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カンプピストーレと繰術

<あらすじ>

 お買い物をしていたイブと、ムーは、道ばたで倒れていた日本人の颯輝を拾う。

 颯輝はてっきり、自分が異世界へ転移してきたものとばかり思い込んでいたが、

 実はここは地球で、颯輝はタイムトラベルをしてきたのだった。

 そんな颯輝に、「日本人はすでに絶滅した人種だ」と告げると、「そんなはずはない」と逆上してしまう。

 ――しかし、その時、何者かがぶつかって来たのだった。

「痛っ!」


 ムーが声をあげた。


 ぶつかってきた相手は、中肉中背で冴えないツラをした男だ。


 歳は20代半そこらだろう。男は、こちらを見回すと、こちらが子どもだと分かるなり、「ああん?」と威嚇混じりに、顔を突きだし近寄ってくる。



「っだあ?!イッテェな!どこに目をつけてやがるっ!」


 ……あ〜、典型的なゴロツキだわ。また面倒なのにからまれたわね……。


「あんたこそ。勝手にぶつかってきておいて、謝りもしないわけ?」


 私は、たしなめる様に声をかけた。

 ムーにぶつかってきたのだ。本当なら、今すぐにでもとっちめてやりたい。

 しかし、いざこざを増やすのはもうたくさんだ。穏便にいきたいので言葉は選んだ。これでもね。


「んだとっ?!ムカつくガキだなぁ?!」


 だが、ガラの悪い男は、穏便どころか罵声をあびせてくる。


 うっわーっ!何その態度?!

 そのセリフ、そのまんま返してやりたいわ!だんだん、私まで腹立ってきたわよ!


「イブ、ボクなら大丈夫だよ。……ごめんなさい、おじさん。気が動転してて気付かなかったんだ」


「ムーは悪く無いわよ。悪いのはこのオッサンよ!」


「オ、オッサンだとっ?!俺はな!まだ21だぞ!くそっ!ますますムカついてきた!おいっ!どう落とし前つけるつもりだ!!」


 男は、なんくせつけてさらに声をはりあげた。

 その声は、この通りにひびき渡るくらいだ。


 さっきまで、通りを歩いていたまわりの人たちは、もの珍しそうに足を止めて私たちのやり取りをみていたが、いざ、事が起きそうになると、目を合わさないようにそそくさと離れた場所を歩きはじめた。

 恐らく、トラブルに巻き込まれなくないのだろう。


 ……はあ、本当に皆、他人ごとよね。この街のこういうところは、私も嫌いだわ。

 

 そんな、いら立ちを募らせているときだった。


「……おい、オッサン!」


 男に、声をあびせる者がいた。

 颯輝だ。


「だからオッサンじゃねぇっつってんだろ!このボケが!!」


「俺、さっき見てたけどな。オッサンの方からぶつかってきただろ。ムーは、見てのとおり浮いてるから目立つんだ。普通は気付くよな?」


 颯輝の言葉に、男は舌打ちをした。どうやら図星だったようだ。


 確かに、いわれてみれば、今までムーに接触しそうになった人を見たことがないわ。

 ……ふーん?見た目のわりに、意外と観察力あるわね。


「……チッ。テメェ、口のきき方に気ぃつけろや。そのムカつくツラァ、ギタギタにするぞ?」


「やめておけよ。あんたもタダじゃすまないぜ?」


「あ゛あ゛っ?!」


 男は、凄みのある声をあげて威嚇をしてきた。

 しかし、颯輝は涼しい顔で受け流す。なかなか堂々としたものだ。


「……おい、お前。ここは人が多いから、こっちでやるぞ」


 そして、ついに男が喧嘩を売ってきた。顎で路地の奥を指図する。


「いいぜ。その喧嘩、買ってやらあ。あとで泣くなよ、オッサン」


 颯輝もやれやれといった様子で、男の後をついて行きはじめる。


「……え?ちょっと!?あんた待ちなさいよ!あんなヤツなんてね、そこら中にいるんだから!全然付き合う必要なんてないわよ!」


 こら!

