FXで有り金全部溶かした人の顔が見てみたいっ!
<あらすじ>
居候していた家からついに追い出されてしまったイブ。
資金繰りのために単身取引所に乗り組む!
はじめは順調だったが、ゼクスの登場で雲行きは怪しく・・・??!
さて、遡ること、数十分前のこと。
取引所での出来事だ。
……ええと?なんか、間が空いた気がするけど、気のせいよね?
現在、私は取引所で買いを入れた銀の値動きを、ソワソワしながら見守っている。
うーん、ちょっと買い玉が多過ぎたかな?とか思ったけども、プロたる者、こんな事でいちいち動揺してはいけない。プレッシャーに負けてすぐにポジションを解くのは、三流のやる事なのだ。
平常心、平常心よ。
「なんだい。嬢ちゃん、やけに落ち着きがないなあ。具合でも悪いのかい?」
「な、何でもないのよ。大丈夫〜、あはは」
時計屋のおじさんが声をかけてきた。思ったより顔に出てしまっているらしい……。
やっぱり、もう少し控えめに張るべきだったかも知れないなあ。
……いいや、
自分を信じてここは平常心、平常心。
15.720……
ええい。まどろっこしい!
早く、ポポポポーン!と上がらないかしら?!
……はっ!いけない。
平常心、平常心〜。
15.725……
平常心〜っ!!
う〜。何だか、昨日の出来事とか、これからのことが頭によぎって、全然集中出来ないわ。。。
もう、今日は15.800付近になったら終了しよう。精神的にも……それがいいわね。
15.730
15.735
15.740……
あ、ちょっと動きはじめた!
頑張れー!頑張れー!その調子よ、私の銀ちゃんーっ!
ふふふ、やっぱりもうちょっと買い玉多くても良かったわねー。
……っと!!欲は禁物よ。これでいいのよイブ。平常心、平常心!
真剣に掲示板の数字を凝視していると、後ろの方で、どよめきが起こった。
何かと思い、どよめきがあった方へ目を向けると……?
……げっ!!
今、最も会いたくない男がそこを歩いている。
その男の名は、自称“神“こと、ゼクスだ。
「……神だ」
「神が現れたぞ……」
人垣が割れる。男は真ん中を堂々と歩いてくる。その様子は、さながら有名人そのものだ。
何故ならば、この男はこれまでに予想を外した事がない。
本当にあり得ない事だが、これまで無敗。つまり、100パーセントと勝ち続けてきたのだ。
そのせいで、周りの人達まで、この男のことを“神“と呼ぶようになってしまった。
まあ、神の概念が無いこの世界で、ゼクスが神と呼ばれているのは、周囲の者に、自分を神と呼ばせているからに他ならないが。
――ちなみに、だ。
こいつは、私にとっての天敵だ。大変に嫌なヤツなのだ。いつも私にばかり意地悪をする。今までのこの男の積んできた悪行は数知れず。あーんなことや、こーんなことまでされた。性格がとことん歪んでいる。
その昔、この男の命を助けてあげた事もあるのだけども、今を思うと、あの時の私は本当にどうにかしていたと思う。
さて……取り敢えず、ゼクスの視界に入らないようにしよう。この男に関わると全くロクな目に合わない。
――って、あ、ダメだ、見つかった!
「よう。イブ」
しかも、気安く話しかけてくるな。
「……なによ」
思いっきり、無愛想に返事を返してやったわ。
「今日は、何を取り引きしたんだ?」
「あんたには、関係ないでしょ」
これまでに、取引した銘柄を教えてやって、良いことが起きた試しはない。大体は、悪い方に転ぶのだ。
悟られる訳にはいかない。上手くやり過ごせ、私。
「あんたこそ、何しに来たのよ」
「ああ、資金が必要になってな。調達に来た」
「あっそ」
目的は同じか。
「もう、いいでしょ?私は今忙しいのよ」
「そうか、それは悪かった」
ちょっと、冷たくし過ぎたかしら?
……いやいやっ!!思い出すのよ、イブ。今までこの男にされて来た仕打ちの数々を!!
いつだって私のことを小馬鹿にするし!私が請け負った仕事の妨害を何食わぬ顔でやってくれるんだ!上手くいきそうの時には必ず邪魔をするために現れる!この世に運があるとするならば、きっと私の幸運はこいつに吸い取られているに違いない!
ゼクスは、私に背を向けると、大剣を揺らしながらカウンターに足を進めた。どうやら注文をする様子だ。またも、カウンターまで一直線に人垣が割れる。
いつも思うのだけども、あの大剣……持ち込みOKなんだなぁ、ここは。
セキュリティレベル低いわよね。強盗とか大丈夫ないのかしら?
男は次に、懐からキーチェーンを取り出すと、カウンターの上に置いた。
――ちなみに、この男もキーチェーンを使って取引きをしている。何故ならこの男もまた、紋章を持っていないからだ。
……なのに、魔法じみたものが使えるというのは、私にとってはとても不可解だったりする。
さておき、この光景は、これまで何度と見て来たので別に珍しくない。それよりも大事なのは、“この男が何を注文するか“、だ。
……全く、この男を気にかける必要なんて全くないのだけど、私も注文内容だけは気になっている。なにせ、これまでが百発百中なのだから。
辺りはシンと静まり返った。
皆が見守る中、カウンター越しに男は何かを注文しようとしている。
皆が、固唾をのむ。
――そして、ついにゼクスが口を開く。
「おい、銀を」
「ひゃっ!?銀っ?!」
……つい、声が出てしまった。
私の銀ちゃん?!よりによって、それを選ぶなんて!
