絶望を知りましょう
登場人物紹介
・近藤 由美
実は地獄に来てからオアシスでの一件を除き、まともな睡眠をとったことがない。
・フィフス
地獄の大幹部の一人、地獄将。
叫喚執行人の二つ名をもつ。
実は獄卒総長のフォースの直属の上司でもある。
読心術というかテレパシーを使えるため、彼の前で嘘は無意味。
爽やかな声の持ち主。
この地獄に来てどれくらい経っただろう……。
何度この身は壊されただろう……。
あと何度苦しめばここから出られるかな……。
今日はちょっとナーバスな気分、いつもなら復活したらさぁ、出口を探すぞってノリだけど、私だってたまには休みたい……。
休み、休日……。
そう、休日が欲しいの!
思い返せばここに来てから、私は毎日逃げ回っては獄卒に捕まっては殺されを繰り返し、常に断末魔をあげている。
いくら不死身の身体とは言ってもしんどいものはしんどいの。
だって私、普通の女子中学生だし……。
はぁ、決めた!
今日は何があっても動かない!
私は休みだ、たとえ獄卒が拷問を持ちかけたって無視だ!
はっ、閃いた!
閃いたわ、由美! この地獄の攻略法をっ!!
あいつらは私の反応を見て楽しんでいる節がある。
てことは無視を続ければ、奴らはやがて私に飽きるって寸法よっー。
私って天才。
それじゃ、今から私はこの地から動きませーん。
私は近くに落ちてた木の棒で地面に『わたくし、近藤 由美は罰をストライキします!』と記し、大の字で地獄の荒れ果てた大地の真ん中で寝転んだ。
………………。
もしかして下手に動かないほうが獄卒に見つかったりしない?
そういえば、いつも復活したらすぐ探索するもんね。
なるほど……。
退屈だ。
あれ? 私、もしかして拷問がないことを退屈って……?
ち、違うからね? 私、拷問なんか求めてないからね? ひ、暇なんかじゃないもん!
来ないなら来ないでいいのよ、休日が欲しくてこうしてるんだから……。
はぁ……、地獄の空っていつ見ても薄暗いわね。
雲もないし、鳥も飛んでない。 見ててもつまらないなぁ……。
よいしょっと。
仰向けで空を眺めてもつまらない。 空がダメなら風景でも眺めてよっと。
…………。
うーん。
うーん、ダメだ! つまらないっ!
改めて眺めるとここって基本的には風景なのよね。
荒れ果てた大地に、熱が篭っていそうなくらい真っ赤な岩。
ただ一面それだけ!
せめて前に来た大都市ならまだ見応えがあるし、オアシスなら湖が気持ちいいのに……。
はぁ、暇なのもつまらないってもんなのね。
誰か来ないかなぁ。 誰でもいいから……。
ふとキョロキョロと周りを見渡してみる。
あれ、私……、今何をした?
今何をした?
キョロキョロと周囲を見渡して何を探した?
獄卒? いや、ナイナイナイ。
あぁぁぉぁぁぁ!
ダメっ!
ぜんっぜんダメよ、私!
せっかくの休みなんだから、じっとしてなきゃダメ!
…………。
暇な時の時間の潰し方、まだあるんだから!
それはもちろんっ!
寝るっ!
そう、睡眠よ。 よく考えたら私はいつも獄卒に苛められていて、寝ている暇がない。
死んでたり、意識がない時はあるけどそれはノーカン。
よし、そうと決まれば私は寝るっ!
この時、岩の陰から沢山の視線が私に向けられていたが、この時のは私は気づかなかった……。
———
〜約二時間後……。
ふぁぁ、トイレ……
尿意により目覚める。
やっぱり昼寝は長く続かないものね。
ちょっと面倒だけど、岩の陰に隠れておしっこを……。
……ん?
…………あれ?
……ちょっ、身体が動かない!?
身体が……、指先一つ動かない。 何、どういうこと?
目も開かないんだけど……。
漏れる、漏れるんですけどー! ヤバイヤバイ!
「お困りですか?」
はっ!? いつの間に!?
目が開かないから確認できないけど何者かの気配がある。 多分、一人二人じゃない。
「ひひっ、動きたくないということで、全身が麻痺する薬を打たせてもらいました」
甲高い老人の声だ。
「暇だって言ってたから、俺らが君の相手をしてあげるぜ」
今度は若い男性のもの?
「つまらないようなので、お望みどおり僕らが刺激を与えてあげる」
うん? 男の子の声だ。
「クスクス……」
「楽しみやな〜」
「ぐふふ、由美たん……楽しませてあげる」
「嫌というほど遊び倒そう」
「脱がせー脱がせー」
「バカか、殴るんだよ」
「違うぞ、切断だ」
「いーや、改造しようよぅ」
何、これ何人いるの? しかも物騒な話ばかりしてるんだけど……。
———
グサッ、グサッ、グサッ!
ギャッ、痛い何か刺さってる!
グリグリグリ、ボキン!
痛い痛い痛い、腕が取れたぁぁぁぁ!
ググググッ!
あぁぁぁ、舌を抜かないでぇー。
ズボッ! ググググ、ズズズブ……。
ギャァァァァア、痛い痛い痛い、お尻の穴から変なものを突っ込むなぁぁぁぁ!
ペシッ! パシッ! ピシッ!
ひぅっ! 痛いよぅ、痛い……、ほっぺが腫れちゃう……。
ブチィィィ!
ひぎぃぃ!? 髪がっ、髪がぁぁぁ!?
ドズッ!
ぶっ! 腹が……おぇっ!!!
「やはり地獄は刺激的、かつ嗜虐的じゃないとね」
だ、誰かいる……。 目が開かないから姿は確認できないけど
声は爽やかで優しい感じ。 声だけは……。
「失敬、私はこの地獄における大幹部が一人。 地獄将のフィフスと申します。 この度は私のフロアにお越しいただきありがとうございます」
地獄将……、前にも獄卒総長やら地獄副将も居たわね……。
せっかく獄卒長を五人もやっつけたのに後から後から……。
「ふふっ……心の中に失礼。 我々、地獄の住人は何度殺しても必ず変わりが現れる。 仮に私が死んでも変わりが必ず現れる。 どうでしょう? 絶望感を味わっていただけたでしょうか?」
何? どういうこと? 貴方はシィ達変わり? てか何で心の中を読んで……。
「私は読心術が得意ですからね。 それはそうと私があんな獄卒長達と一緒とは失礼ですね。 まぁ、地獄の仕組みなんて貴方の知る必要はありません。 ただ、この地獄が無限に続くということを知って頂ければと思います」
無限に……。
「仮に貴方の罰に終わりが決められてたとて、苛められている者には終わりなんてわからない。 ただ気まぐれに痛めつけられる苦痛は、ヒトの認識を鈍らせ、正常な思考を奪う。 そして心は絶望の海に沈む……」
…………。
「加害者の目線では遊びと思っても、被害者からみれば底知れない恐怖、先の見えない絶望……。 私の罰を通して少しでも理解して頂けたら幸い……」
私はそこまで考えて……。
この時、私は川口を苛めたことを思い出した。 あの子も苦しかったんだろうなぁ……。
「さて、再開しましょう。 次は焼いて切って溶かして……、私の地獄を骨の髄まで楽しんでください」
……い、いや。 やだ、あぅ……ギャァァァァアァァァ!!!
フィフスの罰はその後も数時間、私の身体が完全に消滅するまで続いた……。
久しぶりの更新となります。 読んで頂ければ幸いです。