地獄の大会場です
・近藤 由美
もう地獄に来て半年以上経つ。
しかしここでは時間の流れがデタラメなためか身体の成長は見られない。
・ナナ
獄卒長の一人。
賑やかで嗜虐的なステージを披露するのが大好きなドS女子。 お嬢様のような口調が特徴的。
青の短髪で肌の露出が多い服を着ている。
・シィ
獄卒長の一人。
今回はナナのボディガードとして呼ばれた。
ナナのステージで由美がどう活躍するか楽しみらしい。
・ロク&ゴウ
いつも一緒の獄卒長コンビ。
変身能力の他にカンチョーが得意。 ナナのボディガードとして呼ばれた。
幹部格だが精神面は子供そのもの。
・ハチ
獄卒長だが犬。 いや犬のような化け物。
ロクとゴウのペットなのでついてきた。
2回目の登場だが由美とは初対面。
はぁ……、ホント酷い目に遭ったわ〜。
前回のあれは今までで一番きつかったわ。 あのダルマ男のやつ、本気で私を玩具にしやがって……。
ホント、最低。
……なんだろう、胸がチクチクする。 ダルマ男を最低って言ったのに何故か私にもグサってくる。
あぁ、私も同じことしたもんね。 あいつで……、川口を玩具に……。
あいつ、私の事を憎んでいるだろうなぁ……。 あいつも私にイラついたんだろうな……、毎日がキツかったんだろうなぁ……。
……でもあいつが私と赤松君の仲を裂いたんだから。
あいつが赤松君と付き合わなければ、あいつも玩具になることはなかったんだし、私だってこんな意味不明な世界に来ることもなかった……。
あれ? これじゃまるで川口を弄ったのが原因でここに来て罰を……?
いやいやいや、関係ない! 第一川口とこの世界に因果関係は無いんだし!
でも、ここから無事出られたら川口に……。
自問自答を繰り返し下を向いて歩いてると……。
キャッ!!
ドサッ!
お、落とし穴? 漫画みたいな古臭い罠にかかるなんて貴重な経験ね。
今までの刑罰に比べたら屁でもないわ。
とりあえず、穴から脱出をー
「やったやった!」
「捕まえたぞぉぉ〜」
「ワフゥ〜ン」
この声はたしか……。 そうだ、前に私を溶岩に突き落としたり、物凄いカンチョーで私を吹き飛ばしたクソガキの……。
ロクとゴウ!
後知らない犬がいるけど仲間かな。 それはいいんだけど……。
「わわっ、やめっ……辞めなさいよ!」
二人は私を大きな網で捕獲して、引き上げる。
チクッ! ギャッ、首の後ろに何針のようなものが刺さって……。
はれぇぇ、なんだか急に強い眠気が……。
「効いてる効いてる麻酔薬」
あー、なるほど。 私、眠らされたのね……。
逃げなきゃいけないけど……もうダメ……眠……い。
ふっと目の前が真っ暗になり気を失った。
———
「起きて」
んん、うん……後五分……。
「起きろーっ!」
うるさいなぁ……寝かせてよ……。
「起きろぉぉぉっー!!」
プチン!
「うるせぇぇぇ、黙れ! 私は眠いんだよぉ!」
人が気持ちよく寝てるのに誰だ、このぉ!
私は半端寝ぼけた状態で、目覚めを促す者に殴りかかる。
がっ、その時。
目の前が一瞬強く光って……。
ドカァァァン!!!
比較的小さな爆発だが、人一人吹き飛ばすには十分な爆風が私の身体を攫う。
ボコォッ!
「ギャッ!」
私の身体は直線上に吹き飛び、その先にあった壁に強く激突。
勢いが強すぎたのもあり、壁に上半身が思い切りめり込んで身動きが取れなくなる。
「たすけてぇ……もう、起きたからここから出してぇ」
降参、ここは大人しく従うことにしよう……。
「ふふっ、最初からそうしておけばいいのよ。 さてこれをどうやって引っ張り出そうかしら」
この声は……、二度に渡って私を苦しめた獄卒長のシィ。
「へへっ、それなら僕に任せてよ」
シィと話すのは私を拉致したロク!