 もう、これ以上面倒ごとを増やさないでよ!


「悪い。でも、お前たちはついて来なくていいぞ。ここは女と子どもの出るところじゃない」


 颯輝は、制止を聞き留めることなく、歩いていく。


 ……全く!あんただってガキでしょうがっ!


「もう!なんなのよ!!ムーはここに居なさい。行ってくるわ!」


 私も、男2人のあとを、追いかけることにした。


 どんどんと、面倒くさい方向に向かっているのを分かってはいたが、一度かかわったら、なかなか見捨てることができないのが、私の悪いクセでもある。

 ……というのは建前。本当は、私をか弱い女の子あつかいしたのが、とても勘に触った。


「わーっ、待って!ボクも行くよおっ!」


 あとを追う様に、遅れてムーの声が聞こえてきた。





 思ったより歩かされた。建物の角を4〜5回は曲がっただろう。薄暗い通りを歩き続けると、だんだんと管理の行き届いていない、すさんだ風景が目に飛び込んでくる。ここまで来ると、街の喧騒も聞こえない。


「……何だか、嫌な予感がするわ」


 廃屋の角を曲がると、そこに颯輝の背中があった。

 視線の先にいたのは、さっきの男だけではなかった。他にも目つきの鋭い男たちがたくさんいる。ぱっと見た感じでは、8人くらいか。

 なかでも、やたら図体が大きく、筋骨隆々なスキンヘッドの男が1人。ひときわ存在感を放っていた。


 男たちは、颯輝を囲んでニタニタと笑っている。中には舌なめずりをする者もおり、まるで、これからはじまる狩りを楽しむかのようにもみえる。

 狩られる相手は……そう。私たちというわけだ。


 待ち伏せ。つまり、これは罠だったのだ。

 そして、まんまとハメられてしまった。

(ハマったのは颯輝だけどね。)


