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第32話 ルーブルシア王国側 王太子不在中の出来事

 ここはルーブルシア王国、王宮内の王太子殿下が住まう生活エリア内である。


「はなしてよ。何でこの部屋から出ちゃいけないの? ウイリアムはどこに行ったのよ」

 日本名篠崎えみり、この世界での名前エミリーは、『女神様の祝福を得る儀式』の後からずっと王太子殿下の生活エリアにある自分の部屋に閉じ込められていた。

 部屋と言っても、続きの間もあるしテラスもある。日本で言うと、ファミリー向けのマンション位の広さがあるのだが。


「エミリー様。落ち着いてくださいませ。今部屋の外に出てはなりませぬ」

「ウイリアムはどこ? って訊いてるのよ。この役立たず」

 完全にヒステリーを起こしている。行動を止めている侍女たちは、気の毒に叩かれたり引っかかれたり、中には思いっきりビンタされて顔が腫れあがってしまった者もいた。


 本当にこんなのが聖女じゃ無くて良かったと侍女たちは思っている。こんなのに権力を持たせていたら今頃自分たちは処刑台に上がっていただろうから。




 第二王子デリックは、自室で報告を受けていた。

 一つはウイリアムの外交先、アイストルスト王国に放った密偵からの報告。

 デリックが思っていた通り、ウイリアムの交渉は決裂していた。聖女メグ……マーガレットはこの国に戻ってこない。しかも都合の良いことに、聖女として王宮に住まうのではなく、平民として暮らすことを選んでいる。

 もしかしたらウイリアムが帰国する前に、聖女メグを拉致出来るかもしれない。

 正攻法でいくなんて、馬鹿のすることだ。


 もう一つは、デリックの外遊先だったソルムハイム王国に送った使者からの報告だった。

 ソルムハイム王国はアイストルスト王国に次ぐ大国だ。

 最初に聖女が現れてから、結界が壊れるのを恐れてこの世界で戦争があった事は無い。

 だから、この二か国も表面的には友好関係を結んでいるが、結界の問題が無くなったら近隣諸国を巻き込んでの戦争が始まるだろう。この世界の覇権をかけて。


 こちらの国もデリックの思惑通りの返答を返してくれた。


 これで、動ける。デリックはそう思って、自室からエミリーがいる部屋の方向に歩き出した。




 デリックが王太子の生活エリアに近付いた時、勢いよく開け放たれたドアがあった。

「もうっ、あなた達全員ウイリアムに言って処刑してもらうんだから」

 ドアの付近にいた近衛騎士は要領よくドアを避けていた。まぁ、仮にも近衛を名乗る人間が、この程度避けられなければ鍛錬のやり直しを命じられるだろうが……。

 デリックに気付き、その場の……エミリー以外の……全員が礼を執る。


「これは、聖女様。いかがなされたのでしょうか」

 デリックは、穏やかに笑いながらエミリーの前に立った。

「ウイリアムはどこ? この侍女たち私をこんな所に閉じ込めて意地悪するのよ」

 おやおやと、デリックは思う。聖女様と呼ばれても否定もしない。自分の立場も分からず、愚かな言動。噂に(たが)わず、といったところか。


「王太子殿下は、外交で国外に出ておりますよ」

「わたしに黙って行くわけないじゃん。あんたも嘘つきなのね」

 エミリーにあんた呼ばわりされても、表情一つ変えずデリックは言う。


「心外ですね。聖女様に疑われるなど……聖女、いえ好きな人に信じてもらえない事ほど悲しい事はありません」

 デリックは少し寂しそうな表情(かお)を作りながら言った。エミリーは、あら? という顔になる。

 誰だっけ? 攻略対象じゃないから覚えてないやとエミリーが思っていたら


「僕の事も覚えていらっしゃらないとは……でも、仕方ないのかもしれません。つい、数か月前まで他国に留学しておりましたから」

「あ……え? そうなの? それで誰なの? あなた」

「国王陛下の第二子。王妃の第一子デリックと申します」

 決して、ウイリアム王太子の弟とは言わない。


「ふ~ん。っで、あなたまで部屋を出ちゃいけないなんて、言わないわよね」

「もちろんです。誰がそんなひどいことを命じたのでしょう」

「あの侍女たちに訊いたら分かるんじゃない? ずっとひどいことされてたんだから」

「それはいけませんね。すぐに新しい侍女に代えましょう」


 デリックはそう言って、近くにいた近衛に耳打ちをする。

「とりあえず侍女たちを僕の部屋へ。傷の手当ての手配を……。代わりに僕の侍女たちを連れてきてくれ」

 そう言っただけで、近衛はデリックの思った通りの行動に出た。

「この部屋の侍女たちをひっ捕らえ牢にぶち込め」

 デリックの目配せがウイリアムの侍女たちにも伝わったようで、大人しく連行されていった。


 その光景にエミリーは満足そうだ。

「さて、新しい侍女が来るまでお庭の散策でもしますか? それとも、奥のテラスにお茶を用意させましょうか」

 デリックは、エミリーの手の甲にキスを落としてから、そう誘った。

「退屈だったから、お庭を案内してくれる? その後に、お茶も飲みたいわ」

 エミリーは、当然の様にデリックの腕にくっついてきた。


「聖女様の御心のままに」


 そう言ってデリックはエミリーに笑顔を向ける。

 エミリーも幸せそうな笑顔を返していた。デリックの笑顔の意味を考えもせずに。

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