、罪悪感が湧いてきた。ごめんな守屋……。


 「え……と、俺のアイデアは、車を使うというものです」


 は?


 「車ア? 持ってんなら最初から使えや、バカなん??」


 「あいや……!ちがくて、その、持ってないんだ」


 なおさらわけわからん。どういうことだ?


 「お前頭だいじょぶか」なんて聞こうとしたとき、守屋は言いにくそうに話し始めた。


 「つまり……ヒッチハイク、ってことだよ」


 「いやいや、僕らは絶賛指名手配中だぞ? ワンチャン乗れたとこですぐばれて通報されんのがオチ……っ!」


 そこまで言ったとこで、僕にもようやくこいつの言いたいことが理解できた。

 ……ヒッチハイクってそんなものじゃねえだろ……。

 言いたいことはひとつ、やっぱりバカじゃねえのお前?


 「でも……ナイスアイデアだ」


 そういうと守屋はシュンとしていた表情から、ぱあっと明るい表情に戻った。


 ったく、ホントに単純だなお前。……そこが好きなんだけどな。


 「よっしゃあ! じゃあ、早速決行するか! 題して、『ヒッチハイク強奪大作戦』だ!」


 守屋は再度、いやさっきよりも増して力強く「オー」のポーズをとった。それにつられて僕も思わず頬が緩み、小さく「オー」をした。


 レッツゴー。

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