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ロキ 後編

突然の決裂に、ムーは動揺をはじめた。どっちの味方にもつく事が出来ず、オロオロと目を右往左往させている。


「イブ……ししょー……こんな時にやめてよぉ」


悲痛な声を出すのを、耳の端で捕らえたが、私は反応出来なかった。全く気持ちが動かない。


「ギャハハ。おもしれえなあ〜♪仲良しごっこももう終わりかあ?」


複眼の男が、こちらのやり取りを見て楽しんでいた。

その行為が、ますます私を苛立たせる。


「ムー!エル!鍛冶屋のおじさんを連れてこの場所を離れるわよ!エルがスライムでおじさんを運んで頂戴!ムーは防御に徹して!ミコト!あんたもっ!」


皆に大声を出し、颯輝に当てつける様に指示を出した。


……ああ、何やっているのだろう。


苛立ちとは別に、冷静な自分が思考する。


これならば、守りながら移動は出来るけど……ただそれだけだわ。あの男をどうにかしないと、また行く先々で襲われる。結局は同じ状況に陥るというのに……。こんなの詰みじゃない!……誰か、助けて…………老師……っ!


「……イブさん。ごめんなさい。私はここに残ります。颯輝おにいちゃんを1人置いては行けませんから」


ミコトが、申し訳なさそうに答えた。

――そうか。そういえば、あんたはそうよね。颯輝を目的に接触してきたのだもの。


「……そう。好きにして……」


私は、見ないように返事した。


「ムー、エル、行くわよっ!」


冷たく言い放つ。

ムーは、困惑と悲痛を抱えた顔をしている。

エルに関しては、私の考えを見透かしたように、やれやれと言いたそうだ。


「エルっ!早くしてよ!」


「はいはい」


エルの軽い返事を受け流すと、私は移動を開始しようとした。しかし――、


「待ってくれ!」


――颯輝だ。何を言ったって無駄だというのに、今更何?


私は、……無視をした。


構わず颯輝は話を続ける。


「エル!そのスライムで、このおっさんを治してやってくれ!ちょっと、傷口を塞いでくれるだけでいいからっ!あとは俺が何とかする!……お願いだ!」


この期に及んで、まだ人の手を借りようとしているのか。こちらとしてはそんな頼み事を聞く必要なんて無いんだ。無視すべきだわ。


エルを見据え、私は首を横に振る。


しかしエルは、私を見た上で尚、颯輝に話しかけた。


「へえ〜?その頼み、聞ける状況じゃないのは、はややんでも分かるよね?……それとも、それ相応の対価を、キミは払ってくれるというのかい?」


「…………エルっ!」


そんな、すがってくるヤツに、何かをほどこすことは無いわ!

今は一刻も早く、この場を離れることが優先だというのに、何を考えているのよ!!


「あ〜、今回はよお、一体誰が死ぬんだろうなあ♪楽しみだなあ」


複眼の男に、まだ動きはない。どうやら、こちらのやり取りを見て楽しんでいる。余裕の表情だ。

もう完全に私達は、奴の手のひらで踊らされている。


颯輝は、一拍おいて冷静に答えた。


「……ああ、今は思いつかねえが、俺に出来ることなら何でもするよ」


真剣な顔だ。恐らく嘘は言っていないだろう。

その言葉を聞いた瞬間、明らかにエルの口元が「へらり」と、そう。緩んだ。


「ん?……今、何でもするって言ったね?」


「……あ?ああ」


念押しするとエルは、こっちを振り向く。


「……よーし!決まり!……イブごめーん。私、はややんをちょっとばかし助けるね!」


両手で顔を隠し、必死にこらえようとしているらしいが、その表情は悦に入った笑みに溢れている。


「ちょっと!?まさか、あんた裏切るつもりなの?!」


「……ふふ、裏切るも何も、私はいつも自分の気持ちに正直なだけさ⭐︎」


何故だか男前な口調で話す。


……困った事に、こうなったエルは人の話を全く聞かないのだ。それは、これまでの付き合いで知っていることである。


「ああっ!もうっ!あんたまで!!どうなっても知らないんだから!!」


私には、全く彼女が何を考えているのか理解できなかった。

今は、少しでも生存確率を高めることが大切だというのに。気持ちとか、そんな不確かなものに頼ったところで、全員が助かるなんて到底考えられない。

そんなものでうまくいくならね、いくらでも感情なんて込めてやるのだわ!


「あはは。大丈夫、大丈夫。何とかなるって。ムー?ちょっと、鍛冶屋のおじさん任せていいかな?」


「……う、うん。良いけど、あの爆発どうしよう?」


「それは、何とかしてくれるさ。ね?イブ。信じてるよ?」


「はあ?なに無茶なこと言ってるのよ?!」


本当に無茶苦茶言ってくる。

そんなこと、できたらとっくにやっているわよ。



「……あのー」


突然に、ミコトが話しに割り込んで来た。

私は聞こえてないフリをした。

これ以上の面倒ごとは無理。それは、正直な気持ちだ。


「あのー、もしもーし?」


聞こえてないと分かるや否や、しつこくまた話しかけてくる。ああ〜っ!もうっ!


