機動戦士ジェダイム
<あらすじ>
資金繰りのために1人取引所に向かうイブ。
置いてきぼりにされた颯輝達は、剣術の稽古を勝手に始めるが、その最中に神が現れ、危険が迫っていることを知らせて去っていくのであった。
「さーて、始めるとするかー!」
開けた空き地に、男子達は威勢よく広がり間合いをとった。これから遊びでも始めるかの様に2人とも浮き足立っている。
少し離れた所では、見守る様にミコトが木陰で待機していた。
「……では、ムーよ。どこからでもかかって来なさい」
颯輝は模擬刀を構えたまま、模擬刀を持ってない方の手で、小生意気にも指先をくいくいっと曲げてムーを挑発する。
「いっくよー!たーっ!」
ムーは、颯輝の言葉を聞き終えるや否や、考えも無く、ただひたすら真っ直ぐ突っ込んで来た。
突撃に対して、まるでそれは予想通りだと言わんばかりに、颯輝はするりとかわす。
「まだまだーっ!」
攻撃をかわされたのが分かると、すぐに向きを変え、再び真っ直ぐ突っ込んで来た。
それを颯輝は、ギリギリまで引きつけ、またかわす。
「おーい、動きが直線的過ぎるぞー。もう少し頭使って、変化をつけてみろーっ」
「あ、頭を使うっていっても……どうやってやるんだよぉ」
ムーは、具体性の欠けた颯輝の指導内容に困惑する。
「あ!そうだ」
ムーは突然、何かを閃き、上空を目指した。
魔法で空高く飛び上がり、急降下して来る。
「たあーっ!」
「やば、真上っ?!」
太陽を背にしているため、視界がくらむ。さっきまで余裕面でいた颯輝も、流石に焦った。
ただ、根本的に直線的な攻撃である事には変わらない。ムーが降下する地点を予測して、寸前で攻撃をかわすことが出来た。
ムーは、またもや直前で攻撃を避けられてしまった上に、勢いよく地面を剣でついてしまう。
「――隙ありぃっ!」
颯輝は、ここぞとばかりに右手に剣を持ち替えると、空いた左手で手刀をつくり、ムーをペンッと叩き伏せた。
「痛いっ!」
「え!?ウソ?そんなに強かった?!大丈夫かムー?」
「手首……痛めたかも……」
「……ああ、そっちかあ〜」
どうやら、地面を剣でついた時に挫いた様だ。
心配して声をかける颯輝に対し、ムーは自分の手を見ながら答えた。
颯輝はそのまま少し考えこむ。すると、やや言葉を濁しながら話しかけはじめた。
「うーん。怪我したらお仕舞いだぜ。……打ち合い稽古はこのくらいにして、体の動かし方とか勉強しないか??」
「――ううん。全然大丈夫だよ。もう少しやりたい」
「……そうか?無理するなよ?」
提案を振り切る様に、ムーは首を左右に振ってみせる。
だが、代わりに不満をぶつけてきた。
「……だけどさぁ、ししょー。さっきから避けてばかりで卑怯だよー」
「ひ、卑怯じゃねぇよ。これが俺のスタイルなんだ。文句言うなよなっ」
それを言ってしまっては元も子もない。
「う〜。さっきから何度も攻撃してるのに、どうして当たらないかな〜?」
「あー、それな?俺がムーの動きを見切ってるからだよ」
「見切る?」
颯輝は、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに饒舌に語り始めた。
「そう。――後手必勝という言葉があってだな。例えば、ムーが攻撃を仕掛けてきた時に、隙というものが生じていたんだ。そして、俺はその隙を狙って打った。つまりこれが“動きを見切った“という事。俺が最も得意とするスタイルなんだ。……まあ、その他にも細かいテクニックとかも使うんだけどよ。なんとなく分かるか?」
「全っ然、分かんないよ〜っ!」