「あちゃ〜。やられたわね……」


「わぁ〜。怖そうなお兄さんたちだね〜」


 いろんな意味でフワフワしたムーが、遅れて到着する。


「おいっ!?タイマンじゃねえのかよっ?」


 颯輝が男にあわてて問いかけた。

 おそらく、大男が視界に入っているせいだろう。颯輝の1.5倍の身長がありそうだ。

 さっきまで、堂々とした態度をとっていた颯輝も、表情が引きつっている。


「だ〜れも、1対1なんて言ってねえだろうが、このボケがぁ!!さっさと、金目の物と、女と小さいのを置いて、ここでくたばりやがれっ!」


 男しゃべり終わるや否や、目の前の男たちが、一斉に襲いかかって来た。


「おいおい、おいおいっ!交渉の余地もなしってか?!」


 数人の男が、次々と颯輝に殴りかかる。


 しかし、颯輝は体術の心得があるのか、その攻撃を、当たる直前のところでかわし続けた。


 襲いかかる男たちのなかには、棒切れを持っている者もいた。

 颯輝は一瞬ギョッとした表情になるが、男が長得物を振りおろすと同時に、相手の腕をからめとるように掴み、投げ飛ばす。

 同時に、男の持っていた棒切れを、奪い取った。


「うおおっ……!?実戦で、無刀取りなんて、初めてやったぞ!でもアレだな。覚悟を決めれば、意外と出来るもんだな!」


 攻撃をかわしながら、何やらゴチャゴチャとしゃべっている。そんなことをしているものだから、あっという間に男たちに囲まれてしまった。


 しかし、颯輝は余裕だ。

 棒切れを構え、威勢よく男たちを挑発する。


「うっし!お前らかかって来いやー!得物を持つと、俺ってばちょっと強くなっちゃうよー?!」


 なにをと、次々に武器を持った男たちが襲いかかる。

 颯輝は、敵が得物を攻撃をくり出すよりも早く、相手の腕に棒っ切れをうちつけ、相手の武器をたたき落とす。

 次々と、颯輝に手や指を砕かれ、悶絶する男たち。

1対多人数においても、颯輝は引けをとらなかった。


 ……うーん。なかなかやるわね。棒術かしら?それとも剣術?テクニックだけなら、颯輝がこの中で1番うまいわね。


 柄にもなく、心の中で褒めかけた。

 しかし、そのときだ。


「……しまった!!」


 颯輝が振りむき、さけぶ。


 あの大男が、私たち目掛けて、猛スピードで走りよってきたのだ。

 見た目に反してかなりの速度がある。


 おそらく、颯輝に群がる男たちは陽動で、本命は大男の方だったのだ。

 はじめからヤツらの狙いは、私たちを人質にすることだったのだろう。


 意表をつき、弱いところから攻め落とす。全く、狡猾な戦略である。


「へえ、優位性をとる戦略としては、なかなか悪くはないわねえ」


 私はのんきに感心してみせた。


「ちょっと、イブ。逃げようよ!」


「まあまあ、待ってちょうだい」


 ムーが、避難を提案してきた。


 まあ、そうよね。あんな図体の大きい男が勢いよく向かってきたら、普通は怖がるもんだわ。


 あの大男の腕。太さからして、一掴みで私の首など、たやすく折ってしまうだろう。ただ大きいだけではなく、その身体にはいっさいの無駄がない。まさに、戦闘をするためだけに特化して鍛え上げられているようにみえる。


 しかし、この状況下において、私に恐れは全くなかった。

 大男が、私を今まさに掴もうとしたその瞬間――


「……あんた、向かってくる相手を間違えたわねっ!」


 私の身体が淡く光る。


 ーー次の瞬間。大男の背後にまわり、回し蹴りをお見舞いしていた。


 辺りにいた人からは、私が、瞬間移動をしたように見えたかもしれない。


 お見舞いしたブーツのかかとが、相手の背中にめり込む。ブーツの底には、ぶ厚い鉄板がしこんである。くらえばひとたまりもない。


 大男は、息もできないまま数メートル吹っ飛び、そのまま廃屋に強く体をうちつけて、気絶した。


「う、嘘だろぉ?!……あの巨体をぶっ飛ばすなんてよ、一体、どんな魔法をつかったんだ!!」


「それより、な、なんか今、身体光ってなかったか?」


 全く、予想外の展開だったのだろう。男たちは、状況が飲みこめず、ただただ、目を丸くして驚いてる。颯輝もだ。


 魔法ねえ……まあ、普通ならそう思うわよね。


 でも違う。私は、魔法を一切使用していない。

 むしろ私は、訳あって魔法を一切つかうことはできないの。

 だから、思いきり蹴っ飛ばしただけ。


「よしっ、狙い通り!」


 ガッツポーズをとってみせた。


「どんなものよ?!女子だからって甘くみてるとね!ひどい目にあうのよ!」


 いたいけな女こどもを、屈強ながたいをした男たちで囲んでいたのだ。相手は、おそらく絶対に負けることがないと確信していたに違いない。

 しかし、それをたったひと蹴りでひっくり返してみせたのだから、気分も爽快だ。

 私は得意げになり、少しだけ余韻に浸っていた。


 ーーしかし、だ。

 この状況で、ひとりだけ、予想に反した動きをしている者がいた。

 颯輝だ。


 必死の形相で、なぜかこっちに向かって走ってくる。


 えええっ?何よっ?!


「イブっ!上だよっ!!」


 ムーが叫んだ。


 “上“と聞いて、急いで顔を上げると、建物の屋上には人影があった。

 時、すでに遅し。その方向からは、複数の氷の刃が放たれたあとだった。今、まさにこちらに目掛けて飛んできている。


 氷魔法?!!……うかつだったわ!あんなところに伏兵が潜んでいたなんて!


