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第56話 ウイリアム王太子殿下からの情報と前世からの……

 王太子が持ってきてくれたポーションで、私たちは、完全に元の状態に回復をしていた。そして王太子は自分が連れて来た使用人に命じて、身体を拭くお湯とタオルと着替えの服を用意してくれる。

 私がお湯を使ったり、着替えたりしているあいだは2人して後ろを向いて、これからの事を話し合っているようだった。うん、ちゃんと2人とも紳士だわ。

 

 王太子の情報によると、もう冒険者と聖女エミリーは竜魔王の元に向かったようだった。

 竜魔王を封印させて、エミリーを聖女だと世界に認めさせたいのだそうだ。

 聖女の同行者はデリック殿下ではなく、デイミアン伯爵だそうだが……。


 私たちは、必ずここから出られるようにするから、もうしばらく居て欲しいと王太子から言わていた。

 

「ダグラスは、何があるのか知っているのでしょう?」

「大したことじゃない。平民になったメグが気にすることではないさ」

 そうやって大変な事を隠すのは、前世の実さんの頃から変わっていない。

 後から聞かされる身にもなって欲しいんだけど。


「すまんな。いつも暗い顔をさせてしまって」

「そう思うのなら、自分の思っていることをきちんと話してくださいな。隠すことなどしないで。後で他の人から聞かされることほど、情けない事はないのですから」

 口調が前世の里美に戻っている。だけど良い、これはメグでなく里美の想いだから。

 

 だって、実さんが戦地に行った後、聞かされたのよ。

 お妾さんたちが、家にやって来ていろいろ手伝ってくれて……。最初は、自分の居場所を乗っ取られた気分になっていたけど、いつも彼女たちは優しかった。


「実さんの奥さまですもの」

 そう言っていつも、私を優先してくれて。空襲の時だって、彼女たちが私と子ども達を真っ先に避難させてくれていた。

 いつだったか防空壕で彼女たちが言った言葉。

「実さんは、私たちに指一本触れてませんよ。お世話する※……っていうから、覚悟してたんですけどね。だけど、里美さん以外とそんな事する気は無いと言って」

「今回だって、里美さんの事を頼むって言われたから……ああ、頼まれなくても同じ事してましたけどね」

 そんな事を彼女たちは、言っていた。 


 だけどあの時の、胸の痛みは忘れない。

 お妾さんを作ったと聞いた時も辛かったけど……実さんが私が世間から悪く思われないように、いろんな配慮をしていたのだと彼女たちから聞かされた時は、もう何を信じていいのか分からなくなっていた。


 一緒にいた頃は、私ばかりが実さんの事を好きで、実さんからの愛情なんて感じたこと無かった。だから、思い返しても嫌な思い出ばかりで……。

 もう二度と会いたくないと思ってしまっていた。


 だけど、実さんの記憶があるダグラスはずっと私の為に行動してくれて、今回だって私を庇って刺されて斬りつけられて……自分がどんなに辛くても私を抱き込んでくれていた。


 だから、前世での私の想いを伝えてしまっても良いよね。

 二人っきりの、何もすることが無いこんな時だもの。

 それに前世の想いだったら、ダグラスが嫌な顔をしても、過去形で伝えることが出来るわ。

 

 

 

「私ね。前世で実さんの事好きだったんですよ。私が友達とはしゃいでいる時にすれ違う、物静かで、何かしらいつも難しい本を持って歩いている学生さんの事が」

 ダグラスが私を驚いた顔で見ている。


「あなたとの縁談の話が来た時は本当に嬉しかった。だけど、結婚式で私を見た実さんは、何か難しい顔をしてそっぽを向かれてしまって。その後の事も……」

「そっぽを向いたのは、里美さんが綺麗で照れてしまって……。僕が考えなしに『里美さんとなら』って言ってしまったから、里美さんの自由を奪ったと思って」

 ダグラスまで、実さんに戻ってしまっている。


「もしかしたら、里美さんも好きでいてくれた?」

「はい。だから、最初にそう言ったじゃないですか」

 私は、ニッコリ笑ってそう言った。


 ダグラスが、盛大にため息を吐いた。

「バカみたいだ……」

「そうねぇ。確かにバカみたいだわ、私たち」

 そう言って2人で顔を見合わせ、笑った。


「まぁ、それでも今の事態をいう訳にはいかないんだけどな。国家間の問題だから本当に俺達には関係ない事だ」

 ダグラスは、ニヤッと笑ってそう私に言った。

 それ、答え言ってるからね、ダグラス。……確信犯か。


 後は、竜魔王が封印されるのが先か、書簡が先か……という問題なのね。

 



※この場合の『お世話をする』は『妾にする』と同じ意味です。

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