ロキ 前編
武器を調達するため鍛冶屋に来たイブ達。
鍛冶屋で前日に絡んできたゴロツキと偶然出会ってしまう。
ゴロツキとのいざこざを避けることはできたが、何者かが仕掛けた爆弾によって、皆は命の危険にさらされたのであった。
――突然の出来事で、何が起こったのか、
ミコトの声をかき消す様に、爆音が鳴り響き、視界は発光によって遮られた。爆風と共につぶてが飛散する。
私は、いち早くムーと、エルが障壁を張ってくれたおかげで、難を逃れることができた。
颯輝は……?
見ると、ひとり床に伏せて手で耳と目を覆っている。
うーん?カエルのモノマネが何かかしら?
「あんた……馬鹿なの?」
「違う違う!爆弾と遭遇したらこうしろってじっちゃんが……!それより、皆無事なのかよ?!!」
「だまって!今確認してるところ!」
粉塵のせいで、うまく周りが見えない。目を閉じていたとはいえ、さっきの発光の影響で視力を奪われてしまい、完全ではなかった。
目を凝らし周囲を伺う。
爆弾があった方へ目をやると、2人の人が倒れている。鍛冶屋の店主と、喧嘩を売ってきた男だ。
「おじさんっ!!」
ムーが慌てて駆け寄った。
おじさんも、咄嗟に魔法障壁を張ることが出来たのだろう。お陰で、爆発の直撃だけは避けられたみたいだ。しかし、それでも深い傷を負っている。
所々破片が身体に刺さり血だらけだった。火傷もある。
「すぐに治療を!」
エルも急いで駆け寄り、ポシェットから治療薬を取り出す。
「うう……!」
「じってしていて!……うん、大丈夫。破片は大きな血管を避けてるみたい。」
良かった。こんな酷いことになったとはいえ、命に別条はないみたいね。
エルは、リュックのスライムを鍛冶屋のおじさんに覆い被せた。
そして、ポシェットから取り出した治療薬をスライムに次々と投げ込んでいく。
身体に刺さっていた破片はスライムによって丁寧に抜き取られ、同時に治療薬によって傷の修復が行われる。
鍛冶屋のおじさんの傷口はみるみるうちに肉芽形成し閉じていった。
「すげー……」
颯輝が、ぽかんと口を開けて治療の光景を眺めている。
「もう動けるのか?」
「動けない。傷口は塞いだけど、また開いたらいけないからね、どこか安静にできる場所に移さないと」
エルは、問いに短く答えると、場所の移動を提案した。
「そうね。ここでは安静にできる所は無さそうね」
怪我をした時は、今の様に傷口を塞ぎ出血を最小限に留めることが重要なのだ。塞いだとはいってもその結合は弱く、無理に動かすとまた裂けてしまうことがある。極力、安静にして完全に治癒するまでは大人しくしておくのがセオリーである。
振動を起こさないように運ぶなら、浮遊の魔法か、スライムでやってもらうといいと思う。さて、どっちに頼もうか。それよりも、どこに移動するかよね。近くの療養所はどこにあったっけ。それにしても、何でこんなところに爆発物が……?
同時に複数の思考が起きる。そんな事を考えている時だ。
突然、ハスキーな男の声が、頭上から降ってくる。
「あーん?なんだあ?今回はガキじゃねえのかよ」
おぞましい声だ。
見上げると、家屋の隙間から男姿が見える。屋根はさっきの爆発で崩壊していた。
声の主は、背中に獣の毛皮を纏っており、奇抜な色の服を着ている。とても普通のセンスとは言い難い。
大剣を背面に2本携え。見た目は若い。眼光の鋭いイエローの瞳。右側だけが複眼になっており、強烈な印象を与えている。
……あ!
一瞬、街ですれ違った奴だわ。あの時感じた不気味な雰囲気が一緒だもの。むしろ、見れば見る程に、あの得体の知れない不気味さは増していく……。
男は、歪んだ笑みを浮かべていた。
右手には、あの爆発した紅い玉と同じものを持っている。
…………こいつが犯人か!
「あんたねっ!こんな酷いことをしたのは!降りて来なさいよ!ぶっ飛ばしてやるわ!」
私の御用達にしている店を潰すどころか、おじさんにまで危害を与えて、絶対に許さないんだから!
「おーおー、威勢のいいこった。俺からのプレゼント、気に入ってもらえたみたいだなあ。ギャハハ」
おかまいなしにゲラゲラと笑いはじめた。
「ふざけないで!あんた、名乗りなさい!何が目的なのよ!?」
「あー?いっつも同じ質問ばかりするなよ。つまんねえだろ?まあ、死んだら教えてやるからさ」
何とも捉えづらいヤツだ。ところどころ会話が噛み合わない。
しかし、感情に任せて強気に出たものの――相手はかなりの強敵に違いない。直感が危険だと知れせてくる。
恐らく、昨日会ったアージュより格上。正直、私でも太刀打ち出来るかどうか……
「ほらよ、くれてやらあ。どうする?」
急に、持っていた紅い玉をこちらに放り投げてきた。
≪シールド≫!
