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イブ、それ投資やない、投機や

<あらすじ>

居候していた家から追い出されてしまったイブ達。

家の外では、友人たちが待っていたが、新顔のミコトのせいで、ムーとは険悪な雰囲気になってしまう。

そして、そのムードを引きずったまま、なぜか記念撮影を行うことになってしまったのだった。


……何だかよく分からないまま写真撮影を行った後、ミコトは改めて、皆に自己紹介をした。


相変わらず、ムーと、ミコトの間には変なライバル心があるらしく、お互いの警戒は続いてしている様だ。


エルはエルで、挨拶代わりにミコトの手相を見ようとしていた。

しかし、ミコトには手相を見るための手掌のシワが無いらしい。エルは驚いていたけども、同時にとてもガッカリしていた。


そして、ある程度落ち着いたころを見計らい、私が、ムーとエルと別れた後の経緯について説明する。


「……へえー?それは大変だったね。それに、なんだかこの街も物騒になったものだねー」


最初に反応したのは、エルだ。


「でも、ミコミコと一緒にいると、またその、アージュって言う銀髪のこが襲って来る可能性があるんでしょ?……うーん、ちょっとこれは装備を整えて出直さないとかなー?」


「ええ、それがいいわ。かなり強そうだったわよ」


うっかり聞き逃す所だったが、今しがたミコトには変なあだ名が付けられたようだ。

あだ名をつけるもの、最早エルの挨拶みたいなものだ。


「本当かなー?イブの勘はだいたい当てにならないから、どうだろうね?」


「酷いわねっ!だいたい当たってるわよ!」


「はいはい。そうだねー」


エルはが茶化した。

でも、エルはこんな事を言いながらも、私の真意をしっかり理解してくれていて、ちゃんと行動してくれる。


私も、エルの装備化には賛成かな。

……まあ、ちょっとアレだけども、とても優秀だし……。例えるならば?そうね……ヌルヌルヌメヌメ?ちょっと近づき難いシロモノかなあ。

そのキワモノな外観を思い出してしまい、思わず私は口角が引きつった。


「――あ、でもアレは持ってこなくていいわよ?」


「あれって?……ああ、アレだね。うん、分かった」


「……本当に分かったんでしょうね??」


エルは、答える代わりに何かを含んだ様な笑みをこぼした。


……あ、絶対故意に持ってくる気だわ。

私は、察する。


“アレ“というのは、エルが試作した不思議な薬達の事を指す。

先ほど、どさくさに紛れて颯輝に飲ませようとしたものは、まだまだ可愛い方だ。


もっと危険なものを私は見たことがある。

――というよりも、飲まされた事がある。“10年歳をとる薬“だったか。


――それでも、もしかしたら年齢を重ねたら右手の紋章が復活したりしないだろうか?なんて淡い期待からエルの実験に付き合ったのだ。

しかしだ。アレを飲んだ後に私は、1週間近く昏睡状態に陥ってしまった。


……実験の結果は?

エルの予告通り、ちゃんと(?)歳もとったし、その後また元の姿に戻れはした。だけども、肝心の紋章の力は10年経った身体でも復活はしなかった。それに、胸もあんまり成長してなかったし……あれは今思い返すと、ただの倒れ損だったわね。


つまり、エルの不思議な薬はとてもリスクが高いのだ。

だけど、理屈なんか関係なく、常人に理解できない薬を容易く調合してしまうあたり、ある意味エルは天才だと思う。


――そういえば、いつだったか、同じ物をムーも飲んでいたわね……。

あれも行きがかり上、仕方なかったとはいえ、やっぱり暫く昏睡していたわ。

エルの不思議な薬。せめて、副作用が無ければね……。


……でも……うーん。流石にアレを使う機会なんて早々ないよね?今はそこまで神経質にならなくてもいいのかなぁ。



そんな風に、今回は自分を納得させる事にしたのだった。



「それじゃ。またあとで。」


エルは、手をヒラヒラと振り、1人アトリエに向かって帰っていく。


「ムーはどうするの?」


私はてっきり、エルに付いて帰ると思っていたのでちょっと驚いている。ムーが残ってくれた事はとても嬉しいけどもね。


「ししょーに剣を習いたいから、こっちに付いて行くよ」


ワクワクとした様子で言った。

あー、それかあ……。


「分かったわ。でも、私も色々と回りたいところがあるから、その後でもいい?」


「いいよっ」


そういえば、そんな約束もしていたなあ。うっかり忘れてたわね……。





――さて。

今、私達は取引所の前に来ている!