一体何をするの? 嫌な予感しかしない。
風の動きでわかる。 何が私の下半身めがけて突っ込んで……。
「カンチョー!」
ブスゥゥゥッ!
「ギャァァァァ!」
ボコォッ!
めり込んだ私のお尻に容赦なくめり込むロクの両人差し指は勢いよく私を壁に押し込む。
そのミサイルのような勢いに押された私の全身は壁を突き破り、ついには外まで吹き飛んだ。
いたた……女の子のお尻にカンチョーなんて最低。
私は尻を撫でながら腰を上げ、後ろを振り向く。
「ようやくお目覚めね」
シィ……。
「やり過ぎだよ、ロクゥ……」
ゴウ……。
「えへへ、由美ちゃんは不死身だから多少は大丈夫だって、ねぇハチー」
ロク……。
「ワフゥーン」
ロクが撫でているのは巨大な犬のような化け物で名前は……ハチ。
地獄のボスキャラ達が勢揃いで一体何が始まるっていうの?
前回の飼い殺し以上にキツイのは勘弁なんだけど……。
あれ、もう一人誰かが来る。
「御機嫌よう、貴女が近藤 由美さんね? ワタクシはこの地獄における幹部・獄卒長の一人にして、地獄に咲くたった一輪の花、即ち唯一無二の地獄アイドル……名前はナナと言いますわ」
やたら長い説明ね。 まぁ、ぶりっ子なのはわかったわ。
「で、そんなアイドル様が地獄の囚人たる私に何のようよ」
首を傾げながら私は尋ねる。
「そ・れ・は」
……と勿体つけながらどこかに引きずっていった。
———
「はーい、皆さま〜♪ 御機嫌よう。 皆様のナナですわ」
『ワァァァァァ!』
あぁ、ライブ会場ってやつ? 地獄のアイドルっていうのは自称じゃなかったのね。
それはそうと……。
「これは何ィィ!」
ステージの上に立っているのはナナだけじゃない。 あの後私も連れられたの。
これはどういうことよ? 説明しなさいよ。
アイコンタクトをナナに送る。
「ふふーん、貴女にはワタクシの助手を頼みたいの。 このワタクシと同じステージに立てるなんて貴女は幸せ者ね」
なんかムカつく……。
でもアイドルっていうのは悪くないわね。 実はちょっと憧れてたのよね
でもここは地獄、絶対ロクな事にならない気が……。
「さぁ、it's ショータイム!」
———
〜10分後……
あれ? これってライブ会場じゃなかったっけ?
なんかおかしい、絶対変だ。
「はい、さっさと四つん這いなりなさい!」
ピシャッ!
痛いっ! めっちゃ痛い……。
ナナに命じられるがまま、私は四つん這いになる。
目の前には炎のリング。 これって絶対アレだよね?
「さぁ、潜りなさい!」
ピシャッ!
「いぎぃっ!」
ひぃん、やっぱり火の輪くぐりだぁ。
これライブ会場じゃなくて、サーカス会場じゃん。
もう、いいわよ。 今更火なんて怖くないもん!
私は半端ヤケクソ状態で炎のリングに突っ込む。
そして、タイミングよくぅー!
ジャァァァンプー……ボッ!
「ギャァァァァ」
無理でした! そりゃそうだ。
それより尻が熱い、あちち……あちあちぃぃ!
火が消えるまで広いステージをひたすら走り回った。
『ワァァァァァ!』
「いいぞー」
「もっとやれー」
「次はよー」
サーカスは大盛況だ。 観客達も地獄の住人、人間がもがき苦しむ姿に大興奮の様子。
ホントこの世界って嗜虐的ぃ!
「皆さま、お気に召されたようでなによりですわ。 続きましては地獄綱渡り! 少々準備に時間がかかりますのでお待ちくださいー」
ナナが一礼するとステージの幕が下された。
でもサーカスはまだまだ始まったばかり……。
そしてその先には私が予想し得ない結果が待っていた……。
次回はサーカスを進めていき、話も一気に進める予定です。