「あぶねえっ!」


 颯輝が跳び上がった。

 私は、勢いよく颯輝に突きとばされる。 

 颯輝はからだを張って、氷の刃から私をかばおうとしていた。


 ーーまずい。このままだと、颯輝に魔法が直撃してしまうわ。

 刃の大きさから考えて、当たれば致命傷じゃない!


「このバカっ!何やってんのよ!!」


 とっさに颯輝を振り払った。……私ひとりだけなら何とかなった。こいつさえ、しゃしゃり出なければ!


 ムーがあわてて、防御系の魔法壁≪シールド≫を唱える。


 お陰で、ほとんどの氷の刃は魔法壁まほうへきにあたり、消滅したが、防ぎきれなかった流れ弾のひとつが、私の左肩へと突き刺さった。


「ーーうぐっ!!」


 いや、まだだ。まだもう一本残っていた。その一本は、今まさに颯輝の脚へと直撃しようとしている。


 ーーしかし、そのとき私は信じられない光景を目の当たりにした。


 氷の刃はーー颯輝に当たらなかったのだ。


 寸前で、跡形もなく消えてなくなってしまった。


 ……今のは一体?!



 ズザァッ!!



 2人は倒れ込んだ。


 ……よかったわ。なんとか、急所に当たるのを避けられた。


 私は、肩を押さえながら、ぐっと立ちあがる。傷口から血がにじみ、遅れて、鋭い痛みが襲ってきた。


 ところで、アイツは……どうなって……?

 ……ん?……無傷??


 はああっ?!!何よ!無傷って!!


「イブっ!」


「おい……!お前、大丈夫かよっ?!」


 ムーが、心配して声をかけてきた。

 ついでに颯輝も。


 ムー、ありがとうね。……でも……颯輝っ!今、あんたに心配されると、無性に腹立たしいわ!


 肩の痛みが頭をガンガンと鳴らす。それもあいまって、ものすごくイライラしてきた。


「ああ、もうっ!見てのとおりよ!あんたには山ほどいいたいことがあるんだけど後回しっ!これ、ひとつ貸しだからねっ!?」


 心配したのに、お返しに罵倒され、颯輝はムッとしていた。しかし、私は無視を決めこむ。


 私は、左肩を押さえながら、建物の上をにらむ。だが、そこにはすでに人影はなかった。


 ……なるほど。さっき氷魔法を飛ばしてきた相手は、さっさと移動して身を隠してしまったようだ。


「このっ、逃がすものですかっ!!ムー?!見失わないように相手を見張って!」


「うん!分かった!」


「深追いはしないでいいからねっ」


 ムーは、笑顔をみせると、フワフワと飛び立ち、狙撃してきた魔法使いを探しはじめた。


「さてと……?もう、遊びは終わりよあんたたち!私、いい加減に腹が立ってきたわ!」


 私は、地面を踏みしめ振りかえった。そして、再び男たちを見据える。

 つづけて、腰のホルスターへと右手をかける。

 そこには、“あるモノ“が納めてあった。


 ……さて、相手は7人だ。

 バラついてはいるけども、十分有効圏内。周囲は燃えやすい建物。もし、こんなところで、ぼや騒ぎなんか起こしたら、あとあと面倒そうね。

 ……だったら、氷系か。


 おもむろに、腰のホルスターから取りだしたのは、青いカートリッジ(銃弾)一個と、


 “カンプフピストーレ“。


 拳銃型のてき弾発射器だ。


 男たちは一瞬、何が出てくるのかと身構えていた。

 しかし、出てきたものが何かとわかったとたん、肩を震わせて笑いはじめた。


「ギャハハハハ!!んだあ?そのオモチャは?!超骨董品のガラクタじゃねえかよ」


「そんなんじゃ、魔法壁が突破できねえどころか、当たりもしないんじゃねえのか??」


 ーー皆、口々にののしり、馬鹿にしてくる。


 そんなことは物ともせず、私は、淡々とカンプピストーレへとカートリッジを装填した。


 確かに、男たちの反応はある意味正しいといえる。

 なぜなら、魔法が主流のこの時代において、戦闘にこの代物はオモチャ同然の役割しかはたさないからだ。


 感覚的には……そうね。丸めた紙くずを投げつけるくらい?


