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――そして動き出す!

資産を溶かし、満身創痍のイブ。

仲間と合流するために街を探して歩くが、今まで見たことのない異変を目の当たりにする。

その後、手がかりを見つけやっとのことで仲間と合流を果たすと、イブの提案で颯輝の武器を調達することになるが……?


鍛治屋に来た。さっき、通り過ぎた店だ。

看板には、モチーフの金床とハンマーがあしらってある。


「え?武器屋じゃないわけ?」


颯輝が、肩透かしを食らったような顔をしている。


「鍛冶屋よ。別に戦争しているわけじゃないんだから、武器の売買だけで生計立てられる訳ないじゃない。あとこのご時世、武器よりを使うよりも魔法の方が便利だわ」


「なんだよ。身もふたもないな」


「まあ、後はゲイム用の道具が売れているくらいかしらね」


「何?ゲーム?」


おっと、失言。この話題はやめておこう。質問責めで面倒な事になりそうだわ。


「あんたには縁の無い話よ」


「それ……冷たくね?」


颯輝が、自分の頭を掻く。

あんた頭を掻いてばかりね。剥げるわよ?


店の中に入ると、客もなく閑散としていた。鍋やフライパン、ポット、園芸用のスコップや枝ばさみ、まき割り用の斧などが並べてある。売れ切れなのか、それとも在庫を抱えたくないのか、ところどころ商品の間に隙間が目立つ。


「お、おう。……本当に、俺が想像していたものとは随分と違うのな……」


颯輝が、分かりやすく肩を落としてうなだれている。


「目当てのものは奥の方よ」


「はぁ、……俺の描いていたファンタジー世界とは違う。ワクワクを返せ」


「ししょー。ガッカリしてるー」


さっさと奥に行こうとするが、何やらさっきから、ブツブツ颯輝が唸っている。本当、女々しいわね。


「もう、何なのさっきからあんたは。何を期待してたのよ」


颯輝が顔を起こす。


「そりゃあさ、剣と魔法の冒険ファンタジーだぜ?店には、ところ狭しとディスプレイされた武器と防具達!冒険者たちは武器屋で装備を整えて、大冒険に飛び出すわけよ。ギルドに冒険者登録して、モンスター討伐クエスト!とか、……そういうのは無いのかよ?」


手を広げ、何やらジェスチャーを交えて説明してくれる。

あまりにも会話の内容が意味不明なので、ついついツッコミを入れざるを得なかった。


「はあ?ギルド?クエスト?モンスター?何のことよ。あんたボケてるの?」


「……いや、ただの妄想だ。おまえにゃ男のロマンは分からないだろうなぁ」


また、肩を落とした。さっきからコロコロと忙しいヤツだわね。


それにしても、どうも颯輝は、この世界に何かしらの幻想というか、期待感を持っているらしい。

事あるごとに変な事を確認してくるが、大体的が外れだ。


そもそも、冒険者という職業が成り立たない。

自分の身を危険に晒しながら、安定性のない収入で生活するのだ。生涯に渡って博打を打ち続けていると言ってもよいだろう。

そして、街には職能組合こそあるが、冒険者に仕事を斡旋する所は無い。モンスター?何それ?もはや、意味が分からない。


「マロン?」


「ムー、惜しいな。栗じゃ無い」


ムーの反応に、颯輝は小さいツッコミを入れ

た。

はぁ〜、ムーの反応が子どもらしくてとても可愛い。もう一度聞いて癒されたいわ。


「颯輝おにいちゃん、巨大生物ならいますよ。探しますか?」


ミコトが、顔の前で人差し指を立て、そこに注目を集めた。


「まじで?!ミコトたん!」


颯輝の声のトーンが高くなる。


「はい!突然変異して巨大化した生き物です。中には人を襲う肉食系の生物もいるので、スリリングなハンティングも可能ですよ。中でも貴重な品種では、皮や肉などが、調度品や食用の素材として高値で買取りしてもらえたりします♪」


