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第61話 ルーブルシア王国 冒険者側

 時は少し戻り、ルーブルシア王国の王宮内の一室。

 冒険者たちと聖女エミリーそして騎士の格好をしたデイミアン伯爵が出立の準備をしていた。


「なんでデリックは、来ないの」

 エミリーは、デリックが討伐メンバーに入っていない事に文句を言っている。

「エミリー様。デリック殿下は最後まで同行するつもりで準備されていたのですが、周りから止められてやむなく……。私で我慢してください」

 デイミアンは、一生懸命エミリーをなだめていた。もう(よわい)30歳を超えようかと言うデイミアンは、エミリーの眼中にない。

 何でこんなおじさんで我慢しないといけないのよ……と、真剣にエミリーは思っていた。


 その様子を横目で見ながらクラークもハワードもうんざりしていた。

 あんな我がまま姫を連れて無事に帰って来られる気がしない。

 いっそ、聖女様も危ないから留守番って事にならないかな……と、クラークは思う。


 女性陣は何やら物騒な事をぼそぼそと話し合っているし。

「だから捨てて来たって、わからないって」

「そうよね。どのあたりにしましょうか?」


 おいおい、何を捨てる気だ、何を。

 訊きたい気持ちはあるが、怖くて訊けない……とクラークは、いやハワードですらそう思っていた。



「聖女様がいらっしゃれば何も心配無いとの、国王陛下のご判断でしょう。デリック殿下も王命には逆らえません」

 クラークは、ニッコリ笑ってエミリーに言う。剣技はハワードの方が上、クラークは武器への付与魔法が使えるが、それは自分の剣でなくとも良い。

 自分がお荷物を抱えながら、一歩下がって戦う方が効率は良いだろう。クラークはそう判断して、エミリーの気を引くような態度をとった。


「あなたは?」

 案の定エミリーはクラークの方に寄って行く。 

「クラークと申します。武器への付与魔法が使える剣士です」

「そう……クラークって言うの」

 ふ~んという感じで、そばに寄って来た。

「私の事はエミリーって呼んでも良いわよ」

「ありがとうございます。エミリー様」

 簡易的な礼を執り、とりあえずエミリーの機嫌がなおった事にクラークはホッとする。

 彼女が聖女でなくても、他国の王宮であまりトラブルは起こしたくない。

 うちの女性陣の殺気は駄々洩れになってしまっているけど……。




 

 竜魔王のいるとされている森は、意外というか何というか……王宮に近い。

 そうは言ってもエミリーを連れて歩く事を考えると半日近くかかるので、国境の結界の所までは馬を走らせた。エミリーは、ちゃっかりクラークと一緒に乗っているけど、もう女性陣キャロルもシンディーからも、先ほどまでの嫌な雰囲気は感じられなかった。

 これから戦わなければならない相手は、自分達の実力以上の魔物。さすがに他に気を散らせている余裕は無い。


 乗って来た馬から降り、結界を抜け瘴気が漂う森に入る。

 エミリーが首にかけているネックレスが光って、あたりの瘴気が払われ、ドーム状の結界が張られた。

 冒険者たちは、へぇ~と思う。瘴気の中を進む覚悟をしていたので、聖女の血のネックレスは正直、有難かった。


「デイミアン伯爵。一応訊くが、エミリー様を連れて引き返すという選択肢は?」

 答えはわかっているが、クラークは一応デイミアンに訊いてみる。

「一騎士が、組織の命令に逆らえるとでも?」

 デイミアンは苦笑いしながらそう言ってきた。

 クラークはため息を吐いた。嫌な決断をしなければならない、俺たちの目的、竜魔王を確実に討伐するために。

 こういう時、無口なキャラで通しているハワードが恨めしくなるな、とクラークは思う。


「では、自分で戦えるな。何かあっても俺たちはあんたを庇わない。あんたも俺たちを見捨てて良い。俺たちの保護対象は聖女様だけだ」

 クラークは、わざとエミリーと言わなかった。

「かまいませんよ、それで。他国とはいえ、王族の方に守ってもらえるような命ではありません、()()()は」

 チラッとエミリーの方を見て、デイミアンは言う。


「王族なんて言ったっけ?」

 クラークは、エミリーに聞こえないように小声で、少し警戒気味に訊いてきた。

「勇者と英雄の血はリーゼモルツ王国の王室に集結しています。そこに個人の自由はありません。だからあの国は大国二国……いえ、世界中から守られているのです。それこそ、騎士であるなら誰でも知っている事」

 つまりエミリーに付いてきた時点で、クラークが言ったことくらいの覚悟をしてきているという事か。 

 だけど見る限りエミリーは嬉しそうにしている、自分は保護対象だと信じているようだった。

 まぁ、デイミアンがどうするかは、知らないがな。

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