 ではでは、ここから勉強の時間だ。

 問題。攻撃魔法を向けられたとき、身を守るためにはどうしたらいいだろう?


 答え。対処方法はいくつかあるが、そのうちのひとつが、ムーがさっき使った“魔法壁“だ。


 さて、この魔法壁。これが、なかなか優秀なもので、発動の早さと堅牢さが上手くかみあっており、初手の防御方法として選ばれやすい。おまけに初級の魔法で、習得も簡単ときたものだ。


 通常、魔法戦闘といえば、いかにこの魔法壁を突破して相手にダメージをあたえるか、が、戦略を立てる上で重要になってくるのだ。


 いまどき、鉄のタマを火薬で撃ちだす銃火器は、魔法壁で簡単にはじかれてしまううえに、攻撃の内容も単調で読まれやすい。くわえて、重たいので携帯に不便だし、見せた瞬間に攻撃方法がバレてしまうので、もはや誰も使わなくなった。

 “銃を持つのは、魔法壁すら使えない低能力者“、というレッテルまで貼られる始末。


 要するに、銃は持っていると、それだけで馬鹿にされやすい、ということだ。


 しかし、この“カンプピストーレ“を、そんな護身用にもならないガラクタと一緒にしないでもらいたい。

 これは、特別なのだ。


 ……ね?何が特別か知りたいでしょう?


 “魔てき弾“。

 

 この銃から射出される弾の名前だ。

 高濃度に圧縮された魔力がカートリッジ内にこめられている。


 魔法の種類や属性も、弾ごとに選ぶことができる仕様になっていて、私にとっては、これが唯一の魔法を使用する手段である。


 メリットは、詠唱の時間が必要ないこと。魔法エネルギーが、高密度に圧縮されているので一発の威力が、普通の銃弾にくらべて桁違いに高いこと。

 デメリットは、連射ができないこと。弾の速度が遅いこと。範囲がせまく使用シーンが限られることだ。


 魔法壁?もちろん、このカートリッジの中には、魔法壁破壊機構も組み込まれている。

 まさか、魔法壁を突破できる銃がこの世に存在するなんて、一般人は想像さえしないはず。


 ……ふふふ、そうやって余裕をこいていたらいいわ。そのアホ面に、つめたーいのを容赦なくあびせてあげるわよ!

 でも……そうね。それだけじゃ物足りないから、心理的にもう1発、お見舞いしておこうかしら?


 私は、カンプピストーレの狙いを定め、撃鉄を起こす。

 そして、相手の嘲笑など気にせずに言いはなった。


「あんたたち?ファングの弟子にちょっかい出すとどうなるか、その身をもって学びなさいよね!」


 さっきまで笑っていた男たちの内、何人かが、“ファング”という名詞に反応し、ギクリと身を震わせた。


「ふぁっ?!……や、やべえぞ!ファングってあの、伝説級のバケモノじゃねか!!」


「どうせハッタリだ!つくならもう少しまともな嘘をつけっ!」


 うーん、期待していたよりは、弱かったかな??


 ファングとは、私がかれこれ6年くらい厄介になっている、家主であり、師匠だ。

 私は普段、“老師“と呼んでいる。


 老師の名は、この街だけではなく、世界中にも轟いているらしい。

 まあ、そんなことも知らずに、私は老師の家に転がりこんだわけだが……。

 さておき、老師の名は、語るだけでも大変インパクトがあるにちがいない。だか、効果の程については……いまいちだったようだ。


 聞き手にとっては、ちょっと現実味がなかったのかな?……うーん、今後の課題だわ。


「……ま、いっか。それじゃ、おやすみなさ〜い♪」


 私は、首をかたむけながら、嫌味たっぷりにほほえんだ。

 そして、トリガーをゆっくりと引く。

 慈悲はない。


 カシュッ!