ニコリと微笑む。耳のオブジェにニコニコマークが映し出されていた。


「おお!なんかテンション上がってきたぞ!そうそう!そうだよ!こういうファンタジー感を待ってたんだよね、俺!」


はあ、……全く、物は言いようね。異常に喜び始めたわ。さわぎ過ぎて、今にもその勢いで、店の品物を当たってひっくり返してしまいそう。これは一言、釘を刺さないとね。


「ちょっと、ミコト。あんまりバカを刺激しないでくれる?」


ミコトが人差し指を顎に当て、小首を傾げている。

ニコニコマークが、はてなマークに変わった。


「そうですか?資金調達のひとつとして提案をしてみたつもりですが?」


成る程。

まあ、確かに。今、早急に解決すべきなのは金銭面の問題よね。


方法はどうであれ、颯輝が勝手に1人で生きてける様になってくれれば、私の肩の荷が降りる訳で。それにミコトは、颯輝に好意を寄せている様なので、颯輝に対して協力は惜しまないだろう。

その、ハンティング何がしを、うまくいく軌道にのせる事ができたとしよう。そうしたならば、ミコトとも良好な形で離れることができる。――後は、自分自身の事だけに集中すればいいので、それは願ってもないことかも知れない。


「……まあ、一考の余地はあるわね……」


私の反応を見ると、ミコトが「えへん」と胸を張って増長しはじめた。


「そうでしょう、そうでしょう♪改めて、スーパーAIの高性能さをご理解いただけだと思います!」


すぐに調子に乗る……ああ、本当、扱いづらい面子だわ……。

思わず、ため息が出た。


「イブの周りには、変わり者がよく集まるね。イブが引き寄せてるのかな?」


うんざりした私の顔を横目に、エルがケタケタと笑う。


「もし、法則性が解明できたら逆に教えてほしいわ。厄介ごとがこれ以上やってこない様にできるもの」


私は、やれやれと首を横に振った。



――奥に進むと、店主らしき男がいる。

体つきが良く、どちらかといえば少し横幅もある。口髭をたくわえており、一見すると強面だ。


男は、私に気付くと気さくに話しかけてきた。


「よう、イブの嬢ちゃん。エル嬢ちゃんも一緒だな?今日は見慣れない顔を大勢連れて、ピクニックか何かかい?」


「もう、おじさん!どう見たら、これがピクニックに見えるのよ」


ジトとした目で店主を見る。

店主には、私の威嚇は全然効いていない。ただ口髭を揺らして笑っていた。


「悪い悪い!……そうそう、例のやつ、できてるぞ?」


この一言で私は思い出す。


「え?!本当?!それを早く言ってよおじさん!見たい!見たいっ!」


依頼していたものが、思ったより早く仕上がったみたい。これは嬉しい誤算だわ!


店主は、口髭を動かし「はいよ」と答えると、店の奥に入って行った。


「――何だよ。俺の剣はあとな訳?」


颯輝がふて腐れている。


「いいじゃないの。私のが優先だわ♪ 楽しみにしてたの」


颯輝は肩を撫で下ろし、どうぞと言うように、小首を傾けて息を吐いた。


直ぐにも店主は出て来た。大事そうに両手で品物を抱えている。


「ところでおじさん。店は繁盛してるの?」


客の入りが少ないのは店内を見渡せば一目瞭然だ。私としても、この店はひいきにしたいので潰れてもらっては困る。


「おいおい〜、急に痛いところを突いてくれるなあ。最近は、巷のゲイム人気に押されてそれ関係のものくらいしか売れないねえ。俺もそろそろ鞍替えするかな?嬢ちゃんのとこの大将にでも出資してもらってさ」


歯茎を見せて笑ってみせた。


「あはは。私はこのお店好きよ?」


こういう会話ができるもの、私とこのおじさんが長い付き合いだからだ。初めて会ったときは、黙っていると怒っているのかと思うほど表情の硬い人だった。きっと、客の入りが少ないのはこの強面のせいもあるのだろう。


「ありがとよ。まあ、いいさ。うちは細々とやってくのが性に合ってる。そういう定めなんだろうよ。――ほら、注文の品だ」


そういって、店主はゆっくりと、一丁の銃を下ろした。


銃の名前は、“パイファー・ツェリスカ“

大口径マグナムライフル弾薬を発射できる回転式拳銃だ。装弾数は5発。

拳銃のサイズで、ここまでの高威力の弾薬を打ち出せるものは中々お目にかかれない。

おまけに、生産数も少ないので掘り出し物だ。


カンプピストーレは、威力こそ高いものの、速度と射程距離に問題があった。

それも、このパイファー・ツェリスカで弱点を埋めることが出来るので、戦術の幅も広がり、弱点も無くなる……はず?