「まあ、今分からなくても、やっていればそのうち分かる様になるさ」
颯輝はたしなめるように話す。
しかし、ムーはまだまだ理解も納得も出来ない。
「……イブなら、そんな事は言わないよ。周りが動かないなら、自ら行動を起こせって、よく言ってる……」
「イブはイブさ。……でも、あいつは何かと喧嘩売ってくるよな〜?ありゃ、俺から言わせりゃ全然ダメだわ。挑発の使い方を間違ってる。ムーは賢いから真似するなよ?」
「ししょーには、分かんないんだよ……」
「分からない?何が?」
ムーが、思いつめた様な顔をした。
「いつまでも守られてるだけじゃダメなんだ。ボク自身が強くならないと……」
「あ〜……なるほど、そういうことか。でも、焦る事はないぜ。ムーは、まだまだこれからいくらでも伸びるって!」
颯輝は何かに気付いた様にうなる。
「これからじゃ、ダメなんだ。“今すぐ“、イブの役に立ちたいんだよ……じゃないと……」
「――じゃないと?」
ムーは、さらに思い詰めた顔になる。苛立ちもある様だ。問いかけに対して答えなくなってしまった。
「うーん。ムーは、さっきから、ダメダメばかりだな……」
颯輝は、肩を落とし、眉尻をさげると、「ふぅ」と息を吐いた。
「……よしよし、じゃぁ。少し考えてみるか」
「え?何?」
ムーが、颯輝の言葉に頭をあげる。
「ま、まあ。上手くいくかどうかは分からないぜ??」
両手を押し出して、ムーの早まる気持ちを抑える様に制止した。
――少しの間、颯輝は額に人差し指を当てて考え事をする。
そして、腹の前で両手をポンと打った。
「……いいかムー?まず、整理しよう。地上戦においては、お前は俺に勝てない。それは分かるな?」
「やだ!勝てる様になりたい!」
前のめりになるムー。
「待て待て待て!ちょっと聞けってば!……ええとな、筋骨格の強さも、鍛錬に費やした時間も、俺の方が上なんだ。そんな相手に真っ向から向かって行っても普通勝てるわけないじゃないか」
「えー……」
身も蓋もない事を言われ、ムーはガッカリした。
しかし、反対に颯輝は口角を上げる。
そして、もったいぶりながら、順序を追って話し出した。
「いいか、さっきも言ったろ?地上戦においてだけはな?……俺自身も、ムーとの稽古の中で気づいたんだが、どうやら、俺の剣術は平面上に襲ってくる相手には返し技が豊富だけども、真上に対してはほぼ無いんだよ。
――つまり、そこが狙い目なんだ」
「狙い目??」
ムーは頷くが、あまり理解できていないようだ。
颯輝は続ける。
「あともう一つ。ちょっと確認なんだけどよ?ムーの、その重さを取り除く魔法は、どの程度の範囲が有効なんだ?今、ムーが浮いてるのも同じ魔法?」
「……えーとね。同じ種類の魔法だよ。自分自身を含めて触ったものを軽くする事が出来るんだ。重力以上に軽くすると、浮き上がらせる事も出来るよ」
「ふんふん。じゃあ、浮いた場合はどの位のスピードが出せるんだ?」
「うーん、普通の人が走る位の速さかなぁ。それ以上は出した事がないよ」
「スピードは出せないということか。――あ、じゃあさ。さっき触ったものは大丈夫って言っていたけど、離れた相手にはどうなんだ?その、重さってのは、思い通りに操れるのか?」
「うん。少しの時間なら、離れた人にも使えるよ。軽くしたり、重くしたり」
「マジで?!!……OK〜!なら、何とかなりそうだ!」
「本当?本当に?!」
颯輝は、難解なパズルでも解けたかのように指を鳴らした。
ムーも嬉しくなって、顔がほころんだ。
「じゃ、いっちょ試してみるか。名付けて、“ムーつよつよ大作戦☆”!!悪いが、ミコトたんもサポートしてくれよなっ!」