何故かって?それは、


「なあ、ここ。……何?」


「ん?見たらわかるでしょうよ?」


「いや、分からないから聞いたんだが?」


颯輝が不思議そうに聞いてきた。

私はそれに対し、腰に手を添えて、目の前の石造りの建物を見据えたまま意地悪に答える。


「取引所ですよ。商品を大量に売買する所ですね」


ミコトが代弁した。


「取引所ぉ?!……あれだろ?株とか、外貨とか交換するとこ。何でこんな所に来る必要があるんだよ」


「うるさいわねー。私はここに用があるのっ!……悪いけど、ムー達はその辺で待っててくれる?長くなりそうなら≪コンタクト≫でメッセージ送るから」


チャラリと音を立てながら、首飾りを指で引っ張り、見せた。


この首飾り、普段の役割は鍵だったり、身分証だったりするが、簡単な通信魔法も使えるのだ。予め紐付けしておいた相手と話す事が出来る。


「おいおい。待てよ!置いてきぼりかよっ?!」


「ししょー。イブはここに来るといつもこうなんだよね……」


ムーが、憤慨する颯輝をなだめている。


ゴメンね、ムー。だってこれから先、別の居住地を見つけるにしても、街を出て旅をするにしても、お金がいるのよ。だから、これは必要な事なの。きっと、ムーなら分かってくれるわよね?

……ちょっとだけ。そう、ちょーっとだけ、ライフワークだったりもするけども!


「いい結果が出たら、皆に好きな食べ物奢ってあげるからねーっ!」


「うん。楽しみにしてるね」


ムーの言葉を背に、私はマントをひるがえすと、カッカッと足音を響かせ、意気揚々と建物の中に入って行った。


――市場しじょうが、私を、待っているっ!




取引所の中も、堅牢な石造りになっている。


中には立会場といって、カウンターの仕切りがあり、何人もの人が忙しそうに動き回っていた。壁側には、数字が浮かび上がった石が宙へ浮いており、それぞれの石は鮮やかな色を発している。

カウンターの外では、売り買いの注文をする人達と、真剣に数字の変わりゆく掲示板を眺めている人達で賑わっていた。


皆には言っていないが、取引所に来たのは、これから先の活動資金を作るためだ。

今後は相当なお金が必要になってくるのは目に見えている。


そういったことを誰にも話さなかったのは、何というか、見栄みたいなものかしらね?


