第十二界:ビジョン
「ほっ、ほっ、よし警官たちはまだ追ってきてないな……。おい、どうした早く来いよ。念のためまだまだ休まないでいた方がいいだろ」
「待ってくれ守屋ああ、少しくらい休んでもいいと思うぞおお」
警官たちの騒いでる声を背に家を去ってからわずかおよそ二分。僕の体力は限界に近いところまで来ていた。去り際に、放火なんていらんことをしたせいで魔力がもうほぼ残っていないのだ。
あと足も痛い。撃たれたとこの忘れていた痛みがここにきて蘇ってきたということに気づいた。ろくに手当もしてないし、後から悪くならないように早く落ち着いて体を癒したい。
「はあ、はあーー。もうヤダ疲れた、はあ、はあせめてもうちょいゆっくり……」
なんたって疲労も相まって満身創痍の状態なんだ。
僕がそんななか守屋は、息を切らしながら走っているも、ペースがやけに早い。
結構軽快な感じの足取りでボロボロに焼け焦げた布切れ(元洋服)を風になびかせながら、路地をスイスイと駆け抜けていく。
僕も万全の状態じゃないとはいえ、なんとかついていくのが精いっぱいだ。
ただ走っているのが憂鬱になってふと周りを見回してみても、同じような建物ばっかりでため息がこぼれる。
そういや、なんか暗くなってきたな……。時間がたつのは早いもんで、早朝にここに放り出されてから色々あって、もう夕方だ。
早く寝床を探さないとといったとこだけど、先を気持ちよさそうに走るこいつに何か当てはあるのだろうか。不安だ。
「はあ、はあ。なあ守屋、ところでこれ、どこに向かってるんだ?」
「はあ?そんなん組に戻るに決まって……っあ、そうか。お前にはまだ言ってなかったな。」
「さっきもそれは聞こえたけど組、ってなんかの犯罪組織のことじゃないのか?んで、お前はそれに加入してると。」
「犯罪組織ねえ……。まあ間違ってはないな。」
……なんか含みのある言い方だな。
それにしてもしゃべりながら走るのは疲れる!気になるけど今話すことじゃない。
「それより、そのその組?までは走ってあとどんくらいで着くんだ?マジで疲れたし足の手当てもしたい」
「俺が所属してるのは八王子支部までは……さっき車で50分くらいだからこのペースだと四時間くらいで着くぞ」
は?四時間?
遠すぎんだろお前。犯罪組織だかなんだかしらんけど、なんでたかが泥棒でそんなに遠いとこまでくる必要があったんだ?
僕はそれを聞いた途端、へなへなと力が抜けていき、走る気力が全くなくなった。
「……あー、地面つめてーケツつめてー」
「おい! なに座ってんだよ置いてくぞ!」
「え~」
置いてく、ってお前……。お前だって僕の黒炎に焼かれて全身大やけどなはずだろ。だったらもう走るのがつらい僕の気持ちも理解できるだろうが。
あれ、ちょっと待てよ。別にそれでもよくね?置いてかれて、よくね?
よく考えてみたら僕、こいつについてく必要性皆無なんだけど。だって一緒に行動してるのも、ただあの状況から逃げるためだったし。
「な、なあ。なんか話が進んで僕も組に行くみたいになってるけどさ……」
「え?だってお前も入るんだろ?俺らの組」
え、ええええ!?
なにいってんのこのひと。
至極当然かのような表情でそんなこと言ってくるけど、ぼくそんなこと一言も言ってないうえに、その組ってやつ自体どうゆうものなのかよくわかってない状況なんだけど。
「いや、そんなこと一言も……」
「だってお前も立派な犯罪者だろ。ガリ先輩とデブ先輩殺してるし、それに警官までやったんなら、もう極悪な連続猟奇殺人事件の犯人だよお前」
さっきから僕の言葉を遮りまくって、やけに食い気味だなこいつ。
犯罪者は確かにそうかもだけど、そうだったらなんだってんだ?
あ、もしかして、お前には犯罪の才能があるから頼む仲間になってくれってことか?
いやー困っちゃうなー。有能な男はつらいぜ。
でも、ただで入るわけにはいかないな。傭兵として多大な戦績を上げてきた僕に、無償で働く道理なんてない。
はあー、それなのに二界のクズどもは、「国民の義務、義務」って叫び散らしてうるさかったから最低最悪だったな。思い出すだけでが不快な気分になるぜ。
何のためかもわからず馬車馬のように働き、戦う。もうあんなふうにはなりたくないんだ。
「なるほどな。話は分かった。しかし入るには条件がある」
言いたかったこんなセリフ!!