「いいですよ!お任せ下さい♪」
ミコトが頷く。
「よし、それじゃあムー!さっき、言った通りにやってみてくれ!」
颯輝は広く間合いを取り、ムーに聞こえるくらいの大きな声で指示を出した。
「えーと。……あ?もういいんだ。それじゃあ、行っくよー!たぁあーっ!」
「よし来いーっ!」
ムーが、模擬刀を構えると、颯輝目掛けて一直線に魔法で飛びながら突っ込む。
それを、颯輝は直前で紙一重でかわす。
「うお、さっきより速いな!結構結構!今度は反撃するから受けろよー!」
「ムーさん!今度は反撃するそうですよー!」
ミコトも、ムーに聞こえるくらい大きな声を張り上げる。
「分かったー!」
ムーは、また、一直線に颯輝目掛けて突っ込んだ。
単調な攻撃パターンは、すぐに相手に読まれてしまうものだ。直線の動きともなるとなおさらだ。
颯輝は、動きを予測して、ムーの攻撃を避けつつ反撃のモーションをとった。狙うはムーの手の甲だ。
ムーは、颯輝の動き見て、即座に模擬刀で受け身の体制を取った。
ムーが受け身を取った事を確認すると、颯輝は、模擬刀をムーにめがけて力一杯振り下ろす。
「今ですよっ!」
ミコトの掛け声に合わせて、ムーは魔法を唱えた。
「≪レイズ≫っ!」
その瞬間、黄色い光が颯輝を包み込む。
≪レイズ≫は重さを軽くする魔法だ。
魔法の効果により、颯輝と、颯輝の持っていた模擬刀は最大にまで重みが取り払われる。
颯輝の攻撃速度は速くなったが、重力と、颯輝の足裏と地面の摩擦力は無くなり、ムーの突進によって剣が弾き飛ばされた。
模擬刀ごと颯輝の身体も浮き上がる。
ムーは、颯輝の全力の攻撃を受けきると、その勢いで地面に叩きつけられそうになるが、寸前の所で、まるでトランポリンの上でバウンドするかの様に地面から飛び上がった。
幸い、ムーに傷は無い。
「おおおお?!すげーっ!やってみないと分かんないとは思ったけど!――そうか!こんな感じになるんだなっ?!」
かけられた魔法は既に解けはじめている。颯輝は目を白黒させながら地面にゆっくりと着地した。
「成功ですねっ!」
「まだまだっ、喜ぶのは早いぞ!……次だっ!」
喜ぶミコトを尻目に、颯輝は、すぐさまムーを見据えた。
ムーは、既に向かって来ている。さっきよりもまた一段と勢いを増して。
「今度は、こちらから先に攻撃を仕掛けるぞ!対処しろよ!」
「ムーさん!今度は颯輝おにいちゃんが攻撃するそうですよっ!」
「……っ」
ムーは集中しているのか、無言だ。
颯輝は模擬刀を構え、飛び込んでくるムーをなぎ払おうとする。
「おりゃあああ――ーっ……!!!」
その瞬間、ムーは切っ先をかすめ、目前で真上へと飛び上がる。
勢いよく空振りした颯輝は、崩れた体勢を立て直しながら叫ぶ。
「いいぞ!そのまま振り下ろせっ!――ミコトたんも、サポート頼むっ!」
颯輝は、もう一度模擬刀を構え、今度は上空から降りてくるムーを迎撃する体勢に入った。
ムーは、空中で模擬刀を握り直し、颯輝目掛け振り力一杯下ろす。
颯輝はタイミングを合わせ、ムーを打ち返そうする。
その瞬間、ムーは再び魔法を唱えた。
「≪グラビティ≫っ!!」
今度は黒い粒子が、ムーの模擬刀と、颯輝と、颯輝の模擬刀を包み込む。
「ぐおおっ!」
≪グラビティ≫は重さを増す魔法だ。
颯輝は、通常の何倍もの重みが自分の身体と、持っていた模擬刀にかかり、完全に振り遅れてしまった。
そこに、さらに重さを増したムーの剣が、重力で加速を続けながら颯輝の頭上目掛けて振り下ろされる。
打ち所が悪ければ、模擬刀といえども致命傷だ――!
ガキィーン!!
