第十一界:大脱出
「えーと……。だいじょぶなの?その、火傷とか」
「平気なわけないじゃんかよお!! すっげえ熱かったし火傷もしてんだ!!」
つまり、ただのタフガイってことか。うんやっぱりこの男、かなり予想外だ。
「というか、お前……、マジでいったい何をしたんだ??床から急に炎みたいなが墳き出した様に見えたんだけど、なんか仕込んでるのか?」
守屋は僕を睨めつけたまま、怪訝な顔で尋いてきた。
あー…………どうしよ、これ。だって一界には魔力がないわけだから当然魔法なんて言っても分かんないよな。
いや、もしかして存在は知ってるのかも。ここではなぜか生物の体の中に魔力が内蔵されてることだし、それを有効活用できる人間がいてもなんらおかしくはない。
「魔法……って分かるか?二階のデブを食って得た魔力で[黒炎領域]っていう……」
「はあ!?イヤ、いやいや。そのバカみたいなごまかし方は何なんだよ?魔法なんてただの喩えだろ、一緒に逃げるなら持ってる武器くらい教えてくれてもいいだろ!」
え?こいつのこの言い方、まるで魔法の存在を知ってるみたいだな。
やっぱりこの界にも魔法はあることにはあったりするのか、日常的に使われてないだけで?
「だから、僕が使ったのはその魔法なんだよ。んでその『喩え』ってのはどういう意味だ?喩えもなにもないんだけど」
「あと、先輩を食った、ってのはどういう意味だよお! さっきからお前、警官を食っただの先輩を食っただの、それこそなんなんだよ、おかしいぞお前!!」
価値観の違いからか、やっぱなんか言ってることが食い違ってるような気がする。
「だから食ったんだって。気になるなら見てくれば……」
ピンポーン。
「……っふわあ!」
び、びびったあ。
え、何!?急になんだ、どうした!?
不意に部屋に、汚いオルガンのような高い電子音が鳴り響いた。
思わず情けない声が出てしまったが、突然のことだったので仕方のないことだろう。
「しいーーっ! ちょっと、静かに!!」
だから、仕方ないことだってば。
というか。
「なあ、今のって何かわかるか?何かの警告音っぽかったぞ?なんかの動物の鳴き声か?敵襲か、警官か?」
「静かに、頼むからちょっと黙っててくれ……。これはチャイムに決まってんだろ……。」
「チャイムって何?」
「火だしたり騒いだりしてたから、さすがに外の警官も気づいたんだよ!! あ、ほらまた鳴らしてる!! どうする、ドア蹴り飛ばして奇襲をかけるのも手だと思うんだけど」
チャイムってなんだし。無視すんなし。
んでこいつ、すぐそんなに切り替えられるのはナチュラルにすごいと思う。つーかちょっとズレてると思う。そこは僕と同じだな、はは。
「なあ、つまりドアの向こうにいる、ってことか?ここのドアにはのぞき穴とかないのか?」
「そんなの不法侵入してる俺が知るか」
あ、だよね。
ちょっと見てみるか、とりあえず。そろりそろりと玄関に足を運ぶ。
床は黒焦げのボロボロで、元からの内装のさみしさもあって見た目は完全に廃墟だ。
一応それらしきものは見つけた。ドアの中央部分についていたそれの、銀色のふちをスライドさせて、その向こう側をのぞく。
「どうだ?やっぱり警官か?」
「げえ…、ああやっぱり警官だ、後ろにもまだうじゃうじゃいるぞ。」
僕がここら辺に潜伏してることを知っててこんなにたくさん残ってるのだとしたら、なぜすぐにこの家に聞き込みに来なかったかは少々疑問に残るが、問題はそこじゃない。
「どうする、どうする!?さっきお前が俺にやったみたいなことはもうできないの!?原理は全然わかんないけど、威力は信用できるんだよあれさあ!!」
うーん。
どのようにして逃げるかといえば、正面突破がやはり一番可能性は高い。