「本当に嬢ちゃんは、よくこんな骨董品ばかりを集めてくるなぁ。オーバーホールする方の身にもなってほしいよ。ほら、銃弾も注文通り、特別製のやつだ」


「どうも。これは骨董品なんかじゃないわ。私にとっては、生きていくための道具よ」


「ああ、そうかい」


店主はうなずく代わりに目を細めた。



「――はい、おじさん。これ、今回の分ね」


エルが、隣で薬剤の入ったビンを何本か取り出し、カウンターに置く。


「おお、そろそろ在庫が無くてね。助かるよ。そこに置いておいてくれ」


「うん。今後もよろしく」


エルが渡したのは、商品として店に卸している商品だ。

あと、弾丸の中に詰め入れる特殊な魔法薬剤も含まれている。


私の銃は、鉛の弾を発射するわけでは無い。

弾の中には、魔法の素となる液体が充填されていて、射出後に対処物に当たって炸裂するか、もしくは、射出後に一定時間経ったら炸裂する仕組みだ。


容れ物の外側にあたる薬きょう等は鍛冶屋のおじさん作っている。そして、中身の魔法薬剤はエルが作っているという感じ。

そして、魔法を発動させるためには、エネルギーの充填が必要で、それは私が行っている。


ちなみに、この仕組みを発案したのは私だ。

ベースとなる拳銃を仕入れてきて、エルと鍛冶屋のおじさんに設計してもらった。

はじめは皆、私の構想には半信半疑で、手探りでの開始だった。ひたすら試行錯誤を繰り返して、とても大変だったのを今でも覚えている。


「……でもよ、そのリュックは店の外に置いてきて欲しかったな」


床を見ると、エルのリュックから漏れ出した水で、一面ビシャビシャになっている!


「あ、忘れてたー!ごめんおじさん」


エルは悪びれることなく笑って応えた。



「……これって、マジ本物?動くのか?」


颯輝が、珍しそうにパイファー・ツェリスカを眺めている。


「なんだい兄ちゃん、なんか文句でもあるのか?」


安易なひとことに、おじさんがいぶかしげな表情になり、颯輝を一瞥する。

それはそうだ、おじさんも自分の仕事に誇りを持っているのだから。けなされた気分になったのだろう。


「い、いや。何でもねえ!」


「ああ、もうっ。おじさん、こいつの事は気にしなくていいからねっ」


バカを相手するとろくな事はないわよ。

私は、そう言いながら、さっそくパイファー・ツェリスカを受け取り、持ち上げようとした。だがしかし、


……う゛っ!


意外に、重たいぞ……。

気合入れれば、持てなくは無いけども。


「ははは、流石の嬢ちゃんでも重たいか!6kgはあるからな!――ホルスター、ここに置いておくよ」


出してくれたのは、特注のホルスターだ。

背中で担ぐように出来ている。

これなら、この重たい銃も持ち歩きできるわね……。


「あ、ありがとう。おじさん、助かるわ」


ホルスターを受け取り、取り付ける。――手慣れたものだ。

パイファー・ツェリスカをホルスターに差し入れ、着々と準備を進めていると、颯輝が興味ありそうに眺めている。


「これが弾?」


銃弾を触ろうと、勝手に手を伸ばしてきた。


「あっ!やめてよ。触らないでよ」


「ケチ!」


原始人に道具を与えると、何をしでかすか分かったものじゃないわ!

――さらに言えば、颯輝には未解明の能力まであるのだ。触れて壊されでもしたら本当に困る。


颯輝から、銃弾を急いで取り上げると、

そのまま腰のシェルホルダーに差し込む。


「魔法発動に必要なエネルギーを、充填しなければ使えないのは、ちょっと不便だね」


エルが顎に手を当て、考えるように話してきた。


「まあね、画期的な閃きが産まれたら、また改良するわよ」


確かに不便ではあるが、現状ではまだ困った事はない。また、その機会がきたら考えようと思っている。


「え?これ、充電いるの?どういう事?中身は火薬じゃないわけ?」


颯輝が興味津々で聞いてくる。

はあ、この男は何でも聞かなきゃ気が済まないのかしら?逐一聞いてくるので、正直、ちょっと鬱陶しいわね。


「面倒だからいちいち説明しなーいっ」


「えー、ケチケチーッ!」


こういう面倒くさそうな説明が必要な場面では、大体しゃしゃりでてくる者がいる。

ミコトだ。ここぞとばかりに咳払いをした。


「こほん。颯輝おにいちゃんに分かりやすく説明すると、イブさん自身が発電機で、銃弾がバッテリーみたいなものです。バッテリーのエネルギーを消費して魔法を発動させるんですよ♪」


うーん?どういう事?ミコトの例えはよく分からないわ。でも、楽だからいいかしら。説明はミコトに任せておくわね。


颯輝が口元を歪める。


「おー、ミコトたん。よく分かる例えだわそれ!なるほどな。つまり、イブは沢山発電しなきゃいけないから、飯をめちゃくちゃ食うって訳だな!」


は?