……ギリギリの所で、颯輝が、ムーの剣を受けきった。
ほぼ同時に、颯輝の前には、ミコトが駆けつけて、下から颯輝の模擬刀を金属のアームで支えている。
「お、……おお!」
少し間を置いて、颯輝が余韻を噛み締める様に話し始める。
「スゲーッ!思い付きでやってみたけど、一発で成功したっ!――これなら、守りと攻撃の両立ができるし、いろんなパターンが作れそうだ。実戦で使えそうだぞ!」
「……」
「んー。あと、気をつけないといけないのはムーが掴まれてしまったパターンくらいか?あと、飛び道具で狙い撃ちにされても困るなだな……。まあ、それはおいおい考えるとして、どうだムー?コレ、いい感じじゃないか??間違いなく初見殺しだぜっ!」
颯輝は、実戦で使える戦法を自ら編み出したことが嬉しいのだろう。実感が伴い始めると共に嬉しさが込み上げてきた。
親指を突き立てて同意を求める。
当然、ムーも同じ気持ちだと期待していたが、それどころか、ムーの反応は全く無かった。
「あ、あれれ〜?おっかしいな〜っ……」
予想外の反応に、颯輝は戸惑っている。
「……止められちゃった。……これじゃダメだよ。……こんなんじゃ、イブの役に立てない……」
深刻な顔で、ムーが冷たく声を発する……。
「えぇぇっ?!これでもダメなのかよおおお?!!…………って、おやぁ?もしもし〜?ムーさーん?」
颯輝は、何だかムーの様子がおかしいことにやっと気付き、その肩に触れようとした。
「危ないですぅっっ!!」
ミコトが突然大きな声を上げて、颯輝を突き飛ばした。
――ゴトン。
重たい物が、地に落ちる音がする。
颯輝は、一体何が起こったのかを理解できないでいた。そして、現状を確認するため、さっきまで立っていた場所へと目をやる。
すると、そこには真っ二つになった颯輝の模擬刀と、ミコトのアームが地面に転がっていた。
さらに、ミコトへと目を向けると、スカートとふくらはぎに、深く、何か切れ味のよいもので切り込まれた跡があった。
切り込まれたというよりも、融解したという表現の方が正しいかも知れない。切り口からは、焦げた匂いと黒い煙が上がっている。
「……颯輝おにいちゃん。大丈夫ですか?!」
「お、おう……?大丈夫だ。それより、何が一体どうなったんだ??」
「斬られたんですよ……!ムーさんに……!」
「へっ?!」
颯輝は、ミコトの放った言葉の意味が理解できなかった。
そんなまさかと、目線をムーへと走らせる。
ムーは、黙ったまま下を俯き、模擬刀を握ったままだった。
いや、すでにそれは模擬刀ではなくなっていた。剣からは蒼白い光が発せられている。
……まるで颯輝が見たことある、映画やアニメに出てくるビーム剣の様な。
「ええええっ!!これは一体何だ?!!」
颯輝は腰を抜かした。
「……ムーさんは、あの模擬刀に魔法を付与したみたいですね。刃を覆う様に熱粒子が集まっています」
ミコトが淡々と答える。
「つまりあれか?あの熱で焼き切られたってことかよ……?」
「そういうことです。――私も、今ので脚の駆動機構を幾つか切断されてしまいました」
「そうか……」
動転していて、ミコトを気遣う余裕は無かった。とにかく今は一刻も早くムーをどうにかしなければと、焦っている。
「……お、おーいムー?お終りにしようぜ。……な、もう充分だろ?そんな、リアル・ラ○トセイバーはさ、もうしまっちゃって……な?」
「颯輝おにいちゃん!――そこはやっぱり、ラ○イトセイバーではなくて、ビームサ○ベルではないでしょうかっ?!」
突然、語気を荒げるミコト。
「わりいなミコトたんっ!俺、今そのボケに反応できるほど余裕ねえわ!」
下手したら大怪我では済まされないのだ。
颯輝はさっきから頭をフル回転しているが、良い案が出てこない!
