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第59話 ランラドフの頼み事とメグの決断

 王宮から戻って、私たちはランラドフの野営テントに連れて行かれた。

 司令官のテントらしく簡単な机や作戦を練るための皆が座れるスペースまである。私達は、その作戦会議をする場所に座るよう促された。



「あんなことがあってすぐで申し訳ないが、冒険者たちを追って竜魔王の所まで行ってもらえないだろうか?」

 これが、ランラドフが私たちに言ったお願い事だった。


「このまま瘴気が強くなっていったら、いずれ世界中に魔物が出没するようになるだろう。あの冒険者たちが、首尾良く竜魔王を討伐してくれれば良いけど、今までも封印しか出来ていない」

「封印出来れば良いのでは?」

 私は思わず訊いてしまった。毎回出来ているのなら、今回も出来るだろう。

 防御系のシンディーは、常時自分に防御結界を張れるほど優秀だ。

「封印は、聖女様の仕事だからね」

 ランラドフは曖昧に笑って答えてくれた。


 竜魔王討伐。これは乙女ゲームの主人公が王宮の誰とも結ばれず、冒険者ルートに入った時に発生するイベントだ。

 主人公の聖女様は冒険者達と協力し、討伐の手助けをする。と言っても所詮は乙女ゲーム、主人公と攻略対象達とのイチャイチャがメインなのだけど。

 そして主人公は、竜魔王を封印したら英雄クラークと、討伐したら勇者ハワードと結ばれるというものである。

 ……なるほど、そうだったのね……じゃ無くて。


 その主人公役をしているエミリーは、攻略対象のウイリアム王太子殿下とも近衛騎士ダグラスとも結ばれずに王宮ルートは終わってしまっている。

 ゲーム通りなら、悪役令嬢マーガレットの出番はない。なぜなら、国外追放を受けた時点で何の力も無いマーガレットは結界を超えた途端、死んでしまっているからだ。

 当然、ダグラスが身分や立場を捨ててマーガレットの元に来るなんて事は無かった。


 この常識ソフト……ゲームの方に特化していない? 現実は随分変わってきているのに。


 私が今ここで行きますと言ってしまったら、ダグラスも付いて来てしまうわ。

 この辺りですら瘴気が濃くなってしまっているのだもの、竜魔王の近くにいったら瘴気を払うので精一杯で、ダグラスが傷ついても治療出来ないかもしれない。


 もうあんな思いはしたくない。


「少し……考えさせて頂けますか?」

 私はランラドフにそう言って、自分のテントに戻った。

 期限は明日の朝。答えがどうであれ、魔物が活発になる夜は避けて朝出発予定だったかららしいのだけど。


 自分達のテントに戻った途端ダグラスは、持っていく荷物をまとめだした。いや、だから何で私の荷物まで自分のアイテムボックスに詰め込んでるのよ。

「ダグラス……私はまだ」

「行くんだろ?」

 ダグラスが真剣な目で見てくる。


「わからないわ。まだ……」

「行くさ、メグは。前世でも夜中に泣いていただろう。戦時中、見捨ててしまった人たちの事を思って……」

 知ってたんだ、ダグラス。でも、今度ダグラスが死にかけたら私は……。


「もうあんな思いをさせたくない、と言うか俺がそんなお前……メグを見ていたくない。だからあの時も、俺より皆をと言ったんだ。誰か一人でも死んでいたらまたメグは悪夢(ゆめ)に見て泣くだろう?」

「でも私は聖女にはなれないわ」

 私は下を向いてそういう。

「別に聖女になる必要なんかないさ。俺のエゴに付き合ってくれるだけで良い」

 ごめんな……とダグラスの唇が動いた。


 本当に、ひどい人。

 あの時、倒れて苦しんでるダグラスに気休め程度の治癒しか出来なくて……辛くて見ていられなくなって……膝を抱えて座り込んでいた。

 あの時私がどんな気持ちでダグラスのそばにいたのかなんて、わかってくれない。

 

「仕方ないわね」

 それでも、ダグラスのそばにいるのが当たり前のような気がするのだから、本当に私は仕方がない。






『ありがとう……里美。竜魔王の元へ行く決断をしてくれて』

『光ちゃん。あんた今まで……』

 小隊も夜の見張り係の兵士以外は寝入ってしまっているような真夜中に、私の心の中で光ちゃんが話しかけてきた。


『ごめんね。辛い思いさせてしまって、でも次は一緒だから……私の気配は隠すけど、力は使ってね。ただ、竜魔王を倒す直前まではなるべく魔力は温存しておいて欲しいの。後はねぇ…………』


 ダグラスが寝ている横で、私と光ちゃんは心の中で明日必要な事について少し話していた。

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