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第22話 ルーブルシア王国側 聖女様、『女神様の祝福を得る儀式』とその結果

 肌寒い大聖堂の中、儀式はすぐに終わると聞いていたのに、降ると聞いていた金粉も、まばゆいばかりの光も何も起こる気配が無い。

 エミリーは薄着のまま膝立ちさせられて、だんだん膝から先が痛くなってきていた。


 足が痛い……石の上に膝立ちさせるなんて、聖女と認められたら後で神官たちを処刑対象にしてやろう。エミリーは腹立ちまぎれにそう思っていた。


 大勢の神官や巫女、上位貴族たちがエミリーの周りを囲んでいなければ、もう立ち上がって帰ってしまっていたであろう。

 神官や巫女たちはともかく、貴族たちの圧が怖くて、さすがのエミリーも我がままを言えなくなっていた。

 聖女にさえなれば、皆が跪き誰よりも高い身分の者として扱ってくれる……エミリーはその時の栄光を胸に我慢して祈り続けた。


「光が……光と金粉がはるか向こうに……」

「あれはどこの国の方角だ?」

「中央……?」


 何せ、外にいるのは外国に行ったことのない平民と下位貴族だ。

 国名などわからない。


『愛しい。

 愛しい、聖女メグ。その存在で世界を救いし者。

 世界は彼女を愛し、慈しむことで救われるであろう』



「メグ? エミリー様じゃ無いのか」

「では、彼女は?」

「メグとは誰の事だ」


 大聖堂の中にいた者たちにも、女神の声は聞こえた。

 全世界に聞こえている声だ。ごまかしようもない。

 外にいた人々は、奇跡の光をこの目で見たと興奮してお祭り騒ぎだ。

 大聖堂に集まっていた上位貴族もざわめいてしまい、いつもの冷静さを失っている。

 聖女とされていたエミリーと王太子であるウイリアムは、呆然としていた。



 そんな中で大神官、神官や巫女たちだけが、冷静に行動をしていた。

「エミリー様。儀式は終わりました。どうぞ、お引き取り下さい」

 巫女の一人がそう促している。


「あなた、私を誰だと思ってるのよ」

「日本国から召喚された、平民の女性だと思っております。どうぞ、お引き取りを……」

「平民って、私はねぇ」

「まだ、王太子殿下との婚約もされていないと存じ上げてますが」

 少し、意地の悪い笑みで巫女は言い返す。

 エミリーは悔しそうに、巫女をにらみつけた。


 国王と王太子、その側近達が大神官に説明を求めている。

 ここで儀式をしたのに、はるか彼方で聖女様が祝福を受けた事には、この国の誰もが……いや、王室と高位貴族は納得することが出来ない。

 国益を損なう問題だ。


「今回は、陛下に命じられましたから派手な事をしましたが、年に1度、ちょうど同じ日、同じ時刻に大聖堂内の魔法陣の中で、(みそぎ)が済んだ巫女が祈りを捧げております。人知れず聖女様が召喚されていることも過去の事例ではありましたので……」

 今まで、王室に内緒で儀式を行っていた事と、その理由を大神官は説明している


「祈り自体は(みそぎ)が済んだ乙女であれば、誰が捧げても同じです。必ずしも本人が捧げる必要は無いのですよ」


 要はこの魔法陣の中で祈り、この世界に聖女がいれば同じことが起こるということだ。



「ウイリアムさまぁ。わたし疲れたぁ~、そこの巫女に意地悪されるしぃ~」

 エミリーがすり寄ってきている。正直、聖女でなければこんな女どうでも良いのだが、とウイリアムは思う。だけど、

「そう。じゃあ、王宮に戻ろうか」

 以前と変わらぬ笑顔で、エミリーをエスコートした。

 ここはまだ公の場だ。そしてデリックもこちらを見ている。


 ウイリアムとエミリーは堂々と大聖堂から退出した。



 王宮に戻ると、ウイリアムは自分の側近たちに指示を与えていた。

 バタバタと側近たちが動き出す。


「ウイリアムさまぁ~?」

「うん? エミリー、疲れたろう? 今日からしばらくはゆっくり休んでるといい」

 エミリーを部屋の前まで送り、侍女に目配せをする。


 侍女は心得たようにうなずき、エミリーと共に部屋に入って行った。


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