「そういう事ですね♪」


はあっ??


「ちょっと、今なんて言った!?怒るわよっ!」


さっきのは却下!全く油断も隙もないっ!監視してなきゃ、すぐに話があらぬ方向へ向かうわね!


ミコトが続ける。


「それにイブさん達、つまり、人が発するエネルギーは、私たちアンドロイドにとっても原動力となりえるんですよ!だから、こうやって私も、イブさんに触れるだけで、充電が出来るわけですね♪」


そう言いながら、ミコトが何気なく私に触って来ようとしたので、私は、寸前でひょいと避けた。


「ああっ!逃げないで下さい〜!」


「逃げるわよっ!……んんっ?待って?!!じゃあ、昨日、やたらあんたがベタベタ触って来てたのって、その、じゅう――何とかの為なの?!通りで、何だか身体が朝からだるい訳だわ!!!」


「エヘヘっ☆」


ミコトが、わざとらしく可愛くおどけて見せる。


「えへへっ、じゃないー!!」


「おお!いいぞミコトたん!もっとやるんだっ!」


颯輝が、ミコトをけしかけてきた。


「はい!かしこまりました颯輝おにいちゃん!……それではイブさん、ご覚悟っ!」


ミコトも指をワシワシと動かしながらにじり寄ってくる。2人とも、悪人の顔だ。


「ええい!やってられるか――ーっ!」


あまりの鬱陶しさに私はキレかけた。すると、



「ったく、うるせえ奴らだなっ!ぶっ殺すぞ!?」


陳列棚の陰から、怒鳴り声が聞こえてきた。


目をやると、どこかで見たことがある中肉中背の冴えないツラの男だ。顔には青あざがある。


「ゲッ!!?」


男は、こちらの顔を認識するなり、まるで見てはならないものでも目にしたかのような過剰な反応をとった。


ああ〜……思い出した。昨日、私たちに喧嘩を売ってきたチンピラだわ。


「何よ?文句あるわけ?」


睨みつけてやった。こういうのは、牽制して戦意を削ぐにかぎるわ。


颯輝も、ニヤつきながらフレンドリーに声をかける。


「よう!オッサン!元気か?!」


男はムッとした表情になった。

この颯輝という男は何かと相手を挑発する。

もう、あんたは……!そうやってまた面倒事を起こそうとする!


「う、うるせえな!今日の俺は客だ!あっちに行けよ!しっ!しっ!」


すると男は、ばつが悪そうに捨て台詞を吐き、背を向けた。良かった、事を荒立てる気は無いみたいね。


「おいおい、……頼むからここで喧嘩はやめとくれよ」


男のガラの悪さに、店主がたじろいでいる。

見た目に似合わず、こういう客は苦手の様だ。


「あー大丈夫。あいつが何もしなければ、手を出さないわ」


周囲を見ると、昨日の様に男の連れはいない。群れなければ何もできないような連中だ。それに、既に手の内は明かしてしまっている。おそらく、さっさとこの場を去るだろう。


「チッ!」


案の定、男は店の出入り口を目指して歩いていった。


しかしだ、男は少し進むとはたと足を止めた。

ある一点を見つめている。


「……?おい、親父っ。この紅い丸いのはなんだ?」


男がいぶかしそうに店主に尋ねる。


確かに、足元にこぶしくらいの大きさのものが転がっていた。石の様にも見える。まるで水晶の様に怪しくも美しい光りを放っている。


「紅い?……はて?心当たりがない。そんなものうちにあったかな?」


そう言って、店主は紅い球に近づく。


途端に、ミコトが何かに気づいた様で、慌てて大きな声を上げた。


「皆さん!早く離れて下さい!それは、“爆弾“ですっ!!」



長いプロローグを終えて、やっと物語が動き始めようとしています。ここから急に物語が加速していきます。

次回はまさかの喧嘩別れですよ(笑

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