「おお、嬢ちゃんまた勉強かい?熱心じゃな。大将は元気かい?」


黒服の、身なりの良い初老の男が声を掛けてきた。

立派な帽子を被っている。この人はここの常連さんだ。


「その、“嬢ちゃん“っていうの、やめてもらえると嬉しいんだけどなぁ。老師なら今帰ってるわよ?」


「そうかそうか。じゃあ、酒でも呑みながらまた相場の話でもまたしよう。と、帽子屋が言っていたと伝えてくれ。もう、この歳になると友人が少なくての」


「分かったわ。おじいさんも、お酒は程々にね」


「その、“おじいさん”はやめてもらえんか。まだ若いつもりなんじゃが。……じゃあの」


帽子の老人は、帽子のつばを少し上げて挨拶をすると、静かに去って行った。


私が、老師と別れて家を出てきたことを、帽子の老人は知らない。言い損ねちゃったけど、まあいいか。……また、老師にも、帽子の老人にも会うことはあるだろう。


「よう、嬢ちゃん!」


今度は時計屋のおじさんだ。この人も常連さん。


「おはよう、おじさん。でも、その“嬢ちゃん“はやめてもらえるかなー……」


ここにはいつも足を運んでいる。そのせいで、すっかり顔馴染みが出来てしまった。

気のいい人は、見かけたら必ず挨拶してくれる。いつものことだ。



――そんなこんなで、その後も立て続けに知り合いに出会い、時間を潰してしまった……。

いつものこととはいえども、挨拶と他愛のない立ち話しだけで15分……時間効率が悪いわ……。


「……さてと」


私は、目まぐるしく移り変わる、色とりどりの掲示板に向かい、注視すると、鞄から愛用の紙のノートとペンを取り出した。

……穀物、コーヒー、粗糖、金、銀……

これらの銘柄の数字を、ノートにプロットしていく。


整理をしよう。今回、ここに来た私の目的は、資金調達だ。

資金を調達と言っても、預けていたお金を下ろしに来た訳ではなく、銘柄の売り買いをする事で、資金を増やすことが狙いだ。

具体的には、安く銘柄を買って暫く保有。銘柄が高くなった時を見計らって売り抜く。たったそれだけだ。

取引きは、上手くやれば利益が出る。しかし、反対に損をする事だってある。買った時より価格が下落した時などだ。


取引きした銘柄を保有、維持することを、ポジションを持つと言う。

大体の人は長く保有するものだけど、私は性格上、何週、何ヶ月と気長に待つことがとても苦手だ。

だからいつも即日か、2〜3日の短い期間で決済をし、取引きを終わらせるスタイルをとっている。


老師からは常々、「全額掛けるな」「リスクはマネジメントしろ」と教えられてきた。……とはいえ、事情が事情なので、今回ばかりは掛けられるギリギリまで張りたいと考えている。


……とまあ、ちょっとばかし、うんちくが長くなってしまったけど、何となく分かってもらえたかしらね?


ノートにプロットしたものを、今度はグラフにおこす。

こうすれば、相場の上がり下がりが動向として分かり、分析が可能だ。これをテクニカルと言う。


今日は……何だか銀の先物取引が上がりそうだなあ……。


私は、グラフを見てそう分析した。

いつも、このグラフのパターンになったときに価格上昇する確率は70%くらいかな。



……よし、買うわよ!


「銀、15.700で25ロット。買いで!お願い!」


声を張り上げるが、今日はいつもより人が多い。

周囲の声のせいでカウンターの中の人に聞こえないので、場立ち(取引き)をしている人たちはしきりに手サインを使ってやり取りをしている。

私も手サインを出した。手の甲側を相手に向けて買い注文をする。

すると、受付の人が、今度は左右の人差し指を重ね合わせて×(バツ)を作る手サインを返してくる。どうやら、無事買えたらしい。


首飾りを取り出すと、受付の人の目の前にある文字盤の上にかざす。すると、文字盤は青く光り、“約定“という文字が空中に浮き上がる。


ちなみに、この作業は普通の人なら紋章のある手をかざすだけでいい。

だから、私を初めて見る人達は、大抵ジロジロと物珍しそうに、中には侮蔑の視線を向けてくる。

――きっと、ロストチャイルドだと思われてるんだろうな……。


いい気分はしないが、それでも何度も通っているうちに大分慣れてしまった。



そんなことはさて置き……だ。

今大切なのは買った銘柄の行く末なのだ。


私は固唾を呑んで見守る事にする。


15.705

15.710

15.715……


――ポジションを持った時より、高値をつけ始めたわね。よしよし、今のところ順調だわ。頼むわよ〜、私の銀ちゃん!


エルの不思議な薬については完全SF無視です(笑)

たまには分からないものが混ざっていた方が面白いじゃないですか!(半ギレ)


取引所について。

現在ですらスマートフォンがあれば証券取引は手軽にできます。では、高度に技術が発達した未来世界なら、わざわざ取引所に行かずとも紋章機能で発注できる・・・と思うのですが、そこはあえてレトロ感を出してみました。といっても2007年8月31日まで使われていた取引法です。

昔の取引所では、場立ちといって会場内で3密になりながらも、手サインと黒板を使って直接取引していたそうです。とても賑わっていたんですね~!


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