3.飯の時間だ!って、なんだこれ…
「ありがとうございました」
「おう。また来いよ」
俺達は武器屋を後にした。
「さ、次は飯屋行こう。腹が減ってきた」
「いや…俺は飯より眠たいんだが」
「はぁ!? もう眠いのか!?」
「まだ二回しか寝てないからさ…」
「いやいや、充分寝てんだろ!」
「俺の座右の銘は一日五睡だ! 最低でも後三回寝ないといけないんだよ!」
「はぁ…こんなに眠れるお前がうらやましいよ。寝不足の私に少し分けて欲しいぜ」
フミンは呆れていた。いや、眠いんだから勘弁してくれ。マジで寝かせてくれ。
「あ、そうだフミン。さっきお前予知無がどうとか言ってたよな?」
「ああ。だってお前、その剣を夢で見たんだろ? しかも凄い記憶に残っている。まるで以前からその剣の存在を知っていたかのように…」
「ああ…そうだな」
「まぁ、詳しくは食事の席でゆっくり話そう」
「おう」
こうして、俺達は飯屋に入った。そして、俺はこの時考え事をしていた。
(そういや…あの女神が予知無能力を授けるとかどうとか言ってたな。もしかして、本当に俺はそんな能力を?)
俺は女神ヒュノプスと会話した時のことを思い出していた。確か俺が異世界に行く直前にチ―ト能力として予知無をくれるとか言ってたような。余計なことしやがってあの女神め。
「おいユメタロー、何ボーっとしてんだ。さっさと席に座れ!」
「うおっ!?」
フミンは俺の腹を蹴り、そのまま倒れるように俺は椅子に座りこんだ。
「す、すまん。考え事をしていたんだ」
「ったく、何を考えていたんだ?」
俺はフミンに予知無のことを言おうか悩んだ。でも、この際だから言おう決断した。
「実は俺、この世界に来る前に女神さんと会話をしていたんだ…で、異世界に行く時にチ―ト能力をくれるって。俺はそんなもんいらんのに」
「チ―ト…? ああ、ズルしてるのかこのクソ野郎ってレベルで強過ぎるスキルか。それと予知無になんの関係が?」
「いや、俺女神さんから予知無のチ―ト能力を貰ってさ…」
「予知無のチ―ト能力…ピンと来ないな」
フミンは俺の予知無能力について考え込んだ。
「あっ、お前私と会った時に寝言言ってたよな? ドラゴンがどうとかって…」
「ああ…記憶は曖昧なんだが、まさにこの街そっくりの所にドラゴンが攻めて来たんだ。で、俺はこの剣を持って、あのドラゴンに立ち向かったわけ。まぁ、夢の中だからってのもあってイキってかっこつけてたんだがな」
俺はさっき買った剣の鞘を擦りながら、見た夢の内容の説明をした。
「ドラゴン…ね」
「お待たせしました」
メイド服を着たウエイトレスが俺達の前に料理を置いた。その時、俺はその人の顔を見てハッとした。「あ、あんた女神さん!?」
俺はウエイトレスが女神さんと全く同じ顔をしていた。まぁ、世界中には同じ顔の人が三人いると言われているから顔が同じなのは偶然かも知れない。だが、俺が女神さん本人と確信したのはその金髪ロングだ。
「残念ながら私は女神ヒュノプスではありません。私はヒュスです」
「いやいや、女神さんの名前知っている時点で本人だろ。てか、偽名作るの下手だな!」
俺は気が付いたら女神さんにバンバン突っ込みを入れていた。
「そんなことより、早く料理を食べてください」
「そうだぞ。早く料理を食わんと冷めるからな」
「あ、ああ」
俺は出された料理に唖然とした。日本との文化の違いとかそういうレベルじゃない。恐らく海外に行ってもこんな料理は出されないだろう。見るからに奇妙なものがあったからだ。
「えっと…これは」
俺は焼かれた大きな尻尾のようなものを指した。
「こいつはドラゴンの尻尾焼きだ。めっちゃ上手いしなんなら栄養も摂取できる」
「…こいつは?」
俺は天ぷらにされている何者かの腕を指した。
「こいつはゴブリンの腕揚げだ」
「…で、これは?」
俺はスープのようなものになっている青色の液体を指した。
「こいつはスライム汁だ」
俺は絶句した。
「見た目で判断するな。とりあえず食ってみろ」
「ああ…」
俺は恐る恐るナイフでドラゴンの尻尾焼きを小さく切り、それを口に入れた。
「う、旨い…」
「そうだろ? 次はこれ食ってみろ」
「ああ」
俺は言われるがままにゴブリンの腕揚げを食べた。そして流れ作業のようにスライム汁を飲んだ。
「マジでうめぇ…」
意外だった。まさかモンスターを料理するとこんなに旨いなんて…。
「お気に召しましたか?」
「ああ。ありがとうな」
俺は女神っぽいウエイトレスにお礼を言った。
「それと…」
「ん?」
ウエイトレスは俺の耳に口を近づけた。
「予知無能力はどうだ? 何か役に立つことはあったか?」
「はっ!?」
この口調…ウエイトレスはやっぱり女神さん本人だった。しかも俺に予知無のことを直接聞いてきた。
「やっぱりあんた、女神さんじゃないか…」
「そうだな私は女神だ。だが、くれぐれも私がこの下界にいるときは女神ではなく気軽にヒュスと呼んでくれ」
「いや、気軽に偽名で呼べと言われても…で、予知無能力なんだが発揮されたよ。夢に出た剣が実際に俺の手元にある」
「おお。私の目に狂いはなかったというわけだ」
女神さん…いやヒュスはポーカーフェイスでありながら、どことなく嬉しそうだった。
「あっ、他に見た夢で相談したいこともある…連絡とかは取れるか?」
「残念ながら私は神出鬼没だ。だが、お前と会う機会は多いだろう」
「そ、そうか…じゃあ次に会った時に説明するよ」
「分かった。では、私は仕事に戻る。次の話を楽しみに待っているぞ」
そう言い残し、ヒュスは立ち去った。