「何よっ!」


「……お取り込み中すみません。皆さん、ちょっと良いですか?私にいい考えがあります」


――は?いい考えですって?


「あんたが何か喋るときは、大体ろくなことにならないじゃない」


「むー。こんなに有能なAIを持つアンドロイドに向かって、それは酷いですね」


口を尖らせて拗ねている。


私の苛立ちは最高潮なのだ。悠長に構えてなんてられないというのに、本当どいつもこいつも。


「もうっ!そんなことはいいから、急いでよ!何?!」


私とは打って変わって、ミコトは大変落ち着いていた。そして、こほんと一つ咳払いをする。向きを変えると、屋根の上を見上げた。


「あー、あー、もしもし?そこの方?」


そこの方とは、複眼の男の事だ。

男は、ミコトが話しかけてくることを予期しなかった様で、気付くとダルそうに上半身だけ乗り出してきた。


「あ゛ん?」


「これから私たちだけで話し合いたいのです。すみませんが、3分間待ってもらえませんか?」


「あー?俺に指図すんじゃねえよ!駄目に決まってんだろ。……はー、もうつまんねえ。そろそろ殺し始めるわ」


――話には全く応ずる様子はない。むしろ、感情を逆なでられ状況は悪い方に進んでいる。

一体、ミコトの言ういい考えとは何だったのだろうか……。


「あんた、ねぇ……!」


私は震えて歯を剥いた。ところが、当のアンドロイドは全く動じることは無い。


「そうですか……うーん。それは残念ですねぇ、滅びの呪文を唱えそびれてしまいました」


滅び?呪文?全く意味が分からないのだけど。さておき、私は、深く考えないことにした。それよりもこれからの行動をどうするか?大事なのはそっちだわ。


ミコトは、まだ淡々と話を続ける。


「本当に、本当に残念ですね。……これは綺麗事かも知れませんが、私は誰にも傷ついて欲しくないんですよ。……でも、今はそれが無理そうなんです……ですから……」


「“彼”が、貴方の相手をしますっ!」


ミコトが、更に上空を見上げた。

眼孔など無さそうだが、目の奥が開き、目線は空の一点に固定している。


目線の先で、一瞬、何かが光った気がした。


次の瞬間、何かが!凄まじい速さで落下して来くる!


自称神こと、“ゼクス“だ!!


「ふっっっざけんなああっ!おまえええええっ!いつもより現れるのがクソ早いじゃねえかああああああああっっっ!!!!」


急に、複眼の男は上空を見上げたまま、喚き叫び始めた。


ゼクスが背中の身の丈ほどある剣を、複眼の男めがけて叩きつける。それを、複眼の男は二刀で受け止めた。


同時に、男の立っていた家屋は崩壊し、爆音が轟く。瓦礫が飛散した。


尚も、ゼクスの勢いはとどまること知らない。次々と建物をなぎ倒していく。この光景、もはや暴力と言わざるを得なかった。


「さあ、ゼクスさんが時間を稼いでいる今がチャンスですよっ。怪我人を治療して移動を始めましょう」


ミコトが、こちらを向き直り、話しかけてきた。――確かに、今ならそれが可能だ。


「エルっ、やるなら急いでよ!」


「え?!やだ!ちょっと、急用!私あっち行きたい!」


エルが、ゼクスの行った方角を指差し、懇願してきた。目の色がさっきまでと全然違う。。


……そう、エルは、ゼクスに対してえらくご執心なのである。

全く、アレのどこに魅力があるのだか……いやいや!そんなことよりも!今は、時と場所をわきまえて発言して欲しいわね!振り回されるこっちの身にもなってよ!


「あんたね!ころころ変わり身するのやめて!本当迷惑!」


「あー!もうっ!全く人使いが荒いね!」


一体どの口が言うか!

エルは諦めた様だが、半ば、やけくそ気味だ。まだ目はゼクスがいた方を追いかけている。


エルは、ブツブツいいながらスライムを展開した。スライムが、あっという間にチンピラを呑み込んでいく。


「すまないな。俺のわがままで」


「うん?いいさ。それより何でもするって言ったのを、はややんは忘れないでね」


「……おお、そうだな。……できることなら、な?」


申し訳なさそうに謝る颯輝。

謝るくらいなら、初めから黙っていればいいのに。


ふと、今一瞬、颯輝と目が合ってしまった。すぐさま互いに目線を逸らす。

私は、まだ颯輝を許したわけではないのだ。


そうこうしている間にエルが、スライムに残りの治療薬を全て投入し終える。みるみるうちにチンピラの傷も塞がった。


「ムーは、鍛冶屋のおじさんをお願い。浮かせて運べば、傷付けずに移動できるわ」


「うん。わかったよ」


「まて、俺が背負う!」


手持ち無沙汰からなのか、私と、ムーの会話に、颯輝が割り込んできた。


駄目よ!あんたが担ぐと、かえって傷口が……いやいや、こいつは私に関係ない。無視だ無視!