 少し間抜けな音だが、これがカンプピストーレの射出音だ。


 男たちは、あわてて目の前に何重にも魔法壁を作りあげた。そして、魔てき弾は魔法壁に当たり、炸裂。


 ピシャーン!!


 高音と振動、そして爆風が響いた。周囲の建物がガタガタと震える。


 目の前には、男たちの姿をかたどった、氷塊ができあがっていた。


「……まあ、死なない程度に威力は抑えてあるわ。しばらく氷漬けになって反省しなさいよね」


 そういって、私は、きびすを返したのだった。




 しばらくすると、ムーが頭上からフワフワと降りながら現れた。


「えーと、イブを狙った人だけどね、あっちの方向に逃げたみたい。距離は……まあまあくらいかな?周りに他に人はいなかったよ!」


 ムーが、指で方角を指し示す。


「OKっ!マップ、出せる?」


 私は、ムーに頼んだ。

 もう少し、正確な位置が知りたい。


「うん。分かった!」


≪マップクリエーション≫!


 ムーが、魔法を唱える。

 即座に足元には、立体の地図が描かれた。


「この、赤い光の所だよ!」


 マップ上には、敵と思しき赤い印がチカチカと光っている。

 おそらく、狙撃してきた敵は、すでに逃げおおせた思っているのだろう、移動速度はゆっくりと一定だった。


 10時の方向、距離は75メートルといったところかしら。


「ははーん?ここねぇ〜」


 ムー。お手柄だわ!


 私は、ホルダーから新しく、別の魔てき弾をとりだし、カンプフピストーレに装填した。

 つづけて、斜め上に銃口をむけると、そこの先にいるであろう標的に意識をしぼる。間接照準射撃だ。


「当たるの?」


「まあ、見てなさいって」


 不思議そうな顔をするムーに対し、私は片目を閉じて、笑顔で返した。


 てき弾は、普通の弾丸とちがって、真っ直ぐではなく、弧を描きながら飛ぶものだ。

 だから、山なりに飛ばせば、障害物を乗りこえて着弾させる……というのも可能なはずだ。


 一応これでも、ときどき練習しているんだよ?


「よし、いけっ!」


 カシュンッ


 うん、イメージどおりだわ。なかなかよい弾道を描いて飛んだと思う。


 数秒後には、遠くでキンと甲高い音が鳴ると同時に、声にならない声が発せられた。


「命中っ♪」


「イブ!凄いや!」


 ムーが感嘆の声をあげる。

 私は、ふふん。と少しばかり得意げになった。


 そこへ、時間差で颯輝が声をかけてきた。


「すまない。俺のせいで巻きこんでしまって……お陰で助かったよ。それよりも……お前、傷は大丈夫なのか?」


 颯輝は視線を、私の左肩に向けるが、すでに血は止まっていた。

 破れた服の下から見える肌は、きれいに癒合ゆごうしている。


「……あれ、治ってる?」


「ああ、これねー……私、普通の人よりちょっと治るのが早いのよ」


「これが普通?!ウソだろ、ちょっと早いってレベルじゃねぇよ」


 颯輝は、驚きのあまり間抜けな声をあげた。

 そのあと、説明を求めるような視線をむけられたが、それには応じたくなかった。

 なぜって?説明がめんどうだからだ。


 私の身体が、人より治癒能力に優れていることに気づいたのはこの街に来てからだ。


 切りキズや刺しキズ程度ならすぐに治る。(まあ、さすがに、切断されてしまったらどうなるかまでは分からないが……。)

