カナデ編第一章 1話 その日①
カナデ編、はじまるよ
「くらえっ、スーパーファイヤーパンチ!」
「ぐ、ぐわあやられた! さすがファイアヒーローカナデマン、目にも止まらないくらい早いパンチだ……。」
おれはおれの最強の必殺技ファイヤーパンチで、敵の軍勢を倒していく。
おれはファイアヒーローカナデマン、八歳だ。
毎日、せいぎの戦いに身を燃やす日々だ、ファイヤーだけにな!
ちなみにこの決めぜりふは小さいころに父ちゃんから教えてもらったものだ、かっこいいだろ!!
幼馴染のユーリとはずっと一緒で、いつも一緒に遊んでるんだ。
おれたちの生活をおびやかす悪の国、ルノー王国の兵士たち(全部ユーリ)をファイヤーパンチでバッタバッタとなぎ倒すおれ。かっこいいだろ。かっこいいぜ。
ああ、父ちゃんも今頃、あいつらと戦って頑張ってるのかなあ……。
「隙ありだカナデマン!! 敵に背中をみせるとはばかだな、しね!!」
いてえ!! せなかあ!! このやろう!!
「おい、ずるいぞユーリふいうちなんて! しかも本気でなぐっただろ!?」
「へっ、敵に背中を向けるほうがわるいんでーーす!! つーかこんぐらいのこと、ルノー王国のクズたちなら簡単にするだろーが」
たしかに……。あいつらはザコだし、そうゆうずるいことでしか戦えないもんな。
すっごいなっとくした。
「つーか、つーかよお! さっきからお前ばっかりヒーローでずるいぞ奏! おれ、もう悪役なんてやりたくねえよ代われよ」
「やでーーす。そんな法律ありませーん! 聖書にでもかいてるんですかーー?」
「せいしょ……?せいしょって、なんだよ!! 知ったかぶりですね、お前!!」
知ったかぶりじゃないし!! 母ちゃんから昨日、教えてもらったんだよ!!
聖書だけは、絶対に正しいことしか書いてないと知ったおれのなかでのさいきんのブームが、「聖書にかかれてませーーん」だ。
でも、おれは正しいことしかかいてない、ってのをちょっと嘘だって思っている。なんでかっていうと、聖書の中の神話で「この世界のそとには、あと八個の魔法の世界がある」ってかいてるのがあるからだ。
世界なんてひとつだけに決まってんじゃん!! あるってゆう証拠もないし、嘘っぱちさ!!
「そんなんも知らないユーリの方が、ばかですね!!」
おれがそういうとユーリは怒ったみたいで、ふんぬーー!とおれをにらんできた。そのうえ拳をにぎりしめて、そしてそれをそのまま……。
ぐっはあ!?かおなぐった、こいつかおなぐった!!
「やりやがったなあ!?おらっ、おらっ!」
顔の痛みを我慢して涙をこらえながら、ユーリをなぐる。
「ファイヤーパンチファイヤーパンチファイヤーパンチファイヤーパンチ」
なぐる。殴り続ける。
「いて、いたいやめ、うっ、うっうわあああああんやめろお、やめろお!」
目にもとまらぬ、おれの連続腹パンをうけたユーリは、抵抗をしながらだけどすっごい泣き始めた。
お前がおれに最初になぐったからわるいんだぞ、泣くなよ!!
「……カナデ! おーい、カナデ!!」
ん?なんだ、この声。ユーリの泣き声のせいでどこから聞こえてるかわかりにくい。
首を動かして、周りをきょろきょろと探してみる。
なんだあれ?ボロボロの服に、坊主頭……。
げえっ!? 兄ちゃんがこっちに向かって走ってきてる!! 農作業してるからこの空き地に来ることはほぼないはずなのに、なんで!?
空き地に、すごい表情といきおいではいってきた。
なんだろ、また怒られるのかな?だとしたらやだ。おれはわるくないのに。先になぐったのはユーリの方なのに。
先手必勝! なにか言われる前に、言い訳を言い続ける!!
「なあ、なあ兄ちゃん! こんかいばっかりはおれは悪くないんだよ!! 先に……」
「そんなことはどうでもいい!! 早く帰ってこい!! 母さんが、母さんが……」
へ?
考えていた言い訳が、ふきとんだ。
そして兄ちゃんのただ事ではなさそうな雰囲気におされてか、ユーリはすんと泣き止んだ。
「えっ!? なに、お母さんがどうしたの!?」
兄ちゃんは自分の唇をかみ、つらそうな表情だ。
「……見りゃわかる、行くぞ!!」
突然の出来事に戸惑うひまもなく、兄ちゃんはおれの手を引き、もと来た方へ走り出した。
振り返ってみたら、空き地に一人のこされたユーリはただおろおろして、どうすりゃいいのかわからなそうだった。
今気づいたが、兄ちゃんはなぜかはだしだった。いつもはいてるあの草履も履かずに、走っていた。
「兄ちゃん、足……」
一歩を踏み出すたびに足裏から血が吹き出し、乾いた草の上を駆けるたびに足首がしぱしぱっと切れる様子はみるだけでこっちもいたくなって、たまらず言った。
「そんなん、どうでもいい!!」
すごいかおだ。こんな顔は、いままで見たことない。
なんだかわからないが、おれも、胸がつらくなってきた。
それから走っている間兄ちゃんは一言もださなくて、なにかをこらえてるのがおれにも分かった。
おれの息がきれてぜえぜえいってるのもお構いなしに走り続けて着いたところは、村から出入りするための、せきしょというところだった。
二人で立ち止って、その異様な様子を見る。
ざわざわ。
なぜか、人がたくさんいる。なにかを、囲んでる?
「……見てこい。経緯は、後で話す。」
けいい、ってどういう意味だろうといつもなら質問するところだけど、今の兄ちゃんに話しかけることはできない。話しかけられないという感じが、した。
囲んでいる何かをみるために、ひとごみをかき分ける。
小さなむらだから、見知ったかおばかりだ。そんなひとたちをちょっとどいて、と抜かすたびに、みんながおれのことを、なにかいいたげな悲しそうな目でみていたことに気づく。
それに近づいてることが分かるたびに、周りのざわつく声よりもはるかにおれの心がざわつく。
おれは子供だから、しゃがみながらなら大人たちの足元からするすると通ることができる。耳をふさいで、向かうのを拒否する足をむりやり動かして、進む。
兄ちゃんが言ってた言葉から、それがなにかはなんとなく想像できる。
……想像できるけど、信じれない。信じたくない。
かき分けて、それの目の前に立つ。
「うそだろ」
「それ」は、毎日見ているものだった。みまちがえるわけが、なかった。
「母ちゃん……母ちゃん……!!」
母ちゃんはそこで、おでこから血をだくだく流して、氷みたく冷たくなっていた。