魔力が切れるたびに、警官たちの心臓、が望ましいが食える部分であればどこでもいい、から魔力を得てその魔力を使って殺して、の繰り返しを行うのがいちばんよさげなんだ。
しかしその作戦と呼ぶにはあまりに拙いものには、当然というべき弱点がある。
①隙だらけ。警官を食べてる間に後ろからズドンである。
②単純に疲れる。魔力量とか関係なく、魔法を撃つたびに普通に体力は使う。回復魔法でも使えるやつがいればよっぽど違うんだけどな……。
③おなかいっぱい。
むしろこれは、弱点だらけと言うべきだ。できればこっそり、ばれないように戦わないように逃げたいんだ。
「そうだ!! 案というにはあまりにお粗末だけど守屋、裏口を探すぞ!!」
「裏口い!?今どきの家にそんなの……、いや確かにある可能性はあるな!! なんたってこの家、でかいしちょっと古っぽいし!! 考えてみれば古い建物だから窓を割ってもなんの警告もなかったんだよな」
なんだよそれ。「考えてみれば」とか、もしかしてこいつバカ?別にいいけど。
でもこの家、言うて広いか?普通じゃね。あ、でも一界にとってはそうなのかもな。界が違うと色々違うもんだ。
「じゃあ僕はこっちみてみっから、お前は階段の奥の方を探せ!」
僕はキッチンの脇側のドアを開けてみる。するとそこにはたくさんの荷物がきちんとした様子で並べられていた。
ん?
「待てよ」
刹那、僕の脳を刺す違和感。なにか、大切何かを見落としている。そんな気がした。
なんだ……、なんなんだ一体……! 考えろ……、考えろ僕……!!
「おい、あんたー! あった、あったぞ!! 多分このドアは裏側の道につながっている……!! 早く来い、逃げるぞー!」
考え事をしてる間に、でかした守屋となっていた。
ピンポンピンポンピンポン!!
チャイムもかなり激しくなってきた。
疑問だ。そんなに指の運動をするくらいならとっとと国家権限かなんかで乗り込んでこれないものなのだろうか。
そんな疑問を抱きながら僕は、守屋とともにそのドアに突っ込み外に出る。そこには一人も警官はおらず、ただ静かな路地となっていた。うーん平和だ。
「っしゃあ狙い通りラッキー!」
ゆっくりもしていられない。もうじき、警官たちは僕がこの家に居て、そしてこっちに逃げたことに気づくだろう。
ん?なんだ守屋。なんか言いたそうだな。目と目が合うー瞬間。
「……なあ、さっきの火って今使えたりする?」
……はは、なるほどね。
僕は守屋が言いたいことがすぐに理解できた。こいつ、やっぱバカだわ。
「[種火]」
振り向き、おそらく木でできているであろう外壁に火をつける。
とはいえ、このままではすぐには火は広がらない。
「なので[気流操作]あ! 空気集まれ集まれーー!」
火は炎になり、またしてもこの家を燃やしていく。
壮観だー。
僕たちは今度こそ家に背を向け、ここではないどこかに向かって駆け出す。
僕は心の底から笑っていた。まじ放火最高だぜ!!
一方、当の守屋は妙に神妙な顔つきをしていた。
「おい、お前が景気づけに火を放とおうっていったんじゃんか。なんでそんな顔してんのさ」
「いや、火葬って意味だと思ってたんだけど……二人の」
「ははははは!! 忘れてたわそんなやつら!! いたなーそんなの!!」
「おい、忘れんなよ大事な先輩を! まあでもたった一年しか違わない僕に対してひどい扱いだったし、正直嫌いだったからいいけどねー!!」
「なんだよそれーー!! ぎゃははははー!!」
はー面白い面白い。意外といいやつ守屋。
あ、今気づいた。はは、さっきの違和感分かった。
『キッチンできっちんと並べられてる荷物』。
これよ。
星がほしい