「はあ?条件はこっちの組側が出すんだけど」
「それは、この僕がボスになること……って、ええ!? なにそれ?そっち側の依頼じゃないのぉお?」
「依頼って……。別にこっちにそこまでメリットあるわけではないしなあ……」
メリット、ないのかあ……。
「じゃあいいよ、守屋、お前とはここでお別れだ。考えてみれば、警官たちはもうほぼまいたようなもんだし、一緒に行動する意味がないんだ。殺さないでやるだけ感謝しとけ」
せっかくこの界で初めて意思疎通ができた人間だから大切にしたかったけど、組とかなんか色々めんどくさそうだからもういいや。
一時とはいえ心を通わせられた僕との別れに対して守屋は、きっとさぞ悲しそうな表情をしていることだろう。
「……」
な、なんかバカを見るような目で僕のこと見てるー。
「呆れて何と言ったらいいかわからない」とでも言いたげな表情ー。
「あ、あのー守屋さん?どうされましたかー?」
「いや、何と言ったらいいのか……。」と、守屋は身ぶり手ぶりを使って、僕を諭すかのように話し始めてきた。
「お前、今の自分の状況わかってる?何人も殺したし、放火までした。そんな頭のおかしいやつが警官総出でも捕まえられずに逃げおおせてるんだ。警官の面目丸つぶれだし、なにより市民がお前がのうのうと外をぶらついてることを許さないぞ」
そんなこと言われても!!
「放火はお前がやれって言ったんだろ! というかだから何なんだ?もうしなきゃいいだけじゃないかよ」
「お前は馬鹿か?これは大ごとだぞ。警察の方で捜査本部もたてられるだろうし何よりお前みたいな異常者はまた繰り返す」
繰り返す、って言われても……。僕みたいな人間なんて、そこらじゅうにごろごろ転がってるはずだ。それにまたなにかが起こっても、そのときのことはそのとき考えればいいんじゃねえの?
「そういう奴らの掃き溜めが、俺が入っている『裏国営ヤクザ』なんだ」
「裏国営ヤクザ、ってなんだ?ヤクザじゃないのか?」
「やっぱり知らなかったかあ。政治家だけではなく国からも『仕事』の依頼をされる、絶対に表舞台に立つことのない特殊なヤクザ。歴史上、戦争の副産物として国と太すぎるパイプを持つことになった犯罪組織。それが裏国営ヤクザっていうんだ」
なんだそりゃ。やっぱりこの界の人間も腐ってやがるな。
政治には暴力がつきものだがその暴力団に、警官が追ってる犯罪者が在籍してるのはどうなんだ?
警官たちはそのこと、知ってんのかな。多分下っ端はそんなこと知らないよな。
もし仲間を殺した僕が、その後は国の下で何もなかったかのように働いてるのを知ったらどんな顔をするんだろう。
あんまり想像はしたくないな。
「なるほどね……。つまりそこに入れば、実質の仲間や居場所をゲットできて、追手におびえることなく快適な暮らしが送れる、ってことか」
「そうだよ! だから絶対入った方がいい。大半の、長い間潜伏してる指名手配犯はそこにいると言っても過言ではないんだ」
そんなとこで僕、やっていけるかなあ。
入ったところで人間関係のトラブルが起きそうだ。ほら、分かるでしょ。僕なんか嫌われるタイプなんだよね、人に。
「入ったらどんな仕事をするんだ?それによって」
「あんたに入らないっていう選択肢はもうないと思うよ」
なるほどなるほど。
えーとこれ組織に加入しないと駄目な感じってことだよね。
確かにあいつらには顔も見られちゃったことだし、孤独ななかこの界で人相書きつきで指名手配なんてされたら、普通詰むもんな。
自給自足するのも大変そうだし、むしろ入ることができるのはかなりラッキーだ。
「給料はどんくらいか教えてくれ」
そう、それが一番気になるのだ。
「だからそんなの、入ってから聞けば……まあいいや。月ごとの給料は組への貢献度によって変わるぞ。新入りは、でかい依頼を行うメンバーの中に混ざるとかして昇格していくんだ」
つまり、強けりゃ強いほど金は入ってくるんだな!
「あと、寮みたいなものは……」
「ある」
「ええやん」
至れり尽くせりじゃないっすかあ! 決めた、僕そのメンバーになる! んで昇格してって、それなりの地位を手に入れてやるぜ!
一時はどうなることかと思ったけど、ビジョンが見えてきたな!
これぞまさにやりなおし人生だな!
とか決意してたら、辺りはすっかり暗くなり、もう夜だ。
「どうする?まだ歩くか?ここら辺から先は、ちょっと人通りが多くなるけど」
「人がいるとこはまだまだ危ない、暗いしな。なにより疲れた。もうそこらへんで寝ようぜ」
「だな、じゃあ交代で見張りを……」
「っおやすみい!」
僕の体は建物と建物の隙間に、えげつない[重力操作]のように吸い込まれていった。
「お、おい! ここは公平にじゃんけんで……って、おおい! なに気持ちよさそうにしてんだおい! 寝たのか、もう寝ちゃったのかあ!?」
ふっふっふナイス隠れ特技。
僕は死んだふりだけでなく、寝たふりまで上手な万能超人なのだ。
そうして守屋の声を右から左に流してるうちに、脳は本当の眠りに近づいていった。
思えばかなり濃すぎる一日だったな。
一界よ、また明日ー。




