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第54話 ルーブルシア王国側 ランラドフ王弟殿下とウイリアム王太子殿下

 ランラドフが小隊のところに戻って来て見たものは、破れた野営テントと血だまり、鎧や衣服のみボロボロになった兵士や騎士たちだった。


「申し訳ございません。メグ様とダグラスを連れて行かれました」

 ディルランはランラドフの前に跪き礼を執って報告した。

「いや、私の判断ミスだ。まさか、デリック殿がこのような暴挙にでるとは……」

 怒りで全身が震える。似非聖女を掲げるだけならまだしも、本物の聖女様を乱暴に連れ去り投獄するとは。


「聖女様は、私たちを回復させてくださったのに、連れ去られるなど」

 そう言ったのは、普段なら小隊の隊長として動いているイライアスである。こちらも悔しさのあまり拳を握りしめていた。他のみんなもそうだ。


「むこうも、本物の聖女様を殺すわけにはいかないだろうから、命の危険は無いだろう」

 ただ、ダグラスの方はわからないが……。あの血だまりがダグラスだけのものだったら、死んでいてもおかしくない。


「ですが」

 また言い募るイライアスに対し、ランラドフは厳しい顔で言う。

「我らの優先すべきは何か、わかっているのだろうな」

 わかっていて、反論するのかとランラドフは問うている。

「いえ。失礼しました」

 イライアスは、礼を執りランラドフの前から退いた。ディルランも立ち上がる。


 ランラドフだって、すぐにでもメグを助けに行きたいと思っている。

 だけど、今は抗議も抗議文すら出すわけにもいかない。

 ある書簡が届くまでは、全ての不都合を黙認するしかなかった。

 

「我が小隊は今まで通り任務をこなすだけだ。今、魔物討伐に行っている部隊が戻って来ても、この事態に動揺せず、明日からも今まで通り魔物の討伐に当たるよう指示を出してくれ」

「はっ」

 そう言って、騎士2人を含む兵士達は通常任務に戻って行った。  






 一緒に現場視察を……そう言って、ランラドフはウイリアムを連れ出していた。

 王宮ではロクな話も出来ない。今までは、それで良かったのだが、今回ばかりはそうも言ってられなくなっている。


「実は、こちらも王妃の部屋が荒らされてな。何代か前の聖女様が作ったポーションと初代聖女様の血で出来たネックレスが盗まれたんだ」

「聖女様のポーション?」

「ああ。犯人は捕らえられ、ポーションのほとんどは戻って来ているのだが……聖女のネックレスと蘇生術のポーションだけが見当たらなくて」

 ウイリアムの言う事とこちらの小隊の騎士の証言が一致している。


「ネックレスは知らんが、蘇生術のポーションはもう使われてしまっている。聖女エミリーが冒険者の男を生き返らせたと言っていたからな。それで、その場の皆がエミリーを聖女だと称えたようだ」

「は? 使った……だと? いや、使うのは良いのだが。ポーションは一本ずつしかないのに」

 その後は、どうするつもりなのだ? とウイリアムはブツブツ言っているが。


「竜魔王の討伐依頼を受けた冒険者がいたと聞いているから、討伐もしくは封印されたら聖女はお飾りで良いと思っているのだろう? 実際そうだろうし」

 ランラドフがそう言うと、ウイリアムは呆れたようにこっちを見ていた。

「なんだ?」

 ランラドフが訊くと

「やっぱり知らないんだな。まぁ、各国の国王と次期国王になる立場の人間にしか伝えてないから仕方ないことなのかもしれないが。竜魔王がどうなろうと今世代の聖女は必要なんだ」

 ウイリアムはそう答えた。


「今、この世界に充満している瘴気自体は、聖女様が浄化しない事には消えて無くならない。そもそもこの世界の瘴気は、ゆっくり自然に、聖女様がこの世界の事を愛しいと思って下さる心で浄化されていくものなのだ」

 ウイリアムが言っていることが、ランラドフにはすぐに理解が出来なかった。


「だから、各国の国王や王太子は聖女様を大切にするし、愛しいと思って接する。自分たちが愛してもらえるように……自分たちの世界を愛しいと思ってもらえるように努力をするんだ」

 ああ、それで姉上もメグの願いを一番においているのか……そうランラドフは理解する。


「エミリーを聖女と間違えて、本物の聖女メグに辛く当たってしまった私が言えることではないがな。歴代の聖女の中には我がままな者もいたようだし、ただ」

「ただ?」

「エミリーのように、愛が理解できない者ではなく。人一倍愛情は深かったようだけどね」

 なるほど……とランラドフは思った。愛情が深い……それこそ、聖女たる者の第一条件なんだと。


 なら、今のメグはどうだろう。本人に問うたら否定しそうだが、ダグラスの事を愛しているのでは無いか?


 自分が心から愛している男性(ひと)を死なせてしまうような世界を、メグは愛せるだろうか……最悪、自分もダグラスの後を追おうと思うのではないのか?



 今、メグがダグラスを失ってしまったら、この世界は……。


「ウイリアム殿。大変だ、ダグラスが死んでしまうかもしれない。今、メグが愛しいと思っている男はダグラスだろ?」

「わからないが、もし、そうだとしたら急がないと」


 蘇生のポーションは無くなってしまっているけど、もし、少しでも息があれば聖女のポーションで何とかなるかもしれない。

 そう思い、2人は王宮に急いで戻って行った。


 間に合ってくれれば良い。そう願いながら。

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