 なぜこうなのかは、何となく分かっているつもりだ。しかし、詳しくは説明できないし、確証はない。おそらく、出生と関係があるんじゃないかとは思っている。


 それに、老師から体術を学んでいることも、身体の治癒力が高い原因のひとつだろう……と思っている。


 その、老師の元で学んでるものというのは、

 ≪そう術≫

 といって、主に身体能力を強化するものだ。


 上手く使いこなせるようになると、自分の身体だけではなく、周りの物質にも干渉し、自在に操れるようになる。まるで、魔法を使っているかのように。


 私は、魔法が使えないので、代わりにこの力を磨くことにした。

 さきほど、大男を蹴り飛ばしたのは、まさにこれで、この操術を学びはじめてから、私の治癒力はさらに向上した……というわけだ。


 ちなみに、繰術を使うと身体中が一時的に淡く発光するらしい。老師も操術を使っているときには身体から光を発している。なぜかは私も理由を知らない。


「……特殊体質なのか、それとも、これも魔法というやつか?おいおい、地球ここってば、すごい世界になっちまったんだな」


 颯輝がひとりで勝手に考察し、つぶやきはじめた。


 ーーいやいや!ちょっとまって?

 そんなことよりも、さらに不可解な現象を、私はこの目で見たわよ?早くそっちを問いたださねば!


「そんなことより、あんた!さっき相手の魔法を打ち消したでしょ!あれは一体何なの?教えなさいよ!」


 質問を聞いた颯輝は、キョトンとしている。


「俺が?……バカなこというなよ、俺はごく普通の人間だぞ?そんな力持ってるわけがねえって。……いや?待てよ?ははーん。もしかして、あれか!小説やアニメでよくあるやつだ!異能の力を打ち消す力とかいうやつ!俺、もしかしてここに来て、ついに目覚めちゃった?」


 どうやら自覚がないようだ。

 それどころか、顎を手でさすりながら、今度は意味のわからない単語を、ごちゃごちゃと並べはじめた。

うーん、何語かしら?


「えーと……ムー?言語解読の魔法が切れかかっているみたいだわ」


「えー!?そんなー!まだまだ魔法効果はつづいてるよ〜」


 ムーが、ふくれてしまった。


 えー。ということは、あれだ。颯輝の造語か。


「あれ?でも、異能の力をすべて打ち消すとなると、ムーの魔法も無効になってしまうわけだよな?これじゃ、つじつまが合わないなぁ……」


 颯輝は、いまだにひとりごとの真っ最中だ。

 しかし、今度はムーが、そんなのおかまいなしに、颯輝へ話し掛けた。


「ところでさ。お兄さんがさっきやっていたのって、剣術でしょう?とってもカッコよかったよ!……よかったら、ボクにも教えてくれないかなぁ?」


 上目づかいで、お願いごとをしている。

 ちょっと照れているところが、かわいい。


 それにしても、あのムーが、他人に教えをこうなんて、珍しいこともあったものだ。うんうん……。


 ……は!?


 今なんて?!学ぶ?そんなヤツから剣技を学びたいって言った?!

 やめてよ、やめて!それはやめてよ!?


「ムー?ちょっと……待ってね。剣術を学びたいのなら、腕のいい人を私も一緒に探してあげるわよ。なにも、今すぐ決めなくてもね。ね?」


 こいつから何かを学ぶのは、私自身抵抗感があった。でも、そんなことを直接ズバッといってしまうと、ムーが傷つきかねない。

 そう、できるだけ穏便に。ムーの尊厳を傷つけないように話題をすりかえなければ……!