「…………」
ムーは無言のまま、剣を引きずり近づいてくる。
剣の切っ先が地面に当たる度、火花と煙が上がった。
地面には焼け焦げた跡が出来上がり、その跡はどんどんと颯輝とミコトへと向かってくる。
「ちょ!ちょっ!!まじか、まじかよっ!!?……おまっ!タンマ!タンマ!ほんとシャレにならないってええええ!!!!」
必死で制止を呼びかけるが、ムーは聞き入れない。
颯輝は、臀部を擦りながら後ずさりする。しかし、遂には建物の外壁にドンと背中が当たり、追い詰められてしまった。
戦慄が走り、颯輝の頬に冷たいものがつたう。
そして……ゆらりと、ムーは剣を振り上げた。
「のわあああああああ――――ーっ!!!!!」
目を見開き、叫ぶ颯輝。
「そこまでだよ!」
エルの声が聞こえた。
恐る恐る、目をやると。そこには、剣を振り上げたまま静止するムーと、ひと1人入りそうなくらい大きなリュックサックを背負ったエルがいた。
エルのリュックサックからは、半透明のゲル状のものが伸びて、ムーの蒼白く光る剣を掴んでいる。
ゲル状のものは、剣に触れて白い煙を上げながら、蒸発と再生を繰り返していた。
「…………た、……助かったぁ〜っ」
颯輝は安堵の声を上げ、壁から背中がずり落ちた。
エルが顔を覗き込みながら声かける。
「ムー?分かる?ムー?……ああ、だめだね。ちょっと待ってて」
すぐに、腰のポシェットから、蓋付きの試験管を取り出す。
エルは自身の顔にマスクをかけ、そして、そっと試験管のキャップを開けた。試験管からは緑色の濃い霧が発生する。
「う゛っ!?おえええええっっ!!くっせぇええええっ!!!」
真っ先に声を上げたのは颯輝だ。
鼻を押さえて転げ周り悶絶している。エルと、ミコトは平気だ。
「……くさい」
さっきまで無言だったムーが、カランと剣を放し、鼻を押さえ迷惑そうな顔をした。
「良かった。ようやく正気に戻ったね」
エルが、肩を落とす。
ムーは周りを見渡すと、呆れるくらい普段通りに話し出した。
「……あれ?みんなどうしたの?……それより、ボクおなか空いちゃった〜」
「はいはい。クッキー持ってきたよ」
「ありがとう〜。エル〜」
エルが手渡したクッキーを両手で受け取ると、ムーは、周りの目を気にすることなく、もぐもぐと音を立てて食べ始める。
「ごめんね。びっくりしたでしょ?ムーは、時々スイッチが入ると、こうなっちゃうんだよね」
マスクを外しながら、悪気のない口調でエルは話しかける。
涙を流しながら、颯輝が立ち上がった。まだ、さっきの匂いを引きずっているのか、時折えずいている。
「……あ、危うく激臭で死ぬところだったぞ。うっぷ。……スイッチっていったな。ムーがこうなるのには、何か理由があるのか?」
ムーはクッキーを口に含んだまま、エルのポシェットを開けた。中から水筒を取り出して、飲み始める。
エルは、そんなムーの行動を目で追いながら、颯輝に答えた。
「んー。生まれ育った環境じゃないかなぁ。なんか、人の役に立てないとさ、“ボクは生きている価値がないー“とか言ってさ、すぐ自暴自棄になるんだよね。ムーのお姉さんとしても、とても困ってるのだよ」
「ボク、エルを困らせる様なことしてないよ!」
「うん。そうだね」
『……なあ、さっきのこと。ムーは覚えてないのか?』
『そうみたいだね』
じゃぁ、この事はこれ以上追求しないでおこうと2人は目配せした。
「――ところで、エルが、ムーの実の姉なのか?」
颯輝が、何気なく問いかける。
「え?あ、違う、違うよ。ムーと私はそんなんじゃないよ」
エルは目の前で、両手を左右に振って否定する。
「じゃあ、どんな関係だよ?」
「んー。内緒」
その顔は、どこか嬉しそうだった。
――そんな時だ。
遠くから、とても不機嫌なトーンで、聞き慣れた声が近寄ってくる。
「ちょっとー、あんた達ぃ!探したわよー。あんまりちょろちょろと歩き回らないでよね!」
茶色のショートカットに、ピンクのフリルの付きのスカートを揺らしながら。
それは、イブだった。