ムーが、即座に魔法障壁を張る。
障壁の手前で、紅い球は、大きな音と衝撃を上げ爆発した。
直撃は免れたが、爆発の振動でガラガラと壁の破片が落ちてくる。
「イブ!建物が壊れそうだよ!早くここを離れなきゃ!」
ムーが叫んだ。
確かに、ここに居ては生き埋めになるのは時間の問題だ。
しかし、こちらには怪我を負ったばかりの鍛冶屋のおじさんがいる。そんなに身軽には動けないわよ。
「さーて、そろそろギャラリーも増えてきたなあ?」
周囲には次々と野次馬が集まり始めた。
当然だ。あれだけの爆発が起きたのだから。
「何が言いたいのよ?」
「ギャハハ。いやなに、あそこにコレを投げ込んだら、さぞかし面白いだろうなあ?お前らも、そう思うだろ?」
そう言って顎で野次馬達を指し示した。
男はどこから取り出したのか、すでに両手には紅い玉を携えている。
「!!!っ」
血が沸騰した。アイツを野放しにしたら、街の人達が危ない!
考えるのが先か、動くのが先か、私は躊躇なくカンプピストーレにてき弾を装填し、男めがけて発砲する!
「はっ!おせーんだよ」
余裕と言わんばかりに、ひょいと隣の建物の屋根に飛び移り擲弾をかわした。
かすめた擲弾が、後方で炸裂する。
「おーっと、わりいな。怖くてうっかり手が滑ったわ♪」
故意に、男は紅い玉を一つ、人だかりに向けて放り投げた。
同時にもう一つ、紅い玉が私達めがけて飛んで来る。
「させませんっ!」
ミコトが構えて叫んだ。腕が左右に開き、閃光が放たれる。
それとほぼ同時に人だかりに向けて投げられた紅い玉が空中で爆発した。
よく見ると、腕の中には銃口とおぼしきものが見えた。なるほど、あれで迎撃したのね。
私達に向けて投げられた玉は、再びムーが魔法障壁で防いでくれていた。
「街の人には怪我はありません!」
「イブ!さっきより壁が崩れてきてるよ!気をつけてっ!」
「分かったわ!」
私は、皆が無事だったことに少しだけ安心する。
「ちっ、つまんねえな。防ぎやがった……」
複眼の男は舌打ちをした。
しかし、悔しそうな顔を見せたのも束の間に、すぐさま口角を上げ、不気味な笑みをこぼす。
「なーんて、言うと思ったかあ?ほら、今度も防ぎきって見せろよお?」
手にはさっきの倍、4つの紅い玉がいつのまにか出現していた。
さっきの倍っ?!
「お、おい。やばいぞ!逃げろっ!」
さっきまで、野次馬をしていた周囲の人間は、今の爆発でやっと状況を理解したのか、慌てふためき四散し始めた。
「や、やめなさいよっ!」
「ギャハハ!やっと面白くなってきたなあ!」
私の静止を無視して、再び紅い球を周囲に放り投げる。
ミコトは再び腕から閃光弾を放ち迎撃するが、破壊できたのは1つだけだった。
撃ち漏らした紅い玉を、ムーが魔法障壁で1つ。もう1つはエルのスライム盾で防いだ。しかし、これが今の私達が取れる防御の限界だった。
最後の1つは壁に当たり、何度か跳ねると、予想外の軌跡を描き颯輝の足元に転がり込む。
「……やっ!べぇっ!」
颯輝は、反応が遅れてしまい、最早身動きが取れないでいた。
誰もが一瞬、颯輝の死を予感する!
……
不発かしら?