「えー、でも〜。お兄さんの剣術って、今まで見てきたものと比べると、何だか、こう。かっこよかったんだよね。どういいあらわしたらいいのか、分からないけど」


「うん。学習意欲があるのはとても大切よ。でも、結論を急ではダメなこともあるわ。あなたは今興奮しているの。もうすこし冷静になってみて。そうよ、もう一度考えたら、きっと最良の答えがだせるわ」


 よーし、いい感じよ私。

 とっさに考えたとは思えないくらい、いい誘導だわ。

 落ち着け〜。落ち着くのよ〜、ムー。


 私たちのやり取りを見ながら、颯輝が、急に何か勘付いたようだ。

 颯輝は、とつぜん腕組みをして踏ん反りかえった。

 そして、片方の眉毛をあげながら、ねちっこく話しはじめる。


「うーん。これは、門外不出の、一子相伝の剣術だからなあ。どんなに頼まれても、簡単には教えられないんだよな〜。……あ、いや?でも、今回の件もあるし、食事と宿をしばらく提供してくれるというなら、その間だけ教えてやらなくもないかなー。それに、たまたま俺ってば、今日泊まるところがないんだなー。このまま泊まるところがなければ、この街を離れるしかないしなー。そしたら、剣術は教えるのは無理だなー。普通はこんなことは絶対にしないんだけどなー。いやマジで、今だけ特別!」


 ……ぐ、ぐぬぬ。

 意外に売りこみがうまいじゃないか。

 だけども、門外不出?一子相伝?……そんなの、今でっちあげたにきまってるわ。誰がそんな見えすいた嘘にのるもんですか!


 そのとたん。ムーがふり返り、まるで子犬をひろってきた子どものような、すがるような目でこっちを見てくる。


「ねえ、イブ〜……」


 ああっ!しまったあああああ〜!!

 ここにいたわ〜!!


「ムー!あなたはダマされているのよ!早く目を覚まして!」


「お兄さん、かわいそうだよ。お願い〜……」


 や、やめてっ!そんな純粋な瞳で、私をみつめないで〜!


「……ダ、ダメよっ!そんなの……絶対ダメ!」


「何でもするから〜……」


 ああああっ!ああああああっ!


「分ーかったからっ!ちょっと!一考させてくれる?」


 そんなにして顔を近づけられたら、断りきれないじゃない……。

 あー。何て弱いのかしら、私の意志力ってば……。


「「やったー!!」」


 颯輝と、ムーがお互いの顔を見合わせて、ニカッと歯を見せた。そして、ハイタッチをしている。


 そして、ハッと我にかえった。


 あ、あれ?

 ……もしかして、1番冷静じゃなかったのって、実は私だった……?

 うわーっ!なんてことよ!最っ低――――!!


 颯輝は、完全に調子にのってしまっている。

 またも、踏ん反りかえりながらこういった。


「では、ムー君!さっそく、俺のことは師匠と呼ぶようにっ!」


「はい!ししょー!」


 ムーも、楽しそうだ。

 私にも見せたことのない笑顔をふりまいている。


「よし、いいぞ!さーてと、今日の晩ごはんは一体何だろうなーっ?!」


「はいっ!ししょーっ!」


 男同士のノリなのか、

 ……うん。ちょっとついていけないわ。


 私はというと、何かに負けてしまったような感覚が全身を覆っていくのを味わっていた。


 軽い気持ちでこの男に関わったが、そのままズルズルと損切りもできず、今もまだ含み損をかかえたままだ。

 正直、意志が弱過ぎたと思う。……ああ、お腹痛い。


「あー、もしもし。作戦会議……。ここじゃ何だしさ、場所。変えない?」


 私は、首をもたげながら手をあげて提案した。


 お疲れ様です!

 いっきに読むには、ちょっと長かったでしょうか〜?


 説明部分は多いと思います。なんてったってSFですからね!(?)


〈以下、設定とかメモ書きとか↓↓↓〉

 「繰術そうじゅつ」というのは、体内や環境の分子に働きかけて、それらを意のままに操る術という設定になっています。

 主人公の身体が発光していたのは、バイオフォトンによる、いわゆる生体発光現象です。…などと、専門用語を連呼してみるテスト。


 颯輝はやてが使う剣術についてですが、「新陰流」という日本に本当にある流派をモデルといています。が、作中では一切そのことについて述べる予定はありません。


☆キャラ紹介☆

挿絵(By みてみん)

名前:ムー(グラム)

ジョブ:記録師

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