第71話 ルーブルシアでの夜会とデリック殿下の行く末 懐かしい我が家
私達がそれぞれの国に帰る前に、竜魔王の討伐祝いの夜会を開く旨の招待状が届いた。
冒険者も私たち小隊のメンバーも、王族や貴族がいるのでそのままでは帰せないというところだろう。
小隊の皆は軍の礼服を着用している。……アイテムボックスに入れて持ってきているところがすごいけど。
私と冒険者の女性たちは王宮内で、肌や髪の手入れをされ、急遽ドレスを作ってもらっていた。
クラークとハワードもちゃっかり自国の軍の礼服を着てるし。そういえば、軍属って言ってたっけ……。
主催者の国王陛下の挨拶も終わり、ダンスの曲が流れだす。
最初の曲は、婚約者か夫と踊るものだけど。
「マーガレット嬢。私と最初のダンスを踊って頂けますか?」
ダグラスが礼を執って私に訊いてきた。公の場なので、愛称ではなく正式な名前で呼んでくれる。
「喜んでお受けいたします」
私はにこやかに受けた。
「しばらく練習もしてなかったのに、踊れるものね」
「そりゃ、小さい時から嫌って言う程練習させられたからな」
ダグラスのリードは安定している。マーガレットがダンスのレッスンを始めた時から、練習に付き合ってくれていた。
思い出に浸りながらダグラスの方を見ると、なんだか笑いをこらえているような。
「何?」
「いや、失礼。光の玉と竜魔王の名前を思い出してな。あいつら……特に光ちゃん? だっけ。そのままの名前なんだもんな」
「ルーチェとラディウスが?」
「それ、日本語訳すると光と光源だからな」
ぶっ。やだ、思わず吹き出すところだったじゃない。
話題変えなきゃ、2人してダンスしながら笑ってる変な人になってしまう。
「そっ……それより、ダグラス。最初のダンスは婚約者か夫婦で踊るものよ」
「当たり前だろう? だからメグと踊っているじゃないか」
何、当たり前の事を言っているんだ今さらって感じでダグラスが言ってくるから、確認の意味もかねて私は言った。
「結婚式まで省いたら、本気で別れるからね」
「え? あっ、わ……分かってるさ」
ダグラスの、この言い方。
絶対分かってなかった、確定で。
婚約者どころか、私の夫のつもりで最初のダンスに誘ったわね、ダグラス。
曲が終わり、私はダグラスと挨拶の礼を執り合う。全く、確認してて良かったわ。
「マーガレット嬢。私と踊って頂けますか?」
ふんって感じでダグラスから離れると、今度は王太子がやって来ていた。
「ふ~ん。結局、ダグラスと婚約したんだ」
踊りながらそう言ってきた。私は何ともいえない……さっきの愚痴を王太子にいう訳にはいかないわ。
「私もマーガレットの事が好きだったって言ったら、信じてくれるか?」
「へ? ウソ」
王太子の唐突な言葉に、私は間抜けな返事を返してしまった。王太子が笑っている。
「まぁそれがウソでも本当でも、私はアイストルストの姫君との婚約が決まったからね」
「それは、おめでとうございます」
今回の事が、国際的にさほど問題にならなかった証拠だ。
「ありがとう。ところでデリックも、ソルムハイムに行くことが決まったから、向こうの姫君との婚姻の為に」
「そうですか、それは重ね重ねおめでとうございます」
デリック殿下は、ほとんど無罪放免なのねとホッとしてると、王太子が言ってきた。
「その先を、知りたいか?」
先ほどまでの軽い口調とは打って変わったような低い声に、私は思わず王太子をみる。当たり前だけど、王太子の表情はにこやかだ。
「お前の周りは、誰も真実を教えてくれないだろう? ここは公の場だ。何を聞いても以前のマーガレットの様に振舞えるのなら教えてやるが」
「大丈夫です。教えてください」
私は笑顔でそう答えた。ここで聞いたことすら、周りに気付かれないように。
「デリックの婚姻相手は王族の姫君だが、生まれつき身体が弱くもう長くは持たないらしい。その姫君が亡くなった後、デリックはソルムハイムの王宮内の幽閉塔に入れられ、もう二度と外に出ることは叶わない。デイミアンの命と引き換えて得た結果がこれだ」
「そう……ですの」
気の毒だと思う。デイミアンはデリックの幸せを願って自分の命を投げ出したのに、その結果は、ただ生き永らえただけ……。
「でも、どうしてわたくしに教えて下さるのです?」
みんなして、私の耳に入らないようにしているのに。
「借りを返しただけさ。女王陛下に進言してくれたんだろう? 私は愚かではないと。だから、アイストルストに出向くことが出来た」
「ええ。本当の事ですもの」
「それで助かったんだ。アイストルストの監視下に置かれるだけですんだ。私は聖女様を国外追放した張本人だからな。随分と甘い処置だよ」
……そうか、王位継承権を持つものは他にもいるものね。
王太子の縁談もそういう意味だったんだ。
「ああ。曲が終わるね」
そうして王太子は私の前で優雅に礼を執り。
「ありがとう、マーガレット。どうか、幸せになってくれ」
最後の最後に、私が初めて見る優しい顔で王太子はそう言った。
竜魔王討伐のお祝いの夜会。
みんな楽しそうに笑っている。多分、私もはたから見たら楽しそうに見えるだろう。王妃教育の賜物ね。泣きたいときでも、笑っていられる。
王太子は、カヤの外にいた私を中に入れてくれた。入りたいのなら入っておいで……と。
だから私は、他の自称大人たちと同じように心の中に仕舞っておける。
数日後、後処理を終えてアイストルスト王国の小隊は帰路に就いた。
王宮での女王陛下との謁見を最後に私の首に下がっていた女王陛下の通行証は、消えてしまった。
もうこれで、私が王室にかかわる事もないだろう。
久しぶりの我が家、馬車は私たちのお店がある大通りに出る。
すぐにお店が見えてきた。
うちの使用人たちは優秀だ。私がいなくても、ちゃんとお店を維持してくれている。
店の中に入ると、ボブとベンが店番をしていた。
「おかえりなさい。メグ様」
「留守の間、変わりなかった?」
「ええ。最近は冒険者のお客様が増えてきて……」
ベンが説明をしだす。しばらくは、私もダグラスもそのお客の情報を訊いていた。
「あら、メグ様。おかえりなさいませ」
奥からクレアが出てきた。良かった、本当にみんなここにいてくれて。
後は、私がこの世界にいるだけで、残った瘴気も払われて綺麗な空気になっていく。
まぁ、それには何十年もかかるのだろうけど、私はちょっと裕福な平民として今の商売を生業にして、一生を過ごすだけ……。
めでたし、めでたし
え? ダグラスとの関係?
それはもう、変わりようがないわ。
この世界にまで付いて来てくれた、私の夫だもの。
でもね、ダグラス。
『いろんな手順をすっ飛ばしたら、本当にお別れだからね』とだけは言っておくわ。
おしまい
※ここまで読んで頂いて、感謝しかありません。
ありがとうございました。
次は『番外編 デイミアン伯爵が願ったデリック殿下の幸福』です。
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