何故か紅い玉は光を消失して、赤暗い石ころへと変わっていた。
「……え?助かったの俺?」
颯輝は安堵の声を漏らす。
咄嗟に身構えてはいたが、構えを解くと、恐る恐る足元の石ころをつま先でつついてみた。
石ころは、足に触れるや否や、砕けて砂になっていく。
「あー、めんどくせえ。お前のことをすっかり忘れてたわ」
複眼の男は、唾をするかの様に吐き捨てた。何やら颯輝のことを知っているかの様な口ぶりだ。
「あんた、あいつと知り合いなの?!」
「んなわけっ!あんな奇抜で凶暴なヤツ、古今東西知らねえよ!」
とんでもないと首を左右に振って否定する。反応を見る限り、どうやら本当の様だ。
「それよりも!あいつのアレ!何とかならないのかよ!」
颯輝が叫ぶ。
立て続けに起こった爆発で、周囲の混乱も最高潮だ。
紅い玉が不発だったことや、複眼の男とこいつの因果関係も気になるが、今はそれよりも、この状況を脱することが最優先だろう。
「そうだ!ミコトその光るやつ!あの男に撃っちゃってよ!」
「それは、できないんですっ!」
ミコトが顔を左右にフルフルと振る。
「何でよっ!?」
「私、人は攻撃できないんです!そういう風に作られていますから!」
武器を所持しておきながら、攻撃は出来ない?それって、どういうこと?意味が無いじゃない。でも、そういう物なのだと言われれば、その様に無理矢理納得をするしか無いのかしら。……いや!やっぱり納得出来ない!
「くぅ!何よ、この役立たずっ!」
「……ご、ごめんなさいっ!!」
全身を使って謝ってきた。そんな事をされても、事態の収拾はつかないというのに。
「スライムでふん捕まえてやりたいけど、射程外だね」
エルも駄目か!
「おっと〜?言い忘れていたことがあったなあ。俺さあ、さっきまで暇だったからなあ、ここに来るまでいろんな所にコレを仕掛けて来たんだった。なあ?そろそろ、爆破して遊んでみようぜ、ヤバすぎてゾクゾクするだろう?」
複眼の男が、不愉快な笑みを浮かべる。そして今度は、紅い玉を8つ出現させていた。
うそ?!まだ増えるのっ?!
――もう、考えることもなく理解できた。防ぎ切ることなんて不可能な事を。
「……あんたはっ!どこまで外道なのよ!!」
周囲の状況に翻弄され、私は、だんだんと考えが追いつかなくなってきていた……。
こちらは、複眼の男の攻撃をしのぐだけで精一杯。
防ぐ方法は、ムーの魔法障壁、エルのスライムによる盾、あとはミコトの閃光弾。一度に防ぐ数にも限りがある。
しかも、周囲には今にも崩壊が起こりそうな建物。いつ皆が巻き込まれるか分からない状況だ。一刻も早く移動したいが、鍛冶屋のおじさんは怪我をしていて動けない。
では、攻撃に転じることは可能かというと、それも難しい。恐らく相手は強い。
攻めてもタダでは済まないだろう。飛び道具のカンプピストーレは避けられてしまった。他の有効な攻撃方法も無い。
こんな状況だというのに、さらに街中に爆弾が隠されているですって?もう!今、人の事まで考える余裕なんてないわよ!
駄目だ。突破口が見当たらない。この状況、……「何か」を犠牲にしないと生き残れないかもしれない。
私は悟った。覚悟を……決めなくては。
全てを守ることが出来ないというのなら、優先順位をつけなくては……自分自身の命、仲間の命、街の人達の命……今、この中で守らなくてはいけないものは何なの?
自分の命は?それは大丈夫だ、アレ(紅い玉)はよけられる。
じゃぁ、仲間は?誰を優先して守る?……ああもう!そんなの決められる訳無いじゃない!
「――おいっ!」
この声の主は、颯輝だ。
「……ちょっと、だまっててよ!」
思考がまとまらず、乱暴に応答する。
「おいっ!なあっ!こっちのおっさんは助けないのか?!まだ息があるぞ!」
思わず耳を疑った。
「……は?!なに言ってるのよ?!」
私だけではない。誰もがその言葉に驚いた。
颯輝の視線はもう一人のチンピラへと向けられている。視界に入りつつも、誰も助けようなどと全く意識していなかった相手だ。
「あんた!正気?!!昨日の仕打ちを忘れたの?!!!」
「だってよ!こいつも怪我してるんだ!このままじゃ死んでしまう!」
私は、この一言で明らかに苛立った。何なのよコイツ!この状況分かって言ってるの?!
「コイツを助ける理由がないし、意味がない!……ああっ!もう、あんたは黙ってて!邪魔っ!!」
もう!頼むから、私の足を引っ張らないでよ!
「バカやろ!!!!
人を助けるのに、理由なんているかっ!!!!」
今度は颯輝のあまりの声の大きさに、皆驚いた。
今までで一番大きな声だ。顔を真っ赤にし、憤っている様に見える。
あああ……もう駄目だわ!相手にしているとイライラが止まらない!こいつは救えない!!
その時、私の中の何かがキレた――。
「勝手にしてっ!!」
「ああ!そうするっ!!」
もう、私の中で、完全に颯輝は無しだ。
皆で力を合わせないといけないという時に、1人だけ別方向を向いていると、そこから瓦解してしまうだろう。統率が取れないというのならば、いっそのこと初めからいないほうがマシだ!!