ゼクスが、私の声に気付いたのか、こちらへ振り向いた。
「銀が――、どうしたか?」
「いや、何も」
「そうか。……買ったのか?」
「いえいえ。まさかね」
私は、早まる拍動を抑えながら、しらを切った。
今は、イエスとも、ノーとも言えない。
「それにしても、今日は、小麦がよく動くわよね〜」
悟られてはいけない。
様子見に適当な言葉を投げかけて、あいつの反応を探る。
……すると、私の話しかけに対して、ゼクスは口角を上げ答えた。
「買ったんだな?」
「しつこいわね!ぶっ飛ばすわよ?!」
こいつ、やっぱりムカつくわっ……!
ゼクスはそのまま、カウンターに向き直ると再度注文を開始した。
「おい、待たせたな。では、銀、3000ロット、成り行きで……」
――は?!3000???!!!
今の、空耳じゃ無いわよね?!と、とんでもない金額を突っ込んできたわよ?!
ゼクスは、カウンターに肘を置くと、わざわざこちらを見返した。――そう、わざわざ、だ。
カウンターにもたれかかり、これ以上無く余裕の表情。
「ふーっ」
……うわ、出たっ!
いつものあのムカつくポーズ!まるで人を嘲笑うかのような!!
また、ゆっくりとゼクスは口を開き始めた。
次に発せられるのは、買いか、売りかのどちらかしか無い。
もしも買いならば、すなわち、高値が更新される。――しかも相当な数だ。これまでに、私が見たこともないくらいの値動きをするだろう。もちろん、私は高値更新を確認して、すぐに今持っているものを売り抜ければいい。……だが、反対に売りだったならば??
――え?!ちょっと待って!!心の準備できてないわよっ!やめて!
買いなら天国だけど、売りなら地獄だわ!天国も地獄もどんな物かは知らないけどもっ!!
……。
「セル(売り)だ」
うわあああああああああああああああああっっっ!!!!!!!!やめ――――っ!!!!!
「「「う、売りだーっ!」」」
ゼクスが、売りの言葉を発した瞬間。周りの野次馬だった者達は、イナゴの群れの様に一斉にカウンターに詰め寄った。
そして、次々と銀を売り始める。
凄い勢いだ!
私も、慌ててカウンターに駆け寄ろうとする。
しかし、とにかく人が次々と割り込んできて、全くカウンターに辿りつけない。むしろ、人波に押し戻されてしまう。
何故、こんなに私が焦っているかというと、早く今持っているポジションを解消しなければ、折角の利益が無くなってしまうからだ。
なのに、こんな時に限って、私もかなり買い込んだものだから、このまま下がり続けると、恐ろしいくらいに損をする可能性だってある。
15.730
15.720
15.710……
掲示板の数字は、どんどん下がっていく。
さっきより早い速度で。
15.700
15.690
15.680……
ついに、買った時より低い値段がついてしまった。
「ど、どいて!!お願い!!どいてぇぇえっ!!!」
無限に湧き出てくる人の波に押し流されながらも、必死でカウンターを目指す私。
数メートル先にあるのに、遥か彼方のように遠い。
15.650
15.600
15.550……
掲示板の数字、下降の勢いを早め始めた。
これは……まずいぞ!
15.500
15.400
15.300……
「か、……買い板が薄すぎるっ!止まって!お願いっ!誰か止めて――!!!」
売り手ばかりで買い手がいなければ、値段は急落するしかない。
まるで地面の床が抜けたのかのように、急落の勢いは止まらなくなった。
15.000
14.700
14.500……!
喧騒の中、
ゼクスが嘲笑うのが見えた。
………その後のことだ。
な、なんとかポジションは解消出来たわ。
結局、13.700での決済。
もちろん、利益はマイナスぅ……。
決済の後も、値段は下がり続けていった。
あの雪崩に巻き込まれて、一番下まで転がり落ちたら一体どうなってしまうのかと思うと、ゾッとする。
「フッ……どうした?顔色が悪いぞ」
ゼクスが、無神経に声掛けてくる。
かーっ!!お前!お前!お前っー!
「一体っっっ!誰のせいでこんな目に遭ってると思っているのよ!資金の20%吹き飛んだわ!……こぉぉのっ!厄病神っっっ!!!」
これ以上無いくらいに悪態をついてやったぞ。
だが、ゼクスにはさして効いていない。
ゼクスは、鼻で笑うと、無言でこの場から去って行った。
っっっと!ムカつく!!あの裸マント!!!!
いつか、絶対に、絶対に泣かせてやるわ!!!!
男の後ろ姿に向かって、思いっきりあっかんべした。
……暫くは怒りに感情を支配されていたが、ふと我に返ると、途端に虚しさが込み上げてくる。視界に映るものが、全て灰色に見えはじめた。
後悔。……多分、それだわ。
「……はぁ。もう、出ようか」
今後、必要になりそうなだけのお金を換金すると、私はトボトボと取引所を後にした。
後悔先に立たず!
ゼクスの態度が、イブの前でのみ変わっていることに気づいてもらえると嬉しいです^^




