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第33話 世界共通の伝承とダグラスとの時間

 今日、ランラドフから買ってもらった恋愛小説は、この世界共通の伝承を元にしたおとぎ話のようなもの。悲恋と言っても……そうね、七夕の織姫と彦星みたいなものかしら。

 両想いになったからって、お互い仕事もしないで遊んでいて、怒った親たちから二人の仲を引き裂かれちゃうんだよね。

 このお話の方は、七夕の話と違って年に一度会えるわけではない。それに、男性側の方が悲しみのあまり闇に落ちてしまうのを阻止しようとして、お姫様も一緒に消えちゃうの。


 伝承の方は、お姫様は男性の後を追ってないし、この世界に薄らとした瘴気が蔓延していき魔物も現れだしたとなっているらしいけど。





「我がままなのかしら、わたし」

 夜、寝付けなくて一階のキッチンでホットミルクを入れ、ボソッと呟いていた。


 昼間の事は気になることだらけで、ランラドフの、あのショウウィンドウで目移りをしていた事でさえ、自然と周りを見るための行動だったように思う。

『今日は買い物はしない』なんて、叱ってしまったけど。


 本当は、王宮内で保護してもらう方が良いのかもしれない。

 ルーブルシア王国では、聖女は必ず王族と婚姻を結ばされていた。今考えると、あれも聖女を守るための決まり事だったのだろう。ルーブルシア王国は、聖女を召喚し、祝福の行事が出来るだけの小国だから。


 それを、大国とはいえ他国の女王陛下に平民として保護して欲しいなんて言ってしまって。

「我がまま……だよね」


「何がだ?」

 いきなり声がして、私はビクッとなってしまっていた。

 ダグラスが2階から降りてきたのも気付かずボーっとしていた。


「ホットミルク、入れましょうか? それともお茶の方が……」

「いや、いらない。部屋からメグの気配がしなくなってたから」

 部屋の中の気配なんてわかるんだ……さすが、近衛やってただけはあるのね。

 私は思わず、感心してしまっていた。そういえば、前世でも親から引き継いだ事業を拡大できるくらいには、優秀だったっけ。


 いらないと言われたのに、メグは食卓を立ちミルクティーを入れる。少しだけ疲労回復の魔力を込めて。

 キッチンから戻ってきたら、ダグラスは食卓の椅子に座っていた。

 ダグラスにミルクティーを渡し、もとの位置……ダグラスの目の前に座る。


「それで、何が我がままなんだ?」

 ダグラスは、渡されたミルクティーを平然と飲んでいた。


「平民でいたいって事よ。だって、王宮にいた方が守りやすいし、街に警備を常駐させなくても良いでしょう? 今日なんか、王弟殿下まで出てきてしまったわ」

「別に、良いんじゃないか? 平民として受け入れるって決断したのは女王陛下だろ? それに、王弟殿下は個人的な用事でもあったようだし」

「どういう事?」

「今日、メグをデートに誘うのは、王弟殿下で無くても良かったという事さ」


「良くわからないわ」

「わからないのなら、それでいい」

 ダグラスは、そう言って私を優しい目で見つめてくれている。

 なんだろう? なんでそんな目で私を見てくれるのだろう……。

 夫婦だった時ですら、こんな穏やかな優しい時間なんて無かった気がするのに。


 無かったかな? いえ、最後の方には……そう、実さんが亡くなる前に少しだけあった気もするわ。私は、介護で疲れ切っていたけど、それでも……。


「もう一寝入りしたほうが良いんじゃないか? 明日も、お店開けるのだろう?」

「そうね」

 私は手早くカップを洗って階段に向かった。その後をダグラスも付いてくる。


 本当に、なんなんだろう。今日も、その前の王太子との会談の時もダグラスを探して、いてくれると安心する。こんな穏やかな気持ち、恋じゃないと思うのに。


 そんなことを考えていて、ダグラスが私の悩みをすり替えた事にも気づかなかった。 

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