「はややん!……今は、こっちだよ。よそ見しないで?」


すかさずエルが制止した。


「す、すまん。焦ってた。……俺、こんな時に何の役にも立てないのかな」


颯輝は落ち込んでいるが、私は内心ホッとした。今は、出来るだけこいつとは会話をしたくなかったから。


颯輝の様子を見兼ねたのか、ミコトが声をかける。


「颯輝おにいちゃんには、特別に他にやって頂きたい事がありますよ」


「本当か?!一体なんなんだそれは?!」


ミコトは少しだけ微笑むと、続きを話し始めた。


「はい。それは、紅い球の除去です。……先程、街の中をスキャニングしたところ、あれと同様の物の反応が、この1Km圏内に13個ありました。颯輝おにいちゃんには、これの無効化をやってもらいたいと思います」


「分かった。……だが、それ、俺に出来るのか?」


颯輝の首筋に汗が垂れる。


確かに、爆弾が無効化されれば街の人は安全だ。しかし、代わりに自らを危険に冒さなければならない。下手をすれば、先ほどの鍛冶屋のおじさんのようになってしまうだろう。

颯輝も、それを分かっていて慎重に言葉を選んでいる。


「こんな危険な仕事、お願いするのも大変心苦しいのですが、今この現状では颯輝おにいちゃんこそが適任なのです。先程、紅い球を触って、砕けたのを覚えていますか?アレは颯輝おにいちゃんが触ると無効化するのですよ」


驚いた。

こんな時において、さらりとミコトが、魔法の類いが颯輝に効かない事について触れてくるなんて。


「……どういうことよ?何で無効化できるわけ?」


無視を決め込んでいた私だったが、流石に好奇心の方が勝ってしまった。

ついつい質問をしてしまう。


「そうですね、まだお話していませんでしたね。

……それは、颯輝おにいちゃんの存在自体が特別だからなのです。颯輝おにいちゃんの様に、時空を超えてきた人のことを、私たちは“ときのたびびと”と呼んでいます。

その、“ときのたびびと”さん達はこの世界においては大変特異的でして、その身に害をなす魔法攻撃は一切無効化してしまうのですよ」


――なるほど、ミコトの言うことはつじつまが合う。颯輝にサポート系の魔法は有効だけども、攻撃の類いの魔法は触れる前に全て消えてしまっている。


「あんたは……そこまで知っていて近づいてきたのね。まだ、私たちに隠してることがありそうだわ」


「いえ、別に隠したくて隠していた訳ではありません。問われなかったから話さなかっただけですよ。不必要な情報は、ときとして人を混乱に招きますからね」


「あっそ。――本当に食えないわね、あんた」


私は半信半疑だ。


「そうですね。私のボディは食べられる素材で構成されてませんからねぇ?」


「そういう意味じゃないわよ」


問われた意味を理解できていないかの様に、ミコトははぐらかした。

本当調子狂うわね……。


「あの爆弾の被害が無くなるなら、何だってやってやるよ。……でもよ、仮に俺がその爆弾を無効化できるとしてもさ、1Km圏内というのは、かなり範囲が広いぜ?何処にあるか分かんない物をどうやって探せばいいんだよ?」


颯輝は決意を固めた様だ。


ミコトは目を閉じると、手を耳のオブジェにあてた。何かを発している様だ。


「探索には、颯輝おにいちゃんのスマートフォンを使います。今、そこに紅い球の位置情報を送りました。移動にはこの、ジャイロシューズを使ってください」


目を開けると、腰に取り付けてあった大きいパッド様のものを2つ取り外した。

裏側には車輪が一個ずつ付いている。


「加速から、わずか4秒で時速100kmが出せる、初心者仕様です」


「何処が初心者だよ。こけたら死ぬじゃないか」


颯輝が眉を寄せる。


「本当に大丈夫ですよ。直感的に操作できるようにできていますから。習うより慣れよ。です♪」


「……簡単に言ってくれるよなぁ。なぁ?もういっそのこと、ミコトたんの後ろに乗せて移動してくれないか?」


颯輝のひとことに、人差し指を顎につけ上を見つめると、ミコトは少し考えるフリをした。


「うーん……それはそれで、とても魅力的ですが、きっと難しいと思いますね」


「何でだよ?」


「それはですね。この機を逃さないとばかりに、私を狙う者が現れるからです。きっと、一緒にいると、颯輝おにいちゃんまで巻き添えになりま……」


ドォォン!


話し終えるまえに、十字の形をしたエネルギー弾がミコトに直撃した。

咄嗟のことで、誰も防御が間に合わなかった。


「ミコトたん!大丈夫か!?」


土煙が止むと、ミコトの姿が見えた。……左腕が完全に壊れてしまっている。


「な、何とか機能停止だけは免れました……。でも、もうこの腕は使いものになりませんね……」


「そんな……」


カツカツと高い音を立てて、女とおぼしき者が私たちに近寄って来た。


「見つけましたよ!機械人形!」


声の主は、アージュだった。



みんなバラバラになっちゃった!

次回に続く~!

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