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第55話 牢獄に来たウイリアム王太子殿下

 ダグラスの意識は戻らない。

 苦し気に時々身体が反応しているだけ。

 最初は魔力が少しでも回復したら癒しの魔力を使っていたけど、ある程度軽い傷が癒えたところでやめた。

 

 あの時、ダグラスは何回も剣で刺されていた。多分、内臓もやられてしまっている。

 今の私には、ダグラスの傷を癒す(すべ)もない。

 私はダグラスの横で膝を抱えうずくまってしまっていた。


 どうして、こんなことになってしまったのだろう……涙が止まらない。

 



 ガチャガチャ……キィィー。

 カギを外す音と、鈍い金属音がする。牢番が牢の扉を開けたのだろうか……なんだかもう何もかもがどうでも良い。私は顔を上げる気力すら失っていた。


「マーガレット」

 聞き慣れた声がする。肩に触れられ緩慢(かんまん)な動きで顔を上げた。

 そこには心配そうな顔の王太子が見えた。

 何をしにきたのだろう? 私はもう、動きたくない。

「ああ、良かった。無事だな? ダグラスは?」

 

 王太子は、私から離れダグラスを見る。背中に刺さったままの剣を見て顔をしかめるが、息をしているのを確認してホッとした様子だった。


「マーガレット。ダグラスにこれを飲ませてくれ」

 私は多分生気の無い顔をしているんだと思う。うつろな瞳で王太子を見た。


「おいっ、しっかりしてくれ。このポーションは数代前の聖女様が作った完全回復のポーションだ。ダグラスを助けたくないのか」

 強い力で身体を揺さぶられ、王太子から真剣な顔で言われた。

 そして、私の身体は完全回復という言葉に反応して、王太子の手からポーションをひったくりダグラスに飲ませようとした。だけど、液が唇から流れ出ている。


 私は、自分の口にポーションの液を含み、ダグラスに口移しで飲ませた。


 ダグラスの身体に金粉が(まと)いつき光り輝く。背中の剣が自然と押し戻されるように抜けていった。

「うっ……ん」

 一瞬、顔をしかめるようにしてからダグラスが目を開く。


「よかった」

 私は、全身の力が抜けたような気がした。

 本当に……良かった。


「メグ……泣いているのか?」

 ダグラスの手が、私の頬にふれる。

 上半身を起こし私の頭を撫でてくれるダグラスに抱き着いて、子どもみたいに声を上げて泣き出してしまった。 

 

「すまんな。泣かせてばかりで……」

 ダグラスは、頭を撫でていた手を私の背中に回し抱きしめてくれる。

 その腕に安心しきってしまい、私は涙が止まらなくなってしまっていた。




「あ~、すまん。私もいるんだが……」

 どれくらい経っただろう、私が泣きやんで落ち着くのを待って、王太子が声を掛けてきた。

 ダグラスにしがみついて泣いているうちに、きれいさっぱり忘れていたわ。 


「ダグラス、これも飲んでくれ。体力が戻るポーションだ」

 そう言って、ポーションを出す。なんだか、生のレバーの色を思い出すような……。

「それと、これはマーガレットに」

 もう1本出したポーションは、赤い色だ。だけど、これは……。


「それは、わたくしには意味の無いものです」

「これも完全に魔力を回復すると聞いている。人の何十倍何百倍、魔力があっても……だ。これを作った聖女様は、たぐいまれなポーション作りの名人だったそうだが、それでもこのレベルは効能別に1本ずつしか作れなかった。もともと、聖女様に使うポーションなんだそうだ」


 私たちは、それぞれに受け取ったポーションを飲んだ。

 ダグラスが一気に飲んだ後、うぇ~って顔をしていたので、多分味もレバーだったのね。

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